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遺族年金とは?受給要件や年金額についてわかりやすく解説

投稿日2020.5.22
最終更新日2023.05.02

遺族年金とは、加入していた国民年金や厚生年金の被保険者が死亡した場合、遺族の生計を維持するために支給される年金です。

この年金は、父親(夫)または母親(妻)が亡くなって収入が途絶えたときに、生活を支援するものです。

一家の大黒柱が亡くなったとき、遺族年金は貴重な収入源となります。もしものときのために、遺族年金の基礎知識を持っておくことが大切です。

本記事では、遺族年金についてご紹介します。

1、遺族年金は3つの年金の1つ


公的年金には

  • 老齢年金
  • 障害年金
  • そして今回解説する遺族年金

があります。

一般的によく知られている、老後を保障する年金が老齢年金です。障害を負ったときの収入源になるのが障害年金です。そして、一家の大黒柱を失った遺族の生活を支えるのが、遺族年金です。

日本年金機構は、遺族年金を

「国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受ける年金」

と定義しています。

そして遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金がありますので、それぞれ解説します。

老齢年金については以下の関連記事で詳しくご紹介しています。

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2、遺族年金の額

遺族基礎年金と遺族厚生年金の金額を紹介します。

(1)遺族基礎年金は「年額781,700円+アルファ」

遺族基礎年金の年額は、以下のとおりです。

  • 781,700円+子の加算

子の加算とは子供の数だけ遺族年金の額が増額するということです。
以下の子供の人数とそれに対応する金額をご覧下さい。

  • 子供が1人の場合、年額224,900円
  • 子供が2人の場合、年額449,800円(=224,900円×2人)
  • 子供が3人以上の場合、年額「224,900円×2人+75,000円×3人目以上の人数」

例えば、子供が4人なら、子の加算額は年599,800円(=224,900円×2人+75,000円×2人)になります。

(2)遺族厚生年金の額の計算はとても複雑

遺族厚生年金の額の算出方法はかなり複雑です。

次のAとBの2つの計算を行い、金額が高いほうが採用されます。

<計算式A>

(平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数+平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以後の被保険者期間の月数)×3/4

<計算式B>

(平均標準報酬月額×7.5/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数+平均標準報酬額×5.769/1000×平成15年4月以後の被保険者期間の月数)×1.002(*)×3/4

*昭和13年4月2日以降に生まれた人は1.000

3、遺族年金の受給要件|支給される条件


遺族年金を受給できる要件も、遺族基礎年金と遺族厚生年金では異なりますので、それぞれ解説します。

(1)遺族基礎年金はどのような人が受け取ることができるのか

遺族基礎年金は、「国民年金の被保険者」が、「受給要件を満たして死亡した」場合に、「亡くなった方によって生計を維持していた子供がいる配偶者」、または「子供」が受け取ることができます。

これらの条件を1つずつ解説します。

①被保険者とは

国民年金の被保険者とは「国民年金に加入している人」のことです。日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人はすべて、国民年金の被保険者になります。厚生年金保険の被保険者も、同時に国民年金の被保険者になります。

②受給要件

「受給要件」には更に、「国民年金の被保険者であること」以外に「老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上あること」、そして「死亡した人の保険料納付済期間が加入期間の3分の2以上であること」となります。

③子供について

上記の子供とは「18歳になる年度の3歳より前の子供」または「20歳未満で、障害年金の障害等級が1級または2級の子供」のことです。

ここでのポイントは、上記の「子供」に該当する子供がいない配偶者は、遺族基礎年金を受給できない、ということです。

(2)遺族厚生年金はどのようなときに受け取ることができるのか

遺族厚生年金の支給が発生するのは、次のいずれかの場合です。

  • 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
  • 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
  • 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
  • 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
  • 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき

上記のいずれかが発生したとき、死亡した人によって生計が維持されていた、次の人が遺族厚生年金を受け取ることができます。

  • 子、孫
  • 55歳以上の夫、父母、祖父母

ポイントは子供がいない妻や、子供がいない55歳以上の夫も、遺族厚生年金を受け取ることができる点です。また、妻が遺族厚生年金を受け取る場合は年齢制限がありませんが、夫には55歳以上という年齢制限があります。

ただ妻が30歳未満の場合は、遺族厚生年金を5年間しか受け取ることができません。30歳以上の妻は、生涯にわたって遺族厚生年金を受け取ることができます。

ここでいう「子、孫」は、「18歳に達する年度の年度末を経過していない子または孫」または「20歳未満の障害年金の障害等級1、2級の子または孫」になります。

詳しくは「日本年金機構の遺族年金」をご覧ください。

4、具体的に「いくら」受け取ることができるのか

それでは、遺族年金は具体的に「いくら」受け取ることができるのか、シミュレーションしてみます。

(1)遺族基礎年金の額

夫が死亡し、妻に3人の子供がいた場合、遺族基礎年金の年額は「1,306,500円」になります。計算式は以下のとおりです。

  • 781,700円+子の加算(224,900円×2人目までの人数2人+75,000円×3人目以上の人数1人)=1,306,500円

(2)遺族厚生年金の額

続いて、遺族厚生年金について計算してみます。遺族厚生年金の計算は複雑なので、条件やシチュエーションを次のように設定します。

  • 一家の主な収入源となっていた会社員の夫が死亡した
  • 妻と子供が3人いる
  • 夫の平均標準報酬月額は35万円だった
  • 夫の加入期間は25年間(300カ月)で、内訳は平成15年3月までが150カ月、平成15年4月以降が150カ月とします

このケースでは、遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受給できます。
「遺族基礎年金+遺族厚生年金」は年額1,828,967円になります。

計算式は以下のとおりです。まず、遺族厚生年金を算出します。

<計算式A>

(平均標準報酬月額35万円×7.125/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数150カ月+平均標準報酬額35万円×5.481/1000×平成15年4月以後の被保険者期間の月数150カ月)×3/4≒496,361円

<計算式B>

(平均標準報酬月額35万円×7.5/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数150カ月+平均標準報酬額35万円×5.769/1000×平成15年4月以後の被保険者期間の月数150カ月)×1.000×3/4≒522,467円

計算式Bのほうが大きいので、遺族厚生年金は「522,467円」になります。

遺族基礎年金は「1,306,500円」になります。計算式は先ほどと同じで、以下のとおりです。

  • 781,700円+子の加算(224,900円×2人目までの人数2人+75,000円×3人目以上の人数1人)=1,306,500円

両方を足すと、年額1,828,967円(=522,467円+1,306,500円)になります。

5、制度の課題|社会の変容

遺族年金制度の課題として、「遺族基礎年金支給停止処分取消請求事件」を紹介します。

原告Xは、死亡した母親の子供で、その母親は国民年金の被保険者でした。厚生労働大臣は、Xには存命する父親がいることから、遺族基礎年金の支給を停止しました。

Xは、「父子家庭への遺族基礎年金の支給停止は、母子家庭より不利な取り扱いであり、憲法14条1項の平等原則に反する」として、支給停止処分の取り消しを求めました。

しかし東京高等裁判所は、Xの主張を棄却して、国(厚生労働大臣)を勝訴させました。

東京高等裁判所はその理由として、父子家庭は母子家庭より所得が相当高いことや、男性は女性より雇用機会と雇用条件に恵まれることを挙げています。そのうえで「父子家庭と母子家庭の間の差異を基にして、(遺族基礎年金の)支給基準を設けることは不合理とはいえない」としました。

この事件があったころは、遺族基礎年金は父子家庭には支給されておらず、遺族基礎年金の支給対象は、「子のある妻」または「子」に限定されている傾向にありました。

しかしこの事件のあとの2012年に年金制度が改正され、支給対象は「子のある配偶者」または「子」に変わりました。父子家庭でも遺族基礎年金がもらえる可能性が高まったのです。

遺族年金を含め、年金制度は国民の収入に大きな影響を与えることから、社会の変容とともに変わっていく傾向にあります。

まとめ

遺族年金は、一家の大黒柱を失うという、万が一の事態が起きたときに重要な収入源になります。「主たる生計維持者」は、自分が死亡したあとの家族の生活を考えて、遺族年金について知っておくと良いかもしれません。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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