政治ドットコム選挙一票の格差とは?問題点と解決策のアダムス方式を簡単解説

一票の格差とは?問題点と解決策のアダムス方式を簡単解説

投稿日2020.3.4
最終更新日2020.09.25

「一票の格差」とは、地域によって有権者の数に偏りが出るために起こる、選挙での一票の価値に差が生まれることです。

よく聞く言葉ではありますが、正しく意味を理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。

またこれだけでは具体的なイメージがつかないと思われます。

そこで今回は

  • 一票の格差の意味や問題点
  • 改善の手法

などの項目について詳しく解説します。

本記事がお役に立てば幸いです。

1、一票の格差とは

一票の格差

一票の格差(いっぴょうのかくさ)とは、地域によって有権者(選挙権を持つ人のこと)の数が異なることで、一人一人が投じる一票の価値に差が生じることです。

一票の格差が生まれると、有権者数が少ない地域では一票の価値が高くなり、有権者数が多い地域では一票の価値が低くなるという事態が生じます。

1つ具体的な事例を取り扱ってみようと思います。
A市は、家の数が3件ほど、人口は10人程度の本当に小さな町でした。

一方、隣町のB市は、人口が2,000人程度です。
さて、A市とB市で選挙が行われることとなりました。

議員はA市、B市からそれぞれ1名ずつ選出されます。
結果は、以下のようになりました。

A市(有権者数10名) B市(有権者数2,000人)
議員A:5票獲得

議員B:3票獲得

議員C:2票獲得

結果→議員Aが当選者

議員D:1,000票獲得

議員E:600票獲得

議員F:400票獲得

結果→議員Dが当選者

どちらの町でも、過半数の票を獲得した候補者が当選しました。
しかし、どこかおかしいなと思わないでしょうか。

そう、A市で当選した議員Aよりも、B市で落選した議員Eや議員Fのほうが何倍もの票を獲得しているのです。

同じように選挙運動を頑張ってきた議員Eや議員Fがかわいそうだと心情的に感じるかもしれません。

このような事態が起こるのは、有権者一人の一票の価値が異なるためです。

つまり、B市のような人口の多い地区では一票の価値が低く、A市のような人口の少ない地区では一票の価値が高くなるというわけです。

(1)一票の格差を計算

選挙が行われた後のニュースでは「今回の選挙では、〇区と△区で、□倍の格差が生じました」と報道されます。

例えば、2019年7月の参議院選挙では一票の格差が最大で3倍あったとして、有権者が「こんな格差が生じている中での選挙は無効だ!」と訴えを起こしました。

一票の格差が3倍という表現が出てきましたが、この倍率はどのように計算するのでしょうか。

一票の格差は「議員1人あたりの有権者数」を考えれば、求めることができます。計算の式は「有権者数÷議員定数」です。

J地区の有権者数が150人、K地区の有権者数が50人、議員定数はそれぞれの区で一人ずつというケースで考えてみましょう。

J地区 150÷1=150
K地区 50÷1=50


J地区では1人の議員を選出するのに150票が必要ですが、K地区では50票で1人の銀を選出できるのです。

150÷50=3

つまり、K地区の1票はJ地区の3倍の価値を持っているということになります。

この価値を等しくするためにはJ地区の選出議員を3人に増やせばいいのですが、そう単純な話ではありません。

(2)人数を増やしても解決できない

全体の議員数は法律や条例などで定められており、各地域の選出議員数も勝手に変更することができません。

また、人口というのは日々変化するため、その時点では一票の格差が是正されたとしても、時間が経過し人口の増減があるとまた格差が生まれることも考えられます。

投票率との関係もあります。
このように、一票の格差はなかなか難しい問題なのです。

しかし、そもそもなぜ一票の格差が問題になるのでしょう。

2、一票の格差問題点

投票

一票の格差が生じている状況は「不公平だな」と感じるかもしれません。
これは感覚論だけでなく、日本の最高法規(ルール)である憲法に違反しているとの判断が最高裁でなされたケースがあります。

(1)日本国憲法14条1項

「法の下の平等」を記述した憲法14条1項には、以下のように書かれています。

〈すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。〉

この条文は一言でいえば「いかなる事情があっても、国民は平等」という意味です。
一票の格差が生じていると、有権者1人の一票の価値が異なりますから、この条文に違反しているとの判断を最高裁が下したケースがあります(後述)。

(2)政治に与える影響

日本では、法律を成立させるためには国会で話し合う必要があります。
国民主権ですから、私たちの意思を国政に反映することが可能です。

とはいえ、日本国民は1億人以上いるため、全ての声を聞くことはできません。
そこで、選挙で代表者を選び、選ばれた国会議員が国民の意思を反映させる役割を担っているのです。

しかし、一票の格差が生じていると国会議員の選出過程で偏りが生じるため、平等に国民の意思を反映できているとは言えなくなります。

人口の少ない地域の一票の価値が重たくなると先で申し上げましたが、言い換えると「人口の少ない地域の意見が相対的に重みを増す」ということができます。

①意見反映

民意を反映

先の例でいうと、J地区の議員は150人の代表者ですが、K地区の議員は50人の代表者です。
議会で発言できる議員の数はどちらも1人と変わりませんから、人口の少ないK地区の住民のほうがより国政に自らの意見を反映しやすい環境だといえます。

逆に人口の多い地域の有権者からすると、自らの持つ一票の価値が低いため、「自分が行かなくても結果は変わらないだろう」と投票を放棄する人が増える事態も考えられるでしょう。

②マニフェストの偏り

また、人口の少ない地域の多くは、過疎化し高齢者ばかりが住んでいる地域が多いです。

こうした地域で票を集めるためには高齢者から支持を受ける必要があるため、どうしてもお年寄りに優しいマニフェストを公約することになっています。

その結果、お年寄りに有利だが若者には不利な政治が行われてしまう事態につながる可能性があります。

農家などにも同じことはいえますが、地方よりの政治が行われやすくなるのも一票の格差の問題点のひとつです。

このように一票の格差が生じると様々な問題が生じます。
単純に「こんな状態のまま選挙が行われているが、大丈夫なの?」という疑問が生じることでしょう。

もちろん、違憲状態のまま何もせず放置しているわけではありません。
一票の格差をめぐっては多くの訴訟が起きています。

次の章では、これらの訴訟に関し、裁判所がどういった判断を下しているのか見ていきましょう。

3、一票の格差判例

一票の格差判例

「一票の価値に格差があるのは憲法14条に違反する」と主張し、選挙の無効を求める訴訟は各地で起きています。

1976年、最高裁大法廷は最大の格差が5倍であった72年の参院選について、はじめて「違憲状態」との判断を示しました。

法を司る裁判所が、憲法が定める法の下の平等は一票の価値が等しくなることも求めていると判示したのです。

(1)憲法違反について

しかし、最高裁判所が下した判断はあくまでも「憲法に反している状態」だと認めたのみで、選挙の無効まで認めるものではありません。

選挙が無効となると格差が生じた地域だけでなく、日本全国で行われたその選挙自体が無効となってしまいます。

そのため新たに選挙をやり直す必要に迫られますが、選挙をするには多額の費用がかかりますし、再度の選挙が実施されるまでの期間は無政府状態に陥ります。

これは政治の大混乱を招くため、裁判所は選挙の無効までは命じていないのです。
「じゃあせっかく主張が認められても効果がないのでは?」と思いますよね。

そんなことはありません。裁判所は違憲状態と判示することで、国会にこの状態の是正を求めているのです。

(2)違憲状態の判断根拠

1976年の最高裁の判断では「地域事情などを考慮しても格差が大きくなり、一定期間を越えてもその格差が是正されない場合、違憲となる」という違憲状態の判断根拠も合わせて示しました。

つまり「時間をある程度与えるから、違憲状態を解消するようにしてね」と裁判所はお願いしているわけです。

国会はそのお願いに応じ、有権者が少ない地区を統合したり、有権者が多い地区を分割したりと対策を施してきました。

その努力により一定の格差是正は実現しましたが、まだ完全な平等は達成できていません。
その後も選挙のたびに各地で違憲訴訟が起こり、裁判所が違憲状態の判決を出すという流れが繰り返されています。

国会の消極的な姿勢に業を煮やした裁判所が、違憲の基準を厳しくしたこともありました。
最大格差が2.3倍だった選挙を違憲と判示したのです。

それまでの傾向では「格差が3倍を下回れば裁判所もおおめに見てくれるだろう」と考えられていましたから、衝撃を与える判決となりました。

憲法が定める法の下の平等に反する状態を解消するためには、今までとは違う抜本的な対策を取る必要があります。

4、地区の統合や分割の問題点も

地区の統合や分割が一定の効果を上げたと申し上げましたが、これらの方法には問題点もあります。

例えば、地区の統合をしてしまうと、とても大きな選挙区ができてしまいます。
こうなると候補者が全ての選挙区を回りきることができないという事態が起こり得ます。

また、地区の分割では有権者の数が多い都市部が分けられることとなります。
そうなると都市部から選出された議員が増えてしまい、地方の声が政治に適切に反映されなくなってしまいます。

そもそも選挙区の変更とは、線引きを変えればいいという単純なものではありません。
有権者からみるとこれまでと違う選挙区で投票することを意味します。

これは学校に例えると、「学区の線引きが変わったので来月から別の学校に通ってください」と言われるようなものです。

また、候補者から見ると、それまで良い関係を保ってきた地元の人たちの票を得られなくなることを意味します。

誰に投票するかというのは、長年の地道な選挙活動に左右されるところもあります。
新たな選挙区ではじめから選挙活動をやり直さなければいけなくなるので、これまでの努力が水の泡になってしまうわけです。

このように、選挙区の区割りを変更するという方法はデメリットも多く存在します。
選挙制度の改革などの抜本的な対策を講じる必要があるといえるでしょう。

5、一票の格差解決策|アダムス方式に期待

アダムス方式

現在の選挙制度では、人口に関わらず、まず全ての都道府県に1議席を配分する「1人別枠方式」を採用しています。

この1人別枠方式が「格差がなかなか縮小しない原因なのでは」という指摘を、裁判所は国会に対し行ったこともあります。

そこで、格差を是正するための解決策として期待されているのが「アダムス方式」という議席の分配法です。

アダムス方式では各都道府県の人口に応じて議席が分配されます。
各都道府県に無条件で分配されていた1議席が無くなるわけです。

そのため、より人口比を反映しやすくなるというメリットがあります。
アダムス方式による選挙が実施されるのは、2020年の国勢調査を踏まえ、2022年以降の選挙からだとされています。

2016年の公職選挙法の改正によりアダムス方式の導入は決まったのですが、2017年の衆議院選挙や2019年の参議院選挙では小規模の是正にとどまりました。

2017年の衆院議員選挙では最大格差が1.98倍とついに2倍を下回りました。

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まとめ

今回は投票の価値の格差に関して説明し、問題点や解決策など紹介してきました。

一人一人の投票価値に差が出てしまうのは大変残念なことですが、日本の政治一般をよりよくしていくためにやはり選挙は重要です。

やはりこの問題は解決されるべき政策課題と言え、選挙改革が必要になっています。
そのためにもこれまで以上に国民が政治に関心を持ち、監視によって政治と政治家を国民審査していくことが重要です。