「東京一極集中」とは、政治・経済など国の高次中枢機能の大部分が日本の首都である東京に集中する現象です。
今回は東京一極集中について、以下のとおり解説していきます。
- 東京一極集中とは何か
- 一極集中の要因
- 一極集中のメリットとデメリット
- 一極集中の解決策
1、東京一極集中とは?
日本の「人・モノ・お金」が極端に首都東京に集まる現象を「東京一極集中」と呼びます。
首都であるゆえ必然とも言えますが、あまりにも集中しすぎなのでは?と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
都心三区(港区、中央区、千代田区)には
- 政治(国会)
- 経済(多くの上場企業など)
- 情報(マスメディアの集中)
- 教育(プログラミングなどの先端教育)
- 文化(芸能など)
など、あらゆる分野における高い水準の機能が集中しています。
その影響もあって、東京はGDP(国内総生産)の約2割を占めているのです。
2、一極集中の動向
今や、国土面積のたった0.6%に過ぎない東京に1400万人が住んでいます。3.6%の東京圏(1都3県)まで広げて考えると、3600万人も住んでいる計算です。
実は、このような状況に至るまでに3度、地方から大都市(特に東京圏)への大きな人口移動がありました。
この第一次〜第三次にわたる人口移動期について詳しく見ていきましょう。
(1)第一次人口移動期
第一次人口移動期は1960~1973年です。
高度経済成長期のピークにあたり、1962年には38万人以上が東京へ移動しました。
その後オイルショック(原油価格高騰による世界的な経済的混乱)が要因となり、人口増加は少し緩和しました。
(2)第二次人口移動期
第二次人口移動期は1980〜1990年代です。
バブル期(実際の経済状況から離れて資産価値が増大した期間)のピークにあたり、1987年に約16万人が東京に移動しました。
その後バブルの崩壊と共に、人口増加は緩和しています。
(3)第三次人口移動期
第三次人口移動期は2000年以降になります。
リーマンショック以前の2007年には約15万人が東京に移動しました。2011年の東日本大震災後にも6万人以上が移動しています。
結果として約半世紀にわたり、東京への人口移動が進んでいるのです。
3、一極集中の要因について
このような一極集中の要因は何なのでしょうか?
ここからは東京一極集中の要因を大きく3つに分けてご紹介します。
(1)経済的要因
まず最初に企業活動において一極集中の「経済的メリット」が大きいことがあげられます。
東京には沢山の人やモノが集まり、大きな規模の利益が働きます。
人口の集中する首都東京において、生産物を集中的・大量生産した方が、生産物一単位当たりの固定費用(商品をつくり出す際の様々なコストのこと)は減少するメリットがあります。
また、範囲という観点も重要です。
複数の物やサービスに発生する
- 物流
- 管理
- 取引コスト
などの共通費用があるならば、一定の範囲内に集中させたほうがコスト削減することができるのです。
そして、コストの削減は複数の企業間においても同様です。
メールではなく、直接対面によるコミュニケーションが必要な状況であれば、企業同士が近い場所にオフィスを構えたいと考えるのです。
結果として東京には大きな企業の本社が多く存在しています。テレワーク導入がかなり増えたとはいえ、日本はまだまだ“対面型セールス”が好まれる傾向にあります。
また、有名大学も東京へ集中しているため、人材集めという点でも、企業にとって東京以外の選択肢が考えづらい状況になっているのです。
(2)地形要因
第2の要因に、開発余地が大きかった関東平野の存在があげられます。1960年代の高度経済成長期、首都圏への一極集中はすでに始まっていました。
その際、広大かつ比較的平坦で、人が住むことも問題がない「関東平野」が開発余地を残していたため、人口移動に耐えることができたのです。
多摩地区には、雑木林や荒れ地が至る所に見られるほど、土地開発に余裕があったと言われています。
一方で、狭い平野を山地や丘陵に囲まれた京阪神圏は、当時すでに土地開発に余裕がなくなっていました。
本来は居住に適さない丘陵地帯を無理に切り開いたり、市街地では地下にスペースを求めて開発を進めていたそうです。
意外に思われるかもしれませんが、地形的な要因も関係しているのです。
(3)政治的要因
第3の要因として、日本では「長期的かつ全国視野の都市計画」がなかったことがあげられます。
中枢機能の地方への一部移転が検討されたこともありますが、現在までに実現していません。
また、小泉純一郎政権による「地方にできることは地方で」というスローガンで行われた三位一体改革においても、東京を含む大都市圏とそれ以外の地方都市において、差がついてしまったと言われています。
中央省庁の主導する政策での一極集中や、国立施設の一極集中も指摘されています。
たとえば、新国立劇場の建設に当たっては、東京には既に国立劇場が運営されており、地方につくるという意見もありました。しかし結果として東京渋谷区に建設されました。
参考:新国立劇場ホームページ
4、一極集中のメリット・デメリット
(1)メリット
江戸幕府の開府から400年以上、日本の中心で首都機能を有した東京。そのブランド力はとても高いです。
東京にオフィスを構える企業や各種団体には世界的にもポジティブなイメージがもたらされ、都心に事務所や店を出すことはある種ステータスとなっています。
また、一極集中の結果として、東京には大規模市場が生まれています。都民だけで1000万人規模、東京圏民で2000〜3000万人規模の巨大な買い物市場が形成されています。
その結果、あらゆる商品、あらゆる品数が揃う環境になっています。
あわせて、労働市場という観点でも優秀な人材を得やすい環境です。東京では日本全体の大学生の4割が学び、就職時には若者の7割が東京の地で職を求めています。
(2)デメリット
今、東京で大地震やテロが起きたらどうなるでしょうか。
東日本大震災の際も日本の首都機能は大混乱に陥りましたが、更に大きな被害が出てしまうことは想像に難くありません。
過剰に東京へ機能が集中した結果、地震や洪水などの自然災害や、テロや戦争などの大規模な事態が発生すると、日本の首都機能が破壊・停止される危険性が高まっているのです。
また、新型コロナウイルスによって、慢性的な通勤ラッシュなどの過密性の問題もあらためて浮き彫りになりました。
さらに、東京を含む都市圏以外の過疎化に拍車がかかっています。東京の利便性が加速することにより、地方都市との格差が開いているのです。
資産格差についても、求人率や最低賃金の格差が浮き彫りになっている現実があります。
5、東京一極集中解決策
(1)中枢中核都市
東京だけではなく、いかに地域経済を活性化するかが重要となります。
そのため、国は2018年に、東京一極集中を是正する施策の一環として「中枢中核都市」を選定しました。
経済活動や住民生活などで活力ある地域社会を生み出すことが目的です。また指定した都市だけではなく、周辺自治体も含めた圏域全体を活性化させる狙いがあります。
この活性化とはわかりやすく言えば人が集まり、商業施設にお金が落とされ、地域経済が発展することなどが一例として挙げられます。
具体的には政令指定都市の
- 札幌
- 富山
- 水戸
- 津
- 高岡
などの82市が選ばれました。
これらの市は魅力の度合いを高め、東京圏への人口流出を抑止する役割を担うことになります。
具体的には、以下のような活動を行います。
- 産業活動の発展のための環境整備
- 広域的な事業活動、住民生活等の基盤づくり
- 国際的な投資の受入環境整備
- 都市の集積性・自立性等の要件を備えること
(2)道州制の採用
「道州制」の採用によっても、東京から人を減らせるという意見もあります。道州制とは、簡単に言うと「新しい行政区画の考え方」です。
日本の行政区画は現状、「1国」「47都道府県」「多数の市区町村」です。これを「1国」「9道州」「多数の市区町村」とするのが、道州制案です。
道州制の採用によって、例えば財務省や厚生労働省などの省庁の「本社」を地方に移動しやすくなるのです。
都道府県ごとの区切りがなくなるので、学問と研究の街である京都府や大阪府がある近畿州に文部科学省を移しても問題はないかもしれません。
例えば農林水産省を北海道に置いた場合、本社機能の地方移転化が進めば、結果として人口の移動も活発になるかもしれません。
道州制について、詳しくはこちらの記事で解説しています。
道州制とは?新しい行政区画案や課題について簡単解説
(3)交通料金を安くする
交通料金が安くなれば、地方から都市への通勤がしやすくなります。過密かつ地価が高い都会に無理に住む必要がなくなり、地方移住が増えるかもしれません。
現在は「首都圏」という考え方は遠くても茨城や静岡あたりと考えられますが、それを宮城や新潟まで広げることも可能になるかもしれません。
移動手段の利便性向上によっても、一極集中が是正されると考えられます。
まとめ
一極集中によって、東京という首都の世界的なブランド力の強化や、大規模市場の誕生など大きなメリットはあるものの、地方との格差という点では課題が残っています。
東京が生み出した私たちの暮らしにとって便利な部分を享受しつつ、地方での暮らしも、より豊かにする方法を見つけていくことが求められています。
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