合成燃料とは「CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料」のことです。
温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを目標とする「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、合成燃料「e-fuel(イーフューエル)」を2040年までに商用化することを目標としています。
今回の記事では、以下について詳しく解説します。
- 合成燃料とは?
- 合成燃料の種類
- 合成燃料の作り方
- 合成燃料のメリット
- 合成燃料のデメリット
- 合成燃料「e-fuel」の実用化に向けた日本の取り組み
- 合成燃料「e-fuel」の実用化に向けた企業の取り組み
1.合成燃料とは?
合成燃料とは、広い定義としては「人工的に製造される燃料」のことを指します。石油や天然ガスなどの化石燃料は地球が生み出したものですが、合成燃料は化学的な反応や工業プロセスを通じて人工的に作られます。
そして、狭い定義としては「CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料」を指します。複数の炭化水素化合物の集合体で「人工的な原油」とも言われています。
合成燃料は、化石燃料と比べてCO2削減効果があり、環境に優しい代替燃料として注目されています。カーボンニュートラルの実現に向けて、合成燃料は大きな切り札といえるでしょう。
また、CO2とH2から作る「合成燃料」とは別に、植物などから作る「バイオマス燃料」という再生可能エネルギーもあります。サトウキビやトウモロコシから作られる「バイオエタノール」や、大豆や廃食用油から作られる「バイオディーゼル」などが例として挙げられます。
参考:経済産業省
参考:トヨタ
2.合成燃料の種類
CO2(二酸化炭素)とH2(水素)から製造される合成燃料には、気体合成燃料と液体合成燃料があります。
気体合成燃料には、メタンが挙げられます。液体合成燃料には、ナフサ・ガソリン、灯油・ジェット燃料、軽油、重油、メタノールが挙げられます。
引用:経済産業省
3.合成燃料の作り方
合成燃料を作るには、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)が必要です。
CO2は、工場や発電所から収集します。
引用:経済産業省
そしてH2の収集方法には、以下の3つが挙げられます。
- グレー水素:化石燃料をベースとして作る
- ブルー水素:化石燃料をベースとして作り、製造工程で排出されたCO2を回収・貯留・利用する「CCS」「CCUS」技術と組み合わせる
- グリーン水素:製造工程においてもCO2を排出せずに作る
引用:経済産業省
そして、再エネ由来のグリーン水素をもとに作られた合成燃料は、「e-fuel(イーフューエル)」とも呼ばれています。
現在日本では「e-fuel」実用化に向けて、様々な議論・研究が進められています。後ほど詳しくご紹介します。
4.合成燃料のメリット
(1)環境への貢献
合成燃料は、化石燃料と比較してCO2(二酸化炭素)やその他の有害物質の排出量を削減することができます。これにより、温室効果ガスの削減や大気汚染の軽減など、環境への負荷を低減が期待できます。
(2)持続可能なエネルギー供給を実現
合成燃料は、石油や天然ガスなどの限られた自然資源に依存しない代替エネルギーです。科学技術を活用して生み出す合成燃料は、持続可能なエネルギー供給の実現に貢献します。
5.合成燃料のデメリット
(1)製造コストの高さ
合成燃料の製造には高度な技術が必要であり、製造コストが高くなる場合があります。そのため、合成燃料の市場価格が既存の化石燃料に比べて高くなる可能性があります。
(2)原料が他の用途に使われる可能性がある
合成燃料の製造に使用される原料は、他の用途に使われる場合もあります。つまり、産業の競合が起こる可能性があります。
6.合成燃料「e-fuel」の実用化に向けた日本の取り組み
2021年(令和3年)に宣言した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、「e-fuel(イーフューエル)」を2040年までに商用化することを目標に掲げています。
引用:資源エネルギー庁
(1)「e-fuel」活用のメリット
「e-fuel」は、既存の内燃機関や燃料インフラ(タンクローリー・ガソリンスタンド等)をそのまま活用することができます。つまり「e-fuel」専用の新たな製品を作る必要がないということです。
引用:資源エネルギー庁
(2)「e-fuel」の課題
「e-fuel」は、製造コストがかかることが課題として挙げられています。
どう輸入・製造するかにもよりますが、以下のように1Lあたり約300~700円のコストがかかります。
引用:資源エネルギー庁
(3)2023年5月 合成燃料(e-fuel)官民協議会
2023年5月16日に行われた「合成燃料(e-fuel)官民協議会」では、以下のような課題が挙げられました。
①商用化目標(現行目標では2040年)
「2035年に乗用車新車販売で電動車100%とする」という政府の目標の時間軸との不整合などから、各方面から商用化目標を前倒しすべきとの意見がありました。
②多様な担い手と早期のオプション提示
海外では、他業種・スタートアップ等によるプロジェクトが存在しています。日本でも技術やノウハウを持つ多様なプレーヤーを巻き込み、イノベーションを加速させるべきとの意見がありました。また少量でも良いので、実際に「e-fuel」が使えることを早めに示すべきとの意見もありました。
③国際ルール
「e-fuel」の国際的な認知と環境価値(CO2の削減効果)の扱いについて、コンセンサスが不十分であることが課題として挙がりました。
④情報発信のプラットフォーム
「e-fuel」に関する国際・企業間の連携や、内外の情報収集・発信におけるプラットフォーム機能が不十分であることが課題として挙がりました。
また、上記の課題を解決する方向性として、以下が挙げられています。
- GX実現に向けた基本方針(2023年5月閣議決定)において商用化前倒しの追求に言及
- グリーンイノベーション基金事業(GI基金事業)を通じた商用化前倒しを検討
- 「e-fuel」の早期供給を目指す取組(国産プロジェクトの組成・海外プロジェクトへの参画)への支援
- 共同ワークショップ等を通じた各国との連携(米・独との政策対話等)
- 情報発信プラットフォーム(企業・団体連携、内外の情報収集・発信)の構築対応の方向性
参考:資源エネルギー庁
7.合成燃料「e-fuel」の実用化に向けた企業の取り組み
ここでは、「e-fuel」の実用化に向けた各企業の取り組みを紹介します。
(1)ENEOS(エネオス)
ENEOSの斉藤猛社長は、水素と二酸化炭素(CO2)を原料とする合成燃料の供給開始時期について「2027年を目指しているが、それも前倒しできればと考えている」と述べています。
また2023年5月には、富士スピードウェイ(静岡県小山町)にあるトヨタ自動車の施設で、初の国産合成燃料を使った自動車のデモンストレーション走行も披露しました。
参考:東京新聞
(2)出光興産
2023年4月に、出光興産はHIF Globalとパートナーシップに関するMOUを締結しました。
HIF Globalは、南米・北米・豪州などで合成燃料(e-fuel)の製造を行っている会社です。出光興産は、このHIF Globalと連携を取り、合成燃料の生産、日本での実用化・普及を加速させることを目標としています。
参考:出光興産
PoliPoliで公開されている環境関連の取り組み
誰でも政策に意見を届けることができる、政策共創プラットフォーム『PoliPoli』では、合成燃料でカーボンニュートラルの早期実現政策について、以下のような政策が掲載されています。
あなたの願いや意見が政策に反映されるかもしれないので、是非下記のリンクからコメントしてみてください。
PoliPoli|合成燃料でカーボンニュートラルの早期実現を!
(1)再エネで地域も経済も活性化する気候危機政策の政策提案者
議員名 | 今枝 宗一郎 |
政党 | 衆議院議員・自由民主党 |
プロフィール | https://polipoli-web.com/politicians/MDVuGC0613SxUEEnvvcJ/policies |
(2)合成燃料でカーボンニュートラルの早期実現政策の政策目標
政策目標は主に以下の通りです。
- 2030年代前半の合成燃料の商用化
- 合成燃料を利用したガソリン車を販売許可にする方針にグローバルルールを転換
- 合成燃料の利用拡大に向けて、技術・研究開発・コスト削減へのさらなる投資を推進
(3)実現への取り組み
実現への取り組みは以下の通りです。
- 合成燃料の早期商用化に向けて、政策・研究開発・社会実装を推進
- 日本の自動車産業・自動車政策にとって、合成燃料の利活用が鍵であることを訴え、グローバルルールの方針転換を目指す
- 意見交換会などを通じて、合成燃料の価値について広く国民に訴える
この政策の詳細をより知りたい方や、政策の進捗を確認したい方は下記リンクからご確認ください。
まとめ
今回は「合成燃料」について紹介しました。
カーボンニュートラルの実現にも大きく貢献する「合成燃料」について、今後のニュースにもぜひ注目していきましょう。