国家予算とは国が1年間の収支計画をまとめたものであり、その大部分が国民の税金からまかなわれています。
国家予算は国民生活に関わる多くの政策に必要とされるため、その内容や決定過程には深い関心が寄せられます。
しかし、その具体的な過程についてはニュースなどであまり取り上げられることはありません。
この記事では、以下について詳しく解説いたします。
- 国家予算の成立に至る流れ
- 一般会計と特別会計の区分
- 歳入と歳出の関係
国の財政や社会保障など、日本の経済を支える基盤である国家予算について、ぜひ参考にしてみてください。
1、国家予算とは
国家予算とは、一定期間における国の活動(例えば道路の整備、諸外国との外交、社会保障制度整備など)で必要な金銭の収支計画(お金がこれくらい入る、出て行くということ)を総合的にまとめたもので、政府によって毎年編成されます。
一会計年度は4月1日から翌年の3月31日までです。
そのため、その年の国家予算が3月末までに決まらない場合は「暫定予算」をつくらなければなりません。
暫定予算とは、本予算が決まらない、もしくは衆議院が解散した影響で本予算成立までの緊急的なつなぎが必要になった際に必要最低限の支出だけを計上したものです。
ただ、暫定予算はあくまで応急処置的な予算です。
長引けば新規事業の実施や国民の生活に悪影響が出てしまう恐れがあります。
また国家予算が一旦成立した後に、何らかの出来事によって国家予算の内容を修正しなければいけない状況のために補正予算というものも存在しています。
例えば2020年5月、流行病の新型コロナウイルスによる国民への経済的な悪影響が深刻化し、その補償のために大規模な補正予算案が可決されています。
また、一般的に国家予算は100兆円程度といわれています。
ただ、この金額は一般会計だけなのです。
もう1つ別にある、法律によって目的ごとに予算が設定されている特別会計と合わせると国家予算はおおよそ300兆円の規模になります。
ここまでを図にまとめたので参考にしてみて下さい。
2020年の一般会計総額は現在(2020年2月時点)閣議決定されている時点で102兆6580億円とされ、2年連続100兆円を超えました。
このうちの7割が「社会保障費」、「地方交付税」、「国債費」です。
- 社会保障とは老化や病により収入が減少しても苦しい生活を送らなくて済むようにする国家の救済措置のようなもの
- 地方交付税とはお金の足らない地方政府に中央政府がお金を渡すもの
- 国債費とは国が国民から借りたお金を返すためのコスト全て
これら3つの歳出が大半を占めているため、他の政策に自由に使える予算が少なくなる「財政の硬直化」が問題となっています。
また、予算の財源の9割以上は税金と国債です。
そのため、国家予算の使い道は原則公開する義務が課せられています。
以下では国債費をより詳しく解説しています。
国債費とは?国債(国の借金)について簡単に解説!
国家予算を構成する一般会計と特別会計についてもう少し詳しくみていきましょう。
(1)一般会計
国の基本となるもので、通常の行政範囲で毎年1年間(4月1日から3月31日まで)決まってかかる経費を計上したものです。
たとえば、公共事業や社会保障、地方交付金や教育など国の基本的な経費があてはまり、「普通予算」と言う場合もあります。
所得税や消費税、国債発行などの収入にあたる歳入をベースにして政策費の歳出見積もり(政策を実施してどれくらいお金が出て行くかということ)をつくり、議会で使い道が決定されます。
ただ、国の事業は多岐にわたるので、事業内容によっては別の会計で計上するほうが資金の状況や実績などが明らかになることもあります。
そのため、一般会計とは別に特別会計という予算が存在しています。
(2)特別会計
当該年度におこなわれる特定事業のための出費を、特別会計といいます。
本来国や地方では単一の会計で処理されることが原則ですが、扱う事業規模は莫大で複雑な物ばかりです。
そこで、金銭の流れを処理しやすくするために、特定事業は一般会計とは別にしました。
ただし、特別会計は原則、特定事業に関連している場合のみの経費です。
つまり、予算の柔軟性はなく、決まった使い方しかできません。
特別会計として成立するためには要件が3つあり、
- 国が特定事業をおこなう場合
- 投資など特定の資金を保有して運用する場合
- 一般の歳入出と区別して計上しなければならない場合
これらの条件を満たした場合のみ、成立が認められています。
2、国家予算ができるまで
では、国家予算は具体的にはどのように成立するのでしょうか。
国家予算をつくって議会に提出するのは内閣の重要な仕事です。
ここからは、わたしたち国民の生活にも大きく関わる国家予算の成立までの流れについて更に詳しくみていきましょう。
(1)概算要求が行われる
予算編成は、内閣による予算編成の基本方針の決定から始まります。
基本方針はいわゆる「骨太の方針」ともいわれ、内閣や民間から集めた経済財政諮問会議で意見をまとめて閣議決定(内閣の会議で方針を固めること)します。
この流れを受けて、財務省はそれぞれの省庁にあらかじめ予算要求の額の上限を設定し、上限額を踏まえながら、各省庁が翌年の概算要求書(この位お金が必要という要求)を財務省に提出します。
概算要求とは、簡単に言えば各省庁による「見積もり書」のことです。
各省庁は財務省に翌年度の概算要求をスムーズに提出できるよう、一般的に9月頃から概算要求づくりを始めます。
閣議決定に関しては以下の関連記事で更に詳しく解説しています。
閣議決定とは?何が決まるのか・閣議決定の流れを簡単解説
(2)財務省原案の作成
財務省は省庁ごとに預かった概算要求と内閣が決めた方針とを調整しながら概算要求書を査定、財務省原案としてまとめます。
予算案を作成して提出する権限を持っているのは内閣ですが、予算案をつくる作業は財務省が担当しています。
原案が完成すると、閣議(再び内閣へ)に提出します。
(3)閣議決定により政府原案へ
財務大臣が提出した財務省原案は、閣議にて最終調整がおこなわれます。
閣議決定されれば、政府原案として衆議院に提出されます。
ここまでを一度簡単にまとめたので参考にしてみて下さい。
(4)衆議院議長から予算委員会へ
予算案に関しては、衆議院の優越により予算先議権(先に審議する権利)をもつ衆議院から話し合われます。
衆議院の議長は、予算案を本会議の前に予算委員会にわたして審議させます。
委員会では、基本的に以下の流れで進行します。
- 予算案に関して財務大臣や財務副大臣、担当者が説明・応答
- 質問が終われば採決
- 賛成多数なら可決、反対多数なら否決として本会議に送る
予算委員会による審議の目安は15日前後、のべ60~70時間前後です。
(5)公聴会が開かれる
予算案については、中央公聴会を開くことが国会法で義務付けられています。
これは、予算は国民の生活に大きく影響を及ぼすものであり、広く国民の意見を聴く必要があると考えられているからです。
公聴会、委員会での審査が終わると、次は本会議で審議されます。
公聴会については以下の関連記事でより詳しく解説しています。
公聴会とは?国家予算策定時に公聴会を開く重要な理由を簡単解説
(6)衆議院本会議
予算委員会での審議が終わると、いよいよ衆議院本会義での審議に移行します。
本会議は議員全員でおこなわれるので、衆議院本会議は衆議院議員全員の475人で採決をとります。
予算委員会の報告を受け、各党各会派の代表者による討論の後、採決します。
賛成多数であれば予算案は衆議院を通過します。
そして、2月内に衆議院で可決した場合は、憲法に基づいて参議院で議決が行われなくとも年度内の成立が確定します。
(7)参議院本会議
衆議院で可決されると、参議院に送られ、衆議院とほぼ同様の手続きで会議がおこなわれます。
参議院本会議は、参議院議員全員242人で採決をとります。
なお、参議院で衆議院と異なった意見を出した場合、衆議院は両院協議会を請求することになります。
その両院協議会での協議が成立しなければ衆議院の優越という権能により、衆議院の結果が優先されます。
衆議院の優越については3、の項目にて更に解説を行っています。
(8)予算成立、政策の実施
衆議院参議院とも可決されれば、次年度の予算が成立します。
成立後は内閣から省庁ごとに予算を配分され、支出可能な予算額が割り当てられます。
3、国家予算について知っておくべきこと
最後に、国家予算について学ぶうえで知っておくべきことをみておきましょう。
(1)衆議院の優越
衆議院と参議院は原則対等の関係ですが、両院の意見が合わない場合は衆議院が優先されるというルールがあります。
具体的には、
- 法律案の再議決
- 予算案の議決
- 条約の承認
- 内閣総理大臣の指名
これらの事項については衆議院が優越されます。
予算案については、衆議院から審議するという予算先議権が衆議院には認められています(憲法60条)。
なぜなら、予算の財源の多くは国民から徴収した税金だからです。
国民の負担が関わっているため、民意をより反映していると考えらえている衆議院の考えを尊重すべきとされているのです。
また、両院で予算に対する意見が合わない場合、衆議院の意見が尊重されます。
これも衆議院の優越のあらわれです。
具体的には、以下の場合などに衆議院の意思を優先するとされています(憲法60条2項)。
- 両院協議会が不調(合意に至らない)に終わる
- 30日以内に参議院が考えをまとめない
予算案について両院で意見が食い違っていた場合、両院協議会は必ず開かれます。
衆議院の優越に関しては以下の関連記事でより詳しく解説しています。
衆議院の優越とは?参議院よりも意思が反映されやすい理由などを解説
(2)内訳について
予算の内訳は、おおよそ以下の通りです。
歳入については、
- 租税・印紙収入
- 公債金
- その他の収入
など大きく分けて3つから成り立っています。
とくに租税・印紙収入(所得税や法人税、消費税)、公債金は歳入のなかでも大きな割合を占めています。
一方、歳出については、
など大きく分けて5つの経費が占めています。
とくに社会保障費は近年増加しており、2020年の国家予算では全体のおおよそ3分の1を占めるほどです。
この要因には、高齢化社会による医療費や介護費などの増加や高等教育の無償化、幼児教育・保育の無償化などがあげられます。
また、防衛費に関しても2020年予算では増加しており、防衛費の歳出は8年連続の増加となっています。
(3)特別会計は確認不可
特別会計が一般会計と大きく違うのは、国会が確認できない状況が生まれる可能性があるという点です。
特別会計はもともとその事業に関した目的にしか使えません。
たとえば、食料安定救急特別会計であれば、食糧価格の安定や自然災害による農作物の減少等の補填が目的です。
エネルギー対策特別会計なら、省エネを導入した温室効果ガスの削減政策や天然ガスの開発のための予算となっています。
もちろん特別会計も、一般会計と同様の手続きがおこなわれます。
ただし、個別に法律をつくってしまえば、一般会計と異なる処理ができてしまうという特性をもっています。
法律がつくられれば、内容については国会のチェックが働かない状況が生まれてしまうのです。
そのため、「ブラックボックス化しているのではないか」と問題視されています。
まとめ
国家予算の成立には、各省庁の概算請求からはじまり、財務省原案を経て委員会、本会議にて審議・採決という複雑な過程となっています。
ですが、一般会計も特別会計もわたしたち国民の税金が財源として使われています。
日本で少子高齢化が進む以上、国民の税負担はますます重くなるでしょう。
より安心して暮らしていくためにも、わたしたちの税金がどのようにして使われているのか、普段から注視しておくことが大切です。