人が生きるために、水は欠かせません。
そのため「水質汚濁」は、命に関わる重大な問題といえます。
水が自然に汚れることはなく、また、人間以外の動物が水質汚濁問題になるほど水を汚すこともまれです。
水質汚濁の主な原因は、「人間の経済活動」なのです。
水質汚濁問題は、過去に大きな社会問題になりましたが、未だに解決していません。
だからこそ、生活者1人ひとりが水に関心を持つ必要があります。
そこで今回は、水質汚濁問題についてご紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、水質汚濁問題とは
水質汚濁とは河川や海などの水が人々の活動によって汚染されることです。
それは回り回って国民の健康に悪影響を及ぼすことがあります。
(1)水質汚濁とは、どこの水が汚れているのか
水質汚濁で問題になる水とは、
- 河川の水
- 湖沼の水
- 海の水
- 地下の水
です。
人は河川や湖沼や地下水を浄化して飲み水を作ります。浄化せずにそのまま飲むこともあります。
また、海や川では漁業をしたり遊んだりします。
汚れた水を飲むと体調を崩す場合や、その中で成長した魚を食べることで病気になる可能性があります。汚れた水で遊ぶことも危険です。
そのため水質汚濁は、命に関わる問題なのです。
(2)人のどのような活動が水質汚濁につながるのか
水質汚濁を引き起こすのは
- 生活排水
- 工場排水
- 農業排水
- 牧畜排水
などです。
「排水」と「廃水」は同じ読み方をしますが、意味は異なります。廃棄が必要な汚れた水のことを廃水と言い、水を外に出すことを排水と言います。
「工場が廃水を排水した」と言えば、これは「廃棄が必要な汚れた水を工場の外に出した」という意味です。
水質汚濁を引き起こす4つの排水の主な原因は
- 生活排水:トイレや洗い物で使った廃水
- 工場排水:化学薬品や金属などの有害物質
- 農業排水:農薬
- 牧畜排水:家畜の排泄物
などです。
人の生活が豊かになればなるほど、技術や科学が進歩するほど、水が汚れていくことが分かります。
ただし、技術や科学などの人の知恵は水質汚濁問題を解消することにも使えます。
また法律により、水質汚濁を行う人や団体を罰することもできます。
この点については、後段の「4、水質汚濁対策」で改めて解説します。
2、水質汚濁はこれほど深刻
水質汚濁は、ときに深刻な被害をもたらします。
(1)水俣病
国内最大級の水質汚濁問題は、1950~60年代に熊本県水俣湾で起きた「水俣病」です。
水俣病は、熊本県水俣市の化学工業メーカーが海や河川にメチル水銀化合物を排出し、汚染された魚介類を食べることによって起こった中毒性の神経系疾患です。
メチル水銀は、人の体内で毒になります。環境省によると、水俣病では次のような症状が起きます。
- わけもなく転ぶ、まっすぐ歩けない、衣服の着脱ができないといった運動失調
- 手で物を触ったときに形や大きさがわからない、熱いものや冷たいものに触っても感じないなどの感覚障害
- 筋肉がけいれんを起こす運動障害
- 言葉が不明瞭になる構音障害
- 視線の先の周辺が見えにくくなる視野狭窄
- 音が識別できなくなる聴覚障害
環境省はさらに、こうした症状は脳が委縮して起きると説明しています。
参考:環境省 ホームページ
水俣市立水俣病資料館によると、水俣病の「認定患者」数は2283人にのぼり、そのうち1,961人が死亡しています。
ただ、水俣病が確認されるより前に亡くなった人もいるので、実際の死亡者の数は「分かっていない」状況です。
また、水俣病とは認められなくても、水俣病による被害を受けた人と合わせて被害者は1万5千人以上いると考えられています。
参考:水俣市立水俣病資料館
(2)日本でも9.1%の人は汚水処理施設を使えていない
令和になった今でも、水質汚濁問題は解決されていません。
環境省、農林水産省、国土交通省の3省の合同調査によると、全国の汚水処理人口普及率は90.9%でした。
汚水処理人口普及率は、汚水処理施設を利用できる地域の人口を、行政人口で割った数です。
つまり、水質汚濁をもたらす汚水を、汚水処理施設を経由せず自然界に流している人が9.1%いるということです。
環境省は「いまだに約1200万人が、汚水処理施設を利用できない状況」にある、と指摘しています。
この「9.1%」というデータは、2017年度末のものです。
参考:環境省 ホームページ
3、水質汚濁の原因
水質汚濁の原因について、さらに深掘りして考えていきます。
(1)生活排水
「生活排水」とは台所、トイレ、洗濯、風呂など日常生活からの排水のことで、水質汚濁問題の原因の5〜7割を占めていると言われています。
生活排水の中でも、「台所からの排水」は全体の約45%を占めており、特に「油」が水質汚染の大きな原因となっていることが分かっています。
使用済みの油100ml(コップ1杯分)を海や川に流した場合、魚が住める水質にするために20,000ℓもの水を必要とするのです。
生活排水による水質汚濁を防ぐために、私たちが気を付けるべきことは「汚れた水をそのまま流さないこと」です。
環境省は、「暮らしの中で今すぐ実行できる対策」として以下のようなものを挙げています。
<台所>
- 食器を洗う前で油汚れなどは拭き取る
- 残った油を捨てる際は新聞紙などに吸わせる
<お風呂>
- 髪の毛などは排水溝にネットをはって流れないようにする
- シャンプーやリンスは適量使用する
<洗濯>
- 洗剤は計量して使用し使いすぎないようにする
<トイレ>
- 使用後こまめにに掃除をすることで、洗剤を使って掃除をする回数を減らす
参考:環境省 生活排水読本
一人一人がちょっとしたことに気を付けて行動することで、水質汚濁問題の解決に向けて大きな効果が期待できます。
(2)工場排水
工場から流される「工場排水」も水質汚濁の原因と言われています。
水俣病など工場排水に含まれる有機物質が原因の公害病が起き、水質汚濁が社会問題となってからは、「排水処理技術の進展」や「水質汚濁防止法」などにより工場排水は規制されるようになりました。
こうした規制により、工場排水による水質汚濁は大きく改善しましたが、湖沼や内海など汚濁物質が溜まりやすい閉鎖された水域では水質の改善が思うように進まず課題が残されています。
参考:環境省ホームページ
(3)気候の変動
気候の変動も、水質汚濁を招くことがあります。
温暖化によって水温が十分に下がらないと、湖沼でアオコが異常発生したり、水の酸素濃度が低下したりします。
これらも水質汚濁の1つの要因です。
4、水質汚濁対策
水質汚濁対策には
- 「法律改正」
- 「下水道整備」
- 「水質浄化の技術」
- 「地下水の保全」
- 「民間レベルの対策」
があります。
1つずつみていきましょう。
(1)法律改正
水質汚濁に関する法律を改正していくことで、公共用水域・地下水の水質の汚濁を防ぐことができます。
この法律に違反すると、懲役や罰金が科されます。
参考:水質汚濁防止法
条例は、地方自治体が定める「法律のようなもの」です。
例えば東京都には、水に関する条例を39本もあります。
さらに「水銀に関する水俣条約」を締結する国が、2017年に日本を含む50カ国に達し、発効が決まりました。
この条約には水銀を使った製品の製造を一部規制する内容が含まれています。
水質への監視は「世界の目」も光っています。
(2)下水道整備
人々が出す汚れから水を守るには、下水道整備が欠かせません。
国土交通省によると、2017年の下水処理人口普及率は79%です。
これは21%の人が、下水のないところで「用を足す」などの行為をしていたということです。
地方に旅行や出張に出かけて、「ぼっとん便所」を使った経験がある人は意外に多いのではないでしょうか。
国土交通省は「人口5万人未満の市町村等では、未だ汚水処理人口普及率が低いため、下水道施設等の汚水処理施設の未普及解消を推進する必要がある」と述べています。
参考:国土交通省 ホームページ
(3)水質浄化の技術向上
日本には、水質を浄化する技術があります。
例えば水処理機は、工場などの排水に含まれるヒ素、鉛、水銀、ダイオキシンを処理します。
また、「太陽光」を使用した水を浄化する技術もあります。
それはパナソニックが開発した「光触媒水浄化技術」で、水中の有害物質を環境浄化材料「光触媒」と太陽光に含まれる「紫外線」によって高速処理する技術です。
薬品を一切使用せずに水を浄化することができ、安全性が高く環境負荷も無いことから注目されています。
さらに、特殊な膜や微生物を使って排水を処理する技術もあります。
(4)地下水の保全
地下水の水が汚濁すると「見えない」だけに被害が拡大しやすくなってしまいます。
そこで環境省は「地下水保全ガイドライン」を作成して、
- 地下水をめぐる動向を整理して
- 地下水保全に向けた技術的、法的、制度的課題を明らかにして、
- 地下水の適切な保全管理の方策を取りまとめること
にしました。
地方自治体は、これに沿って「地下水マネジメント」をしていくことになります。
参考:環境省 ホームページ
(5)民間レベルの対策
水質汚濁問題解決への取り組みは、民間レベルの対応が欠かせません。
すべての国民が「キレイな水」と「汚れた水」を常に意識することで、水を汚す行動を減らすことができます。
また、民間企業は、排水処理技術を開発したり、排水を少なくする取り組みをしたりと、水質汚濁問題解決に大いに貢献できます。
5、水質汚濁事件の事例
水質汚濁事件についてみてみましょう。
2000年頃から茨城県神栖市で、井戸水を飲んだ住民が原因不明の神経症状を起こしたり、子供が精神遅滞を発症したりする出来事がありました。
保健所が調査したところ、その井戸水から水質基準の450倍のヒ素が検出されました。
さらに調査を行った結果、そのヒ素は通常自然界には存在しないものと判明し、住民達は国と茨城県に「水質汚濁防止法で定められた常時監視義務(第15条)と公表義務(第17条)を怠った」として損害賠償を求めました。
2012年、訴えを受けた公害等調査委員会は、住民たちの主張を一部認め、茨城県に損害賠償するよう裁定しました。
まとめ
水質汚濁により多くの人の命が失われた悲惨な過去もあります。
法律やこれからの技術に期待するだけでなく、私たちの小さな行動で水を守っていきましょう。