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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー首相官邸での3年間の経験を活かし、世の中の当たり前を「国政中枢」へ届ける 自由民主党・村井英樹議員 インタビュー

首相官邸での3年間の経験を活かし、世の中の当たり前を「国政中枢」へ届ける 自由民主党・村井英樹議員 インタビュー

投稿日2025.6.3
最終更新日2025.06.11

村井英樹 むらいひでき 議員

1980年埼玉県さいたま市生まれ。東京大学卒業後、財務省へ入省。2012年の衆議院選挙で初当選し、現在5期目。内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、内閣府大臣政務官などを歴任し、2024年から自民党国会対策筆頭副委員長。

岸田前総理大臣が掲げた「新しい資本主義」は、構造的賃上げと中間層の形成を目指し、2024年には5%台の賃上げを実現しました。この「成長と分配の好循環」が、石破政権にどう引き継がれるかに注目が集まっています。本インタビューでは、岸田政権下で内閣官房副長官・内閣総理大臣補佐官を務め、政策を推進した村井英樹議員に今後のビジョンや力を入れたい政策についてお伺いしました。

地盤・看板・かばんなし。世の中の当たり前を「国政中枢」へ

村井英樹議員インタビュー

ー村井議員は、財務省に勤務された後、国会議員となりました。そこにはどのような問題意識・ビジョンがあったのでしょうか。

ビジョンというほど大それたものかは分かりませんが、当時の民主党政権の混乱の中で、この国はどうなってしまうのだろうという危機意識を感じ、地元埼玉での公募に手を挙げました。

我が家は、政治家が親族にいるような家系でもなく、家族からも大分反対・心配されましたが、当時は31歳でしたので、若気の至りというか、「居てもたってもいられず」挑戦したという感じです。地盤・看板・かばんなしでのスタートとなり、大変なことも色々ありました。31歳の世間知らずですので、色々怒られたり、事務所の経費の支払いが滞りそうになり、冷や汗をかいたり。。。

それでも、地元さいたまの多くの温かい方に助けてもらって、育ててもらって今があるというところでしょうか。ただ、今になって思うと、何もないところからスタートして、地元で揉まれたことで、世の中の常識・雰囲気を、身をもって感じることが出来ていることは、本当によかったと思っています。

岸田総理からも、官邸での様々な政策判断に当たって、「村井はどう思う」、「世の中はどう感じるかな」とよく聞かれましたが、総理官邸という、ともすれば世の中の感覚とずれてしまいがちな場所で、世間の雰囲気・当たり前を、国政中枢に伝える役割を期待されていたのかなと思います。

今後も、地元さいたまで3人の息子を育てながら、地元の皆さんと触れ合いながら、世間の常識を、永田町・霞が関に吹き込んでいく。そんな役割を担っていきたいと思っています。

ー岸田政権では官邸で長らく勤められました。現時点で岸田政権での一番の成果は何だと考えていますか。

少し変な答えかもしれませんが、約3年間、1094日、政権を維持できたことは大きな成果だったと思います。内憂外患が続く我が国にとって、安定政権を創ることは非常に重要です。その点、岸田政権は発足直後の解散総選挙、翌年夏の参議院選挙などを通じて、一定の安定した基盤を作ることができました。

実は21世紀になってから1年以上続いた安定政権は、岸田政権の前には小泉政権と第二次安倍政権しかありません。政権基盤の安定は政策を推進する上での根本的な条件です。政権基盤の安定があってこそ賛否の分かれる政策に答えを出すこともできました。防衛力の抜本的強化、これまでにない水準での少子化対策の大幅な拡充、原発の最大限の活用などエネルギー政策の転換、ALPS処理水の海洋放出、ウクライナ戦争への対応など、いずれも意思決定にエネルギーを必要とする政策でした。

「新しい資本主義」が描いた「官も民も一歩前」をこれからも

村井英樹議員インタビュー

ー岸田政権の看板政策「新しい資本主義」は石破政権でどう受け継がれることを期待していますか?

「新しい資本主義」の考え方や理念は石破政権でも引き継がれており、それを推進した者として嬉しく思っています。

例えば、「新しい資本主義」のキモの一つは、「市場も国家も」「官も民も」による新たな官民連携です。我が国の伝統的な産業政策は、資金を特定の産業に供給して、官主導で成長を促していこうとするものでした。それが、1990年代以降の新自由主義的な潮流の中で、「官から民へ」「民間にできることは民間に」という考えのもと、政府の役割は市場環境の整備にシフトしました。ただ、21世紀になって10年20年、日本ではデフレが続く中で、企業もコストカットを重視するあまり大胆な成長戦略が立てられず、大規模で計画的な投資を行えない状態が続いてきました。そのような日本を尻目に、世界では熾烈な競争がグローバルで展開して、時に国家の支援も得ながらその競争に勝ち残った企業が世界中の市場を席捲する、「勝者総取り」ともいえる世界になっていきました。

今、世界中で政府の果たすべき役割というのは大きく見直されています。中国はもとより、伝統的に産業政策とは距離を置きがちなアメリカやヨーロッパも国が前に出てくる産業政策にシフトしています。もはや官か民かの二者択一ではなく、官民が連携して戦略分野に大規模な投資を行う時代に入っています。そのような中で日本が国際競争力を維持していくためには、民間企業が大胆な投資に踏み切れるよう、国が予見可能性のある形で戦略を示し投資を支援していかなければなりません。

「新しい資本主義」の中身には、賃上げやスタートアップ、資産運用立国など様々な施策が含まれているわけですが、その根底には国際的な潮流も踏まえつつ、国が次世代の産業育成も見据えて戦略分野に旗を立てて民間の投資を呼び込もうとする考え方があります。石破政権においても、その理念がしっかりと引き継がれていることは取り組んできた当事者としてよかったことかな、と思っています。

ーその中で岸田政権はAIの動向にかなり機動的に対応してるように見受けられました。どのような意思決定があったのでしょうか?

2023年4月10日にOpenAI CEOのサムアルトマンさんが官邸にいらっしゃって、岸田総理(当時)と面談したことがきっかけです。その時、岸田政権が発足し、2年目の後半に入ってきたタイミングでした。官邸の体制も整いやすく、官邸主導でAI政策をやろう、と。

翌月にはG7 広島サミットも迫っていましたから、その場でAIをアジェンダ化すること、そして世界に先駆けて、我が国主導で、G7の中でAIに関する一定の法的枠組みを作ることとなりました。この取り組みは、「広島AIプロセス」と呼ばれ、今日に引き継がれています。

ー今ちょうど衆議院でAI法案が審議入りしました。今後の課題を教えてください。

私が政府でAI政策の責任者であった当時は、「AIの可能性とリスクを両面バランスよく捉えて」ということを強調してきました。今でも、政府の公式見解はそういうことだと思います。

ただし、現状を見ると、日本人はリスクに敏感なのか、我が国における生成AIの活用は、諸外国と比べて周回遅れの状況です。投資額で見ると、2023年の投資額はざっくりアメリカが100兆円、中国が10兆円、日本は1兆円。アメリカの100分の1、中国の10分の1なんですよね。このままだと、第二の「デジタル敗戦」になりかねないと危機感を強めています。

ちなみに、投資のアクセルを踏まなければならない中にあって、日本社会は生成AIに対する不安感が強い。ある調査では「現在の規則や法律でAIを安全に利用できると思いますか?」との問いに対して「安全に利用できる」と答えている人の割合は、中国が74%、アメリカが30%であるのに対し、日本ではわずか13%にとどまっているのです。日本では多くの人がよりAIに関する規制を強化してほしいと考えているんですね。AI革命とも呼ぶべき状況にも関わらず、日本は社会全体としてその開発・利活用に及び腰になっていることには、本当に強い問題意識を持っています。

ーその一方で、各分野でAI活用を進めようとする機運もあります。ロボットや翻訳、金融、教育など。村井議員ご自身が今後AIの活用を期待する分野はありますか?

ご指摘の通り、今、日本の強みがあるのは、ヘルスケア、ロポット、インフラなど分野別の専用AI。我が国として、元々競争力がある分野は、良質なデータが蓄積されているはずで、それを迅速に有効活用し、開発を進めることで、優位性を確保していかなくてはなりません。

その上で、私個人としては、一般の人がわかりやすいAIサービスを広く展開することが重要だと感じます。例えば、自動運転やオンラインショッピングでの活用など、多くの人が、日常生活で、AIの恩恵を、リアルに感じ取れるようなサービスです。

先程のデータをみて頂いても分かる通り、日本人は、AIの可能性よりも、リスクを強く感じています。AIのメリットや可能性を国民全体で、早く共有しないと、開発・利活用に、本当の意味で弾みがつかないと思います。

正直に申し上げて、今後、AIにまつわる何かしらの問題は発生してもおかしくないと考えています。ただ、そういった問題やリスクばかりがクローズアップされて、AI革命の流れから取り残されてはいけないと思います。

また、生成AIの安全性を担保するためにも、サイバーセキュリティの強化が重要です。攻撃レベルが日進月歩で高まる中、サイバーセキュリティの分野では、「官民連携の強化」、「通信情報の利用」、「攻撃者のサーバー等へのアクセス・無害化」といった新たな取組みを実現するための法整備を行うべく、現在国会審議を進めています。また、必要な体制整備・予算措置等により運用面の強化も行っていますが、こうした取り組みをしっかり形にすることが大切です。

米国中心の国際秩序の先を描いて自立した国を目指す

村井英樹議員インタビュー

ー政治家のキャリアとして目指していきたい方向性を教えてください。

先程も申し上げましたが、私自身は、自分のバックグラウンドからいっても、世の中の当たり前を「国政中枢」へ届けることが自分の役割だと思っています。

その上で、私自身のキャリアということでいえば、「官邸マネジメント」のプロフェッショナルになることが目標です。現代の日本政治で大きな役割を担うのは、総理官邸です。3年間、実際に官邸勤務をして、その思いを強くしています。官邸が、国造りの方向性を示し、政策のアジェンダセッティングも行いながら、与野党との調整・メディア対応などを含めて、安定的に政権を運営していく。それを円滑に行えるかどうか。内憂外患の我が国にとって、絶対に確保しなければいけないポイントですが、これがなかなか難しい。

「官邸マネジメント」は、経験がものを言うところも少なくありません。そういう意味でいくと、大変ありがたいことに、40代前半で3年間も官邸勤務を経験させてもらったことを、今後にしっかり活かしていきたいと思っています。

ー最後に作りたい社会のあり方を教えてください。

政治家はよく「私たちは歴史の分岐点にいます」というフレーズを好んで使いますが、おそらく今はその言葉の通りだろうと思います。1945年以来続いていた、「パックスアメリカーナ」とでもいうべき、アメリカ中心の平和が少しづつ終わりに向かっています。

その中で、我が国の平和を、今のままで本当に維持できるのか。本当に大きな課題を突きつけられています。日本は、中国と北朝鮮、ロシアという軍事強国に囲まれています。その中で、トランプ政権が誕生。米国はどこに向かうか分かりません。米国が同盟国に対するコミットメントを減らしていく可能性も少なくない。

だからこそ、中長期を見据えたしっかりした経済政策・産業政策の下、もう1度この国を、稼げる国・豊かな国にして、その上で、自国のことは、一定程度自国で守れる国を創り上げていかなくてはなりません。

しかし、現状、国民は政治に対してものすごい不信感があります。国民からの信頼は政治を進める上での基本です。ポピュリズムに陥ることなく、正々堂々と信頼を持っていただける政治のあり方を追求しながら、激動する国際社会の中で、あるべき経済政策・安全保障政策を実現していく。これは非常に難しい舵取りを迫られるものですが、今の時代を担う政治家が解かなければならない問題だと考えています。

村井英樹 議員

むらいひでき
村井英樹
  • 生年月日 1980年5月14日
  • 出身地 埼玉県さいたま市
  • 学歴 東京大学卒業
  • 職歴 財務省へ入省。2012年の衆議院選挙で初当選し、現在5期目。内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、内閣府大臣政務官などを歴任し、2024年から自民党国会対策筆頭副委員長。
この記事の監修者
株式会社PoliPoli 政府渉外部門マネージャー 秋圭史
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。その傍ら、株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当している。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)

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