2023年12月、「若い世代が希望どおり結婚し、子どもを持ち、安心して子育てができる社会を目指し、若い世代の所得を増やす、社会全体の構造や意識を変える、全ての子ども、子育て世帯を切れ目なく支援する」という理念のもと、こども未来戦略が策定されました。今回のインタビューでは、こども政策の分野で活動をしている公明党の吉田久美子議員に、政治家になったきっかけや子育て支援のあり方について伺いました。
(取材日:2024年9月6日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
吉田 久美子(よしだ くみこ)議員
佐賀県鳥栖市出身。佐賀大教育学部卒業。
市民団体での活動を経て2021年初当選。
「いのちをつなぐ いのちを輝かせる いのちを守る」をテーマに、政策作りに取り組んでいる。
普通の主婦が政治家へ
―吉田議員が政治家を目指したきっかけを教えてください。
政治に関わるようになった原点はダイオキシン問題です。1990年代、ダイオキシンに関する報道が活発になり、私は「忍び寄る母体汚染」という新聞記事を目にしました。ごみの焼却で発生したダイオキシンが母乳を通じて乳児に伝わってしまう危険性が指摘されていたのです。
当時、私は3歳と1歳の子どもを抱えていたため、大きなショックを受けました。こんなことが許されてはいけない。自分たちの世代が動かないといけないのではないかと思ったのです。母親世代の友人たちに声をかけたところ、多くの方々が危機感を持ってくれていて「何かやりましょう」という話になりました。そこで、1998年1月、「ダイオキシンから生命を守る母の会」を立ち上げました。
近所の公民館で講演をするなどの啓発活動を行い、最終的には国にダイオキシン対策を求める署名運動を展開。10万人ほど集まればインパクトがあるかなと思っていたら、なんと約31万人の賛同が集まったのです。この母親たちの声を公明党はしっかりと受け止めてくれました。2か月後には、当時の浜四津代表はじめ公明党による緊急提言や国会質問がきっかけとなり、補正予算案に大幅なダイオキシン対策費が計上されました。その後「ダイオキシン類対策特別措置法」という法律もできたのです。
ダイオキシン問題に対する一連の取り組みは、小さな声が政治を変え、国を動かすことができるのだと、強く心に刻まれた体験となりました。その後、子宮頸がんワクチンや不妊治療の保険適用などの活動にも参加し、2021年11月の衆議院議員選挙で初当選。政治家としてスタートを切りました。
―ダイオキシン問題をきっかけに様々な政治活動をしてきたということですが、なぜ2021年の選挙で立候補したのでしょうか。
政治に興味はもちろんあったのですが、私は選挙に出る側ではなく応援する側でした。私たち国民の声を受け止めてくれる公明党に頑張ってもらいたいと思っており、特に女性候補が出馬する際には、応援をしていました。政治家になるつもりはなかったんです。
ところが突然、公明党から「立候補しませんか?」というお話をいただいたのです。当時57歳だったので「私の年齢をご存知ですか?」と言ったことを覚えています。これまで私は普通に生活してきて、結婚して。ごくごく一般的な主婦で、立派な肩書きはありません。ただ、様々な人と関わる中で、色々な声を吸収してきたことは負けないなと思ったんです。生活者としての経験は政治家としての強みになると考え、出馬する決意を固めました。
―普通のお母さんが政治の世界へやってきたのですね。
公明党の議員の多くは、私のようにもともと政治家を目指していない人です。だからギラギラ感がないというか。出たい人ではなく、出したい人を推すのが公明党。そこは他党との大きな違いだと思います。
私は地盤、看板、カバンも何もない中で唯一、勇気だけを握りしめて政治の世界に飛び込みました。若い頃に、尊敬する方から「勇気」という言葉をいただいて、それ以来、ずっとこの言葉を握りしめて生きてきました。
子ども、子育てをしている親に優しい社会をつくる
―吉田議員は女性やこどもをめぐる政策を中心に活動しておられます。子育て支援で必要なことは何でしょうか。
まずは女性が活躍できる社会をつくるべきだと考えています。昭和時代は結婚して専業主婦になって、ご主人にバリバリ働いてもらうというスタイルが一般的でした。しかし現在は妻が専業主婦の家庭は2割ほどしかなく、多くの家庭が共働きです。
つまり、結婚や出産の後にも仕事を続けていきたいという女性が増えているわけです。自分の得意なことで自己実現したい、社会貢献したいといった願いがある。ですから、男性も女性も生活と仕事の両方を大事にできる環境を整えるべきだと考えています。特に女性は出産を契機に正社員をやめてしまうケースが多くあるので、妊娠・出産があっても働き続けられるような仕組みをつくっていかなければいけません。
―子育てをしやすい環境を作るために、どのような政策が必要なのでしょうか。
法律をつくるのが国会議員の仕事ではありますが、制度があればいい、というわけではないんです。どうすれば子育てがしやすい温かい社会になるかということも考える必要があると思います。女性が働くことが当たり前になってきた中でも、子育てや家庭のことは女性の責任だという意識がまだ根強く残っていると感じています。
私自身、2人の子どもを育て、出産や子育ての大変さを経験しました。特に苦労したのが、2人目を妊娠しているとき。つわりが重く、上の子へのご飯の用意もできなくて。車の運転は怖いので、移動は電車でした。ベビーカーを引いて駅に着いたら、その駅には階段しかない、なんてことも度々ありました。
それで、電車に乗ったら「邪魔にならないようにベビーカーをたため」と。子どもを抱えながら、ベビーカーをたたんで買い物袋を持って、どうやって移動しろと言うのかと思っていました。24時間、子育てに対応していても何も報われる感じがしない。きつすぎて、かわいいはずの子どもの顔を見ることが嫌になることもありました。そうすると自己嫌悪に陥ります。他のお母さんはみんな耐えているのに、なぜ自分だけ耐えられないんだと。
子育ては楽しさや喜びもたくさんありますが、苦しいこともあります。だからこそ、社会が、子どもや子育てをしている親に優しくなってほしいと思います。「子どもの声がうるさい」との苦情で幼稚園が移転せざるを得なかったり、公園でボール遊びができなかったりといったニュースを見ると、とてもせつなくなりますね。
―結婚してから離婚したり、そもそも結婚を選択しなかったり、シングルで生きていく女性が今後増えていくことが予想されます。1人世帯に対する支援についてはどのようにお考えですか。
生き方の選択肢が広がってきた中で、自らシングルを選ぶ方々も増えてきていると思います。一方で望まずしてシングルになっている方々もいらっしゃる。出会いがない、奨学金返済に苦労して経済的に厳しい、など様々な要因があると思うので、その一つひとつにアプローチする政策をとっていかなければいけません。
結婚を望む人が結婚をできるような政策を進めながらも、ひとりでも困らずに生きていける仕組みを国として真剣につくっていかなければいけない時期が来ていると思います。今、貧困に苦しむ高齢女性が増えています。現実に起きている問題と向き合わなければいけません。
たとえば「こども食堂」がありますが「大人食堂」もいいのではないかと。食事を提供することで経済的な支援になるとともに、居場所になる点もよいのではないでしょうか。ひとり世帯の方が孤独にならないような居場所をつくることが必要です。他には、シルバー人材センターなど、高齢者が仕事をして少しでも生活費の足しにできる機会を増やしていくことも大切です。
また、様々な家族形態が認められる多様性のある社会にしていきたいと思っています。入籍しなくてもパートナーとして認めることや同性婚、シルバー同士での結婚など。自分で決めたことが尊重される社会をつくりたいですね。
―フランスなどでは、入籍しなくても夫婦と同じ権利が認められる「シビルユニオン」という制度がありますよね。
そうですね。結婚したくはないけれど、子どもは欲しいといった考えを持つ方々も増えてきているので、それぞれのニーズが満たされる制度をつくることが大切です。そう考えると、シングルマザーの貧困も喫緊の課題だと感じます。母子家庭の収入は平均で父子家庭の半分ほどというデータが出ています。ひとり親世帯の児童扶養手当は所得制限なしで充実した支給をすべきです。
また、女性が多く携わっているエッセンシャルワーカーの待遇改善も進めていきたいです。これからAIにとって代わられる仕事が増えていく中で、医療や介護福祉、保育などはAIには代替できない、とても大切な仕事。人間対人間の重要な仕事にもかかわらず、見合った給料になっていません。結果として、やめていってしまう人が多く人手不足に陥っています。
「女性活躍」と言いながら、やりがい搾取になっている部分があるのが現状です。いくらやりがいがあったとしても、労働に見合った対価がもらえなければ、継続的に働くのは難しいです。AIを活用することも大切ですが、人間にしかできないことを最優先にする社会にしていかなくてはいけないと思います。
「更年期休暇」の名称変更を提案
―公明党では、更年期障害に対する取り組みも行っていますよね。
更年期はみなさんが通る道ですが、症状は個人差があり、深刻な方が3割ほどと言われています。更年期の症状が出るのは、40代から50代の時期。キャリアを積み上げていき、人によっては会社の中で役職を得る時期でもあります。それまでバリバリ仕事をしていた人が更年期障害になり、役職を辞退したり、会社を退職したりといったケースもあるようです。キャリアにも大きな影響を与えうるので、国として対策の必要があると考えています。
―具体的には、どんな取り組みをしているのでしょうか。
私は名称変更を提案しました。というのも「更年期」という言葉にはネガティブなイメージを持っている方が多いと思うんです。言葉は非常に大切です。
たとえば法律で「生理休暇」が定められていますが、多くの女性が取得していない現状があります。それは「生理休暇を取らせてください」と言いにくいからだと思います。ですから「更年期休暇」をつくっても、取得率はなかなか上がらないでしょう。そこで「レディース休暇」や「エフ休暇」といった名称にするのはどうかと、国会で提案させてもらいました。そして、不妊治療で休む際にも使えるようにする。このように、制度をつくることはもちろんなのですが、制度が機能するような環境を整えることも非常に重要です。
また、子どもに対する教育も進めていきたいと思っています。親が更年期を迎えている時期、ちょうど子どもは反抗期になるパターンが多いのです。更年期の親と反抗期の子どもがバチバチになっている深刻な家庭がたくさんあります。
イギリスでは、中学生に「君たちのお母さんは更年期という世代なんだよ」と教えるそうです。反抗期の子どもであっても、親が更年期であるという知識があれば、少し気遣ったり、理解したりできると思うんです。イギリスのような教育制度をつくりたいと考えています。