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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー【連載企画:なぜ、今グローバルヘルスなのか】国民民主党・古川元久議員に聞く!日本らしい国際貢献のあり方とは

【連載企画:なぜ、今グローバルヘルスなのか】国民民主党・古川元久議員に聞く!日本らしい国際貢献のあり方とは

投稿日2024.8.27
最終更新日2024.09.02

日本のODA(政府開発援助)の効果的な活用のあり方の一つにグローバルヘルス国際的な視点から人類の健康、感染症予防、医療アクセス向上など幅広い課題に対処するための取組みが掲げられ、改めてグローバルヘルスをめぐる議論が活発化しています。 

政治ドットコムでは連載企画「なぜ、今グローバルヘルスなのか」と題し、グローバルヘルス政策に携わる政治家をはじめとするルールメイカーについて深掘りします。

今回は、エイズ・結核・マラリア三大感染症撲滅を目指すグローバルファンド日本委員会 議員タスクフォースで共同議長を務める国民民主党・古川元久議員に、その意義と日本らしい国際貢献のあり方についてお伺いしました。

(取材日:2024年5月29日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 井出光)

古川元久議員インタビュー古川 元久(ふるかわ もとひさ)議員
1965年愛知県名古屋市生まれ。東京大学卒業後、大蔵省(現在の財務省)入省。

1996年民主党結成に参加し衆議院初当選(9期)。
内閣官房副長官や国家戦略担当大臣、科学技術政策担当大臣などを歴任。
好きなことはハッピー(飼い犬)とたわむれること。

バブル崩壊を目の当たりにし財務省官僚から政治家へ

ー古川議員が財務省官僚から政治家に転身したきっかけは何だったのでしょうか。

1988年に財務省に入省後、27歳のときにアメリカ・ニューヨークのコロンビア大学に1年間留学しアメリカでの生活を経験したことが大きなきっかけでした。1993年当時の日本はバブルが崩壊し、日本経済長期的な不況に入りはじめているときでした。一方、アメリカでの生活は、為替110円台で円高だったこともあり、何でも安くて日本に比べるとずっといい生活ができました。「これから日本は悪くなるだろうから、このまま日本に帰らず、アメリカに住もうかな」と思ったこともあったくらいです。

私は「国が進むべき方向のレールを敷くのが政治家で、その敷かれたレールの上を列車が脱線しないように、時刻表通りにきちんと運転するのが官僚の役割」と考えています。

運転席は一番前にあるので、官僚には列車が走るレールの先が見えるんです。当時、官僚をやりながら、戦後の焼跡の中から経済復興を果たして高度成長期からバブル期に至るまで日本社会が走ってきたレールは、もうこの先は続かないだろうなと感じていました。新しいレールを敷き直す必要があるけれども、それをやるのは政治の仕事です。でもそのことに政治家は気づいていないか、気づいていても真剣に敷き直そうとしていない。このままだと日本はだんだんと悪くなるだろうなと思っていました。だからもう日本を離れてアメリカで暮らした方がいいかなと思ったのです。

古川元久議員インタビュー

ただ私がニューヨークで恵まれた生活を送ることができたのは、円という日本の通貨の価値が高かったからです。通貨の価値は国力です。円は戦前、長い間1ドル=2円でした。それが終戦末期には4円となり、戦争に負けて360円になった。終戦後の占領時代にアメリカに留学した人から「とにかくアメリカでの生活は何でも高くて、貧しい学生生活だった。豊かなアメリカ社会を見て、いつか日本もアメリカのような豊かな社会にしたいと思って、帰国して頑張ったんだ」という話を聞いたことがあります。ここまで円の価値が上がったのは、戦後の焼け野原から頑張ってくれた先人たちのおかげです。先人たちが血の滲むような苦労をしてここまで蓄積してきてくれたお陰で、自分たちは今、こんな豊かな生活ができるようになったのに、自分たちの世代で食い潰してしまっていいのだろうかと自問自答するようになりました。

そしてある時、これから社会の中心となる我々若い世代が、「これから日本は悪くなるから」と日本から逃げてしまえば、間違いなく日本は悪くなる。結局、これからの日本がよくなるか、悪くなるかは自分たち次第だということに気づきました。

気づいたからには、気づいた者から行動しよう。それがいつか世の中を変えることにつながるはずだ。

これが私が官僚を辞めて政治家になろうと思った経緯です。私は政治を他人事のように批判的に見るのではなく、自分自身が政治家となって新しいレールを敷き直そうと思い、帰国後に財務省を退職し政治家を目指しました。

ー1996年、当時30歳で衆議院選挙で初当選しました。まず政治家として何を変えようと考えていたのでしょうか。

政治に最も求められるのは「国民のいのちと暮らしを守ること」。そのためには外交防衛という対外的な安全保障と、社会保障という対内的な安全保障が重要です。当時も日本を取り巻く内外の状況が大きく変化し、いずれも大きな見直しが必要となっていました。

国内では本格的な高齢社会が到来し、今後、高齢化がどんどんと進んでいくことが想定されていました。その中で、医療や年金、介護といった社会保障制度を維持していくためにはどのような制度にしたらいいのか。そしてその場合の財政的な負担はどれくらいで、その財源どうするか社会保障と財政は必ずセットで議論しなければなりません。財政については財務省官僚として向き合ってきていたこともあり、対内的な安全保障といえる社会保障制度の改革議論に重点的に携わってきました。

最近は「住まい」を軸とした日本再生計画を提唱しています。人間の基本的ニーズである「衣・食・住」のうち、日本の「衣」と「食」世界に冠たるものといえますが、「住」環境はお世辞にも優れているとは言えません。そこで「住まい」を社会保障のひとつに位置付け、良質な「住まい」をすべての人に提供することをめざします。

かつては「こんな小さな島国に1億人を超える人が住んでいるのだから住まいが狭くても仕方ない」と言われていましたが、いまや人口減少が進み、空き家がどんどん増えています。ならばこの際、1人当たりの居住面積を倍にすることを目指す「居住面積倍増計画」を立てて、住環境を劇的に改善することをめざしたらいいと思います。住宅関連産業は裾野が広く、また住まいが広くなればその分、物を買っても置くスペースが増えるので消費も増え、経済活性化に寄与します。また東京圏から地方移住する場合に「住まい」の確保を制度的に担保するようにすれば、「東京一極集中」の是正にもつながります。このように日本が抱えているさまざまな課題解決の糸口として「住まい」を活用することができるのではないかと考えています。

古川元久議員インタビュー

「TABLE FOR TWO」立ち上げ:win-winな国際貢献を考える

ー古川議員はグローバルヘルス政策にも取り組まれています。どのような問題意識があるのでしょうか。

根底にあるのは、国際貢献は、自利が他利につながるような、お互いがwin-win形でないとなかなか持続可能な形にならないのではないだろうか、という問いです。

2005年、世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダー1期生に選ばれ、その集まりでグローバルヘルスの課題について議論する機会がありました。地球規模の課題について話し合う中で、あるチーム開発途上国の飢餓・栄養失調について議論し、もう一のチームが先進国で深刻化する肥満などの生活習慣病について話していました。いずれも食に関して起きている問題です。基本的に飢餓はカロリー不足、生活習慣病はカロリー過多が原因です。そこでこの同じ食に関する問題を一緒に解決できる方法はないだろうかと考えた末に思いついたのがカロリーのアンバランスに着目してその是正を図るTABLE FOR TWOという取り組みだったんですね。

「TABLE FOR TWO」は、先進国でカロリーを抑えた定食を1食とるごとに20円の寄付金を開発途上国に送ってる給食1食分にあてる取り組みです。2007年にヤング・グローバル・リーダーとして世界経済フォーラムで一緒に議論した仲間たちと運営団体であるNPO法人を立ち上げました。

古川元久議員インタビュー「TABLE FOR TWO」サイトより)

発足から17年あまり経ちますが、参加する先進国、開発途上国の人たち双方にとってメリットのある形なので、少しづつ広がりながらここまで続いてきています

ー古川議員がグローバルヘルス政策として注力していることは何でしょうか。

たとえば「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(通称:グローバルファンド)の支援があります。

今でも世界では、エイズ・結核・マラリアの三大感染症で年間250万人以上の方が亡くなっていて、そのための予防、治療、感染者支援、保健システムの強化に日本をはじめとする先進国や民間企業などが資金を提供しています。2000年のG8九州・沖縄サミットで、日本が感染症対策を主要課題として取り上げたことがきっかけで設立されました。

グローバルファンドは官民パートナーシップで成り立っていることが特徴で、議員のほかに製薬会社をはじめとする民間企業や財団、厚生労働省、外務省、JICAなどがメンバーです。このグローバルファンドの活動を支援するための日本委員会が設置され、その下に置かれている議員タスクフォースで、私は自民党の逢沢一郎議員と共に共同議長を務めています。

ーグローバルファンドをめぐり、今はどのような議論が進められているのでしょうか。

グローバルファンドへ拠出するための資金の財源をどう考え、どう安定的に調達できるようにするか、ですね。日本はメンバーの中でアメリカ、フランス、イギリス、ドイツに次いで5番目に大きい金額を支援していて、2022年時点で累計42億ドルを拠出しています。

古川元久議員インタビュー
グローバルファンド サイトより)

限られた予算の中でグローバルファンドのような国際的な枠組みへの拠出金を支出する財源をどう確保するか。たとえば、私が副会長を務める2008年に設立した超党派の「国際連帯税の創設を求める議員連盟」では、グローバルファンドのような国際的な課題解決に向けて必要な資金調達をするために「国際連帯税」を導入することをめざしています。「国際連帯税」とは国境を越えて行う経済活動に課税し、その税収をグローバルな課題解決のための財源にしようというもので、国際航空輸送や外国為替取引などに課税することを考えています。すでにフランスや韓国では、国際線の利用客の運賃に上乗せする「航空券連帯税」が導入されています。

ーどのような点で、グローバルファンドなどの国際貢献は日本にとってwinなのでしょうか。こうした国際協力に日本が拠出することについて国内では理解を得づらいことがあります。

たしかに理解を得るのに難しい面はあります。

ただ今、私たちはあまりにも近視眼的になってしまっているのではないでしょうか。グローバルファンドが取り組んでいる感染症の問題もそうですし、温暖化問題、環境問題など、実は全ての問題は世界つながっています。そのことに気づけば「だけ」「自分だけでなく次の世代のこと、他の国の人のことを考えることが必要であることが理解できるはずです。こうした空間的にも時間的にも自分の視点から少し引いた視点で考えることができればこうした国際協力に対する国内の理解も得られやすくなると思います。

たとえば2020年に流行が始まった新型コロナウイルス感染症はあっという間に世界広がりました。こうした事態を今後防ぐためには、世界のワクチン格差是正必要です

マラリアも遠いアフリカの病気と思うかもしれませんが、いつ日本に入ってくるかわかりません。結核も終わった病気ではなく、「多剤耐性結核菌」という薬が効かない菌が世界で広がりはじめていて、日本での年間の罹患者約1万人のうち7割がこの耐性のある菌によるもので、割合は増えています。

(参照:2022年 厚生労働省 結核登録者情報調査年報集計結果
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000175095_00010.html

このようなグローバルな課題を、国民にどう自分自身の問題として理解してもらうか。これは、やはり「TABLE FOR TWO」のような取組みに参加することによって、世界の飢餓といった大きな課題であっても「今自分が食べる目の前の一食で自分が健康になるだけでなく、世界で役立っているんだ」という意識を持つ先進国と開発途上国が目には見えないけれどもつながっているという意識を持つ。こうした意識と行動の積み重ねを通じて理解と共感の輪を広げていきたいと思っています。

日本らしい国際貢献のあり方とは

ーなぜ今、日本がグローバルファンドをはじめとする国際貢献で世界をリードしていくべきなのでしょうか。

古川元久議員インタビュー

これは、日本の外交の基本方針である人間の安全保障とも通じると考えています。「人間の安全保障」とは、生存・生活・尊厳に対する深刻な脅威から人々を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために、持続可能な個人の自立と社会づくりを促す考え方です。

「人間の安全保障」を達成し、世界の平和のためにできる日本らしい貢献の一丁目一番地がやはりグローバルヘルス、健康分野での支援ではないでしょうか。「いつでも誰でも安心して高レベルの医療を受けることができる」日本の医療制度・保険制度は世界の中でもトップレベルです。同時にそれらを必要としている国多い。長年の制度運営から学んだ知恵を世界に提供していくことが一番感謝され、結果的に、日本に対する世界からの信頼を高めることにつながっていくと考えています。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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