
米国のトランプ大統領は4月2日、あらゆる国から輸入されるほぼ全ての品目に10%の追加関税と、57カ国・地域に対して追加関税を課す相互関税を発表しました。この「トランプ関税」により、世界の貿易市場や各国政府、消費する国民たちが戦々恐々としています。連日ニュースで取り上げられる「トランプ関税」とはどのようなものなのか。中国との貿易戦争の行方から日本ができる対応まで、詳しく解説します。
1.トランプ関税のこれまでの経緯
トランプ関税には、貿易赤字解消やアメリカの歳入を増やすなどの目的があります。関税を広くかければ、その分米国政府が得る税収が増加し財政赤字を削減できるという試算があります。輸入品に一律10%の関税に関しては、財政赤字が2兆1000億ドル減るという推計も報告されています。
また、トランプ氏が掲げる国内企業への減税(法人税率の15%引き下げなど)による税収の目減りを、関税収入で補う狙いもあるといわれています。4月2日に関税を発動させたトランプ氏。計画では、中国に53%、欧州連合(EU)と韓国に20%、そして全ての国に一律10%の関税を、それぞれ課すとしています。ところが、急転直下、4月9日には56カ国・地域に対する相互関税を90日間停止すると発表。米国市場・日本市場ともに株価も乱高下しました。
①朝令暮改のトランプ関税
トランプ氏は4月11日、スマートフォンなどの電子機器に関して相互関税の対象外にすると表明しました。イギリスBBCの調べによれば、米国で販売されるApple社のiPhoneのうち80%が中国製とされています。
ところが一転、4月13日にはスマートフォンなどに関しても、今後導入する半導体関税の対象とする方針が明らかとなり、結局スマホの関税は引き上げられることになりました。このように、トランプ関税は世界経済の混乱を招いています。その中で、トランプ氏は相互関税の90日間の停止について、発表以降に75以上の国・地域が米国との経済関係や国家安全保障、経済安全保障について交渉を申し入れてきたと明かしています。停止に関しては、米国と十分に足並みをそろえるための重要な一歩と判断したためと説明しており、関税を交渉のディールとして大きな武器としていることがわかります。
②トランプ関税に対する米国国民の反応、消費者に価格転嫁?
米国内の反応はどうでしょうか。一部では、トランプ氏にとってもリスクはかなり大きいとの声もあります。多くのエコノミストが、この大規模な関税はやがて米国内の消費者に転嫁され、物価を上昇させ、世界的な不況を招くと警告しています。
国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストのケン・ロゴフ氏はBBCワールドサービスの取材に対して、世界最大の経済大国の米国が景気後退に陥る可能性が、この日の発表で50%に高まったと指摘。「彼はたった今、世界の貿易システムに核爆弾を落とした」と述べました。
③日・中・韓のFTAは対米で協力できるか
トランプ関税により、米国は他国との貿易戦争をエスカレートさせ、関係強化を図ってきた同盟国を遠ざけるリスクがあります。米国は日本と韓国を、中国の経済成長の脅威に対する防波堤とみなしているとの見方がありますが、日中韓の3カ国は3月に、5年ぶりに貿易担当相会合を開催し、トランプ政権の関税発動に備えるアジアの3大輸出国として地域貿易を促進することで合意しました。
3カ国は世界貿易を促進するため、日中韓の自由貿易協定(FTA)に関して緊密に協力することで一致しており、韓国の安徳根産業通商資源相は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)について「3カ国が参加しているRCEPの実施を強化し、韓中日FTA交渉を通じて3カ国間の貿易協力を拡大する枠組みを作る必要がある」と述べています。
日中韓のFTAを巡っては、2012年に協議を開始して以来大きな進展が見られず、どれほどの効果があるのかは不透明ですが、3カ国は次回の閣僚会合を日本で開催することで合意しています。
引用・参考:ロイター
2.中国とトランプ関税
中国は、前政権時代から貿易不均衡や知的財産権侵害などをめぐりアメリカと激しく対立してきました。すでに高率関税をかけられている輸入品が多いため、今回の追加10%は実質的に大きな負担増となる可能性があります。
①中国政府が課す「報復関税」
中国政府は4月12日、米国からの全輸入品に課す報復関税の税率を84%から125%に引き上げ、米産品が中国市場で売れる余地はなくなったと主張。米国が今後、関税を引き上げたとしても「相手にしない」と表明し、事実上の打ち止めを示唆しました。
②米国内でiPhoneが値上がりに?
相互関税を巡って米中対立が深まるなか、米国内ではiPhoneの駆け込み需要が高まっていると報じられています。iPhoneの多くは、中国を中心に製造されており、相互関税の影響で販売価格が値上げされるとの見方があります。
iPhoneは第1次トランプ政権で関税が免除されましたが、現時点では125%に引き上げられた中国への関税が重くのしかかります。iPhoneを米国内で生産することになれば、現在1000ドルの販売価格は跳ね上がるとみられ、専門家によれば米国で生産すれば3500ドルと試算し、日本円にしておよそ50万円となります。また、中国にある工場などの移転コストも考えれば、アメリカ国内での生産は到底、現実的ではないとされています。
引用:TBS
3.トランプ関税により、日本はどうなる
では、トランプ関税の日本への影響はどうなるのでしょうか。米国が自国保護に乗り出す分、日本は事業機会の確保や、期待される役割を果たすことで、貿易を有利に進めることができるという指摘があります。一方で、コストの増加などが懸念されています。
①米国内生産回帰は日本の事業にチャンス
トランプ政権の保護貿易化を通じた米国内生産回帰を促す動きは、日本企業にとってリスクだけでなく、事業機会をもたらす可能性もあるとの見方もあります。米国の製造業はコンピューターや半導体、医療機器などを中心に他国への依存度が高いですが、米国内生産回帰を推進する過程では、インフラ整備や関連部材の需要拡大が見込まれます。
JETRO(日本貿易振興機構)によれば、米国内生産回帰に伴うインフラ整備や、中国企業からの調達切り替えを背景に、化学、医薬、自動車部品などで需要が増加するとの見方が示されています。
先端技術品の分野 | 主な品目 |
バイオテクノロジー
ライフサイエンス 光エレクトロニクス |
新薬、遺伝光学関連
医薬品製造 光学スキャナー |
情報通信
電子技術 ファクトリーオートメーション(FA) |
中央処理装置
集積回路、コンデンサー 産業用ロボット |
先端材料
航空宇宙 |
半導体材料
光ファイバー材料 飛行機、ロケット |
武器
核技術 |
誘導ミサイル、爆弾
原子力発電装置 |
参考:三菱総合研究所
②トランプ関税で日本が直面する課題と備え
日本企業が直面する課題としては、通商環境の不確実性や米国内調達、生産・販売の圧力が高まることや、州ごとの規制対応によりコストが増加することなどが挙げられます。求められる備えとしては、米国内生産回帰に伴う需要の獲得や、雇用など州への貢献を発信し、州政府・議会と関係を構築することなどが考えられます。また日本政府としては、米国と各国との「橋渡し役」を担うことで、国際秩序形成に対して意思の持続が困難な状況が続く懸念を解消し、多国間の協力維持や備えに繋げられる可能性があります。
まとめ
「タリフマン(関税の男)」を自称するトランプ氏。トランプ政権の関税政策は発動後に撤回したり、内容を変えたりする事例が相次ぎ、先行きは不透明なものとなっています。トランプ氏はスマートフォンや電子機器、自動車関税などの関税の動きに対し、企業の要望などに耳を傾ける姿勢も示しています。「ある程度の柔軟性は必要だ。 誰もそんなに厳格であってはならない」と述べており、トランプ政権との間でどのような譲歩や条件を提示し、交渉できるかが、この貿易戦争ともいえる状況を乗り越えるために大きな比重が置かれているといえそうです。
参考:日本経済新聞
