「領土問題」とは、特定地域の領有権をめぐって複数の国が争う国際問題です。
世界を舞台にした陣取りゲームをイメージするとわかりやすいかもしれません。
最近では、南シナ海における中国の領有権の主張をめぐって、アメリカと中国の緊張が高まっていますよね。
そこで今回は
- 日本が抱える領土問題
- 世界の領土問題
- 領土問題を解決する国際司法裁判所
などに焦点を当て、「領土問題」について分かりやすく簡単にご紹介したいと思います。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、領土問題とは
領土問題とは、地域の領有権をめぐって国が争う国際問題です。
この「領有権」とはどのような権利なのかを見てみましょう。
領有権 その土地を自らの領土として所有する権利、領有する権利
引用:Weblio 辞書
つまり、領有権があれば特定の地域を自国の領土として見なすことができます。
とはいえ、領有権を主張すればその地域をそのまま領土にできるのかというと、それは違います。
現在の日本の領土が1952年のサンフランシスコ平和条約で決められたように、領土は国際法によって定められることが一般的です。(参考 日本の領土Q&A 外務省)
しかし、領土の決定方法の中には、他国よりも先に地域を支配することで領土とする「先占(せんせん)」があるため、中国が南シナ海に人工島を建設し、その地域で支配を強めている現状もあります。
ただし、先占はどの国も属さない無主地(むしゅち)のみで有効なため、複数の国の水域がある南シナ海での中国の領有権の主張は、ハーグ常設仲裁裁判所で国際法に違反するという判断がすでに下されています。(参考 南シナ海、中国の主権認めず 日本経済新聞)
このように世界の領土問題は日々変化し、日本は主に
- 中国
- 韓国
- ロシア
と領土をめぐって対立しています。
日本が抱える領土問題をくわしく見ていきましょう。
2、尖閣諸島に関わる領土問題
中国との領土問題で挙げられる地域は、尖閣諸島(せんかくしょとう)です。
引用:尖閣諸島について 外務省
尖閣諸島は沖縄から約410km、石垣島の近くに位置し、
- 魚釣島(うおつりしま)
- 北小島(きたこじま)
- 南小島(みなみこじま)
- 久場島(くばしま)
- 大正島(たいしょうとう)
- 沖ノ北岩(おきのきたいわ)
- 沖ノ南岩(おきのみなみいわ)
- 飛瀬(とびせ)
などの島々から成り立っています。
1895年に尖閣諸島は領土として沖縄県に編入され、鰹節工場や羽毛の採集事業などが盛んに行われていました。
中国との領土問題が発生したのは1971年のことです。
1969年国連アジア極東経済委員会(ECAFE)によって、東シナ海に石油埋蔵の可能性が発表されたことをきっかけに、中国は尖閣諸島の領有権の主張をはじめます。
1992年、中国は一方的に領海及び接続水域法を制定し、尖閣諸島は中国領土であるとあらためて主張しました。
現在の尖閣諸島は日本が実効支配を行っていますが、2020年7月時点で尖閣諸島周辺に中国船が約90日連続で確認されるなど、緊迫した状況が続いています。(参考 尖閣周辺に中国船 90日連続、最長を更新 産経新聞)
3、竹島に関わる領土問題
韓国との領土問題で挙げられるのは、竹島(たけしま)です。
竹島は島根県隠岐から約158km、韓国から約217kmの位置にあり、西島、東島など複数の島々から成り立っています。
17世紀頃から江戸幕府下でアシカ漁などの漁猟が行われ、竹島は1905年に島根県に編入されました。
一方、韓国の主張では、1696年に幕府に抗議し、1900年の大韓帝国勅令41号で竹島を韓国の領土としたとされています。
(参考 竹島 外務省、韓国政府の主張 内閣官房)
日本と韓国の対立が深まったのは第二次世界大戦後のことです。
敗戦を機に日本は手持ちの領土を連合軍であるアメリカに一時的に託しました(マッカーサー・ライン)。
マッカーサー・ラインとその後のサンフランシスコ平和条約でも、竹島は日本の領土から放棄されることはなかったものの、平和条約の発行とともにマッカーサー・ラインが消失した隙を狙って、韓国は「李承晩ライン(りしょうばんらいん)」という独自の線引きを実行します。
そして、今日まで竹島は韓国の実効支配下となり、独島警備隊という韓国の警察部隊が常駐することとなりました。
日本は国際司法裁判所での解決を提案していますが、韓国側は「自国領土なので争う必要がない」と主張し、両者の協議は平行線となっています。
4、北方領土に関わる領土問題
ロシアとの領土問題で挙げられるのは北方領土(ほっぽうりょうど)です。
引用:北方領土 外務省
北方領土は北海道の北に位置し、北方四島とも呼ばれ、
- 歯舞(はぼまい)群島
- 色丹(しこたん)島
- 国後(くなしり)島
- 択捉(えとろふ)島
が含まれます。
北海道からかなり近いので「もちろん、日本の領土だよね?」と思った人も多いと思いますが、北方領土はロシアが実効支配を行っています。
根室市の納沙布岬(のさっぷみさき)から歯舞群島まではわずか3.7キロです。
引用:北方領土の歴史 北海道庁
日本とロシアの北方領土問題の起源は、1711年ロシアの千島列島上陸にさかのぼります。
千島列島とは北方四島の上にある島々のことで、もともとはアイヌの人々が住んでいました。アイヌの存在は1615年にすでに確認されています。
国境線が引かれていなかったために両国の住民は衝突することになります。
1855年日魯通好条約(にちろつうこうじょうやく)によって、択捉島から南は日本の領土、それより北はロシアの領土となり、国境線を決めていなかった樺太(からふと)に関しても協議が進むことになりました。
1875年の樺太千島交換条約によって、日本は樺太を手放す代わりに千島列島を獲得し、ロシアは樺太を獲得します。
引用:北方領土の歴史 北海道庁
その後、日本は日露戦争に勝ち、1905年のポーツマス条約によって樺太の南半分をさらに獲得します。
引用:北方領土の歴史 北海道庁
しかし、第二次世界大戦での日本降伏の隙を狙って、ロシアは日ソ中立条約を放棄しました。千島列島と北方四島を次々と侵略します。
引用:北方領土の歴史 北海道庁
戦後のサンフランシスコ平和条約で日本は千島列島と樺太の南半分を放棄し、千島列島と樺太の南はどこの国にも属さない土地となりましたが、サンフランシスコ平和条約にロシアが参加していなかったこともあり、現在まで北方領土でのロシアの実効支配が続いています。
北方領土問題がロシアの千島列島の上陸にはじまり、もともと北方四島は日本の領土であったことから、日本は第二次世界大戦中に奇襲を受け、宣言・条約に違反し侵略した北方領土の返還をロシアに求めています。
5、世界の領土問題
領土問題を抱えているのは日本だけではありません。
深刻なカシミール地方とパレスチナ地方の領土問題をご紹介します。
(1)カシミール地方
カシミール地方はインドとパキスタンが領有権を争っている地域で、その背景には宗教問題が絡んでいます。
引用:わかる!国際情勢 外務省
1947年イギリスの植民地であったインド帝国はインドとパキスタンとして独立(インド・パキスタン分離独立)しました。
その独立に伴い、カシミール地方ではインドに帰属したいヒンズー教徒とパキスタンに帰属したいイスラム教徒の衝突が発生します。
カシミール紛争と呼ばれる両者の衝突は、第1次印パ戦争が第3次まで続き、パキスタンの一部からバングラディッシュが国家として独立することにもなりました。
引用:わかる!国際情勢 外務省
カシミール地方の争いは現在まで続き、中国が関与し始めたことで問題は更に複雑化しました。
インドとパキスタンの両国が核兵器を保有していることから核戦争への発展も恐れられています。
(2)パレスチナ地方
パレスチナにはエルサレムという
- キリスト教
- ユダヤ教
- イスラム教
それぞれの共通の聖地があり、このパレスチナの土地をめぐって、イスラム教を信仰するパレスチナとユダヤ教を信仰するイスラエルが領有権を争っています。
パレスチナをめぐる歴史を見てみましょう。
パレスチナの土地には紀元前にユダヤ教徒が住んでいましたが、ローマ帝国が侵略し、ユダヤ人は世界中に拡散します。
その後、オスマン帝国(イスラム教)がローマ帝国を滅亡させ、パレスチナはオスマン帝国の支配下に置かれました。
一方、世界中で迫害を受けていたユダヤ教徒たちは故郷パレスチナでの建国を目指し、パレスチナに集結します。
その後、第一次世界大戦中のイギリスによる「三枚舌外交」で両者の対立は一気に激化しました。
アラブ側とユダヤ側それぞれに国家建設の約束を取り付けたことによって、両者の対立に手が付けられなくなったイギリスは撤退し、ユダヤ側がイスラエルを突如建国したことで、両者の争いは現在まで激しさを増しています。
6、国際司法裁判所の仲介
領土問題は、宗教や歴史的経緯が絡み合う問題のため、紛争を防ぐためには中立な立場で当事者を仲介する存在が必要になります。
その役割を担っているのが「国際司法裁判所」です。
国際司法裁判所は、国際連合の機関のひとつとして国家間の紛争処理を行っています。
たとえば、イギリスとフランスがマンキエ・エクレオ諸島の領有権をめぐって対立した「マンキエ・エクレオ事件」では、両国が領土問題の解決を国際裁判所に付託しました。
それぞれの主張と証拠をもとに裁判が行われ、イギリスが領有権を獲得しています。
まとめ
今回は「領土問題」について解説しました。
日本の領土問題を見てみると、第二次世界大戦後のどさくさに紛れて奪われてしまった領土の回復がキーポイントになっています。
また、国際法では武力行使による征服(領土の拡大)は認められていないので平和的に解決していくことも重要です。
そのため、中立的な立場で領土問題を解決する国際司法裁判所は世界平和に欠かせない存在となっています。