有機フッ素化合物(PFAS)は、水や油をはじき、熱に対し安定的であることから、消火剤やテフロン加工のフライパンなどに幅広く使われてきました。ただ近年、人体や環境に対する有害性が指摘されています。日本でも環境省が2024年3月に公表した水質調査の結果では、全国111地点で国の基準を上回る「PFAS」が検出されたことが明らかになるなど関心を集めつつあります。
立憲民主党・大河原まさこ議員は、昨年いち早くPFASについて国会で取り上げ、水質調査や血液検査の拡大を訴えてきました。今回のインタビューでは大河原議員が考える環境における課題やその対策、また大河原議員が政治家を目指したきっかけなどについてお伺いしました。(取材日:2024年4月24日)(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
大河原 雅子(おおかわらまさこ)議員
1953年神奈川県生まれ。国際基督教大学卒業。
東京都議会議員(3期10年)や市民シンクタンク、環境NPOの理事などを歴任。
2021年衆議院選挙で2回目の当選。趣味は映画鑑賞。
(1)生活協同組合での活動をきっかけに環境問題に関心を持つ
ー大河原議員は生活に身近な環境問題に熱心に取り組まれています。関心を持った背景には何があったのでしょうか。
子どもが生まれたことをきっかけに生活に不可欠な身の回りの環境に関心を持つようになりました。初めて子どもを授かったとき、「自分の体はもう一人の体ではないのだ」と痛感したのです。お腹の子に影響を及ぼしかねないものはできるだけ避けようと思い始めました。
生活協同組合に加入したことは大きな転機となりました。生協での学びは新鮮で、特に私たちが生きるため、暮らすために不可欠な水に大きな関心を持つようになりました。
日本の水道水は綺麗なことで有名ですが、その水質は全国一律ではありません。私が育った横浜の水は安全で綺麗。一方、結婚して初めて暮らした千葉県・我孫子の水道は、日本で一番水が汚いと言われた手賀沼から取水していて、そのギャップは私にとって大きな驚きでした。
生協では原水(天然水)を汚さないための運動もしており、水を汚さないために自分ができることを実践しようと考えるようになりました。生物分解できる石鹸しか使わないようにするなどしていましたね。
もちろん高度処理をすれば、どんな水も飲み水にできる技術はあります。ただそれには大きなエネルギーとお金が必要です。水がこの地球を循環する中で持続的に利用できる状態にするには、自分が使った水は綺麗にして自然に返すくらいの気持ちが必要と考えるようになりました。
環境問題に関心を持った背景には時代の影響もあったと思います。学生時代に朝日新聞に連載されていた有吉佐和子さんの『複合汚染』を熱心に読んでいました。大学の課題でレイチェル=カーソンの『沈黙の春』(殺虫剤や農薬などの化学物質の危険性を訴えた作品)を読んだことも思い出深いです。
私が大学に入学したのは1972年。のちに「公害国会」と呼ばれる第63回臨時国会の余韻が色濃く残る時期で、日本社会の中でも農薬や化学物質が自然環境や生き物に与える影響について関心が集まりつつありました。
大分県・高崎山で奇形の猿が発見されたり、ベトナム戦争でのベトちゃん・ドクちゃんをめぐる報道を見たりと、汚染物質の影響について社会の関心も大きかったです。
ーその中で政治家になろうと思ったきっかけについて教えてください
もともとは1988年から1989年にかけて東京都で食品安全条例を提案する市民運動に参加したことが遠因です。運動には私も積極的に参加し、当時住んでいた社宅を駆け回って署名を集めたことはよい思い出ですね。
その努力の甲斐もあって、直接請求の条件を大きく上回る55万人の署名を集めることができ、小さな力・小さな声でもまとまれば社会を動かせる手応えを感じました。だからこそ実際の法令や条例を作る議会の場に私のような普通の消費者の立場の人間が参画し、声を届けることが重要だと考え、政治の道を志しました。
(2)「PFAS」問題の原因を究明し、生活に安心を
ー現在、衆議院の環境委員会にてPFASをめぐる問題に熱心に取り組まれています。どのような問題意識を持っていますか。
「PFAS」は人工的に作られた有機フッ素化合物の総称です。水と油どちらもはじく性質を持っており、テフロン加工のフライパンやレインコート、雨傘など身近な製品にも利用されています。便利ですが発ガン性が指摘され、その人体への影響については未解明な部分もあり、健康被害が確認された事例も存在します。
「PFAS」が日本で大きな問題として関心を持たれるようになったのは、元朝日新聞記者の諸永裕司さんが沖縄にある米軍基地周辺の水質汚染に注目したこともあります。米国の調査によって多くの米軍基地で同様の汚染が起きていることが判明し、それならば同じことが東京・横田基地でも起きているだろうと考え、東京都の地下水調査結果に着目し、「消された水汚染」を明らかにしました。2020年春には多摩地域の市民有志による自主的な血液検査が行なわれ、さらに2023年には1000名近くの希望者による血液検査が行なわれました。諸外国の基準値を上回る血中濃度を記録した人もいました。それによる健康被害は未だ不明なままです。
市民のみなさんは「PFAS」がなにか、「PFAS」がどこに使われているかを知らされていませんでした。そのため、知らず知らずのうちに汚染が起こってしまっています。ただ国や都の動きは遅いと言わざるを得ません。私自身も諸永さんがこの問題を取り上げた際には東京都水道局にヒアリングをかけるなど、情報収集に務めましたが、水道局の姿勢は残念ながらあまり変わっていません。
東京都は汚染した地下水から取水しないような措置を進めているわけですが、それで根本的に水質を回復できるわけではありません。井戸水が水道水の水源として利用できるように、原因究明と汚染を回復させるための動きが必要です。地下水は公共財。地下水を大切にすることは自分の暮らしを大切にすることでもあります。
PFASによる地下水の汚染は今や全国各地に広がっています。汚染源の特定、汚染原因の究明、そして汚染除去は国がきちんと行なうべきです。
(3)次の世代に綺麗な地球を渡すための行動を
ー大河原議員が政治家として成し遂げたいことはなんですか。
化学物質について総量規制をかけたいですね。産業の発展に伴って化学物質は毎年新しいものが何万種類も出てきていますが、法規制は追いついていません。作り手が規制のない中で製造・販売している結果、消費者も意識せずに購入を行なっており、私たちは普段口にするものの安全性に考えが回らなくなっています。この裏側には国が定める様々な基準があります。この基準は誰がどうやって決めているのか。決めた安全基準は問題ないのか。不断の見直しが必要です。
環境問題は大きな社会システムの問題でもあります。資本主義は利益を上げることを最優先とし、利益を上げるうえで起きた被害について保証することを避けてきました。製造方法や販売方法を振り返る仕組みがないのです。これからの時代は倫理的に適う作り方と質を担保しなければなりません。化学物質をはじめ環境問題を取り上げることは産業界からの反発を招くこともしばしばで、難しい分野です。ただ言い続けることが大切です。東京は世界中からの輸入品が集積する巨大な都市です。東京でのアクションは全国にも大きなインパクトがあるはずと考え、活動を続けてきました。
私は「Think globally, Act locally(地球規模で考え、足元から行動せよ)」という言葉が好きです。世界規模の目線を持ちながら、自分の暮らしを少しずつ変えていく。そんなアプローチが必要だと思います。様々な運動がつながっていくことで、大きなアクションになっていくはずです。化学物質をはじめ地球を痛めつけるものに対して真摯に向き合い、次の世代に綺麗な地球を渡すために行動していきます。