遠藤利明 えんどう・としあき 議員
1950年 山形県出身 中央大学法学部卒
国会議員の秘書を経て山形県議会議員を2期務める
1993年 衆議院議員選挙で初当選(10期)
東京オリンピック・パラリンピック担当大臣などを経て
2023年 日本スポーツ協会会長就任
1980年代に誕生したコンピューターゲームは、2000年に入り「eスポーツ」という新たな産業を生み出しました。2023年には市場規模が150億円に迫り、その後も拡大を続けています。今回のインタビューでは日本のスポーツ政策に深く関わってきた遠藤利明議員に、eスポーツの魅力や今後の可能性についてお聞きしました。
(取材日:2025年10月17日)
(文責:株式会社PoliPoli 河村勇紀 )
原点は「政治は人が喜んでくれる仕事」

ー遠藤議員が政治家を志したきっかけを教えてください。
小学校5年生の頃に、伯父が県議会議員を務めていました。周りは農家が多かったので「うちの周りの道をなおしてほしい」とか「あそこの川があふれるからなんとかしてくれ」とか「りんごに病気がついて困っている」といったさまざまな相談を受けていました。すると伯父は県庁に行ったり、「国に行ってくる」と言って、おそらく東京の霞ヶ関(中央省庁)に行って何か要望してきたんでしょうね。数日後に帰ってきて、問題が解決されたのか「うまくいったよ」と。そうすると近所の皆さんが喜んでくれるわけです。
それを見て子どもながらに「政治というのは人が喜んでくれる仕事なんだな」「人のためになる仕事なんだな」と思ったのが原点かな。天下国家なんてことは最初は全く考えてなくて、みんなの暮らしをよくしたいということなんだよね。両親はともに学校の先生なので、教育者の道を考えたこともあったけど、やっぱり本当に興味のある道に進んだ結果、政治家になったという感じです。
自分がやりたいという仕事をずっとやってこられたので、恵まれた政治家人生だと思います。農業や建設、教育、スポーツ、文化芸術に取り組んできて、選挙区の皆さん方がいつもどんな時も、一生懸命応援してくれたことに感謝しています。だから、後継者をきちっと作って、この道をさらに進めてもらいたいと思っています。
eスポーツを「スポーツ界全体の起爆剤に」

ー遠藤議員は、ラグビーをはじめとしてリアルスポーツに携わってこられましたが、その遠藤さんがeスポーツに携わるようになったきっかけはなんですか?
私はもともとゲームはあまりしませんでしたが、東京タワーの下に「RED°TOKYO TOWER」というアミューズメント施設があり、そこでさまざまなeスポーツを体験したことがありました。本当に楽しかったんですよ。ようするに、私のような世代から子どもまで、また障がいを持っている方でも楽しめる。そこがeスポーツの魅力なんだよね。
昔、デパートに自動車レースの遊具があったでしょう。あれもね、eスポーツなんですよ。だから、もうすでに昔から、eスポーツという名前じゃないけれど、遊んでいたんです。最近だと、シミュレーションゴルフもそう。今までそれぞれ、スポーツという捉え方をせずに、遊びという枠の中で考えていたものが、実際的にはもうスポーツなんじゃないかと。eスポーツをきっかけに実際のスポーツに来る人もいるので、スポーツ全体の枠を広げていくことに繋がるんじゃないか、そう考えるようになったんです。
ー遠藤議員はスポーツ振興に力を入れてこられましたが、いまの「eスポーツ」の状況についてどうみていますか?
もともと日本のスポーツはとても純粋で、体育と武道から発展してきたので、健康や集団規範が重視されていて、「スポーツで金を儲けるなんて邪道だ」、「一生懸命、汗をかかなければスポーツではない」という意識が強かったんだよね。ただ、これだけ世界がeスポーツに力を入れている中で、日本がそこに関わらないわけにはいかないでしょう。
2023年にはシンガポールで「オリンピックeスポーツウィーク2023」が開催されましたが、これを見に行ったときに「スポーツ界を挙げてeスポーツに取り組むべきだ」と感じました。スポーツ界が協力せずに、ゲームメーカーだけでやっていても、さまざまな競技団体との接点を作ったり、全体としての取り組みができない。私もそれまでは「汗をかかない」という理由でeスポーツに少し否定的な考えも持っていたんだけど、大きく考えが変わったんだよね。
そこからスタートして、「暴力的なシーンのあるゲームも認めるかどうか」といった議論もあったけれど、日本スポーツ政策推進機構(NSPC)という組織で基準を作ってもらって、いろいろな関係者に協力を呼びかけていきました。
eスポーツをすることで、実際のスポーツに参加するきっかけが生まれたり、スポーツに資金が集まったりするメリットも認識してもらえるようになりました。さらには日本でも国際大会が開かれるような動きにつながれば、さらに盛り上がるでしょう。
ただ、世界のeスポーツはインターネットが主流で、パソコンやタブレットを使うけれど、日本はゲーム機メーカーが主流というところが大きな違いです。日本には多くのゲーム機メーカーがあるので、ぜひ頑張って盛り上げてほしいですね。
eスポーツ✕地方活性化「地方のお祭りに」

ーeスポーツの活性化に向けて遠藤議員が取り組んでいることを教えてください。
東京オリンピック・パラリンピックの時に、3000ほどの文化プログラムを行いました。いま、取り組んでるのは、日本スポーツ協会が主催する「国民スポーツ大会」にeスポーツを取り入れることです。文化プログラムだけではあまり広がらないので、本格的にやっていこうと。
この国民スポーツ大会は毎年、都道府県が持ち回りで開催しているけれど、開催地には運営費の負担が大きい。今年で79回目を迎えて、何となくマンネリ化している感もあるんだよね。それでも、予選から含めて30万人ほどの選手が参加しているわけで、ここにeスポーツを加えて、もっと活性化して地域の楽しみになるようにしようと。
国民スポーツ大会の課題のひとつには、世界大会とのスケジュールなどの都合で有名な選手が参加できない、ということもあります。そこは、開催期間を少し長くして、日本選手権みたいな形にして、有名な選手を参加させてくれるスポーツ団体には国が支援するといったことで、大会自体を盛り上げていこうとしています。
そこにプラスしていま、一般社団法人日本eスポーツ協会(JESU)とも連携して、国民スポーツ大会の改革検討チームを作って、eスポーツの導入について協議を進めています。eスポーツに加えて、チェスやペア碁などのマインドスポーツ、そして文化・芸術との融合によって、国民スポーツ大会をひとつの大きな「お祭り」にできないかと考えています。そうすれば、うちの自治体でもやりたいというところが出てくる。そうして地域活性化につなげていこうと考えています。
ーeスポーツの大会を地方で開催することも地域経済の活性化につながりますね。
そこに人が集まればもちろん、地元の物を食べたり飲んだりもするし、観光もするし、お土産を買っていく人もいる。そういう地域の良さ、その地域の持ってる力を宣伝できる絶好の機会になると思います。
合わせて国民スポーツ大会も含めて大会中に、例えば、東京の美術館が持っている有名な芸術作品を開催地に貸し出して美術展を開催したり、歌舞伎をやるとか、相撲の巡業をしてもらうとか、文化プログラムを組合わせれば、その期間は「スポーツと文化のお祭りですよ」と。そんな風にして、東京などの大都市だけで開催するのではなく、地方にも広げていくことで、全体のパイも広がっていくんじゃないかな。
eスポーツ✕多様性「楽しいをきっかけに」

ー世代や障がいの壁を超える点でもeスポーツは注目されていますが、その可能性をどのように感じていますか。
私も75歳で、まだラグビーをやってるから、年に1回か2回はジャージー着てグラウンドでやるけれど、そういう楽しみが大事なんだよね。最初に話した「RED°TOKYO TOWER」なんかに行くとすごく楽しい。スポーツのきっかけは楽しみなんだよね。そういう意味でも、eスポーツをやることで、例えば、ゴルフのeスポーツをやってみて、じゃあ今度は直接、芝の上でゴルフをやってみたいなとか、きっかけになるわけです。障がい者の方も、eスポーツをきっかけに「本格的にパラスポーツに挑戦してみようかな」という気持ちになる。高齢者もそんなに抵抗なく楽しめるし、子どもたちがリアルスポーツを始めたり、子どもや高齢者、障がい者にも、eスポーツはいいきっかけになるんです。
日本のスポーツは体育と武道が根っこにあるから、これまではどうしても堅苦しい側面がありました。本来は「遊び」から入って、やっているうちに「もっと上手になった方が楽しい」という気持ちが芽生えて、どんどん上達して世界チャンピオンになる、という姿が理想だと思うんだよね。
ー認知症などの予防にも効果があるともいわれています。
「マインドスポーツ」というのがありますよね。マインドスポーツは本当に幅広くて、囲碁・将棋、チェスの他、マージャンやトランプも見方によっては、これもスポーツじゃないかと。最近では、囲碁を2人一組で行う「ペア碁」の普及に取り組んでいる日本ペア碁協会さんが、国民スポーツ大会に参加したいと言ってくださっています。リアルでやる場合もあるし、ゲームでやる場合もあるし、同じですよね。そういうマインドスポーツの枠を広げていく、そういう面でもeスポーツには大きな効果があります。
ーeスポーツをさらに広める上で制度的、政策的な課題はなんでしょうか。
スポーツ界やゲーム業界の連携が必要だと感じています。スポーツ界は、今までそれに取り組もうという関心がなかった。一方で、ゲーム機メーカーも、ゲームの延長線上で考えるので、それぞれの競技団体と結びついても、スポーツ界全体を利用するという発想がなかった。もっとみんなで一緒にやっていこうよと。すべての種目が一気に進まなくても、野球もあるしサッカーもあるしゴルフもあるし、いろいろなeスポーツがあるんだよね。eスポーツが国民スポーツ大会に入ることをきっかけに、できるところから連携を進めていけたらと思っています。
ー多様なプレーヤーの参画を促すうえで、政治が果たせる役割は何でしょうか。
今までのスポーツ団体は事業をする組織だけで、ヘッドクォーターがなかったため、日本スポーツ政策推進機構(NSPC)を作りました。日本スポーツ協会(
「教育・文化・スポーツの後継者を育てたい」

ースポーツや文化の振興にたずさわってきた遠藤議員が、政治家として目指す未来像や注力したいことを教えてください。
多くの人があまり意識していないことだけれど、国の成長の基盤となるものは「教育」なんです。政治家の仕事というのは「国民が豊かに生活できる社会をどのように築くか」を追求することに尽きる。そのためには日本の国力を高める必要があって、教育や技術、安全な暮らし、防災など、幅広いテーマについて考えなければなりません。
その中で私が心配しているのは、教育への投資が少ないことなんだよね。戦後の高度成長を経験した結果、「日本の教育はうまくいった」と安心してしまった側面があるんじゃないかな。しかし、今や日本のGDPは各国にどんどん追い抜かれてしまっている。
日本国憲法に国民の3つの義務として「教育・勤労・納税」が明記されているけれど、これも「教育」が第二十六条で一番先の順番なんですよ。もちろんインフラ整備や社会福祉も重要だと思うけれど、そのベースを築くのが教育なのに、今の日本では抜け落ちてしまっているんじゃないかな。
ただ、教育政策に一生懸命取り組んでも、スポーツや文化芸術政策などど同じように、選挙の時の政策テーマとしては関心度が低いんです。だから、夢中になって教育政策を訴える政治家が少ないんです。それでも私は、この分野に熱意をもって取り組んでくれる後継者を探して育てていくことが、私の最後の仕事だと思っています。













