人生100年時代が謳われるほど長寿化が進み、また女性のライフコースが多様化した現代において、生涯を通じた女性の健康支援が重要となっています。自民党では2023年に「女性の生涯の健康に関するプロジェクトチーム」を立ち上げ、女性の健康推進にかかる施策の具体化を進めています。
今回のインタビューでは、「女性の生涯の健康に関するプロジェクトチーム」座長を務めるたかがい議員に、政治を志したきっかけや女性の健康に関する施策などについてお伺いしました。
たかがい恵美子(たかがい えみこ)議員
1963年宮城県加美郡生まれ。元厚生労働副大臣。保健師、看護師。
東京医科歯科大学教官、厚生労働省技官などを務め、2010年参議院議員選挙で初当選。
2016年の参議院選挙で再当選。2021年に衆議院選挙に立候補し当選。
(1)看護師、保健師、官僚を経て政治家へ
ーたかがい議員が政治家を目指したきっかけについて教えてください。
厚生労働省で働くうちに、さまざまなことに疑問を持ったことがきっかけです。
私は、病院、保健所、大学などでキャリアを積んだのち、2000年に文部教官から厚生技官に身分移管しました。厚生労働省では8年のあいだに保健指導専門官や介護予防専門官、臓器移植指導官、医療課長補佐、医療指導監査官、科学技術調整官など、たくさんのポストを経験しました。当時から厚生労働省はとても忙しく、同時に4つのポストを併任することもあったほどです。
生活のすべてを仕事に捧げなければならない状況が続く中、ある時厚生労働大臣になった方が、あからさまに官僚を侮辱する発言を繰り返すことがありました。連日、マスコミに向かって「役人は何もできない」、「官僚に任すことはできないから、私が指揮をとります」とおっしゃっていた。
厚生労働省で働く人たちのなかには、この発言を聞いてがっかりしたり、怒ったり、さまざまな反応がありました。私としては、なぜ組織のトップが自分の部下をこき下ろすのか、不思議で仕方ありませんでした。みんな社会のために身を粉にして働いているのに、なんてみじめなんだろう。組織のトップが職員をないがしろにするような組織はいずれ崩壊するんじゃないかと思いました。
いくら大臣とはいえ、人間としての良心や他人の尊厳を思いやる気持ちは持てないのだろうか。心の中にすごくもやもやしたものが残りました。正直、厚生労働省での仕事はやりがいも多く、このまま定年まで続けていきたいという思いもありました。政治家になってからも、自分が厚生労働省で取り組んだことの一つ一つが今につながっているなと感じることがあるほど、官僚もやりがいの多い魅力的な職業です。しかし、自分が政治家になれば、もっといろいろなことに取り組めるのではないか、そう考えて政治家の道を進みました。
(2)女性の健康問題は、個人ではなく社会の課題
ー自民党「女性の生涯の健康に関するプロジェクトチーム」の座長を務めるたかがい議員ですが、女性の健康に関心を持ったきっかけはなんだったのでしょうか。
私は公衆衛生・地域保健を専門とする看護職ですが、政治家として女性の健康に取り組みはじめたのは2013年です。当時政調会長だった高市早苗議員に、女性の健康について科学的に検証し、対策を立ててほしいと依頼されたんです。
私は2010年に初めて選挙で当選して、当時はまだ3年目。「どうして私が?」と聞くと、高市さんからは「あなただからできるんじゃない?」と。当時はまだ、女性の健康といえば妊婦さんの健康管理などが話題にできるくらいで、まったく注目されていませんでした。この時から私は女性の一生の健康に関わる基盤的な法律を作りたいと考えて活動しています。
追い風になったのは、2013年9月に当時の安倍晋三総理が国連総会一般討論演説で「女性が輝く社会をつくる」と宣言したことです。同年10月には自民党政務調査会に「女性の健康の包括的支援に関するプロジェクトチーム」を立ち上げ、私は座長に就任しました。
まずは女性の健康に関するデータを集めて現状を分析し、有識者へのヒアリングも行いながら課題を抽出しました。その後、プロジェクトチームで議論を重ね、2014年3月末には女性の健康の包括的な支援に関する報告書を取りまとめました。この提言をもとに、6月には超党派で「女性の健康の包括的支援に関する法律案」を参議院に提出しています。残念ながらこの法案は衆議院が解散されたことにともなって廃案になってしまったのですが、女性の健康に関する基盤的法律づくりに向け、現在も議論を重ねています。
ー本年5月には、女性の生涯の健康に関するプロジェクトチームで「次代の社会活力を形成する女性健康政策の推進について」という提言を取りまとめています。ポイントについて教えてください。
大きな柱が4つあります。「女性の健康を話題とし支える場づくり」、「女性の健康維持と安全に配慮のある街づくり」、「働く女性のための健康支援」、「女性の健康医療の確立」です。
このプロジェクトチームで主眼としているのは、女性が自分のペースでその時々にあった活躍をできるよう応援しよう、ということです。今、働く女性が増えるなかで、不調を訴えることができず我慢して悪化したり、あるいは健康不安からやりたいことに挑戦できなかったりする方がたくさんいらっしゃいます。女性の健康について、職場でも学校でも、もっと気軽に話せる環境づくりを進めたいと思っています。
女性が女性特有の問題で不調になると、本人のQOLを損なうだけではなく、家族の幸せや社会の生産性も下げてしまっています。女性の健康問題は個人の問題ではなく、社会の問題として取り組むべきです。
ー今後、たかがい議員が女性の健康について取り組みたいことを教えてください。
女性の健康問題を男性も交えて議論し、社会全体の課題として取り組むことです。私が自民党女性局の局長を務めた際には幹事はあえて男女半々にしました。「なぜ女性だけじゃないんだ」とすごく批判されましたけれど、私は、女性の問題を女性だけで語っているのではだめだと思ったんです。
今、国会議員の9割は男性です。そんななか、女性の問題は女性が考えるものと言っていては物事は進まないと思いました。女性の健康問題も、男性を含めた全体で取り組むことで社会を変えていかなければいけません。もちろん、女性の問題を男性に話しにくいなと思う気持ちは十分わかります。しかし、男性が知らないこと、わからないこともたくさんある中、男性が女性の話を聞くことはとても重要なんです。女性局でいろいろな話を聞いた男性議員は「妻との関係がよくなった」、「娘との会話が増えた」と言っていました。男性も、女性の話を聞いていくうちに、女性の健康を自分ごととして考えられるようになります。私は、女性の健康をもっと普通に話題にできるようにし、また男性もそこに居られるようになればと考えています。
(3)日本の国会には女性と若者が少なすぎる
ーたかがい議員が政治家として成し遂げたいことはなんですか。
今も新しい挑戦をしているところで、やりたいことはたくさんあります。しかし成し遂げたいことをあえて挙げるなら、やはり女性の健康、そして議会改革です。
女性の健康については、先ほど申し上げたとおり基盤となる法律をきちんと整備したい。次世代に自分の健康は自分のものという意識で、自信を持って活躍できるような社会を渡していきたいです。
また、議会改革にも取り組みたいと考えています。国会にはまだまだ女性議員と若い議員が少ない。日本全体の人口構成と比べると、国会議員の比率は非常にバランスが悪いと思っています。日本の人口の約半分は女性ですが、女性国会議員は約1割です。また、20代の国会議員はゼロ、30代の国会議員もたったの14人です。
都市部と地方で一票の格差が問題になる一方で、国会議員が高齢の男性に偏っていることについては何も手がつけられていません。もちろん年を重ねた先輩方が議会に多くなるというのはある程度理解できます。しかし、あまりにもそれが当たり前になっている状況には、異を唱えていきたい。ヨーロッパでは、20代で大臣となる方もいます。被選挙年齢の引き下げやクオータ制などを通じて、女性の政治家、20代・30代の政治家をもっと増やしていくべきです。そのための選挙改革についてこれからもっと取り上げていきたい。政治は国民生活に密接なものであるがゆえに、地域代表性の観点だけでなく、人口構成を反映できる代表制についても考慮していくことが必要だと思っています。