2020年3月、コロナウイルス感染症(COVID-19)に対してWHOがパンデミック宣言を出しました。
そこで注目されたのが新型コロナウィルス対策を考える「基本的対処方針等諮問委員会」です。
安倍首相が会見で「専門家の意見を聞いて・・・」と言っているのをよく聞きませんか?
この“専門家”とはこの諮問委員会のことを指します。
今回は感染症対策で重要な役割を果たす「基本的対処方針等諮問委員会」について解説したいと思います。
1、諮問委員会とは
“諮問”とは専門家に意見を聞くことを意味します。
数名の専門家で構成された諮問委員会からの回答は答申(とうしん)と呼ばれ、一般的に「ある問題について外部からの客観的な意見が必要なとき」に委員会が設立されます。
この諮問委員会は企業にもあります。
たとえば大手化粧品メーカーの資生堂では、取締役と執行役員候補者の選抜、役員の昇降格について答申する「役員指名諮問委員会」と、役員の評価などを答申する「役員報酬諮問委員会」を設置しています。
参考:委員会 資生堂
ただし、今回の記事で解説したい「基本的対処方針等諮問委員会」とは企業内にある諮問委員会とは別の組織です。
早速、「基本的対処方針等諮問委員会」の概要と目的を見てみましょう。
(1)基本的対処方針等諮問委員会の概要
基本的対処方針等諮問委員会は新型インフルエンザの流行に備えて2012年に設置されました。
同年には新型インフルエンザ等対策特別措置法も成立し、措置法では「感染症の対策決定時には専門家の意見を聞かなければならない」とされています。
以下は特別措置法18条になります。
第18条
4 政府対策本部長は、基本的対処方針を定めようとするときは、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。ただし、緊急を要する場合で、あらかじめ、その意見を聴くいとまがないときは、この限りでない。
緊急事態宣言の発令や解除にともない、安倍首相が専門家に意見を求めているのはこの条文に基づいて行われていることがわかりますね。
そして、この新型インフルエンザ等対策特別措置法に新型コロナウィルスを含めることが2020年3月に決定されました。
(2)基本的対処方針等諮問委員会の目的
基本的対処方針諮問委員会の目的は、感染症対策を実行する内閣総理大臣からの依頼に応じて「基本的対処方針」の作成や基本的な考え方等を取りまとめることです。
基本的対処方針には
- 緊急事態宣言の発令や解除の目安
- 3密を避ける
- 不要不急の外出自粛
などの行動指針などが含まれ、国の感染症対策の中核の役割を果たしています。
2、構成メンバー
現在の構成メンバーは以下の表のようになっています。
名前 | 役職 | 所属 |
尾身 茂 | 会長 | 独立行政法人地域医療機能推進機構理事長 |
岡部 信彦 | 会長代理 | 川崎市健康安全研究所長 |
井深 陽子 | 委員 | 慶応義塾大学経済学部教授 |
大竹 文雄 | 委員 | 大阪大学大学院経済学研究科教授 |
押谷 仁 | 委員 | 東北大学大学院医学系研究科微生物分野教授 |
釜萢 敏 | 委員 | 公益社団法人日本医師会常任理事 |
河岡 義裕 | 委員 | 東京大学医科学研究所感染症国際研究センター長 |
川名 明彦 | 委員 | 防衛医科大学校内科学講座2(感染症・呼吸器)教授 |
小林 慶一郎 | 委員 | 公益財団法人東京財団政策研究所研究主幹 |
鈴木 基 | 委員 | 国立感染症研究所感染症疫学センター長 |
竹森 俊平 | 委員 | 慶応義塾大学経済学部教授 |
田島 優子 | 委員 | さわやか法律事務所 弁護士 |
舘田 一博 | 委員 | 東邦大学微生物・感染症学講座教授 |
谷口 清州 | 委員 | 独立行政法人国立病院機構三重病院臨床研究部長 |
朝野 和典 | 委員 | 大阪大学大学院医学系研究科感染制御学教授 |
中山 ひとみ | 委員 | 霞ヶ関総合法律事務所 弁護士 |
長谷川 秀樹 | 委員 | 国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長 |
武藤 香織 | 委員 | 東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授 |
吉田 正樹 | 委員 | 東京慈恵会医科大学感染制御科教授 |
脇田 隆字 | 委員 | 国立感染症研究所所長 |
3、新型コロナウイルス感染拡大に関わる影響
冒頭で説明した通り、2021年まで新型インフルエンザ等対策特別措置法に新型コロナウィルスが含まれることになりました。
新型コロナウイルスが含まれたことによって、新型インフルエンザ等対策特別措置法は新型コロナウィルス特措法と呼ばれることもあります。
現在まん延しているのは新型インフルエンザではなく新型コロナウィルスなのでその方が分かりやすいですよね。
緊急事態宣言や外出自粛、休業申請はこの措置法をもとに決められています。
実際に新型インフルエンザ等対策特別措置法の条文を見てみましょう。
「緊急事態宣言に関係する条文」
第36条
政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第五項及び第三十四条第一項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。
「外出自粛に関係する条文」
第45条
特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
「休業申請に関係する条文」
第45条 2
特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
ここで、今回のテーマである基本的対処方針諮問委員会と新型インフルエンザ等対策特別措置法の関係をあらためて考えてみたいと思います。
措置法では、「内閣総理大臣は、前項の規定により政府行動計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。(第6条5)」とされています。
つまり、政府が感染症に対して何らかの行動を起こす時には専門家の意見を聞かないといけないよ、ということです。
法律面から見ても、基本的対処方針諮問委員会が感染症対策において重要な役割を果たしていることがわかりますよね。
基本的対処方針諮問委員会と政府の関係がよくわかる図があるのでぜひ参考にしてみてください。
4、2020年5月における諮問委員会
2020年5月の緊急事態宣言の延長に伴う、基本的対処方針諮問委員会の動きを見てみましょう。
安倍首相によって5月4日の夜に緊急事態宣言の延長が発表されましたが、同日の午前10時半に諮問委員会が招集されています。
この委員会には西村経済再生担当大臣と加藤厚生労働大臣が出席し、緊急事態宣言の延長をどうするのかが話し合われました。
その後、衆議院参議院の議院運営委員会に報告し、対策本部で緊急事態宣言の延長が正式に決定しています。
このように政府の決定には基本的対処方針諮問委員会が深く関わっているのです。
参考:緊急事態宣言 延長決定へ 政府が諮問委員会開催 NHK
まとめ
今回は新型コロナウィルスで注目されている「基本的対処方針諮問委員会」について解説しました。
感染症対策は政治家だけでは出来ません。
さまざまな分野の専門家の意見に基づいて対策を決めることが重要です。
また、私たちの生活に影響する緊急事態宣言や外出自粛、休業申請は新型インフルエンザ等対策特別措置法で決められているルールです。
国民ひとりひとりが専門家の意見を十分に聞いてより早いコロナウィルスの収束を願いたいですね。