話題となった2024年4月の衆院選補欠選の長崎3区で当選した山田勝彦議員は、2度目の当選となります。山田議員は1年生議員ながら積極的な国会質問や、「国境離島みんながJR運賃並法案」(正式名称:有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法の一部を改正する法律案)を提出するなど、精力的な活動で知られています。政治家の父・正彦氏の秘書を経験後、事業家となるものの再度政治の世界に舞い戻った経緯や、「国境離島みんながJR運賃並法案」の背景にある思いなどについてお伺いしました。
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
(取材日:2024年4月12日)
山田勝彦(やまだかつひこ)議員
1979年長崎県長崎市生まれ。法政大学社会学部 卒業。
障がい児の自立支援に携わる法人経営などを経て、2021年衆議院選挙で初当選。
現在2期目。妻と息子の3人暮らし。
(1)父親は政治家、しかし元々政治家志望ではなく事業家の道へ進む
ーまず、先日(2024年4月28日投開票)の補欠選挙(衆議院長崎3区補欠選挙)の当選おめでとうございます。今回で2度目の当選となりますね。お父さんも長崎を地盤とする政治家として活躍されましたが、やはり政治家を志したのはお父さんの影響が大きかったのでしょうか?
ありがとうございます。私は数年間のサラリーマン生活の後、2009年から父(山田正彦元衆議院議員)の秘書を務めました。父の農林水産大臣就任に伴い大臣秘書官も経験しましたが、自分が政治家になりたいという気持ちは実はそれほどありませんでした。父が政治家を引退した後、私は児童の発達支援や農業などの事業を始めたんです。地方を元気にするために事業をやりたい、という思いが強かったですね。子どもの頃から父は多忙で、母が苦労している姿を見ていました。また普通の家庭のような家族旅行もしたことがなくて、政治家にはなりたくない、という気持ちが強いくらいでした。
ー事業家から政治家を目指すきっかけがあったのでしょうか?
元々、父の秘書時代に農村や漁村を回って、農家や漁師の方の苦労話を聞く機会が多くありました。その中で、先祖代々大切に守ってきた農地や漁業権を子ども達には継がせたくない、という話を聞いた時は衝撃を受けました。本音では子どもに家業を継いでもらいたいと考えているのに、食べるのに苦労するのが目に見えているので親としては跡を継がせたくないと。日本の農業政策や漁業政策は間違っている、と感じた原点ですね。
また発達障がいの子ども達の支援事業を通じて、子どもを守るのが大人の責任じゃないか、という思いを強く抱くようになりました。事業自体は順調に伸びた反面、政治をたださないと本当の意味で、子ども達の笑顔と未来を守れないのではないかと感じるようになったんです。自分が支援する側になって誰かが政治を変える役割を担わないかな、とも思いました。しかし父が引退して長崎の選挙区も大きく情勢が変わっており、政治を変えるには他人に期待するよりも、難しいかもしれないけど自分で挑むしかない、と決意して2021年の衆院選に立候補しました。
(2)1年生議員でも国会で仕事はできる!国境離島みんながJR運賃並法案に結実
ーすでに秘書として政治の世界を経験されていた訳ですが、国会議員として約3年政治にたずさわり手応えはいかがですか?
かつての秘書や秘書官の経験から、政策は霞が関や国会が一方的に作るのではなく、現場からのボトムアップが大切と考えていました。ただ初当選したときには、永田町は当選回数が重要な世界で1年生議員ではあまり仕事ができないだろう、と思っていました。しかし、1年生議員の勉強会で安住国対委員長から、それぞれが有権者を代表して当選しているのだから何の遠慮もいらないよ、と言われて奮い立ちました。何かスイッチが入った感じです。その後は、何でもやります、という状態で国会質問なども無我夢中でやりました。当然ながら勉強は必要ですが、現場の声を届けたいという情熱と努力があれば1年生議員でも国会で仕事ができる、と分かったのは大きかったですね。県民、そして国民を代表して国会にいるからには遠慮してはいけないんだ、と強く感じました。ただし、やはり多数決で物事が決められる世界であり、野党として何度も悔しい思いもしています。政権交代すればこういう政策が実現できるのに、と思う場面は多かったですね。
ー岸田総理に予算委員会で直接質問されたと伺いました。
先日の選挙は長崎県でも行われ、五島列島や壱岐、対馬が国境の島、ということでも注目を集めました。選挙前に私は、離島振興というテーマで岸田総理に予算委員会と本会議場で質問を行いました。テレビ中継の入る予算委員会や本会議場で、離島振興について長時間に渡り総理へ質問したケースはこれまでほとんどなかったのではないでしょうか。
ー選挙前に「国境離島みんながJR運賃並法案」が衆議院に提出されました。本法案の提出の背景などを教えてください。
「国境離島みんながJR運賃並法案」(正式名称:有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法の一部を改正する法律案)は、島民の皆さんの声によってつくられました。島には農家や漁師の方がたくさん住んでいます。特に、私の選挙区がある長崎県は島が多いのはご存じの通りです。実はそういう人たちが住み続けるからこそ、国の領土と領海が守られているんです。島に人々がいなければ、国境警備などを常に海上保安庁などが行う必要があります。けれどそれには莫大な税金がかかるため、現実的ではありませんよね。だから島の農業や漁業を守ることは本来国防上も重要な意味を持ちます。しかし冒頭に申し上げたように、農村や漁村では親が子供に職業を引き継がせずに、どんどん人が減っている現実があります。島の農業や漁業を守ることは国防につながるのだから、ここにしっかり予算を投下しよう、というのが本法案の趣旨です。
もう少し現場レベルの実情をお話しましょう。既に島民の方は、低料金で離島と九州や本州などを結ぶ離島航路の利用ができるんです。この政策自体は島民の方に非常に喜んでいただいています。しかしそれで何がおきているかというと、島民の方が週末に福岡などの街に買い物に出かけるんです。島ではなく都会で消費が発生している。また島から出て街で暮らす子供や孫に会うために、おじいちゃんやおばあちゃんが街に出向いているんですよ。里帰りとは逆の現象です。これっておかしいですよね。けど夫婦が子供を連れて島に帰省するより、おじいちゃんやおばあちゃんに島から来てもらう方が圧倒的に安ければ、そうなってしまいます。島を離れた家族が気軽に島に帰省できれば、消費も発生するので島の経済もうるおいます。さらに観光客も増えれば、島で商売をしようか、と一旦島を離れた若者も帰ってきて島の経済が確実によくなるでしょう。離島航路の格安料金の対象を広げることができれば、島の経済振興そして国防につながると考えています。離島航路は海の国道なんです。海の国道を利用するのに、差別はよくないですよね。離島航路は海の国道という理念を共有して、利用者を差別してはいけない、ということが本法律を作る大きなきっかけとなっています。
ー同法案で他に注目すべき点などあれば教えてください。
離島振興には離島振興法という法律があり、離島の産業基盤や生活環境の整備に対し特別な措置を講ずることになっています。しかし離島振興については、この二十数年の間で900億円以上の予算が削減されました。これは本当の意味で国防を考えているか疑問で、政府は島を守るために予算を付けるべきではないかと考えています。「国境離島みんながJR運賃並法案」のポイントは、地方の負担が上がらない点にもあります。各地方自治体はいずれも厳しい財政運営を迫られています。しかし離島振興は国防に関わる分野であり、費用は国が負担するべきです。よって国が費用の8割以上を負担する内容です。
確かに離島振興法で、公共事業により離島でも港や道路などのコンクリートのインフラは整備されました。まだまだ必要な公共事業はあります。しかし公共事業中心の地方活性化政策はもう限界が来ています。島での生活は、物流や物価の面ですごく不便を強いられている。これは島民の努力で何とかなる問題ではありません。例えばAmazonとか楽天で買い物をすると、通常は配送料無料の品物でも離島は配送料がかかる、というのが普通です。あれだけの大企業でも離島の物流コストは面倒を見きれないんですよ。そうであれば、その役割を担うのは政治や行政ではないでしょうか。確かにお金はかかりますが、二十数年の間で900億円以上の予算が離島振興から削減されています。今回、提案した離島航路の低料金化を実現できた場合、財源として120億円が必要になると試算できました。離島振興が防衛に果たす役割を考えると、政策の実現可能性は充分あると考えています。また5年間やってみて費用対効果が高いことが実証されれば、横展開できる仕組みとしています。最初は国境付近の離島で始めるけど、5年やってみて効果が実証できれば同政策を他の島にも広げられます。
(3)食で子供を笑顔に!そして奨学金で自己破産する若者をゼロにしたい
ー他にも注力したい政策があれば教えてください。
子どもを守りたいというのが、私の政治の原点です。私は発達障がい児の支援施設運営を行ってきましたが、発達障がい児の増加は、専門家から食べ物の残留農薬による可能性も指摘されています。まずは子どもたちの給食から変えていこうということで、昨年「オーガニック給食を実現する国会議員連盟」を立ち上げました。私が事務局を担っています。本議員連盟は自民党の議員にも入ってもらっており、立憲民主党の川田龍平議員と自民党の宮下一郎・前農水大臣が共同代表です。超党派で毎月勉強会を行っています。食の面から子供達の笑顔を増やしたいですね。
また、先日の選挙で非常に印象的な出来事がありました。若い女性と立ち話をしていると、奨学金で500万円以上を借りており、コンビニでアルバイトをしている、ということでした。今は2人に1人以上の学生が、奨学金という名前の借金なしでは学生生活ができません。そして、その後に奨学金が返済できなければ自己破産が迫られます。将来どれくらいの収入が得られるのか・どんな職業につくのか決まっていない学生から金利も取る借金というのは、悪政の極みです。こんな国に未来はありません。大学の授業料無償化が一つの方向性ですが、一気に行うのは難しいのも現実です。立憲民主党は、奨学金の返済に苦しむ学生を救うために既に法案を出しています。奨学金の返済猶予、返済免除を可能とする法案を一刻も早く成立させて若者を救っていきたいです。奨学金で自己破産する若者をゼロにする、そういった政策の実現を急ぐ必要があると考えています。
ー最後に、若者が政治と距離を縮めたり関心を持つには、どのようにしたらよいと思われますか?
多くの国会議員は定期的に国政報告会を開いていますが、いきなり国政報告会に参加するのは正直ハードルが高いと思います。実は、現在はSNSで様々な情報を発信している政治家も多く、スマホさえあれば、気になる政治家がどのような発信をしているか、簡単に分かる時代です。市会議員や県会議員、市長や国会議員でもよいので、最初は身近な政治家のSNSを見るのがよいかもしれません。そして何か共感が得られれば、次の段階として、国政報告会や対話集会とかのリアルの会に参加して色々感じてみる。そういったステップが大切なのかな、と思います。まずはSNSで身近な政治家の情報に触れる所から始めてはいかがでしょうか。