自由民主党・石原正敬議員は、三重県県議会議員や菰野町町長など、地方自治に計21年関わったのちに、2021年11月からは衆議院議員として活躍されています。今回のインタビューでは、石原議員のこれまでの政治家人生について伺うとともに、スローガンでもある「庇(ひさし)の政治を目指す」に込めた思いについてお伺いしました。
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)(取材日:2024年5月13日)
石原 正敬(いしはら まさたか)議員
1971年三重郡菰野町生まれ。名古屋大学大学院で教育学を専攻。
三重県議会議員を経て、2007年菰野町長。2021年衆議院議員。
東海ラジオ放送「石原まさたかの痛快!風雲放談」でパーソナリティを務める。
(1)偶然が重なり、政治家の道へ
ーもともとは名古屋大学で研究職をされていた石原議員ですが、政治家を志したきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
もともと政治家にはなるつもりはありませんでした。名古屋大学では教育学を専攻し博士課程を満期退学しました。大学で産休に入った方の代わりに助手のポストに就いていたのですが、その方が退職されるなど組織の事情もあり、助手のポストを別の方に譲らなければならなくなりました。
さてどうしようか、と考えていた最中、以前から交流があった斎藤十朗議員(当時の参議院議長)の秘書の方から選挙への出馬のお誘いがありました。民主党の勢いが増していた時代、自民党としても新人の若手候補を発掘し世代交代を進める時期でした。立候補しても当選するとは限りませんし「これも社会勉強の一つ」と思い、お引き受けしました。その後、2003年に三重県議会議員に初当選。これが政治家としてのキャリアのはじまりでした。
ー県議会議員を務められたあと、菰野町長、国会議員となられていますが、それぞれの役割の違いやギャップを感じることはありましたか。
町長時代は有事の際に最終的な責任を取ることが最も重要な仕事であったと思います。町内で豪雨が発生した際、土砂崩れの恐れがあるとのことで、別々のキャンプ場にいる二つのグループを救助しなければならないことがありました。一つは小学生のグループで、もう一つは大学生のグループ。バスは一台しかないので、どちらを先に助けるか決めなくてはならない。私は迷わず小学生のグループの方にバスを向かわせました。
しかし、その途中で小学生グループがいる場所は安全なことがわかり、急ぎバスの進路を変え、大学生のグループがいる場所へ救助に向かわせたんです。結果的に無事に大学生グループを救助できたのですが、翌日には大学生のいたキャンプ場では土砂崩れが発生していました。かなり緊迫感のあった経験でしたね。首長が本当に必要なのは有事の時なのだと痛感したのです。
国会議員の仕事ですが、日常的な仕事の進め方が町長時代とはまったく異なり非常に驚きました。町長は就任した直後から町の職員のサポートを受けることができましたが、国会議員は自分で秘書を雇い、事務所を運営しなければなりません。例えて言うならば小規模事業の経営者のような動きという感じですかね。もちろん活動のための資金集めも国会議員の仕事です。全部の仕事を100点満点でこなすことは難しい。メリハリをつけた活動が求められていると感じます。
(2)政治とは全体であり、バランスである
ーあらゆる立場から政治に関わってきました。現在の政治をどのように感じますか。
国民のみなさんが自分の関心のあるテーマを軸に政治家を評価するようになってきたと感じます。その気持ちはわかります。これほどまでに複雑になった世の中で、すべての分野に関心を持つのはもはや不可能ですからね。ただ政治家を評価する上ではその姿勢だけでは必ずしもよくないと感じます。
政治をする上では国家全体を考え、民意を総合させ、バランスをとりながら進めていく必要があります。ただ現在はあまり目立つことのない分野に取り組む議員が評価されづらいようなシステムになっているのではないか。政策の優先順位づけが国民の「ウケ」だけを狙ったものになっているのではないか、と懸念しています。
現在はデジタル政策や子育て政策が多くの人の関心を集めています。政治に注目が集まることは悪いことではありませんが、他にも数多くの分野があります。財政やインフラ整備など国家の基盤を支えながらも、あまり目立たない政策分野にも難しい論点が多くあり、それぞれの議員が真剣に取り組んでいます。注目の集まらない分野で活動する議員をいかに評価すればよいのかは非常に難しい論点だと感じます。
ー私たち有権者にも俯瞰した目線から政治を理解する必要がありそうですね。
そうです。政治全体を観察するには一歩引いた目線が必要です。私自身は政治や社会に対する何かしらの強い怒りや原体験があるわけではないので、そのような目線を持ちやすいのではないかと思っています。
政治家は全体のバランスをとる人。 俯瞰した視点から資源を配分していく立場です。だからこそ政治家は選挙で通りやすい、支持が得やすい政策ばかりをやるだけではいけません。医療費など各種無償化は政策の目玉になりがちですが、どうしても人気取りの側面があります。目立たないが重要な分野に税金を配分していくような動きができれば日本の国家としての強靭性もより高まるだろうと考えています。
(3)当事者性だけに頼らない、全体を俯瞰した政治を
ーとは言え、当事者でないと政治に対して積極的になれないという声もよく聞きます。
社会に対して声を上げるうえで当事者であることが評価されがちですが、必ずしもそうでなくてよいと思います。みんなが当事者でなければ理解できない、という考え方では対話することができないのではないでしょうか。自分の体験や経験が絶対的に正しいと考えている人は妥協をすることもできません。自分が100正しいと思っている人は、80で妥協しようと思っても20削られたと感じてしまいますからね。
そもそも当事者同士でもまったく同じ経験をしている人はいません。それぞれの体験には微妙な違いがあり、当事者であることを突き詰めると属性が細分化されていき、誰もお互いが理解できない事態になってしまう。
これは政治を進める上でも深刻です。一人一人の考えを尊重しながらも全体としての方向性をつけるのが政治家の役割ですからね。全体のバランスのなかで、物事を判断しないと。難しいことなんですけどね。
ー最後に石原議員のスローガンでもある「庇の政治を実現する」に込めた想いを教えてください。
政治とは「庇(ひさし)」のような存在であってほしいと願っています。庇は、穏やかな日常が続く時には、その存在を意識することはありません。ただ雨が降った時には雨宿りすることができるし、夏の暑い日には日陰となってくれます。平時には必要とされないけれども、困ったときに助けになることができる。そんな政治を実現できればと思っています。