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インフラ老朽化とは?問題点や解決策を簡単紹介

投稿日2021.2.9
最終更新日2021.02.09
この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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インフラとはダムや橋などの社会の基盤となる施設であり、それがどれほど重要な存在であるかは、誰もが知っているはずです。

そのインフラが老朽化して使えなくなったら大変な事態になりますよね。

しかし、インフラ老朽化問題を「我が事」としてとらえている人はそう多くはないのではないでしょうか。
問題の規模が大きすぎて、なかなか全体を把握できないということもあるでしょう。

そこで本記事では、インフラ老朽化問題の基礎知識を解説したうえで、

  • この問題が起きた背景
  • 影響
  • 解決策

などを探っていきます。
本記事がお役に立てば幸いです。

1、インフラ老朽化とは


インフラストラクチャー(社会基盤、生活基盤)の種類には次のようなものがあります。

  • 電気、ガス、石油などのエネルギー
  • 病院、学校、住宅、公園などの日常的に利用する施設
  • 港湾やダム
  • 電話、水道、通信などの設備に関わる施設
  • 鉄道、高速道路などの運輸に関わる建造物

このようなインフラを整備するには、金属、コンクリート、プラスチック、ガラスなどの人工素材を多数使います。
そして人工素材は年月とともに必ず朽ちていきます。

今は頑丈そうにみえるインフラでも、必ずいつか老朽化するのです。

老朽化は、経年劣化(時間の経過により脆くなる)によっても起きますが、地震や台風などの自然災害に遭えば劣化はさらに早く進みます。

ではここからはインフラ老朽化によってどのような悪影響があるのか見ていきましょう。

(1)インフラ老朽化による悪影響の一例

インフラが老朽化すると、あらゆる物事に支障が出ます。

例えば発電所や送電設備が老朽化により突然機能しなくなれば、周囲の街では電気が使えなくなり、生活と経済に打撃を受ける可能性があります。

インフラ老朽化問題とは、「生活や経済が立ち行かなくなる可能性が高くなること」に他なりません。

(2)悲惨な事故を起こすことも

ダムや病院、高速道路など、インフラの多くは大規模な設備・構造物なので、老朽化して壊れれば人命に関わる大事故に繋がる恐れがあります。

例えばトンネル崩落事故は、生き埋めという悲惨な結果を招き、ダムが決壊すれば、下流域の洪水を招きます。
人を守るはずのインフラは、老朽化すると人に牙をむくようになる危険性があります。

2、インフラ老朽化問題の背景や現状

インフラ老朽化問題を深刻にしているのは、数や量が多いことです。
老朽化して使用が危ぶまれるインフラは当然、補修するか、つくり直さなければなりません。

1つの設備が壊れただけなら、予算の確保、代替設備の手配、工事の実施などスムーズに進むかもしれません。
しかし、一気に大量のインフラを更新しなければならなくなると、混乱が生じます。

ここではインフラ老朽化問題の背景(要因)や数字で見る現状について確認しましょう。

(1)建築が集中してしまい老朽化も集中した

日本のインフラは、第2次世界大戦によって壊滅的な被害を受けました。
しかしそれにより、我が国は最新のインフラに更新できる機会を得ることができました。

1954から始まった高度経済成長期と1964年の東京オリンピックによって、インフラが一気に建設、整備されました。
しかし約60年前に一気に建設したために、今になって手が回らない程、既存施設の老朽化が集中してしまいました。

(2)インフラ老朽化のスピード

国土交通省によると、建設してから50年が経過する橋やトンネルなどの数は次のとおりです。

<インフラの種類と総数、建設後50年の到来時期とその割合>

道路橋:総数約40万橋(%は40万橋に占める割合、以下同)

  • 2013年3月:18%
  • 2023年3月:43%
  • 2033年3月:67%

トンネル:総数約1万本

  • 2013年3月:20%
  • 2023年3月:34%
  • 2033年3月:50%

水門などの河川管理施設:総数約1万施設

  • 2013年3月:25%
  • 2023年3月:43%
  • 2033年3月:64%

下水道管:総数約45万km

  • 2013年3月:2%
  • 2023年3月:9%
  • 2033年3月:24%

港湾岸壁:総数約5千施設

  • 2013年3月:8%
  • 2023年3月:32%
  • 2033年3月:58%

現時点2020年は「2013年3月」と「2023年3月」の間にあるので、道路橋、トンネル、河川管理施設は、20%から30%が建設後50年を迎えていることになります。

下水道環境は、2023年3月でも9%ですが、9%でも4万kmが建設後50年を迎えることになります。
港湾岸壁は老朽化スピードが速く、2013年3月からの10年間で割合が急激に高まっていることがわかります。

この数字は、日本のインフラの老朽化スピードを端的に示しているといえます。
そして、日本のインフラ老朽化問題がすでに始まっていて、まだまだ続くこともわかる数字です。

3、世界のインフラ老朽化問題


インフラ老朽化問題は、日本だけでなく他の先進国でも起きています。
アメリカとイギリスの様子を確認しておきましょう。

(1)アメリカの例

日本のインフラ建設は高度経済成長期(1954~1970年)に一気に進みましたが、アメリカでも同じことが起きています。

アメリカでは1920年代から建設ラッシュが始まりました。
さらに1933年には、当時のフランクリン・ルーズベルト大統領が大規模経済政策であるニューディール政策(公共事業を沢山起こして雇用を増やす政策)に着手して、加速度的にインフラが整備されていきます。

そのため、アメリカのインフラ老朽化問題は1980年代に顕在化しました。
例えば次のような事例が報告されています。

  • 橋が老朽化して、スクールバスに乗っている子供たちが、橋の手前で降りて徒歩通学する
  • ニューヨーク・マンハッタン島の橋梁損傷事故を機に、いたるところで大規模補修が行われるようになった

こうした様子は「荒廃したアメリカ」と呼ばれました。
アメリカのこの失敗とその対策は、日本のインフラ老朽化問題の教訓になるかもしれません。

国土交通省では、「アメリカの荒廃」は1960~1970年代にかけてインフラ関連の予算が削減され、十分な維持管理や更新がおこなわれなかったことが一因になっている、と分析しています。

また、アメリカでは、1980年代に増税を敢行し、既存インフラの適切なメンテナンスを進めています。

(2)イギリスの例

日本のインフラもアメリカのインフラも、老朽化しているとはいえ、イギリスは更に深刻な状況です。
イギリス・ロンドンのテムズ川にかかるハマースミス橋は、1887年に建設されました。現在(2021年)から約134年前になります。

ハマースミス橋は現役を続けていましたが、2019年についに、重大な支障が見つかって通行止めになりました。
修繕には4,000万ポンド(約60億円)かかると言われており、これは、定期的にメンテナンスをしていた場合のコストよりも高いと考えられているようです。

しかも、重要な橋が通行止めになったことで、ロンドン市民たちは3キロ離れた橋を使わなければならなくなりました。ロンドン経済への打撃も考えられます。

4、日本の対策

上段では海外でのインフラ老朽化問題の現状を確認しました。
それではここから日本のインフラ老朽化対策を紹介します。

政府や都道府県、市区町村はどのようにインフラの稼働を止めずに、

  • 補修
  • 再建
  • 更新

をしていこうとしているのでしょうか。

(1)インフラ長寿命化計画

政府の「インフラ長寿命化基本計画」の概要を紹介します。

政府はインフラ老朽化対策の目指すべき姿として、「老朽化による重要インフラの重大事故ゼロ」や「適切な点検・修繕などにより行動計画で対象としたすべての施設の健全性を確保する」などを掲げています。

そのために、対象となる施設・設備の現状と課題を把握して、維持管理・更新コストの見通しを立て、取り組みの方向性を定めます。

こうした全体的な流れの他に、

  • 個別の施設・設備ごとに長寿命化計画をつくり
  • 優先順位の確定
  • 対策考案
  • 更新時期の検討
  • 費用見積もり

などを行います。

そして政府や国土交通省が直接、修繕や更新をするだけでなく、地方公共団体(都道府県や市区町村)を支援することで、国と地方が連携して対応していきます。

(2)インフラメンテナンス国民会議

国土交通省は2016年に「インフラメンテナンス国民会議」を設立しました。

メンテナンス(維持管理)の充実がインフラ老朽化問題の鍵を握っていることは、アメリカやイギリスの事例をみても明らかです。

そこで同会議では、インフラメンテナンスを社会全体で取り組むことを目指し、産官学民が知恵を出し合い解決策を模索しています。

(3)インフラを省く「省インフラ」という考え方

「朽ちるインフラ・忍び寄るもうひとつの危機」の著書でもある東洋大学経済学部教授の根本祐二氏は、インフラを省く「省インフラ」を提唱しています。

インフラ老朽化問題が進まないのは、莫大な費用がかかるからです。
そして、インフラのメンテナンスや補修や更新に莫大な費用がかかるのは、高額なインフラが多数あるからです。

そこで、インフラの数を減らせばインフラ老朽化対策予算を減らすことができる、というわけです。
根本氏は、省インフラに着手するにはまず、すべてのインフラを

  • 「更新するインフラ」
  • 「長寿命化するインフラ」
  • 「廃止するインフラ」

にわける必要がある、と指摘します。

そのうえで、複数の公共建築物を1つの主要施設に集約したり、施設を廃止したりしていきます。

例えば、公民館を学校に集約すれば、施設を1つ省くことができます。
ただそのためには、児童・生徒と地域住民が図書室や体育館、音楽室をタイム・シェアするなど、地域全体の取り組みが必要になります。

5、民間の力を活用したPPP

PPP
インフラの改修、更新などのコスト問題を解決する方法として「パブリック・プライベート・パートナーシップ」(PPP、公民連携)も注目されています。

インフラを支えている設備や施設は公共のものが多いのですが、PPPではこれに、民間の力を注入していきます。

公共施設を

  • 設計
  • 建設
  • 維持管理
  • 運営

する際に、

  • 民間の資金
  • 経営能力
  • 技術力

を利用するのです。

そのほうがコストを抑制でき、効率化することが可能だからです。
PPPによって、住民サービスが向上することもあります。
PPPの考え方は、インフラ老朽化問題でも応用できるでしょう。

PPP(官民連携)とは?PPPの目的やPFIとの違いも簡単解説

PPPとは、“Public Private Partnership”の略で官民連携という考え方を意味する言葉です。 行政(Public)と民間(Private)が協力(Partnership)して公共事業などを行うことで、公共サービスの質を向上させることが目的です。 また、こうした公共事業において、似たような言葉としてPFIというものがあります。 PPPとPFIが似ているため混同して...

まとめ

インフラ老朽化問題は、日本全体の課題です。
放置すれば惨事を招きかねません。
対策には多額の費用がかかるので、国民的な議論も必要になるでしょう。

ただ、こまめなメンテナンスや省インフラ、PPPといった「知恵」を使えば、コストを抑えながら影響を最小限にできるかもしれません。

いずれにしても、お金も工夫も必要になる大事業といえます。