タックスヘイブンとは税の楽園とも呼ばれ、税金がかからない国や地域を指します。
2015年のパナマ文書の流出で各界の著名人がタックスヘイブンを利用していることが判明し、スキャンダルにもなりました。
ちなみに「タックスヘイブンは違法か?」といわれれば、違法ではありません。
今回は、世界から注目を集めるタックスヘイブンについて分かりやすく簡単に解説していきたいと思います。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、タックスヘイブンとは
タックスヘイブンは「税の楽園」と呼ばれることが多いものの、英語ではTax Havenと表記されます。
Heaven(天国)ではなくHaven(避難所)なので直訳は「税の避難所」という意味になり、日本語では租税回避地、低課税地域とも言われます。
タックスヘイブンに明確な定義はなく
- 課税率が非常に低い
- 外国籍の個人または法人に対して税の優遇を設けている
- 富裕層と外資企業を低課税によって誘致することで経済を維持している
などが特徴して挙げられます。
タックスヘイブンは
- イギリス領のバージン諸島、ケイマン諸島、ジャージー島
- オランダ
- ルクセンブルク
- アメリカのデラウェア州
- パナマ
- コスタリカ
- スイス
などさまざまな国に点在し、そこでは主に以下の4つの税優遇を受けることができます。
- 無税、所得税がない、租税条約(税金に関する他国との取り決め)を締結していない(通称 タックスパラダイス)
- 特定の事業を行う企業に税の優遇措置を行っている(通称 タックスリゾート)
- 国外の所得に課税をしない(通称 タックスシェルター)
- 租税条約を締結しつつも、税率が非常に低く、配当に対して源泉課税がされない
これらの条件を見てもあまりピンと来ない人もいるかもしれませんが、タックスヘイブンを利用すれば税負担をかなり軽減することが可能です。
タックスヘイブンの外で稼いだお金についても税の優遇措置を適用することができます。
そもそも「税金」とは国を維持するために欠かせないものですが、タックスヘイブンでは戦略的に税金を安くすることで裕福層を呼び込み、地域経済を活性化させる目的があります。
実際にタックスヘイブンに移住する富裕層は多いですが、タックスヘイブンに「移住」はせず、「経由」をすることによって税金を安く納める場合が多いです。
例えば、会社の子会社をタックスヘイブンに設立し、その子会社に売上を全て移動させてしまえば法人税の節税を行うことができます。
こうした子会社のことを「ペーパーカンパニー」といい、実際にiPhoneで有名なアップルやグーグルもタックスヘイブンにペーパーカンパニーを持っていることが判明しています。
参考:米グーグル、17年に租税回避地バミューダに230億ドル移転 ロイター
Apple、タックスヘイブンをジャージーに変更 TechCrunch Japan
2、タックスヘイブンのメリットとデメリット
大企業や裕福層に重宝されているタックスヘイブンですが、2016年の伊勢志摩サミットではタックスヘイブンへの対策が話し合われるなど、国際的に議論を呼んでいるテーマでもあります。
タックスヘイブンのメリットとデメリットを見ていきましょう。
(1)メリット
タックスヘイブンのメリットには
- 税金を抑えることができる
- 会社を簡単かつスピーディーに設立できる
- 資産や個人情報が秘匿される
などがありますが、最大のメリットは「税金を抑えられること」でしょう。
また、タックスヘイブンで人気の節税には法人税が挙げられますが、最近では相続税にも注目が集まっています。
相続税をタックスヘイブンで節税するためには
- タックスヘイブンに移住する
- タックスヘイブンに会社を設立する
- タックスヘイブンの会社を経由して贈与を行う
といった3つの方法がありますが、それぞれに注意点があります。
移住する方法では、贈与者も相続人もタックスヘイブンに10年以上住まなければいけない「10年ルール」を守る必要があります。
また、出国時に1億円以上の有価証券などを保有していると含み益に対して所得税がかかります。
会社を設立する方法では、贈与者の資産をすべてタックスヘイブンに設立した会社に移し、その会社を相続することで、相続税を節税することができます。
ただ、移した資産に相続税はかかりませんが、会社の株式評価額(会社の価格)には相続税がかかります。
最後に会社を経由して贈与を行う方法ですが、贈与された相手には所得税がかかります(ただ、この所得税についても一時所得として計算されるため税金を抑えることができます)。
(2)デメリット
タックスヘイブンのデメリットには
- 違法性はないがグレーゾーンに近い
- 反社会的勢力のマネーロンダリングに利用される可能性がある
- 信頼性が失われる可能性がある
などがあります。
それぞれについて見ていきましょう。
①違法性はないがグレーゾーンに近い
タックスヘイブンの違法性については、その国の法律に基づいて課税が行われているため違法ではないと考えられていますが、国際的に見ても取り締まりは年々強化されています。
2016年京都で開かれたOECD(経済協力開発機構)租税委員会では、各国に対して口座情報を開示するように要求し、その要求に答えなかった国は「悪質」と判断され、ブラックリスト化されることが決まりました。
参考:悪質なタックスヘイブンに包囲網 OECD租税委が開幕 日本経済新聞
②反社会的勢力のマネーロンダリングに利用される可能性がある
タックスヘイブンは、テロや麻薬など反社会的勢力のマネーロンダリングの拠点として利用されてしまうことがあります。
マネーロンダリングとは、犯罪で稼いだお金の足を洗う資金洗浄のことを指します。
複数の口座で送金を繰り返したり、株や債権、美術品などを買うことでお金の出所を分からなくするのです。
タックスヘイブンの特徴として、個人情報の秘匿性が挙げられますが、これはお金の流れを知られたくない人物にはぴったりのメリットとなります。
③信頼性が失われる可能性がある
また、タックスヘイブンの大きなデメリットには社会的な信頼を失う可能性があることも挙げられます。
税金とはその国や地域の利用料のようなもので、医療、道路、警察、福祉、消防などさまざまな公的サービスが税金によって維持されています。
その税金から逃れるということはある種、国や地域への裏切りと考える人も少なくありません。
また、あからさまなタックスヘイブンでの脱法行為は「タックスヘイブン対策税制」が適用され、追加課税が要求される場合もあります。
参考:タックスヘイブン対策税制の規制強化について みずほ銀行
3、パナマ文書
世界の人々にタックスヘイブンの存在を知らしめた「パナマ文書」についてご紹介します。
タックスヘイブンで知られるパナマにある、「法律事務所モサック・フォセンカ」から顧客名簿が流出し、政治家や大手企業、芸能人の名前が含まれていたことでスキャンダルとなりました。
前述のようにタックスヘイブンを利用することは違法ではありませんが、意図的に脱法行為を行うことは犯罪です。
また、その国民の多くが納税している一方で一部の方が税金を逃れれば不平等が生じます。
実際にタックスヘイブンが格差を広げるとして、「21世紀の資本」の著者でもあるトマ・ピケティを含めた多くの学者が、タックスヘイブンに経済的な正当性はないとした公開書簡に賛同を寄せています。
参考:日本税務協会『21世紀の資本』、『21世紀の不平等』等のピケティ旋風
タックスヘイブンでは倫理的な線引きが非常に難しいものの、世界的にビジネスを広げたい人にとって税金を抑えられるメリットは大きいと言えます。
しかし、パナマ文書に挙げられた超裕福層がグレーな方法で税負担を逃れることは批判があることもまた事実です。
まとめ
今回は「タックスヘイブン」について解説しました。
グローバル化が進み、ビジネスの手法も資産運用の方法も世界を舞台にさまざまな選択肢があります。
タックスヘイブンもその1つの選択肢と言えます。
もっとも、パナマ文書の事例でもあるように批判もあり、今後の動向が注目されます。