キャッシュレス化とは、現金以外の方法で支払いをすることです。
今やコンビニやスーパーなど日常の買い物だけではなく、法人間での取引や税金の支払いなどでも使われるようになりました。
決済方法の多様化と共に利用できるシーンが増えたことによって、日常的に利用されている方もいるのではないでしょうか。
また、2018年4月には経済産業省が「キャッシュレスビジョン」を策定しました。日本のキャッシュレス化の方向性や方策案を取りまとめたもので、2025年までにキャッシュレス比率40%を目指しています。
今回は、以下について紹介します。
- キャッシュレスビジョンとは?
- 国がキャッシュレス化を促進する理由
- キャッシュレス化のメリットやデメリット
- キャッシュレスビジョン実現のための具体的取り組み
- キャッシュレスが普及しにくい背景・課題
本記事がお役に立てば幸いです。
1、キャッシュレスビジョンとは?
本項目では
- キャッシュレスの定義
- キャッシュレスビジョンの概要
についてご紹介します。
ここでキャッシュレス化についての基本的な知識を身につけていきましょう。
(1)キャッシュレスの定義
「キャッシュレス(決済)」とは、現金以外で支払いをする決済方法の総称です。
例えば支払いタイミングの違いによって、様々な決済方法があります。
- 前払い(プリペイド):電子マネー
- 即時払い(リアルタイムペイ):デビットカード、モバイルウォレット
- 後払い(ポストペイド):クレジットカード
この他にも、ペイアプリによるQRコードまたはバーコード決済の方法もあります。
これらは各サービスによって前払い、即時払い、後払いに分かれます。
(2)キャッシュレスビジョンの概要
「キャッシュレスビジョン」とは、日本におけるキャッシュレスの現状と、それを踏まえたキャッシュレス化の方向性や方策案を取りまとめたものです。
2018年4月に経済産業省によって策定されました。
日本国内のキャッシュレス比率を、以下のとおり引き上げることを目標にしています。
- 2025年までに:40%
- 将来的に:世界最高水準の80%
画像出典:経済産業省データ・キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識
キャッシュレス決済を日常的に使う人が増えたとはいえ、2015年時点では日本のキャッシュレス決済率は19.8%程度です。
世界最高水準の韓国やイギリスと比較すると、まだまだ普及していない印象を持つのではないでしょうか。
2、国がキャッシュレス化を促進する理由
国はなぜキャッシュレス化を進めているのでしょうか?
ここではその理由についてご紹介します。
(1)企業にも消費者にも便利なため
目的の一つは「効率化」です。
例えば、キャッシュレス化によりセルフレジが普及すれば
- 人件費の削減
- 利用者の時間短縮
につながります。
企業だけでなく、消費者にとっても便利な環境になります。
結果として国民の消費拡大につながる可能性を秘めています。
今後ますます人口減少や少子高齢化が進む日本にとって、経済活動を維持・発展させるための重要な要素となるでしょう。
(2)海外と足並みを揃えるため
海外での利用率の高さも影響しています。
例えば中国やアメリカでのキャッシュレス決済は5割前後、韓国では何と9割以上と言われています。
キャッシュレスに慣れた外国人観光客に「現金決済のみ」と提示してしまうと、ビジネスチャンスを失う可能性があるでしょう。
日本では2021年に開催した東京オリンピック・パラリンピックと、2025年開催予定の大阪万博があり、アフターコロナは訪日外国人がますます増えることが予想されます。
インバウンド(訪日外国人観光客)の面を考えても、キャッシュレス化の促進は急務と言えるでしょう。
3、キャッシュレス化のメリットやデメリット
キャッシュレス化には当然メリットとデメリットが存在します。
詳しく見ていきましょう。
(1)キャッシュレス化のメリット
まずはキャッシュレス化のメリットについてです。
以下の通りに取り上げていきます。
- 業務効率化
- 不正防止や治安向上
- 利便性の向上
- インバウンド(訪日外国人観光客)消費の促進
①業務の効率化、経費削減
繰り返しにはなりますが、効率化は大きなメリットの1つです。
現金を数えたり、銀行に入金したりといった現金管理の業務が効率化されます。
企業で言えば「お金を預けにいく」業務自体がなくなったり、セルフレジの導入によって人件費を削減できたりする可能性があるでしょう。
ゆくゆくはATMが不要になり、ATM設置コスト自体を削減できるかもしれません。
国単位でも、紙幣や硬貨の発行・管理のコストが減ります。
②不正行為防止、および治安向上
現金の流通自体が減ると、犯罪減少も期待できます。
それは現金とは異なり、キャッシュレス決済では使ったお金の流れが必ず記録されています。
お金の流れがすべてわかれば、不正行為の防止につながり、ひいては治安向上につながると言えるでしょう。
③スピーディーな決済、利便性の向上
キャッシュレス決済はとてもスピーディー&利便性が高いです。
まず、レジで紙幣や硬貨を取り出し、おつりを待つ時間はなくなります。
さらに、飲み会での割り勘や社内でのお祝いなど、個人間でのお金のやりとりも現金ではなくアプリで送金可能です。
様々な世代に浸透すれば、新たなコミュニケーションが生まれるかもしれません。
④インバウンド消費の促進
キャッシュレスが当たり前の外国人観光客にとって、現金通貨だけで過ごさなければならないシーンは、買い物や食事にもセーブがかかってしまうものです。
海外旅行に行かれたことのある方は経験があるかと思いますが、訪日観光客にも同じことが言えるでしょう。
キャッシュレスが普及すれば安心してお金を使えるため、インバウンド消費が高まることが予想されます。
(2)キャッシュレス化のデメリット
次は以下の通りに具体的なデメリットについて取り上げます。
- 詐欺被害
- デジタル格差
- 使いすぎる問題
①新たな詐欺の発生
決済アプリによって、簡単に送金できることを悪用した詐欺が発生しています。
例えば外国では、消費者が偽のQRコードで決済することでお金をだまし取る詐欺や、不正に入手したアカウントによる「なりすまし」詐欺が起きています。
個人情報の問題を疑問視して、キャッシュレスに対し抵抗感を持つ人も少なくないでしょう。
②デジタル格差問題
高齢者を中心にデジタルに不慣れな人もいます。
「キャッシュレス決済以外は不可」のお店が増えれば、対応できない人にとっては決済手段に困ってしまうシーンがあるでしょう。
③使いすぎてしまう
現金払いではお金を使った場合に目に見えて減ったことがわかります。
しかしキャッシュレスでは目に見えません。
便利に支払えてしまうからこそ、「今どれくらい使っているのか」の判断が甘くなる可能性があるでしょう。
4、キャッシュレスビジョン実現のための具体的取り組み
2019年10月1日(火)の消費税増税に伴い、経済産業省はキャッシュレス推進のための目玉として「キャッシュレス・消費者還元事業」を実施しました。
増税による消費の落ち込みを抑えると同時に、キャッシュレスの推進を図ることが目的です。
具体的には、2019年10月1日(火)から2020年6月30日(火)までの期間限定で、以下二つの取り組みが行われました。
(1)消費者向け:2%またはポイント還元
画像出典:経済産業省
店舗のエントランスやレジ横などで、このマークを見たことがある方も多いのではないでしょうか。
このマークのある店舗では消費者向けに、キャッシュレスで支払った場合にポイントを還元する取り組みが行われています。
「キャッシュレス・消費者還元事業」の加盟店でキャッシュレス決済をすると、支払った金額の2%または5%がポイントとして還元されるのです。
具体的には以下の通りです。
- 2%還元:コンビニ・外食などのフランチャイズチェーン店、ガソリンスタンドなど
- 5%還元:中小企業・小規模事業者が経営する小売店、飲食店、宿泊施設など
(2)店舗向け:キャッシュレス導入補助
キャッシュレス決済のための端末機器を導入するには、お金がかかります。
そこで、購入サポートのための補助金制度が導入されました。
この制度を利用すると、決済事業者が導入費用の3分の1を、国が3分の2を負担してくれます。
実質的に店舗の導入費用は0円となり、導入しやすくなると言えるでしょう。
ただし、この補助金を利用できるのは、中小・小規模の事業者のみです。
5、キャッシュレスが普及しにくい背景・課題
キャッシュレス化の便利な面をたくさんご紹介してきましたが、現状はなかなか進んでいません。
日本の社会ならではの「キャッシュレスが普及しにくい背景」が課題となっています。
(1)消費者側の課題:現金を好む国民性
以下のとおり、様々な要因から日本人は「現金を好む国民性」があると言われています。
- 治安の良さ:盗難の少ない、現金を落としても返ってくる可能性が高い
- 現金に対する高い信頼性:きれいな紙幣が流通している、偽札の流通が少ない
- 取り扱いの煩雑さの少なさ:現金取り扱い店舗でも、レジの処理が高速かつ正確
- 現金の入手が容易:ATMの利便性が高い
現金を越えるほどの便利さや分かりやすい使用方法が多くの国民に伝わらなければ、利用率を上げることは難しいかもしれません。
(2)店舗側の課題:新たなコストの発生
キャッシュレス決済のための端末機器については、国が導入補助を行っています。
とはいえ、店舗側が負担するコストはそれだけではありません。
「導入」「運用・維持」「資金繰り」の観点でコストが発生してしまいます。
- 現金支払では発生しない、導入・運用・維持にかかるコストの発生
- 紙の売上票(利用控え)などを発行するためのオペレーションコスト
- 資金化までに半月~1か月程度のタイムラグが発生する可能性があること
特に資金繰りの観点においては、店舗の規模が小さくなればなるほど、課題となる可能性が高いでしょう。
タイムラグが発生することによって、別の対応コストが生まれる可能性もあります。
まとめ
今回は、「キャッシュレス化」及び「キャッシュレスビジョン」についてご紹介しました。
キャッシュレス化によって、消費者である私たちの暮らしがより便利になる部分は大きいものの、実現への課題もあります。
消費者側の課題、店舗側の課題と合わせて、国民性も根深く影響しているようです。
東京オリンピックが延期になったとはいえ、アフターコロナでインバウンド事業をあらためて活性化していくためにも、キャッシュレス化は急務です。
キャッシュレスビジョンが目指す「80%のキャッシュレス決済率」に到達するためにも、様々な課題を一つひとつクリアし、より便利な社会を目指したいものですね。
本記事が少しでも、今後の社会への希望となり得る知識になれば幸いです。