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弾劾裁判とは裁判官の罷免事由・判例について徹底解説

投稿日2020.10.14
最終更新日2020.10.14

弾劾裁判とは、裁判官として相応しくない行為や、職務上の義務に違反する行為をした裁判官を辞めさせるかどうか判断する裁判のことです。

弾劾裁判は、通常の裁判所ではなく、国会で設置された「弾劾裁判所」で行われます。
今回は弾劾裁判について、以下の内容を中心にご紹介します。

  • 弾劾裁判の概要
  • 弾劾裁判の流れ
  • 弾劾裁判の事例

本記事がお役に立てば幸いです。

1、弾劾裁判とは?

弾劾裁判
弾劾裁判とは、裁判官として相応しくない行為や職務上の義務違反などを理由に、裁判官訴追委員会から罷免(辞めさせること)の訴追を受けた(訴えられた)裁判官を、辞めさせるかどうか判断する裁判です。

裁判官として相応しくない行為や職務上の義務違反の具体例としては、無断欠勤や法律違反などが挙げられます(後段5、弾劾裁判の判例にて詳しく解説)。

また、弾劾裁判は通常の裁判所ではなく、弾劾裁判所で行われます。
弾劾裁判所は、国会が憲法64条に基づいて設置した常設の機関で、合計14名の国会議員(衆参両院7名ずつ)で構成されています。

ちなみに「弾劾」という言葉には

  • 「罪や不正を暴く」
  • 「厳しく責任を問う」

という意味があります。

参考:弾劾裁判所

2、日本の弾劾制度

ここでは日本の司法及び弾劾制度について以下のとおりご紹介します。

  • 司法権の独立
  • 裁判官が罷免される条件
  • 裁判官を罷免する国民審査制

(1)司法権の独立

まず、日本の司法権に対する考え方についてご紹介します。

日本においては、三権分立に基づく「司法権の独立」が認められています。

公正な裁判を行うためには、裁判官が国会や内閣から圧力を受けたり、特定の政治的・社会的勢力などから影響を受けたりすることがあってはならないからです。

憲法76条3項には

「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」

と明示されています。

司法権の独立とは?2つの何が独立しているのか?簡単解説

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ただし、国民の信頼を裏切るようなことがあった場合には裁判官を罷免できるシステムが必要です。

しかし、簡単に罷免できてしまうと裁判官の業務にも影響が出かねません。
そのため、罷免事由(辞めさせる理由)が限定された弾劾裁判という方法を取っているのです。

(2)裁判官が罷免される条件

弾劾法2条によれば、以下の場合に当てはまったときのみ、裁判官を罷免することができます。

  • 職務上の義務に著しく違反した、または職務を甚だしく怠ったとき

  • その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき

(3)裁判官を罷免する国民審査制

通常、一般の裁判官は以下の場合を除いて、罷免されることはありません。

  • 心身の故障のため職務を果たすことができなくなったとき

  • 弾劾裁判所の罷免の判決を受けたとき

ただし、「最高裁判所の裁判官」については、国民が直接その適格性(必要とされる資格を備えているかということ)を審査する「国民審査制度」があります。

国民審査制度では、国民投票による国民審査で裁判官の罷免が決まります。

この国民審査は、最高裁判所の裁判官が任命された後、初めて行われる衆議院議員総選挙の投票日に行われます。
その後10年を経過するごとに行われる、衆議院議員総選挙の投票日に再び国民審査が行われるのです。

憲法79条には

「最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする」

と明示されています。

参考:弾劾裁判所 日本の弾劾制度

3、弾劾裁判の流れ

続いて、弾劾裁判の具体的な流れについてご紹介します。

(1)裁判官訴追委員会による「罷免の訴追」

「裁判官訴追委員会」という機関から、裁判官の罷免を求める訴えが提起された場合に、弾劾裁判は開かれます。

裁判官訴追委員会は、衆議院と参議院のそれぞれの議員の中から10名ずつ選ばれた合計20名の訴追委員で組織される機関です(弾劾裁判所の構成員とは別です)。

この裁判官訴追委員会の訴えを「罷免の訴追」といいます。
裁判官訴追委員会と弾劾裁判所は別の機関です。

以下の画像を参考に整理してみて下さい。

罷免の訴追

画像出典:弾劾裁判所 弾劾裁判はこう進む

なお、弾劾裁判の対象になるのは現職の裁判官のみです。
そして、罷免事由となる事実があってから3年を経過した場合は、罷免の訴追をすることができなくなります。

(2)弾劾裁判所による「弾劾裁判」

罷免の訴追により弾劾裁判所に訴追状が提出されると、罷免訴追事件として手続きを開始します。

罷免訴追事件は、刑事裁判に似た手続きで行われます。
刑事裁判の流れについて詳しく知りたい方は以下の関連記事も併せてご覧下さい。

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弾劾裁判は原則として公開の法廷で行われ、誰でも傍聴することができます。

①   弾劾裁判の出席者

弾劾裁判の出席者は以下のとおりです。

  • 罷免の訴追をされた裁判官
  • 衆議院議員7名と参議院議員7名の合計14名の裁判員
  • 訴追委員長(または、訴追委員長が指定する訴追委員)
  • 弁護人

なお、裁判員については衆参それぞれ5名以上の出席がなければ、裁判を始めることができません。

②   弾劾裁判の流れ

弾劾裁判は、以下のように進みます。

  • 人定質問(本人であることを確認する手続き)
  • 訴追状朗読などの冒頭手続き
  • 訴追委員会、被訴追者双方の請求に基づく証拠調べ
  • 双方の弁論(証拠調べに基づく意見陳述)
  • 審理の終結
  • 裁判員の評議による罷免の決定
  • 裁判長による判決の宣告

裁判官を罷免するかどうかは、裁判員の評議によって決められます。
裁判員の3分の2以上が罷免に賛成した場合に、罷免の判決を宣告することになります。

なお、通常の裁判では三審制であるのに対し(三回の審理を受けることができる)、弾劾裁判所は一審かつ終審です。

判決は宣告と同時に確定し、不服申立て(裁判の判決などで不利益を受けた人が処分の取り消しを求める申し立てのこと)はできません。

(3)罷免判決を受けた裁判官について

罷免の判決を宣告されると、訴追をされた裁判官は裁判官としての身分を失います。
さらに、検察官や弁護士となる資格も失い、公証人となることも制限されます。

  • 調停委員
  • 司法委員
  • 参与員

になることもできなくなります。

そして

  • 退職金が支給されない
  • 年金が制限される

などの様々な制約を受けることになります。

参考:弾劾裁判所 弾劾裁判はこう進む

4、資格回復の裁判

弾劾裁判で罷免が決定されると重いペナルティが課されますが、場合によっては裁判官としての資格を回復することもできます。

ここでは「罷免によって失われた資格を回復させるかどうか」を判断する裁判である「資格回復裁判請求事件の裁判」について解説します。

(1)資格回復の事由

まずは資格回復の条件である事由を満たさなければなりません。
弾劾法38条1項に規定がある、資格回復の事由は以下の2つです。

  1. 罷免の裁判(判決)の宣告の日から5年を経過し、相当とする事由があるとき

  2. 罷免の事由がないことの明確な証拠をあらたに発見し、その他資格回復の裁判をすることを相当とする事由があるとき

(2)資格回復の審理

資格回復の事由を満たした裁判官本人が弾劾裁判所に請求し、受理されると審理に進みます。

罷免訴追事件の裁判のように公開の法廷では行われず、弾劾裁判所の判断によっては、書面審理となる場合もあります。

ちなみに書面真理とは、訴訟の審理を書面で行うことです。
審理によって

  • 裁判官の資格を回復させるか
  • 請求を棄却するか

の決定が行われます。

資格回復の審理

画像出典:弾劾裁判所 弾劾裁判はこう進む

(3)資格回復のタイミング

資格回復の決定が行わることで、失われた法曹資格などを回復できるようになります。
ただし、資格回復が生じるタイミングは上記の資格回復の事由によって異なります。

  • 1を理由とした場合⇨資格回復の決定のあった日から
  • 2を理由とした場合⇨罷免の判決の日から

参考:弾劾裁判所 弾劾裁判はこう進む

5、弾劾裁判の判例

判例
最後に、実際に起きた弾劾裁判についてご紹介します。
ここでは、1948年「静岡地方裁判所浜松支部の判事」に対して行われた弾劾裁判を取り上げます。

(1)弾劾裁判となった理由

訴追された理由は大きく2つありました。
1つ目は、欠勤に必要な手続を取らず、約1週間無断欠勤をしたことです。

また、その無断欠勤中に懇意にしている弁護士が関わっていた「闇物資の商談(不正な取引)」を行っていました。

2つ目は、弁護士らの商談を成立させるため、裁判所等において商用電報の発受を行なうなど、判事自らが商取引に関わっていたことです。

また、警察に事態が露見しそうになった際には、揉み消すような行動も見られました。

(2)弾劾裁判所の判断

1つ目については、欠勤中に緊急を要する事態が起きなかったこともあり、予定されていた公判に影響は与えていないことが判明しました。

よって、弾劾法2条1号

「職務上の義務に著しく違反した、または職務を甚だしく怠ったとき」

には該当しないと判断されています。

2つ目については

  • 商取引に直接介入するのではなく「紹介」という形での関与だけであったこと
  • 裁判所で商用電報を自らの意思で取り交わしたことは1通だけであったこと

が調査により判明しました。

裁判官としての品位を辱める行為と判断される可能性はありましたが、利益供与の事実も認められなかったため、弾劾法2条2号における

「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき」

には該当しないと判断されました。
結果、罷免とはなりませんでした。

参考:弾劾裁判 判例

まとめ

今回は弾劾裁判について詳しくご紹介しました。

日本における弾劾裁判の概要や流れ、資格回復の裁判、弾劾裁判の事例についてもおわかりいただけたのではないでしょうか。

基本的に裁判官の判断は、内閣や国会から影響を受けません。

しかし裁判官として相応しくない行為をした場合には、弾劾裁判によってその責を問い、必要に応じて罷免することができるという仕組みになっています。

公正な国家を運営するためにも、弾劾裁判はとても重要な制度だと言えます。