自殺対策とは、政府による国民の自殺を防ぐ対策全般を指します。
具体的には「自殺対策基本法」、「自殺総合対策大綱」などがあります。
これらの法律や政策のほかにはどのような自殺対策があるのでしょうか?
本記事では
- 自殺対策の概要
- 自殺者数の推移
- 自殺対策基本法について
- 自殺防止のための具体的な取り組み
についてわかりやすく解説します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、自殺対策とは
自殺対策とは、政府による国民の自殺を防ぐ対策です。
具体的には
- 自殺対策基本法
- 自殺総合対策大綱
の2つが挙げられます。
自殺対策基本法とは、2006年に定められた、自殺の防止と家族の支援充実を目的とした法律です。
自殺総合対策大綱とは、自殺対策基本法に基づいた、政府の自殺対策の指針をまとめたものです。
参考:自殺対策基本法(じさつたいさくきほんほう) 厚生労働省
2、日本における自殺者数の推移
2020年の年間累計自殺者数は2万919人です。
前年に比べ750人多く、約3.7%増となりました(速報値による)。
前年よりも自殺者が多かったのは、2009年のリーマンショック後以来でした。増加の背景には、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う生活の変化が、大きく影響していると言われています。
ここでは
- 長期的な自殺者の推移
- 1998年の自殺増加に伴う対策の整備
について見ていきましょう。
(1)長期的な自殺者数の推移
自殺者数は2009年から、新型コロナウイルスが流行する前の2019年まで、緩やかな減少傾向にありました。
下記のグラフは厚生労働省による1978年から2019年の自殺者数の推移です。
グラフ引用元:1 自殺者数の推移 第1章 自殺の現状 厚生労働省
上のグラフから分かるように、1978年から1997年までは、自殺者数はほぼ横ばいでした。
しかし1998年、自殺者数が急激に増加していることがわかります。
一体何が起きたのでしょうか。
(2)1998年の自殺増加に伴う対策の整備
1998年に自殺者が急増した要因には、雇用・失業情勢の悪化があります。
景気はバブル崩壊後から、順調に回復していましたが、1997年3月をピークに再び後退しました。
有効求人倍率は過去最低の水準となり、失業者が大幅に増加しました。
この1998年における自殺者急増へ対処すべく、政府は「自殺対策基本法」「自殺総合対策大綱」を定めたのです。
参考:第1部 平成10年労働経済の推移と特徴 厚生労働省
参考:10万人署名生かす責務 「自殺対策基本法」全党一致の成立 厚生労働省
3、自殺対策基本法について
自殺対策基本法は、2006年に制定された、
- 自殺の防止
- 自殺者の家族に対する支援充実
を図る法律です。
自殺対策基本法の目的は、誰もが自殺に追い込まれることのない社会の実現です。
自殺対策は、生きることへの包括的な支援であると考えられています。
自殺対策基本法では
- 自殺防止のための調査と研究
- 自殺未遂者への支援
- 自殺者の親族等に対する支援
- 関係閣僚を構成員とする自殺総合対策会議の設置
などを定めています。
- 国
- 地方公共団体
- 医療機関
- 事業主
- 学校
- 自殺の防止に関する活動を行う民間の団体
などの連携によって、自殺防止に取り組む旨が記載されています。
参考:自殺対策基本法の概要 第1節 自殺対策基本法制定以前の取組 第2章 自殺対策基本法の制定と自殺総合対策大綱の策定 厚生労働省
4、自殺防止のための具体的取り組み
最後に政府によって行われている、自殺防止の取り組みである
- 広報啓発活動
- 相談窓口の設置
- 自殺に関する対策会議、調査研究室
についてご紹介します。
(1)広報啓発活動
自殺対策法では「自殺は個人的な問題としてだけで捉えるのではなく、さまざまな社会的要因を踏まえて対策すべき」といった理念を掲げています。
この理念に基づき厚生労働省の自殺対策推進室では、広報啓発活動を通して、自殺の予防に務めています。
参考:1 自殺対策の基本理念 自殺対策基本法の概要 第1節 自殺対策基本法制定以前の取組 第2章 自殺対策基本法の制定と自殺総合対策大綱の策定 厚生労働省
①自殺予防週間及び自殺対策強化月間
自殺対策推進室の活動の1つに、自殺予防週間及び自殺対策強化月間があります。
自殺対策基本法に基づき、毎年
- 9月の10〜16日を「自殺予防週間」
- 3月を「自殺対策強化月間」
としています。
2019年の自殺予防週間では
- 広報ポスターの掲示
- インターネット広告による相談窓口の周知
- 金融庁による多重債務者向けの無料相談会
- 全国人権擁護委員連合会による小中学生への相談用の便せんと封筒用紙の配布
の取り組みが実施されました。
画像引用元:令和元年度「自殺予防週間」 厚生労働省
②ゲートキーパー
ゲートキーパーとは、自殺を示すサインに気づき、適切に対処する人を指す言葉です。
ゲートキーパー(Gatekeeper)は「門番」を意味します。
ゲートキーパーに特別な資格は必要ありません。
家族や友人にかぎらず、
- 同僚
- かかりつけ医
- 教職員
- 各種相談窓口担当者
など、さまざまな人物がゲートキーパーになることができます。
厚生労働省では
- 「誰でもゲートキーパー手帳」
- 「ゲートキーパー養成研修用テキスト」
を作成し、ゲートキーパーの養成を進めています。
(2)相談窓口の設置
厚生労働省は悩みを抱える人のために、複数の相談窓口を設置しています。
①「まもろうよ こころ」
「まもろうよ こころ」は自殺対策に関する取り組みをまとめたWebサイトです。
サイト内には
- 各種相談窓口
- トーク番組の配信
- ゲートキーパーの養成テキスト
など、さまざまなコンテンツがあります。
②SNSを用いた相談窓口
「まもろうよ こころ」では、従来の電話相談のほかに、LINEやオンラインチャットを通じた相談も受け付けています。
2021年4月時点で設置されている相談窓口は、次の5つです。
- 特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク
- 特定非営利活動法人 東京メンタルヘルス・スクエア
- 特定非営利活動法人 あなたのいばしょ
- 特定非営利活動法人 BONDプロジェクト
- チャイルドライン(特定非営利活動法人(NPO法人) チャイルドライン支援センター)
LINEを持っていない人でも、QRコードを読み取ることですぐに相談できます。
参考:SNS相談 厚生労働省
(3)自殺に関する対策会議、調査研究
厚生労働省では
- 自殺総合対策会議
- 自殺対策に関する意識調査
を通じて、自殺に関する調査と研究を行っています。
①自殺総合対策会議
自殺総合対策会議とは、自殺対策法に基づき、2006年10月に設置された機関です。
自殺総合対策会議では
- 大綱案の作成
- 関係行政機関相互の調整
- 自殺に関する重要事項の審議
- 自殺対策の実施の推進
を行っています。
②自殺対策に関する意識調査
自殺対策に関する意識調査とは、自殺施策の参考とするために実施される、自殺に関する国民への調査です。
無作為に選ばれた3,000名が調査の対象となります。
調査アンケートには
- 日本の自殺者数を知っているか
- 関連の相談窓口を知っているか
- 自殺対策は自分に関わる問題だと思うか
などの質問が記載されています。
まとめ
今回は自殺対策について解説しました。
日本の自殺対策の基盤は、自殺対策基本法と自殺総合対策大綱です。
1人でも多くの自殺者を減らすためには、社会全体による自殺対策への取り組みや、各個人がゲートキーパーになることが必要です。
「生きづらさ」を感じることのない社会の実現を目指したいですね。