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政治ドットコム政治用語「相互関税」とは? その概要や問題点をわかりやすく解説

「相互関税」とは? その概要や問題点をわかりやすく解説

投稿日2025.2.25
最終更新日2025.04.14

トランプ米大統領は2月13日、「相互関税」導入に関する大統領覚書に署名しました。

相互関税は、関税負担を相手国と対等にすることを目的としており、日本も対象国に含まれる可能性があるため、注目を集めています。

4月2日、トランプ米大統領はホワイトハウスで演説し、相互関税を導入すると発表しました。ところが4月9日、報復措置をとらない国や地域に対しては90日間、相互関税を停止すると発表。異例の判断に金融市場などでは大きな動揺が広がっています。

以下では、相互関税の概要や具体的な内容、日本への影響、そして課題について詳しく説明します。

1.「相互関税」とは?概要とその目的

相互関税とは、自国と貿易相手国との関係において、貿易相手国が高い関税を課している場合に、自国も同水準まで税率を引き上げることを意味します。なお、非関税障壁(関税以外の要因で貿易が制限されること)で負担が生じている場合も、同等の関税を課すケースがあります。

相互関税について、トランプ米大統領は「相手国がアメリカに税金や関税を課せばアメリカも相手国に対して全く同じ税金や関税を課す」と述べています。

また、導入目的について、大統領覚書では「長年にわたってアメリカは友好国・敵対国問わず貿易の相手国から不当な扱いを受けてきた。この相互性の欠如がアメリカが抱える巨額で恒常的な貿易赤字の要因の1つになっている」と説明されています。アメリカの貿易赤字は過去最大の1兆2117億ドル(約185兆円)に達しており、相互関税の導入によってその是正を期待したとされています。

また、大統領覚書には、相手国の関税や規制について調査を行うことが明記されており、日本もその対象国に含まれています。

引用:NHK

2.想定される「相互関税」の具体的内容

当時、相互関税の実施時期や具体的な内容については明らかにされておらず、様々な可能性が考えられていました。例えば、野村総合研究所は、以下の3種類の相互関税を想定していました。

  • 第1の方式:同じ製品に対して同じ税率を適用する方法

主な対象国として、中国、インド、トルコ、ブラジルなどの新興国が挙げられています。新興国は一般的に、国内産業を育成するため、先進国から輸入する工業製品に高い関税を課すことが容認されています。この点に対し、トランプ米大統領は、関税率を等しくすることを求める可能性が指摘されています。

  • 第2の方式:税率の差分を別の製品に追加で課す方法

この方式では、日本も相互関税の対象国になる可能性があります。例えば、牛肉や穀物などの農業分野では、米国からの輸入品に関税が課されています。この差分を基に、自動車を含む工業製品については、米国からの輸入品にほぼゼロの関税が課されているものの、農業分野での関税税率の差分が工業製品に追加されることで、対米自動車輸出に高い関税が課される可能性が指摘されています。

  • 第3の方式:相手国の平均税率に応じて追加で課税する方法

トランプ米大統領が名指しで批判したインドは、この方式に該当します。2023年度におけるインドの平均関税率は12%であるのに対し、アメリカは2.2%です。大統領覚書署名後、米印首脳会談では貿易赤字削減に向けて交渉が行われることで合意されました。

参考:野村総合研究所

こうした予想に対して大統領覚書などをふまえ4月2日、トランプ米大統領は全ての国に対して最低10%、中国には34%、EUには20%、そして日本に対しては24%の関税を課すと発表しました。

3.「相互関税」の日本への影響と日本政府の対応(2025年4月14日現在)

4月14日現在、相互関税は90日間の停止中ですが、発動された場合は相互関税によって日本は24%の関税を課されることになります。この理由としてトランプ米大統領は、アメリカにとっての非関税障壁を考慮した場合、日本はアメリカに対して46%の関税を課していることに相当するからであるとしています。

相互関税は、日本経済にどのような影響があるのでしょうか。例えば、第一生命研究所のレポートでは「単に日本の輸出を下押しするだけでなく、短期・中長期の目線で経済・金融市場に多面的な影響を及ぼす」と指摘しています。

具体的には、短期の目線については以下の影響が考えられるとしています。

  1. 日本の対米輸出への影響
    日本の対米輸出環境は大きく悪化することになり、日本の輸出減少圧力として顕在化してくる可能性が高い
  2. 設備投資への影響
    世界経済の悪化懸念に加えて、トランプ氏の政策不透明感の強まりが足かせになる。今後予想される製造業利益の悪化も、余裕資金の減少を通じて設備投資の下押し圧力となる。
  3. 個人消費への影響
    金融市場を通じた逆資産効果、消費者マインドへの影響が懸念される
  4. 金融政策への影響
    (世界経済に与える影響を見極めるため)日銀の利上げはしばらく見送られるだろう
  5. 財政政策への影響
    補正予算も含めた経済対策の実施が想定される
  6. 日本が対抗措置に踏み切った場合の影響
    (現段階で対抗措置を実施するかは分からないが)対米関税を引き上げる措置を打ち出す場合には、日本側の調達コストが増すことになる。

さらに、中長期的には「対米輸出依存度の低下」「サプライチェーンの見直し」「中長期的なインフレ率への影響」などが考えられています。

引用:第一生命経済研究所

その中で、加藤勝信財務相は4月4日、相互関税について「関税定率法で定められている報復関税措置の発動も可能と考えている」と述べ、報復関税の可能性を示唆することでアメリカを牽制する形となりました。今後の日本の対応に、大きな注目が集まっています。

引用:産経新聞

4.「相互関税」がもたらす問題

トランプ米大統領が導入した相互関税は、自由貿易体制の崩壊を招くリスクがあると指摘されています。
戦後、各国は国際貿易の自由化を進め、関税を引き下げることで経済成長を促進してきました。しかし、相互関税の導入は、自由貿易の基本原則を覆すものであり、各国が報復関税を発動する連鎖反応を引き起こす可能性があると懸念されています。例えば、トランプ米大統領が鉄鋼・アルミニウム製品に対してすべての輸入品に25%の追加関税を適用する大統領令に署名し、その対象となった欧州連合(EU)は2月11日に、「不当な関税には断固たる相応の対抗措置をとる」との声明を発表し、報復関税の発動も辞さない姿勢を示しています。

一方で、相互関税に対する各国の対応として、アメリカに譲歩し、関税を回避しようとする動きが広がることが予想されています。EUと同様に、鉄鋼・アルミニウム製品に25%の追加関税を課される日本は、日本製品を追加関税の適用除外とするようアメリカ政府に申し入れたことが明らかになっています。こうした例外を求める動きが強まれば、多国間の貿易ルールが形骸化し、経済的な力関係が優先される状況に陥る恐れがあることが懸念されています。

参考:朝日新聞日経新聞

まとめ

相互関税は、米国が貿易赤字解消を目的に進める政策で、導入には多くのリスクと課題が伴います。日本もその影響を受ける可能性が高く、特に自動車産業への影響が予測されています。自由貿易体制の崩壊を招く懸念もあります。今後、日本政府はどのように対応していくのか、関心が高まっています。

この記事の監修者
秋圭史(株式会社PoliPoli 渉外部門)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。その傍ら、株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当している。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)

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