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WTO(世界貿易機関)とは?目的やGATTとの違いをわかりやすく解説

投稿日2022.12.16
最終更新日2022.12.16

WTOについてよくニュースで耳にするけど、どのような組織なのかよく分からない方も多いのではないでしょうか。

今回はWTOについて、以下の点を詳しく解説します。

  • WTOの目的と取り組み
  • WTOとGATTの違い
  • ドーハラウンドとは

この記事を読んで世界経済に関するニュースを理解できるようにしましょう。

1、WTO(世界貿易機関)とは?

WTO(World Trade Organization)とは、貿易に関するさまざまな国際ルールを定めている国際機関のことです。

従来のGATT(General Agreement on Tariffs and Trade)に代わり1995年1月1日に設立されました。

本部はスイス・ジュネーブにあり、160を超える国・地域が加盟しています。

(1)WTOの目的と取り組み

WTOの目的は世界各国が「自由に」モノやサービスなどの貿易ができるようにするために国際的なルールを定めることです。

自由貿易の実現に向かうようになった要因は、第二次世界大戦の引き金となった「ブロック経済」にあります。

ブロック経済とは?
世界恐慌に直面した帝国主義諸国がとった自衛策のことです。
有力国が自由貿易から保護貿易*に転じ、それぞれが市場・原料供給地などを囲い込む閉鎖的な経済圏を設けました。

*自国の産業を保護するため外国からの輸入品に高関税を掛けたり数量制限をする貿易政策のこと。

 

ブロック経済をしたことで戦争に発展してしまった過去の反省を生かして、自由貿易を世界的に推進するようになりました。

WTOは主に以下のような取り組みをしています。

・既存の貿易ルールの強化
・新しい分野のルール策定
・紛争解決手続の強化
・諸協定の統一的な運用の確保

いずれも貿易の障壁を削減し、より各国が自由に貿易ができるようにするための取り組みとなっています。

(2)WTOの基本原則

WTOには主に4つの基本原則があります。

以下の基本原則は、無差別で透明性の高い貿易の実現や、開発が遅れている開発途上国のための規定です。

①最恵国待遇原則

特定の国に対して、貿易に有利な条件を適用する場合は、WTOに加盟しているすべての国に適用しなければならないという原則です。

ただし、一般特恵関税制度(GSP)や経済連携協定(EPA)などは例外として扱われます。

②内国民待遇原則

輸入品に国内の税金や法令を適用するときには、国内産の製品と同じように適用しなければならないという原則です。

③数量制限の一般的廃止の原則

加盟国は関税や課徴金*以外の方法で、輸入を禁止したり数量を制限したりすることをしてはならないという原則です。

*違反事業者等に対して課す金銭的不利益のこと

輸入の数量制限などは国内産業保護の度合いが強く、自由貿易を歪める可能性があるため数量制限はしないように定められています。

④関税にかかる原則

合法的な国内産業保護の手段として、関税は認められるが、互いの利益を与え合う協力関係のもと、関税の減少を図りましょうという原則です。

(3)WTOの加盟国

WTOの加盟国・地域は以下の164か国・地域です。(2022年12月14日現在)

①アジア地域

インド、インドネシア、カンボジア、シンガポール、スリランカ、タイ、台湾、大韓民国、中華人民共和国、日本、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、香港、マカオ、マレーシア、ミャンマー、モルディブ、モンゴル、ラオス

②北米地域

アメリカ合衆国、カナダ

③中南米地域

アルゼンチン、アンティグア・バーブーダ、ベネズエラ、ウルグアイ、エクアドル、エルサルバドル、ガイアナ、キューバ、グアテマラ、グレナダ、コスタリカ、コロンビア、ジャマイカ、スリナム、セントクリストファー・ネーヴィス、セントビンセントおよびグレナディーン諸島、セントルシア、チリ、ドミニカ、ドミニカ共和国、トリニダード・トバゴ、ニカラグア、ハイチ、パナマ、パラグアイ、バルバドス、ブラジル、ベリーズ、ペルー、ボリビア、ホンジュラス、メキシコ

④欧州地域(NIS諸国を含む)

アイスランド、アイルランド、アルバニア、アルメニア、欧州連合(EU)、イタリア、ウクライナ、英国、エストニア、オーストリア、オランダ、カザフスタン、北マケドニア、キプロス、ギリシャ、キルギス、クロアチア、ジョージア、スイス、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、タジキスタン、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、モルドバ、モンテネグロ、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルーマニア、ルクセンブルク、ロシア

⑤大洋州地域

オーストラリア、サモア、ソロモン、トンガ、ニュージーランド、バヌアツ、パプアニューギニア、フィジー

⑥中東地域

アフガニスタン、アラブ首長国連邦、イエメン、イスラエル、オマーン、カタール、クウェート、サウジアラビア、トルコ、バーレーン、ヨルダン

⑦アフリカ地域

アンゴラ、ウガンダ、エジプト、エスワティニ、ガーナ、カーボヴェルデ、ガボン、カメルーン、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、ケニア、コートジボワール、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ザンビア、シエラレオネ、ジブチ、ジンバブエ、セネガル、セーシェル、コートジボワール、タンザニア、チャド、中央アフリカ共和国、チュニジア、トーゴ、ナイジェリア、ナミビア、ニジェール、ブルキナファソ、ブルンジ、ベナン、ボツワナ、マダガスカル、マラウイ、マリ、南アフリカ共和国、モザンビーク、モーリシャス、モーリタニア、モロッコ、リベリア、ルワンダ、レソト

参照:外務省

2、WTOとGATTの違い

GATTとは、WTOが設立する前の貿易に関する一般協定のことです。
つまり、GATTが発展してWTOになったということです。

WTOとGATTには主に以下のような違いがあります。

GATT WTO
組織体制 一般協定 国際機関
貿易対象 物品のみ 金融やサービス知的財産権も含む
貿易紛争の解決方法 コンセンサス方式 ネガティブ・コンセンサス方式

3、WTO協定とは

WTO協定とは、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称:WTO設立協定)とその附属書を含めた協定のことです。

WTOに加盟するには、WTO設立協定と付属書1~3の全てを受諾する必要があります。

WTO協定の全体像は以下の通りです。

WTO設立協定

付属書1
(1)付属書1A:物品の貿易に関する多角的協定
(A)1994年の関税及び貿易に関する一般協定
(B)農業に関する協定
(C)衛生植物検疫措置の適用に関する協定
(D)繊維及び繊維製品に関する協定
(E)貿易の技術的障害に関する協定
(F)貿易に関連する投資措置に関する協定
(G)1994年の関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定
(H)1994年の関税及び貿易に関する一般協定7条の実施に関する協定
(I)船積み前検査に関する協定
(J)原産地規則に関する協定
(K)輸入許可手続に関する協定
(L)補助金及び相殺措置に関する協定
(M)セーフガードに関する協定
(N)貿易の円滑化に関する協定
(2)付属書1B:サービスの貿易に関する一般協定
(3)付属書1C:知的所有権の貿易関連の側面に関する協定
付属書2:紛争解決に係る規則及び手続に関する了解
付属書3:貿易政策検討制度
付属書4:複数国間貿易協定
(A)民間航空機貿易に関する協定
(B)政府調達に関する協定
(C)国際酪農品協定(1997年末に終了)
(D)国際牛肉協定(1997年末に終了)

引用:外務省

4、ドーハ・ラウンドとは|交渉が難航している理由は?

(1)ドーハラウンドとは

ドーハラウンド(ドーハ・開発・アジェンダ)とは、WTO加盟国が参加する関税削減・撤廃などを話し合う交渉のことです。2001年にカタールの首都ドーハで開始されました。

しかし、先進国と新興国の利害が対立しているため、交渉が難航しているのが現状です。

(2)ドーハ・ラウンドが難航している理由と解決策

ドーハ・ラウンドが難航している理由は主に以下の2点です。

  • WTOに164もの多様な国と地域が加盟している
  • 議決される形式にネガティブ・コンセンサス方式*を採用している

*ネガティブ・コンセンサス方式とは、決定案に対して、全加盟国が異議を唱えない限り採択される方式のことです。

開発途上国と先進国を含む164か国が、決定案に対して異議を唱えないという状況は、実現が難しく意思決定が進んでいません。

このままでは成果が上げられないことから、特定の国・地域の間で締結する、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を例外的に認めて、貿易を推進するようになりました。

FTA・EPAとは?
FTA(自由貿易協定)とは、特定の国・地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁を削減・撤廃することを目的とする協定です。
FTAを締結すると、無税で輸出入ができるようになり、相手国の製品を消費者が安く手に入れられるといったメリットがあります。EPA(経済連携協定)とは、FTAの関税の撤廃・削減に加えて、知的財産の保護や投資ルールの整備なども含める協定のことです。

 

まとめ

WTOは世界各国の貿易を自由にするために、貿易障壁を削減する様々な取り組みをしています。

最近では地域でまとまって交渉するTPP(環太平洋経済連携協定)などの動きも出てきています。
貿易協定は私たちの消費にも関わるため、これを機に関心を持っていただけると幸いです。

TPPに関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。

TPPとは?メリットやデメリット|国内産業への影響について解説

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