公職選挙法違反とは、国会議員や地方公共団体の議員を選ぶための公職選挙について定めた法律に背くことを指します。
「公職選挙法違反で逮捕された」という報道を耳にする機会も少なくありませんが、そもそも「公職選挙法違反」とは、具体的にどういった行為が当てはまるのでしょうか。
そこで今回の記事では、以下の3点について解説します。
- 公職選挙法の概要
- 公職選挙法違反の行為
- 公職選挙法の違反事例
本記事がお役に立てば幸いです。
公職選挙法について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
公職選挙法とは?法律の規制や違反した際の罰則についてわかりやすく解説
1、公職選挙法違反とは
そもそも公職選挙法とは、「国政選挙」「地方選挙」などの公職に関する選挙について定められた法律です。
1950年に制定されて以来、2021年現在まで100回以上改正されています。
公職選挙法には
- 適用範囲
- 選挙権・被選挙権
- 議員定数
- 選挙の方法
などが主に定められています。
また上記以外にも、公正な選挙を行うための細かな規制がいくつも設けられています。
公職選挙法違反はこの法律に違反することを指します。
参考:総務省|現行の選挙運動の規制
公職選挙法とは?法律の規制や違反した際の罰則についてわかりやすく解説
2、悪質な公職選挙法違反行為
公職選挙法違反と聞くと、政治家やその関係者だけに適用されるものと思うかもしれませんが、一般の有権者も公職選挙法の規制対象に含まれます。
公職選挙法違反となる行為は色々ありますが、特に悪質なのが
- 買収行為
- 詐偽投票行為
の2つです。
(1)買収行為
買収行為とは、特定の候補者に票を入れる、もしくは入れないようにするために、金銭・物品の授与や接待をすることです。
実際に金品などを渡さなくても、「渡す約束」をするだけでも買収罪が成立します。
買収行為は公職選挙法221条により禁止されています。
違反した場合は、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金が科されます。
候補者本人や選挙運動を取り仕切る統括責任者が違反した場合はさらに罪が重くなり、4年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金に処されます。
選挙期日の告示前でも後でも、違反していた場合は適用されます。
候補者自身に買収罪などの刑が確定した場合、当選は無効となり、一定期間選挙権と被選挙権を失います。
また公職選挙法221条4項によると、頼まれて金品や接待などを受けた、または求めた側も、同じく3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金に処されます。
(2)詐欺投票行為
詐欺投票行為とは、選挙人でない人がウソをついて投票することです。
詐欺投票行為は、公職選挙法237条1項により禁止されています。
たとえば、特定の候補者に投票するために、その候補者の選挙区に合わせたウソの住所に住民票を移すことで、選挙権を得るといった行為があたります。
違反した場合、1年以下の禁錮または30万円以下の罰金に処されます。
また、同条2項では、投票所または期日前投票所で本人になりすまして投票することも禁じています。
実際に行った人だけでなく、詐偽投票を依頼するなどの「強要」もしくは「幇助(ほうじょ)」した人も処罰の対象となります。
違反した場合、2年以下の禁錮または30万円以下の罰金です。
参考:公職選挙法
3、その他の公職選挙法違反行為
以下のような行為も公職選挙法に違反にあたります。
- 選挙運動を目的とした戸別訪問
- 有権者への飲食物の提供
- 選挙区内の人に対するあいさつ状の送付
- あいさつ目的の有料広告の利用
- 選挙区内の人や場所への寄付
- 選挙の自由に対する妨害
それぞれ確認していきましょう。
参考:なるほど!選挙 総務省
(1)選挙運動を目的とした戸別訪問
戸口訪問とは、選挙運動の目的で個別に有権者の家を訪問することです。
公職選挙法第138条により禁止されています。
もちろん家だけでなく、会社などに行くことも戸別訪問に該当します。
また、個別に候補者名や演説会の開催などを言い歩くことも該当するとされています。
(2)有権者への飲食物の提供
どんな理由があっても選挙運動に関する飲食物の提供行為は、公職選挙法第139条により原則禁止されています。
有権者が候補者などに提供する場合も、違反行為に当てはまります。
そのため、候補者を応援するために、お酒やジュースなどを選挙事務所に差し入れることは原則できないのです。
ただ例外として、お茶やまんじゅうなどの一般的なお菓子、選挙運動員などへの弁当の提供は禁じられていません。
(3)選挙区内の人に対するあいさつ状の送付
候補者が選挙区内にいる人に
- 年賀状
- 寒中見舞い
- 暑中見舞い
などの挨拶状を出すことは、公職選挙法147条の2で禁じられています。
ただし、届いた挨拶状に対して、自筆で答礼することはかまいません。
一方、パソコンなどで印刷したものは公職選挙法違反として処罰の対象になります。
(4)あいさつ目的の有料広告の利用
政治家や後援団体が選挙区内の人や団体に対して、あいさつ目的の有料広告を
- 新聞
- 雑誌
- パンフレット
- テレビ
- ラジオ
などに掲載・利用することは、公職選挙法第152条により禁止されています。
また政党等を除く選挙運動のための、インターネット広告をアップすることもできません。
(5)選挙区内の人や場所への寄付
現職の政治家や候補者などが、選挙区内の人などに寄付することは、公職選挙法第199条の2により禁じられています。
寄付の一例としては
- 病気お見舞い
- 出産祝い
- 地元のお祭りへの寄付や差し入れ
- お中元やお歳暮、お年賀
- 葬式の花輪・供え花
- 開店祝いの花綸
などが当てはまります。
一方で、以下の場合は、罰則に当たりません。
- 政治家本人が出席する結婚式におけるご祝儀
- 政治家本人が出席する葬式やお通夜における香典
ただし、金額が常識の範囲内を超えている場合には、寄付と判断されることがあります。
(6)選挙の自由に対する妨害
選挙の自由に対する妨害行為は、公職選挙法第225条により禁止れています。
選挙の自由に対する妨害行為には、
- 候補者などに暴行を与える
- 威力を加える
- 集会や演説を妨害する
- ポスターなどを破り捨てる
- ポスターなどに落書きをする
- 候補者のWEBサイトを改ざんする
などが当てはまります。
選挙を妨害した人は、「選挙の自由妨害罪」によって処罰される可能性があります。
また個人的なやじは原則該当しませんが、集団で演説が聞き取れないほどの妨害であれば、処罰対象になります。
参考:公職選挙法
4、公職選挙法違反の事例
最後に、公職選挙法違反の事例についてご紹介します。
(1)香典配布問題
自民党衆院議員の菅原一秀前経済産業相の公設秘書が、選挙区内の有権者に香典を配っていたとして、東京地検特捜部が公職選挙法違反の疑いで菅原氏を逮捕した事件です。
東京地検特捜部によると、菅原氏は2017年7月~2019年10月の間に秘書を通じて、選挙区内の27人に対し、香典などの名目で合計約30万円を寄付していました。
逮捕を受けて菅原氏は、公職選挙法違反の認識があったと事実を認め、謝罪しました。
これにより特捜部は2020年6月25日付で起訴猶予としました。
前述の通り、葬式や通夜の香典については、政治家本人が渡す場合は違反行為にはあたりません。
しかし、家族や秘書が代理で渡すことは禁止されており、違反者には50万円以下の罰金が科せられます。
(2)法定外文書の配布問題
宇都宮市議会の桜井啓一議長・当選した福田富一知事の次男陽(あきら)・同市議ら6人が、2020年の栃木県知事選において、違法な文書を配布したなどの疑いで、栃木県警により書類送検された事件です。
栃木県警によると、告示前に、知事の母校である県立宇都宮工業高校野球部OB会の会員約700人に、知事への支援を呼びかける趣旨の文書を数百枚郵送したとみられています。
福田知事はこのことについて、「後援会としてもっと注意喚起すべきだった」と自省しました。
桜井氏は市議会の各会派代表者会議で陳謝し、議長職の辞表を提出しました。
公職選挙法142条により、候補者間の公平を確保するため、選挙期間中に配布できる文書の種類・枚数・大きさなどが規定されています。
そのため、それ以外の文書図画を選挙運動中に使用・配布することは、禁止されているのです。
参考:知事選で違法文書配布疑い 宇都宮市議会議長、知事次男の市議を書類送検
公職選挙法違反に関するQ&A
Q1.公職選挙法違反となる行為の中でも悪質なのは?
特に悪質な違反行為が以下の2点です。
- 買収行為
- 詐偽投票行為
Q2.公職選挙法違反の事例は?
公職選挙法違反の事例として以下のような事例があります。
- 香典配布問題
- 法定外文書の配布問題
Q3.公職選挙法違反行為にはどのようなものがある?
以下のような違反行為があります。
- 選挙運動を目的とした戸別訪問
- 有権者への飲食物の提供
- 選挙区内の人に対するあいさつ状の送付
- あいさつ目的の有料広告の利用
- 選挙区内の人や場所への寄付
- 選挙の自由に対する妨害
まとめ
今回は、公職選挙法の違反行為について解説しました。
選挙の違反行為は、選挙そのものに大きく影響を与える可能性があります。
また、公職選挙法の規制対象には、候補者や陣営関係者だけでなく、有権者も含まれる場合があるので、正しい知識が必要です。