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非関税障壁とは?関税との違いや近年の政治動向をわかりやすく解説

投稿日2025.4.24
最終更新日2025.04.24

アメリカのトランプ大統領は2025年4月は、自身が問題と考える貿易上の不正行為(非関税障壁)についてSNSで発信し、非関税障壁について注目が集まっています。

では、非関税障壁とは具体的にどのようなもので、私たちの暮らしにどのような影響を与えているのでしょうか。

この記事では、非関税障壁の定義、非関税障壁の具体的な内容、国際貿易に与える政治的影響などについて解説します。

非関税障壁とは?

非関税障壁とは、関税以外の手段によって国際貿易を制限する貿易障壁のことです。関税とは、国境を越える商品に対する税金のことで、歴史的に、関税は貿易の流れを調整する主要な手段でした。

しかし、近年、国際的な貿易協定の進展やグローバル化の深化に伴い、関税の重要性は相対的に低下し、非関税障壁が貿易政策においてより大きな役割を果たすようになっています。非関税障壁は、関税以外の措置によって輸入や輸出を制限するものであり、規制、基準、割当、許可など、さまざまな措置が挙げられます。

以下では、非関税障壁の具体例を見てみましょう。

  • 輸入数量制限(輸入割当)

特定の品目について、一定期間内に輸入できる数量または金額の上限を設定する措置です。

例えば、EUは自国の鉄鋼産業を保護するため、鉄鋼輸入に割当を設けています 。また、米国は砂糖や乳製品などの農産物に対して輸入割当を実施しています 。輸入割当は、関税よりも直接的に輸入量を制御できるため、国内産業をより確実に保護する効果が期待できます。

  • 輸入許可制度

特定の品目を輸入する際に、政府からの許可や認可を必要とする制度です 。

許可は自動的に発行される場合と、政府の審査や承認が必要な非自動許可の場合があり、非自動許可は保護主義的な目的や、敏感な品目の管理に用いられることがあります 。

輸入許可制度は、特定の品目の流入を管理し、国内生産者や特定の貿易相手国を優遇するために利用されることがあります。

  • 安全基準、衛生基準、技術基準、環境基準

輸入される製品に対して、品質、安全性、衛生、技術仕様、環境への影響などに関する基準を設ける措置です。

これらの基準は、消費者の保護や環境保全といった正当な目的のために設けられることが多いですが、基準が差別的であったり、過度に厳格であったり、科学的根拠に基づかない場合には、貿易に対する技術的障壁となる可能性があります。

  • 補助金

政府が国内産業に対して財政援助を行うことで、外国からの輸入品に対する競争力を高める措置です。

財政援助は、直接的な支払い、税制上の優遇措置、低金利融資など、様々な形態をとります。例えば、米国の農業補助金や、中国の再生可能エネルギー産業への補助金などが挙げられます。

補助金は、国内産業に大きな優位性をもたらす一方で、外国の競争業者の成長を妨げ、貿易紛争の原因となることがあります。

  • 政府調達における差別

政府が物品やサービスを調達する際に、外国の供給者よりも国内の供給者を優先する慣行です。

例えば、「バイ・アメリカン」政策のように、政府の資金で実施されるプロジェクトにおいて、アメリカ製の鉄鋼のみを使用するように義務付ける措置などが挙げられます。

政府は、国家の利益や安全保障を理由にこのような差別を正当化することがありますが、外国企業にとっては市場へのアクセスを制限する大きな障壁となります。

日本の公共事業市場における外国企業の参入の難しさも、政府調達における差別の例として挙げられることがあります。

非関税障壁の目的とは?私たちの暮らしへのメリット・デメリット

では、なぜ非関税障壁を設ける必要があるのでしょうか。

非関税障壁の最大の目的は、外国からの激しい競争から脆弱な国内産業を保護することです。

また、このほかにも、安全基準や規制によって国民の生命と健康を守ったり、禁輸措置によってよりよい地球環境を守ったりすることできます。例えば、違法伐採された木材の輸入禁止措置は、環境保護のための非関税障壁の例です。

非関税障壁は、関税と比較してより柔軟な手段であり、関税の引き上げよりも広い政策目標を達成することができます。

一方で、非関税障壁のデメリットとはなんでしょうか。

まず、非関税障壁は、自由な国際貿易を歪め、商品や資源の効率的な配分を妨げる可能性があります。自国の産業を保護するための非関税障壁は、それぞれの国が得意とする商品やサービスの生産に特化することを妨げ、多くの場合、価格の上昇、選択肢の減少、および潜在的な品質低下という形で、消費者に不利益をもたらします。

また、非関税障壁の導入は、他国からの報復措置につながる可能性があり、貿易戦争に発展する可能性があります。非関税障壁の利用は、世界貿易を損なう保護主義の連鎖を引き起こす可能性があります。

日本における非関税障壁ートランプ米大統領の指摘とは?

ここでは、日本における非関税障壁について見てみましょう。

トランプ米大統領は2025年4月、自身のSNSで8つの非関税障壁について指摘しています。

非関税障壁とは?記事内画像

日本語に訳すと以下のとおりです。

1.Currency Manipulation: 為替操作

2.VATs which act as tariffs and export subsidies: 関税および輸出補助金として機能する消費税

3.Dumping Below Cost: 原価割れ販売(ダンピング)

4.Export Subsidies and Other Govt. Subsidies: 輸出補助金およびその他の政府補助金

5.Protective Agricultural Standards (e.g., no genetically engineered corn in EU): 保護的な農業基準(例:EUにおける遺伝子組み換えトウモロコシの禁止)

6.Protective Technical Standards (Japan’s bowling ball test): 保護的な技術基準(日本のボーリングボール検査)

7.Counterfeiting, Piracy, and IP Theft (Over $1 trillion a year): 偽造、海賊行為、および知的財産侵害(年間1兆ドル以上)

8.Transshipping to EVADE Tariffs: 関税回避のための積み替え

この中で、6.保護的な技術基準では、特に日本の自動車の安全基準について言及しています。

ここでいう「ボーリングボール検査」とは、日本が自動車に対して、高いところからボーリングの球をボンネットに落とし、へこんだ場合は不合格とするという検査を指していますが、日本の国土交通省は、そのような検査は行っていないと明確に否定しています。

しかし、この主張は、トランプ大統領の日本の自動車の厳しい安全基準が米国車の輸入を不当に阻害しているという認識を象徴するものとなっています。トランプ大統領は、日本市場において米国車が1%未満のシェアしか獲得できていないのは、日本の非関税障壁に問題があると考えているようです。

まとめ

非関税障壁は、関税とともに国際貿易を規制する重要な手段です。その種類、影響は多岐にわたります。関税が価格を通じて貿易に影響を与えるのに対し、非関税障壁は輸入数量、価格、またはその両方に影響を与える可能性があり、その複雑さと不透明さから、より慎重な検討が必要となります。

非関税障壁は、国内産業の保護、国民の安全確保、環境保護といった正当な目的のために導入されることもありますが、貿易の歪曲、消費者への不利益、国際関係の悪化といった負の側面も持ち合わせています。

グローバル化が進む現代において、公正かつ効率的な国際貿易システムを維持するためには、非関税障壁の開発と適用における国際協力と透明性の向上が不可欠と言えるでしょう。

この記事の監修者
秋圭史(株式会社PoliPoli 渉外部門)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。その傍ら、株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当している。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)

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