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EBPMとは?概要や現状、課題点をわかりやすく解説

投稿日2025.3.11
最終更新日2025.03.11

2024年版の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、EBPMの強化が重視されました。

EBPM(Evidence Based Policy Making)とは、科学的根拠に基づいて政策を立案・評価する考え方を指します。限られた財源を効果的に活用し、政策の成果を検証するために、このアプローチが注目されています。

以下では、EBPMの概要や背景、日本における導入状況と課題について詳しく説明します。

1. EBPMとは?

EBPMとは、Evidence Based Policy Makingの略称で、証拠に基づく政策立案を意味します。内閣府は「政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化し、合理的根拠(エビデンス)に基づいて立案すること」と定義しており、データや分析結果を活用して政策を策定・評価する考え方といえます。

EBPMの活用に関して、諸外国ではイギリスが1997年のブレア政権から、アメリカでは2009年のオバマ政権から本格的に推進しており、日本では2016年の統計改革推進会議を契機に議論が活発化しました。2021年に発足した岸田政権ではEBPMの徹底強化が強調され、現在の石破政権でも政策決定プロセスへの導入を継続して推進しています。

引用:内閣府

参考:衆議院首相官邸HP

2. EBPMが推進される理由

なぜ日本政府はEBPMを強化しようとしているのでしょうか?以下2点が指摘されています。

1. 限られた財政資源の効率的な活用

少子高齢化に伴い社会保障費の増大が避けられない中、データや分析に基づいて政策の優先順位を決定し、費用対効果の高い施策を選択することが求められています。

現在、国の約5000事業のうち6〜8割は既存の継続事業とされ、その多くが政策の効果検証が十分に行われていないと指摘されています。この背景には、過去の慣例や個別の成功事例に基づいた「エピソード・ベース」の政策立案が根強く残っていることが挙げられており、こうした課題を解決するため、EBPMを通じて客観的なデータや実証分析に基づく政策評価を導入し、より効果的な財政支出を実現することが期待されています。

2. 柔軟な政策決定プロセスの確立

コロナ禍では現金給付政策が実施されたものの、一律給付とするか限定給付とするかをめぐり、国民的な議論を呼びました。このような政策判断の遅れの要因として、途中で政策を変更することは許されないという官僚機構に根付く意識が指摘されており、政策の柔軟性を損なう要因であると評価されています。

一方、EBPMは政策成果をどのように評価するかを事前に明確にし、データに基づいて政策を修正することを前提とするアプローチであり、その推進により、政策の効果が低いと判明した場合に迅速に軌道修正できる仕組みが確立され、官僚機構の機動性や柔軟性を高めるものとして期待されています。

引用:首相官邸HP

参考:デロイトトーマツ

3. EBPMの日本における現状

日本はEBPMの活用が十分ではないと指摘されています。

例えば、石破政権が掲げる最低賃金の全国平均を1500円まで引き上げるとする政府目標に関して、影響分析の不十分さが議論になっています。最低賃金を引き上げる際には、雇用への影響や企業の対応を精緻に分析することが不可欠です。実際、イギリスやドイツでは、政府・労働者・使用者の三者で構成される最低賃金委員会が、膨大なデータを用いて影響分析を行いながら最低賃金の改定を決定しています。

一方、日本の最低賃金審議会では、公開されている議論や資料を見る限り、企業規模別の雇用影響や産業ごとの適用可能性に関する詳細な分析が不足していると指摘されています。こうした状況から、日本におけるEBPMの活用が十分でないことが浮き彫りになっています。

参考:大和総研

4. EBPM活用における課題点

日本におけるEBPMの活用を強化する上で、以下の構造的な課題が指摘されています。

1. データ不足

日本では、政策立案に必要なデータの公開が十分に進んでいないという問題があります。

例えば、最低賃金政策に関する議論では、賃金中央値の公表が行われておらず、代わりに一般労働者の所定内給与月額やパートタイム労働者の所定内時給といったデータに限られています。しかし、国全体の正確な賃金中央値は最低賃金政策の検討に不可欠であり、データ公開の拡充が求められています。

2. 分析体制の不足

データの不足に加え、EBPMを支える専門人材や分析体制の不足も大きな課題とされています。

例えば、アメリカ政府のEBPM関連部局では、労働省のスタッフ18人のうち7人、保健福祉省子ども家庭局のスタッフ77人のうち52人が博士号を取得しています。また、EBPM担当者は10〜15年ほど同じポジションにとどまることが一般的です。一方、日本のEBPM関連部局は、多くの省庁で2〜5人程度の配置にとどまり、博士号取得者も少ないのが現状です。さらに、日本では担当者の異動が数年ごとに行われるため、専門知識の蓄積が難しくなっています。

3. 政策決定プロセスの問題

さらに、日本では政策決定のプロセス自体が、EBPMの活用を阻害する要因となっていると指摘されています。日本では、重要テーマが官邸主導で急浮上することが多く、十分な政策効果の検証を行う前に実行されるケースが少なくありません。

一方、イギリスでは、政府の楽観的な見積もりに基づく政策が実施されないよう、独立財政機関やメディアが厳しくチェックを行う仕組みがあります。この仕組みにより、政策決定の過程で客観的なデータや分析結果の活用が求められ、EBPMの実効性が担保されています。

参考:大和総研日経新聞

まとめ

科学的根拠に基づいて政策を評価・立案する手法であるEBPMは、限られた財政資源を効率的に活用し、柔軟な政策決定プロセスを確立するうえで重要な役割を果たします。 日本政府もその推進に取り組んでいますが、データ不足や分析体制の不備、官邸主導の政策決定プロセスといった課題があり、EBPMの実践は十分ではありません。今後、EBPMをより実効性のあるものとするため、政府による改革が求められます。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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