「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコム政治の機能政治の考え方直接民主制とは?日本やスイスを例に制度をわかりやすく解説

直接民主制とは?日本やスイスを例に制度をわかりやすく解説

投稿日2022.10.31
最終更新日2024.01.09

民主主義には「間接民主制」と「直接民主制」の二つの制度があります。

「直接民主制」とは重要事案の可否を住民投票や国民投票で決めるといったように、住民・国民が直接政治を行う制度です。

一方、「間接民主制」は、投票によって選出された首長や議員が政治を行う制度です。

近年、EU離脱の是非を問うたイギリスの住民投票、或いはフランスの極右政党による政権への要求などにより、「直接民主制」について報道番組で見聞きすることも増えたと思われます。

そこで今回は

  • 直接民主制とは
  • 直接民主制は日本やその他の国でどのように適用されているのか
  • 直接民主制にはどんな欠点があるのか

などについて解説します。

1、直接民主制とは

直接民主制

(1)古代ギリシャ|日本の直接民主制

中世以前において、唯一の「民主的政治」が行われていたと言われるのが、紀元前5世紀頃におけるギリシャの都市国家です。

アテネ(アテナイ)とアッティカにおいて、法案や法制定については市民が直接行う投票での多数決によって決められていました。

このような代表者を介さずに市民・国民が直接政治に参加する仕組みを直接民主制と呼びます。

直接民主制には3つの原理があります。

  • 国民発案(イニシアティブ)
  • 解職請求(リコール)
  • 国民投票(レファレンダム)

それぞれについて見ていきましょう。

①国民発案(イニシアティブ)

国民発案(イニシアティブ)とは参政権(政治に参加する権利)を持つ者が立法や憲法の改正などについて発案する権利を持つことです。

日本では地方行政において地方公共団体の条例の制定や改廃を請求することができます。
地方自治法74条では条例の制定や改廃の請求について詳しく定めています。

②解職請求(リコール)

国や自治体などの公職にある者を任期満了前に国民・住民により罷免(ひめん:解任する)する制度のことです。

日本では

  • 都道府県知事や市町村村長の解職請求
  • 地方議会の解散請求
  • 地方議員や地方役員の解職請求

など地方行政において利用することができます。
また地方自治法76条に解職請求(リコール)について詳しく定められています。

③国民投票(レファレンダム)

国民投票とは国家の議案に対して国民が直接投票してその是非を決めることです。

日本では憲法改正の際に国民投票が行われますが、日本の国政で直接民主制が用いられるのは憲法改正の場面に限られています。

(2)ワイマール憲法

当時のドイツの憲法(ワイマール憲法)は、他の先進国と比べても民主的であり、国民投票という直接民主制度を部分的に利用したと言われています。

例えば直接選挙によって選出された大統領に絶大な権力を持たせるなどして、民意の反映を行おうとしていました。

この大統領は国家元首として扱われ、任期は7年です。

2、日本の直接民主制

日本

(1)地方自治における直接請求権

前述したように国政レベルでは憲法改正の際の国民投票しか直接民主制は機能していません。

しかし地方自治においては直接請求権として住民発案の下、地方公共団体に条例の制定や廃止を求めたり、首長の罷免を要求することができるようになっています。

直接請求権は

  • 条例の制定や改廃の請求
  • 事務監査請求
  • 地方議会の解散請求
  • 議員首長の解職請求
  • 職員の解職請求

の5つからなります。
1つずつ見ていきましょう。

①条例の制定や改廃の請求

地方公共団体の条例を制定することや廃止・変更の要求をすることができます。

地方自治法74条より「有権者総数の1/50以上の署名」が条件となり、地方公共団体の首長に発案代表者が請求する必要があります。

請求された首長は請求を受理した日から20日以内に議会で審議を行い、結果を公表しなければなりません。

②事務監査請求

地方公共団体が具体的に何をしているのかについて監査を請求することができます。

地方自治法75条より「有権者総数の1/50以上の署名」が条件となり、監査委員に発案代表者が請求する必要があります。

その後監査が行われ結果が公表されます。

③地方議会の解散請求

地方議会の解散を請求することができます。

地方自治法76条〜79条より「有権者総数の1/3以上の署名」が条件となり、選挙管理委会に発案代表者が請求する必要があります。

その後住民投票が行われ、過半数の賛成が集まれば議会を解散することになります。

④議員、首長の解職請求

議員や首長を罷免することができます。

地方自治法80条〜85条より「有権者総数の1/3以上の署名」が条件となり、選挙管理委会に発案代表者が請求する必要があります。

その後住民投票が行われ、過半数の賛成が集まれば解職されます。

⑤特別な職員の解職請求

副知事や副市町村長、選挙管理委員会、監査委員などを罷免することができます。

地方自治法86条〜88条より「有権者総数の1/3以上の署名」が条件となり、首長に発案代表者が請求する必要があります。

その後議会の審議により、議員総数の2/3以上が出席し、3/4以上がそれに賛成することで解職されます。

以上5つが直接請求権になります。下の表はそれを整理したものになります。

条例の制定や改廃の請求 事務監査請求 地方議会の解散請求 議員、首長の解職請求 特別な職員の解職請求
署名数(有権者の内) 1/50以上 1/50以上 1/3以上 1/3以上 1/3以上
請求先 首長 監査委員 選挙管理委員 選挙管理委員 首長
請求後 20日以内に議会で審議を行い、結果公表 監査が行われ結果公表 住民投票が行われ過半数の賛成で議会を解散 住民投票が行われ過半数の賛成で解職 議会の審議により議員総数の2/3以上が出席3/4以上の賛成で解職

 

(2)自治会の直接民主制

地域の居住者で構成される自治会(町内会など)では、年に一度の総会(及び規程された臨時総会)において、全員(若しくは規程された有効出席率)の出席のもと、議論や決議が行われます。

それ以外の会合などにおいては、選出された理事などによって決定がなされる為「間接民主制」にあたります。

ただ、総会の場では決議される事項が限られているとはいうものの、「直接民主制」の形はとっていると言えます。

以下の記事では地方分権について詳しく解説しています。

地方分権とは?地方分権の7つの目的や欠点を簡単解説

「地方分権」とは、政治において統治する権利を地方公共団体に分散させることを言います。 しかしそれだけでは具体的に地方分権が何であるのか理解できていないと言う方も少なくないでしょう。 今回は、以下の内容について解説します。 地方分権の目的 地方分権の具体例 地方分権改革について 地方分権のデメリット この記事を読むことで地方分権に対する疑問が解消されます...

3、スイスの直接民主制

スイス

民主主義が発展してきた近代以降で「住民(国民)が直接、決定に関与」という形は多くはありません。

代表者を立てる間接民主制が主流であるためです。しかしスイスのような事例も存在します。

(1)国民発案権(イニシアティブ)

スイスでは国民が憲法改正の請求を行うことができます。

この憲法改正の実現のためには国民投票を行う必要がありますが、国民投票を行うためには【18ヶ月以内に集められた10万人の署名】が必要になります。

(2)国民投票(レファレンダム)

法律の成立要件は議会(連邦議会)での可決ですが、一定の条件を満たすと、国民が議会の決定を否決できます。

具体的には連邦議会を通過した法律に国民が反対の場合、「国民投票」で有効投票の過半数を獲得すれば、その法律を廃案とすることができます。

国民投票で法律の信を問う条件は、【5万人の有効署名を法律の公表後100日以内に連邦内閣事務局に提出すること】になります。

現在では類似の制度が

  • リヒテンシュタイン公国
  • サンマリノ共和国
  • ウルグアイ

などにも導入されています。

また議会が憲法の改正を行う場合、国民投票によって国民の承認を得る必要があります。
国際組織に加入する際にも同じように、国民の承認を得ることが義務となっています。

4、直接民主制のデメリット

直接民主制のデメリット

ここまで、国民が直接的に政治を動かす制度が採用された幾つかの事例を見て参りました。

しかし、国政レベルで継続して定着し、且つ有効に機能しているのは、スイス等のごく一部に過ぎません。

スイスは全世界における唯一の「永世中立国」としての歴史があり、国民の価値観も独立意識が高く、他国とは異なるかもしれません。

直接民主制はなぜ適用が難しいのでしょうか。次のような理由があると言われています。

  • 議員などと比較すると知識などが充分でないため安易な決断を行う恐れがある
  • 反対意見を述べにくい
  • 膨大すぎる意見をまとめることが非常に困難
  • 少数意見はより軽視されてしまう危険がある

少数意見であっても、例えば党の発表やメディアなどによって有権者に届く可能性がある間接民主制と比較すると、少数意見が多数派により隅に追いやられてしまう可能性があるかもしれません。

また間接民主制であれば能力的に不十分な議員が一度当選しても、次回以降当選し続けることは困難になる傾向があります。

そのため知識や国の今後という大局的視点を持つ「適任な人物が国政を担う可能性」が直接民主制よりも高くなると言えるでしょう。

そして意見対立により議論が膠着した場合、間接民主制であれば「政党」や「国会対策委員会」などの組織が調整役として機能できます。

直接民主制に関するFAQ

Q1.直接民主制とは?

直接民主制とは重要事案の可否を住民投票や国民投票で決めるといったように、住民・国民が直接政治を行う制度です。

Q2.直接民主制にはどのような原理がありますか?

直接民主制には3つの原理があります。

  • 国民発案(イニシアティブ)
  • 解職請求(リコール)
  • 国民投票(レファレンダム)

Q3.直接民主制の欠点はあるのか?

直接民主制は適用が難しいという側面があります。
理由として考えられる要素は以下の通りです。

  • 議員などと比較すると知識などが充分でないため安易な決断を行う恐れがある
  • 反対意見を述べにくい
  • 膨大すぎる意見をまとめることが非常に困難
  • 少数意見はより軽視されてしまう危険がある

まとめ

直接民主制では、民意を反映しやすい一方で、運用が難しいという面があります。

今後、日本がスイスのような直接民主制の社会になる可能性は低いと考えられますが、直接民主制を運用することができるスイス国民の政治への関心の高さには見習うところがあるかもしれません。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。 社内編集チーム・ライター、外部のプロの編集者による豊富な知見や取材に基づき、生活に関わる政策テーマ、政治家や企業の独自インタビューを発信しています。