
2025年に入り、日米間の通商関係が大きな転換点を迎えています。トランプ米大統領は、自動車や鉄鋼・アルミニウムといった主要品目に対して25%の追加関税、さらには10%の相互関税を課すなど、同盟国である日本に対しても厳しい貿易措置を講じています。
こうした動きを受け、日本政府は関税の包括的な見直しを求め、アメリカとの間で新たな交渉に乗り出しました。この「日米関税交渉」は、経済だけでなく外交・安全保障にも波及する可能性があり、国内外で大きな注目を集めています。
以下では、日米関税交渉に関する主な経緯やこれまでに行われた協議、そして今後の見通しについてわかりやすく解説します。
1. 日米関税交渉の経緯(2025年4月21日現在)
日米間の関税交渉は、2025年2月以降にトランプ米政権が関税政策を積極的に推進し始めたことをきっかけに始まりました。
関税政策は多岐にわたっています。2月10日にはアメリカが輸入する鉄鋼・アルミニウム製品に25%の追加関税を課す大統領令に署名し、3月12日から発動されました。
また、4月2日には、すべての国からの輸入自動車に追加関税を課す方針が正式に表明され、翌3日から25%の自動車関税が上乗せされました。
さらに同日、トランプ米政権は貿易相手国との関税水準を対等にすることを目的とした「相互関税」の導入を指示しました。これにより、全ての国からの輸入品に対し一律10%の追加関税(ベースライン関税)を課すとともに、日本に対しては国・地域別の措置として24%の相互関税を適用すると発表しました。
しかし発表から約半日後、アメリカは関税や非関税障壁、為替操作といった問題の解決策について交渉を申し入れてきた国に対し、報復措置を講じていないことを条件に、相互関税の適用を90日間停止すると発表しました。日本はその対象国に含まれており、24%の相互関税は停止されましたが、10%のベースライン関税は現在も適用が続いています。
2. 日米関税交渉のタイムライン(随時更新)
トランプ米大統領による一連の関税政策に対し、日本政府は追加関税の見直しを求め、アメリカ政府との協議を進めています。
首脳間の電話協議と交渉開始の合意(4月7日)
石破茂首相とトランプ大統領は電話協議を行い、関税交渉の開始に合意しました。両首脳はそれぞれの政府で交渉担当閣僚を指名し、交渉を正式に始めることを確認しました。トランプ政権ではベッセント米財務長官と米通商代表部(USTR)のグリア代表が交渉担当として指名され、日本側の交渉役としては赤沢亮正経済再生担当大臣が任命されました。
初の閣僚級会合(4月16日)
赤沢経済再生担当大臣がワシントンを訪問し、トランプ大統領とホワイトハウスで約50分間会談しました。その後、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官、グリア米通商代表部代表らと共に約75分間にわたって閣僚級の協議を行いました。
初会合では、次の3点で日米が一致したことが報道されています。
- 可能な限り早期に合意し、首脳間での発表を目指すこと
- 次回協議を4月中に実施すること
- 閣僚レベルに加え、事務レベルでも協議を継続すること
赤沢経済再生担当大臣は会合後、相互関税、自動車、鉄鋼・アルミニウム製品に関する関税の全般的な見直しを求めたことを明らかにしました。また、アメリカ側が「90日以内のディール(取引)を望んでいる」との意向を示したことも説明しています。
引用:日経新聞
3. 日米関税交渉、初の閣僚級会合に対する評価
日米関税交渉の初の閣僚級会合をめぐり、国内外からさまざまな評価の声が上がっています。
石破首相は、閣僚級会合後の翌17日、首相官邸で記者団の取材に応じ、「次につながる協議が行われた。評価している」と初会合の成果に一定の評価を示しました。また、今後の展開を見据え、「閣僚級協議の推移を見ながら、最も適切な時期に訪米し、トランプ大統領と直接会談することを考えている」とも述べ、今後の首脳レベルの対話に含みを持たせました。
一方、交渉に同席したトランプ米大統領も、会合当日にはSNSで「大きな進展」と投稿しました。さらに翌日の17日にも「非常に生産的な会合だった」と発信し、日米交渉への期待感を表明しました。
こうした政府間の前向きな評価に対し、野党からは慎重な姿勢と情報開示を求める声が上がっています。立憲民主党の野田代表は、赤澤経済財政再生大臣の発言に触れた上で、「為替についての議論はなかったという説明だったが、安全保障に関わる話題が出たことも示唆されている」と指摘しました。その上で「与野党問わず、国難として真剣に捉えている。今後の方向性や危機感を共有するためにも、交渉内容について国会で説明してもらいたい」と述べ、政府に対して透明性の確保と説明責任を求めました。
さらに、海外メディアからも今回の交渉に注目が集まっています。英ロイター通信は、「日本は正式に交渉を開始した最初の国の一つであり、今回の交渉は、ワシントン側が関税措置について譲歩する意思があるかどうかを測る試金石となるだろう」と報じました。今後の交渉の行方が国際的にも注視されていることを示しています。
4. 日米関税交渉の今後の行方
日米両政府は、2025年4月中に2回目となる閣僚級協議を実施することで合意しており、今後の協議スケジュールが注目されています。
交渉の中心的な論点となっている相互関税の上乗せ措置については、現在、90日間の一時停止期間が設定されており、日米は初会合の中で早期の合意を目指す方針を確認しました。
また、今回の交渉は、関税問題にとどまらず、為替や安全保障を含む広範な分野に及んでいます。政府内では分野ごとに担当大臣を明確に割り振る体制がとられており、関税分野は赤沢経済再生担当大臣が、為替分野は加藤勝信財務大臣がそれぞれ担当する形となっています。
特に、初の閣僚級会合で議題に上らなかった為替問題については、加藤財務大臣が今月下旬にアメリカを訪問し、ベッセント財務長官との日米財務相会談を24日に行う方向で調整が進められています。これはG20財務相・中央銀行総裁会議への出席に合わせたものであり、為替政策を含む経済協力全般について協議が行われる見通しです。
今後、分野ごとに進められる実務的な交渉と首脳レベルでの政治的判断がどのように連動していくのかが、日米双方の合意形成において重要な鍵となることが指摘されています。
まとめ
日米関税交渉は、トランプ米政権による追加関税の導入を契機に、日本経済だけでなく、国際的な通商秩序にも大きな影響を与える重要なテーマとなっています。米国による関税政策は、通商政策における一方的な対応として国際社会からも警戒されており、日本を含む各国はその影響を最小限に抑えるための交渉に臨んでいます。今後、90日間の相互関税の一時停止期間内にどのような合意が形成されるのか、そして日本政府がこの交渉を通じてどのような国益を確保していくのかが、国内外から注目が集まります。
