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道州制とは?新しい行政区画案や課題について簡単解説

投稿日2021.3.17
最終更新日2021.03.17

道州制とは、新しい行政区画の考え方です。日本の行政区画は現状、

  • 「1国」
  • 「47都道府県」
  • 「多数の市区町村」

となっています。

これを

  • 「1国」
  • 「9道州」
  • 「多数の市区町村」

にするのが、道州制案です。

道州の数は9が11になったり、13になったりすることがあります。
つまり道州制は、47の都と道と府と県を再編して、9~13の道と州にする一大行政改革といえます。

北海道は道州制になっても「道」のままで、他の区画は「州」になります。

道州制は「理想の行政区画」「合理的かつ効率的な行政スタイル」といわれながら、なかなか実現しません。
なぜでしょうか?

そこでこの記事では、

  • 道州制の考え方
  • 道州制のメリット
  • デメリット

について解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。

1、道州制とは


道州制の概念は複雑で、なかなか一言で言い表しにくいのですが、あえて短い文章で説明すると「アメリカの州制度のようなもの」となるでしょう。

アメリカの50の州は、それぞれがまるで一国のように独立しています。
州ごとに軍や警察があったり、独立した司法制度があったりします。

日本の道州制計画では、そこまでラディカルに変える案は少ないのですが、道州は、今の47都道府県より強い統治力を持ち、より独立的になることは確実です。

(1)なぜ道州制議論は消えないのか

道州制は、長年検討されてきた政治・行政テーマです。

それは、47都道府県制度が明治時代につくられた、古い仕組みだからです。

47都道府県制度は、

  • 首都圏の一極集中
  • 地域間格差
  • 二重行政
  • 三重行政

によるといった弊害も生んでいるという意見もあります。

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(2)「9」「11」「13」理想の数はどれ

道州制論議では、大学の行政学の教授や首長(知事や市区町村長)、国会議員、官僚や行政職員、など行政に関心が高い住民たちがこれまでにいろいろな案を出しています。

そのため「これが道州制」といった、1つの姿はありません。

ただ、道州の数を9または11または13にする案を支持する人が多いようです。
分け方は、大体次のようになります。( )内は、現行の47都道府県です。

9の道州制 11の道州制 13の道州制
1、北海道

(北海道)

1、北海道

(北海道)

1、北海道

(北海道)

2、東北州

(青森県、岩手県、秋田県、山形県、宮城県、福島県)

2、東北州

(青森県、岩手県、秋田県、山形県、宮城県、福島県)

2、北東北州

(青森県、岩手県、秋田県)

3、南東北州

(宮城県、山形県、福島県)

3、北関東信越州

(茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県)

3、北関東州

(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、長野県)

4、北関東州

(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、長野県)

4、南関東州

(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県)

4、南関東州

(千葉県、東京都、神奈川県、山梨県)

5、南関東州

(千葉県、東京都、神奈川県、山梨県)

5、中部州

(富山県、石川県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県)

5、北陸州

(新潟県、富山県、石川県、福井県)

6、北陸州

(新潟県、富山県、石川県、福井県)

6、東海州

(岐阜県、静岡県、愛知県、三重県)

7、東海州

(岐阜県、静岡県、愛知県、三重県)

6、近畿州

(福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)

7、近畿州

(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)

8、近畿州

(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)

7、中国・四国州

(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県)

8、中国州

(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)

9、中国州

(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)

9、四国州

(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)

10、四国州

(徳島県、香川県、愛媛県、高知県)

8、九州

(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県)

10、九州

(福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県)

11、北九州

(福岡県、佐賀県、長崎県、大分県)

12、南九州

(熊本県、宮崎県、鹿児島県)

9、沖縄州

(沖縄県)

11、沖縄州

(沖縄県)

13、沖縄州

(沖縄県)

北海道と沖縄県は、9、11、13のいずれの案でも単独で道州になります。
関東を2つに割ることも、3案に共通しています。

東北、中国・四国、九州をどのようにわけるかが、大きなポイントになっています。

2、道州制になるとどうなるか

道州制にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

(1)道州制のメリット

道州制のメリットは、行政と経済を効率化、合理化できることです。

例えば道路の除雪作業では、国の除雪車は国道しか除雪せず、県の除雪車は県道しか除雪せず、市の除雪車は市道しか除雪しない、といった非効率さが問題になることがあります。

しかし、国、県、市にはそれぞれ除雪作業用の予算が決まっているので「ついでだから、よその道路を除雪しておいてあげよう」といった親切心を働かせることができません。

除雪作業の無駄は、道州制議論ではよく登場します。
これは一例にすぎず、隣り合う2つの県で、似た行政をしていることは珍しくありません。

道州制になれば、二重行政・三重行政は解消できるかもしれません。

首都圏の一極集中も、道州制によって緩和できるでしょう。

もし道州制が実現すれば、学問と研究の街である京都府や大阪府がある近畿州に文部科学省を移すことができるかもしれません。

農林水産省を北海道に置いてもよいかもしれません。

中部州や東海州には、自動車とバイクの街である愛知、静岡、三重の3県が含まれるので、ここに国土交通省を置いてもよいかもしれません。

愛知県はさらに、リニアモーターカーの始発駅にもなっているので、21世紀の公共交通網を考える場所として相応しいと考えることも可能です。

道州内の企業や市区町村が一致団結すれば、大きな経済圏を形成することができます。1つの州のGDPは、ヨーロッパやアジアの一国分に匹敵するようになります。

そうなれば、二重経済・三重経済を解消できるようになるかもしれません。

例えば京都府と奈良県は、いずれも古都観光に力を入れています。これを一体化できれば、シームレスな広域古都観光ビジネスを展開できるでしょう。

(2)デメリット

道州制のデメリットは、「調整が大変」の一言に尽きるかもしれません。

①地理的繋がり

道州制への反対意見のなかに、効率化や経済合理性を優先して、地理的・文化的なつながりを無視してよいのか、というものがあります。

例えば、関東を北と南にわける案が有力ですが、埼玉県は東京都とわかれてしまいます。
埼玉県は今、東京都のベッドタウンとなっていて、両者の結束は強いといえ、道州制はそれを割くことになります。

北海道は9、11、13のすべての案で単独になっていますが、北海道の函館市は、同じ北海道内の釧路市より、他県の青森県とのつながりが強いという特徴があります。

函館市と青森県は、道州制によって分断されてしまうかもしれません。

②地域格差の拡大

また、弱者連合と強者連合ができて、地域格差がより鮮明になるという意見もあります。
東京都と神奈川県はどちらも経済的に強い地域ですが、9案でも11案でも13案でも、同じグループに入っています。

近畿でも、関西最大の経済都市、大阪府と、日本最強の観光地、京都府が一緒になっています。

一方、東北6県は1つにまとまるか、2つにわかられるかの選択になっています。13案の南九州と沖縄州は、相対的にかなり小規模になるので、スケールメリットを活かすことは難しいでしょう。

国民や住民にとって道州制は、未知のものであり、新しい環境をつくることであり、現状が壊される懸念があるもの、ではないでしょうか。

都道府県民の感情や地域経済の利害関係を調整して、道州制を導入することは簡単な作業ではありません。

③委譲する権限の範囲

道州にどこまで権限を委譲するか、という問題もあります。

外交や安全保障については、これまでとおり国に一任するとしても、教育、インフラ整備、経済規制、警察行政などで、道州に独自性を持たせてよいものかどうか、議論しなければなりません。

ここでも調整が課題になります。

3、道州制特区

実は道州制は小規模ながら始まりを見せています。
それは、北海道の「道州制特区」です。道州制特区推進法という法律も、2006年に成立しています。

道州制特区が北海道に適用されたのは、北海道は現行の47都道府県制度でも道州制でも単独の行政区画なので、道州制を試しやすいからです。

北海道はこの仕組みを使って、次の内容を国に求めてきました。

  • 生活や経済に関わる規制緩和と権限委譲(福祉、環境、観光など51項目)
  • 国の出先機関と道の組織との統合
  • 法令面での地域主権の推進

道州制特区の取り組みはすでに次のような成果が出ています。

  • 自治体病院の広域再編が進めやすくなった
  • 空港における入国審査の手続きが速くなった
  • NPOが過疎地でバスやタクシーの事業を運営できるようになった
  • 除雪作業で国、道、市町村が連携することになった

道州制特区の場合、地域のつながりや地域の分断を考慮する必要がないので、道州制のメリットが発揮できているようです。

4、道州制の課題

道州制の実現は難しいといわざるを得ないでしょう。
1990年代から議論され、盛り上がったり忘れ去られたり、を繰り返しています。

道州制の必要性が、明治時代からある制度の劣化だとしたら、道州制の実現を難しくしているのは、明治時代からある47都道府県制度への住民たちの愛着とも言えるでしょう。

大阪府民と京都府民のなかには、「近畿州ができてしまったら、大阪と京都という名称が消えてしまうのか」と不安になっている人がいるのではないでしょうか。

また、効率化や合理化は、無駄を省くことで実現できますが、47都道府県制度には膨大な数の既得権や利権が存在します。

そのなかから無駄をあぶり出すことは、大論争の引き金になりかねません。

道州制実現の最大のネックは、「47都道府県制度のどこが悪いのか」という意見が根強いことです。

「駄目なもの」と「よいもの」の選択は簡単ですが、「普通のもの」と「よりよいもの」の選択は簡単ではありません。

今より少しよい状態にするために、多くの労力をかけるくらいなら、「普通のままでよい」という気持ちになる人は少なくないはずです。

道州制導入は、生活にも経済にも健康にも関わる事業なので、国民や都道府県民の多くが納得して実現することが望ましいといえます。「普通のままでよい」「47都道府県で不便はない」という人が多いと、なかなか実施できません。

まとめ

道州制は合理的・効率的な行政スタイルですが、実現までの道のりはまだ長いでしょう。
しかしそれでも、道州制の議論をやめる必要はありません。

なぜなら、道州制について考えることは、現状の行政制度を考えることに他ならないからです。

例えば、「道州制にすれば、こんなことができる」ということがわかったら、現行の47都道府県制度のなかで実現できないか検討することができます。

道州制を考えることは、行政を前進させることでもあります。

 

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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