
「NHKをぶっ壊す!」をスローガンに掲げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏(57)が、2025年3月14日に東京・霞が関の財務省前で行われていたデモのそばで、突然近づいてきた男に襲われました。立花氏の命に別状はなく、現行犯逮捕された男は殺人未遂と銃刀法違反の罪で起訴され、「兵庫県の議員が自殺で亡くなったニュースを見て自殺に追い込んだ立花氏に殺意を抱くようになった」などと供述したといいます。NHK党の党首・立花氏ですが、どのような流れで政党を結党し、政党活動を続けているのでしょうか。以下でわかりやすく解説します。
「NHKから国民を守る党」結党の経緯
「NHKをぶっ壊す!」と主張する政治団体「NHKから国民を守る党」(以下、NHK党)の党首である立花孝志氏が、日本放送協会(NHK)の元職員であることは広く知られたところです。NHKを退職した立花氏は2012年、インターネットテレビ「立花孝志ひとり放送局」を立ち上げ、代表取締役社長に就任しました。この会社は現在も存在し、NHK受信料不払いやNHK受信料拒否のサポートも行っているといいます。
①ひとり放送局の社長から政治の世界へ、市議や区議を経験
立花氏は、2013年に「NHK受信料不払い党」の名称で政党を設立。その後、「NHKから国民を守る党」に名称を変更しました。同年9月の大阪府摂津市議会議員選挙から始まり、各地方自治体の選挙で候補者を擁立。2015年には、立花氏が千葉県船橋市議会議員に当選し議席を獲得しました。その後、2016年の東京都知事選立候補に伴い失職し、都知事選には落選しましたが、2017年に東京都葛飾区議として当選を果たしました。市議や区議時代には、集金人の戸別訪問規制や、受信料を払った人だけが視聴できるスクランブル放送の実現を訴えました。
➁参院選への擁立を経て国政政党へ
2019年の参院選でNHK党は、フォロワーを多く持つYouTuberらを擁立したり、政見放送で大分県選挙区の立候補者が一言も発さなかったりと、物議を醸しました。NHK党(旧N国党)は比例区において1議席を獲得し、党代表の立花氏が当選。選挙区においては全員が与野党候補に及ばず落選しましたが、選挙区においての得票率2%を達成したことで、公職選挙法と政党助成法上における政党要件を満たし、国政政党として認められました。
その後は、国会内で活動範囲の拡大やテレビ討論への出演などを目指し、無所属議員らの入党を呼びかけるなど党勢拡大に向け動いています。
③党名を何度も変更
現・NHK党はその党名を何度も変更した経緯があります。2021年には「NHK受信料を支払わない方法を教える党」から始まり、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」など1年で計4回党名を変更。2022年にも2回の党名変更を行いました。2023年には参議院議員のガーシー(東谷義和)氏の懲罰を受け、立花氏が党首を辞任。後任に大津綾香氏が就任し、党名を「政治家女子48(フォーティーエイト)党」に変更しました。その後も党名変更を繰り返しています。
NHK党の政策と主張、国民の反応は?
NHK党は当初、公共放送であるNHKを受信料を払った人だけが視聴できるようにする「スクランブル化」の実現を掲げる単一論点政党でした。あくまでNHKを視聴している人は受信料を支払うべきであり、NHK党はNHKを視聴しない人を助けるという姿勢であり、NHKの集金人が訪問しなくなるという名目で「NHK撃退シール」を無料で配布するなどしています。
①党六大政策とは
NHK党が掲げる最新のマニフェストでは、「既得権益をぶっ壊す NHK 党六大政策」が掲げられています。
マニフェストではNHKスクランブル放送化のほかに、メディアの政治的公平の建前を廃止し放送法を改正することや、記者クラブの廃止などを求めており、さらに増税の反対や社会保険料の引き下げ、反日勢力・外交安保政策でも様々な公約を掲げています。
➁諸派党構想の実現
さらに、NHK党は国政選挙において諸派となる政党・政治団体を同党に結集させ、協力する「諸派党構想」の実現に乗り出しています。日本の選挙制度では、衆院・参院の国政選挙は一般の政治団体と国政政党の扱いが異なり、政見放送や政党助成金などで国政政党のほうが有利な条件となっています。立花氏は、こうした政治団体が選挙報道において泡沫候補扱いされることを防ぐため、国政政党であるNHK党のプラットフォームを活用し、国政選挙に挑戦できるシステムを考えました。
この構想では、つばさの党やホリエモン新党、次世代あらかわなどといった政党が諸派連合として関わっています。
③暴露系Youtuberガーシ議員の逮捕。NHK党のSNSはエコーチェンバーを起こす?
2022年の参院選では、ガーシー(東谷義和)前参院議員がNHK党から立候補し、比例で約28万票を集め初当選しました。ガーシー前議員は、過去に交流があった著名人の裏話を配信する暴露系YouTuberとして活動していましたが、警視庁は動画で脅迫や中傷を受けたとする複数の告訴状を受理し、任意の事情聴取を要請していました。ところが、当時アラブ首長国連邦(UAE)のドバイに滞在していたガーシー前議員は、「不当逮捕の恐れがある」として帰国せず、一度も国会に登院しなかったため参院本会議で除名となり、直後に逮捕状が出されました。
これには、一票の重みの重要性を訴える声も上がり、NHK党やガーシー前議員が選挙戦に活用したSNSが、自分と似た考えを持つ人とコミュ―ケーションを取るうちに、特定の意見や思想が増幅していくエコーチェンバー現象を引き起こしているとの指摘もありました。
まとめ
NHK党に対する国民の反応は様々です。昨年実施した兵庫県の斎藤知事のパワハラ疑惑に端を発した出直し選挙では、立花氏は立候補した上で自身の当選を目指さず、斎藤氏を応援することを公言しました。斎藤知事のパワハラ疑惑を「デマ」と主張し、県議会やマスコミに対し「事実を隠している」などと批判。SNSには疑惑を文書で告発した元県幹部の私的情報とされる投稿もありました。
さらに、問題となったのが斎藤知事のパワハラなどの疑惑を追及した、県議会調査特別委員会(百条委)の委員長宅前での演説の配信です。「出てこい」と威圧し、「自死されたら困るのでこれくらいにしておく」などと嫌がらせをし、多くの批判の声も上がりました。
一方で、NHK党の立花氏が応援した斎藤知事は選挙で当選を果たしています。これが、立花氏の応援の成果といえるかはわかりませんが、同選挙を巡っては、日本維新の会の増山誠・兵庫県議会議員が選挙期間中、立花氏に対して非公開で行われた県議会の百条委員会の音声データを提供したことを明らかにしています。立花氏は街頭演説で、県議会の百条委員会での元副知事の発言だとする音声データを公開しており、この中には元副知事が知事の告発文書を作成した元局長の公用パソコンに、私的な情報などが入っていたことを証言しようとし、遮られる場面が含まれていました。
こうした立花氏の「暴露」ともいえる言動やSNSでの情報発信を、県民の一定数が信じ、投票に影響を及ぼしたことは否定できません。
国政政党はどうあるべきなのか。その在り方が問われています。
参考・引用
読売新聞
NHK:首都圏 NEWS WEB/兵庫 NEWS WEB
NHK党 公式HP
