「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコム政治用語報復関税とは? 概要や目的、課題点をわかりやすく解説

報復関税とは? 概要や目的、課題点をわかりやすく解説

投稿日2025.3.21
最終更新日2025.03.21

トランプ米大統領が鉄鋼・アルミの輸入に一律25%の関税を課したことを受け、中国はすでに米国への報復関税を発動し、欧州連合(EU)やカナダも同様の対抗策を講じました。

こうした現状を踏まえ、報復関税の動向に対して世界的に注目が集まっています。

以下では、報復関税の仕組みやトランプ米政権の関税発動に対する各国の対応、そしてその課題について詳しく説明します。

1. 報復関税とは

報復関税とは、他国が自国に対して、世界貿易機関(WTO)ルールに違反して不当な扱いをした場合、それに対抗して自国も同様の措置を取ることを指します。主に貿易紛争における交渉手段や、相手国への圧力として用いられます。

報復関税はWTOのルールでも認められています。これを踏まえて、日本の報復関税制度では、原則としてWTOの承認を受けた上で、同額までの関税を課すことが可能であると財務省は述べています。

さらに、報復関税の役割に関して、報復関税には相手国の輸出産業にも不利益をもたらすことで、一方的な高関税などの措置を抑止する効果が期待されています。一方で、トランプ米大統領の関税引き上げを巡る各国の報復関税措置に対しては、WTOはこれが世界経済の成長に壊滅的な影響を与えるとの見方を示し、各国に報復関税を控えるよう求めています。

引用:財務省

参考:日経新聞ロイター

2. 報復関税が選択される理由

トランプ米大統領が追加関税の表明を相次いで行ったことを受け、各国は対抗手段として報復関税政策を打ち出す動きが活発化しています。

鉄鋼・アルミニウム製品に対して米トランプ政権が全ての輸入品に25%の追加関税を適用する政策では、各国は自国の根拠法に基づき、即座に報復関税を表明しました。例えば、中国は、LNG、鶏肉、大豆など820品目に最大15%の追加課税を課すことを発表しました。

友好国においても報復関税の動きが広がっています。カナダ政府は、米国からの鉄鋼やアルミニウムの輸入品に対して、298億カナダドル(約3兆円)相当の報復関税を課すと発表しました。

また、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会も、米国からの輸入品に対して総額260億ユーロ(約4兆1000億円)相当の報復関税を課すと発表しました。

友好国を含む各国で報復関税が広がる背景には、それぞれが米国との全面対決を避けたい意向がある一方で、ディール外交を駆使するトランプ政権に対して強気のカードを切らざるを得ない状況が指摘されています。

さらに、本来は関税政策や報復関税などの貿易戦争を抑止する役割を担うWTOが機能していない点も、問題視されています。

WTOの貿易ルールに違反するとして、カナダや中国はすでに米国をWTOに提訴しました。しかし、WTOの紛争解決プロセスでは一審にあたる小委員会(パネル)の審議後、その結果に不服があれば二審の上級委員会に上訴できますが、2019年以降、米国の反対により委員の選考手続きが進まず、欠員が生じたままです。そのため、上級委員会が機能不全に陥っていると指摘されています。

参考:日経新聞読売新聞

3. 報復関税を慎重に検討する日本の対応とその課題

一方で、トランプ米大統領による追加関税に対して、日本政府は報復関税はもとより、WTOへの提訴にも慎重な姿勢を保っています。

武藤容治・経済産業大臣は、2月12日に日本製品を追加関税の適用除外とするよう米政府に申し入れたことを明らかにしました。また、WTOルールに基づく追加関税の完全撤廃を求めるかという質問には、明言を避けたと報じられています。

過去にも、トランプ大統領の1期目に鉄鋼などに追加関税を課した際、EUはWTOに提訴しましたが、日本は提訴していませんでした。

しかし、このような現状に対して、米国が理不尽な要求を突き付けた場合、日本が厳然とした姿勢を示す手段として、あえてWTOに提訴することも選択肢の一つになり得るとの指摘があります。そのため、提訴の選択肢を完全に排除する必要はない点が指摘されています。

また、通商産業省(現経産省)勤務時代に日米貿易交渉に携わった明星大学の細川昌彦教授は、「米国に対して関税の適用除外を求めるだけでなく、カナダやEUといった国・地域と共同歩調をとってWTOに提訴するなど、より積極的な対応を取るべきだ」と述べています。さらに、米中双方を視野に入れ、最低限の抑止力として、外為法改正などの対抗措置に関する法整備の必要性についても主張しています。

引用:日経新聞

参考:産経新聞

まとめ

報復関税は、他国の不当な貿易措置に対して、同様の措置を取ることによって自国の利益を守るための手段です。トランプ米政権による追加関税の導入を契機に、世界各国は報復関税の動きを強化しています。しかし、報復関税は世界経済に与える影響が非常に大きいため、摩擦回避が望まれています。これに対して、WTOの機能不全がその解決を遅らせている現状があります。

その上で、日本においては慎重な姿勢を保つだけでなく、米国との関税問題に対してより積極的な対応が求められているという指摘もあります。今後、日本を含めた各国がどのように対応していくのかに注目が集まります。

この記事の監修者
秋圭史(株式会社PoliPoli 渉外部門)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京大学大学院に進学し、比較政治学・地域研究(朝鮮半島)を研究。修士(学術)。2024年4月より同大博士課程に進学。その傍ら、株式会社PoliPoliにて政府渉外職として日々国会議員とのコミュニケーションを担当している。(紹介note:https://note.com/polipoli_info/n/n9ccf658759b4)

『政治ドットコム』は株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。
株式会社PoliPoliは、「新しい政治・行政の仕組みをつくりつづけることで世界中の人々の幸せな暮らしに貢献する。」をミッションに掲げ、政策をわかりやすく発信し、国民から意見を集め、政策共創を推進するウェブサイト『PoliPoli』などを運営しています。

・株式会社PoliPoli:https://www.polipoli.work/
・PoliPoliサービスサイト:https://polipoli-web.com/
・株式会社PoliPoli 公式X:@polipoli_vote
・政治ドットコム 公式X:@polipoli_seicom