ハラスメントとは、相手の意思に沿わない行為をして不愉快な感情を抱かせる、いわゆる「嫌がらせ」や「いじめ」のことを意味します。
従来のセクハラ・パワハラをはじめ、近年さまざまなハラスメントが問題視されています。
そこで今回はハラスメントについて
- ハラスメントの概要
- ハラスメントの種類
- 日本のハラスメントの現状
- ハラスメントに対する取り組み
などわかりやすくご紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、ハラスメントとは?
性別や年齢、宗教や身体的特徴、人格などを否定するような言動を行って
- 相手に不愉快な思いをさせる
- 尊厳を傷つける
- 脅威を与える
といった行動が「ハラスメント」です。
ここで重要なのが、行為者がどう思っているかは関係ない、ということです。
つまり「無自覚」もしくは「良かれと思って」行ったことでも、相手に不愉快な思いをさせてしまうと、ハラスメントにあたる場合があるのです。
近年はハラスメントの問題が増加傾向にあることから、防止する重要性が一層高まっています。
2、ハラスメントの種類
具体的にはどのような行為が問題となっているのでしょうか。
ここでは数あるハラスメントの中から、いくつかご紹介します。
(1)アルコールハラスメント(アルハラ)
会社やサークルなどの飲み会で上司や先輩からお酒を勧められ、拒否できない状態がアルコールハラスメントです。
アルコールをはじめとする依存性薬物問題への対処を支援するNPO法人ASKによると、アルハラの定義は以下の5つです。
- 飲酒を強要すること
- イッキ飲みを強要すること
- 意図的に酔い潰すこと
- 飲めない人への配慮を欠くこと
- 酔って迷惑行為をすること
自分がアルハラの加害者であると自覚しにくいという点がアルハラの大きな特徴です。
また、アルハラは刑事、民事といった法的責任が問われる犯罪にもつながります。
たとえばお酒を無理やり強要する事は強要罪、強要された相手が酔い潰れてしまった場合には傷害罪などに問える場合もあります。
無理な飲酒は最悪の場合死に至ることもあるため、十分注意してください。
参考:アルハラの定義5項目
(2)パワーハラスメント(パワハラ)
職場的地位の高さを背景に行われる不快な行為が、通称「パワハラ」と呼ばれるパワーハラスメントです。
具体的には、「その言動が業務の適正な範囲を超えており、肉体的・精神的な苦痛を与える、もしくは仕事場を悪化させること」と定義付けされています。
いわゆる「部下への嫌がらせ」などがこれにあたります。
場合によっては
- 傷害罪
- 暴行罪
- 侮辱罪
など刑事罰の対象となる場合もあります。
「同じ職場で働く者に対して」という文言通り、社員だけではなくアルバイトやパート社員、派遣社員も含まれます。
(3)モラルハラスメント(モラハラ)
悪口や無視などで相手の精神を追い詰めていく、「大人のいじめ」とも呼ばれる行為がモラルハラスメントです。
フランスの精神科医であるイルゴイエンヌ氏が著書の中でモラルハラスメントという表現を使ったことから一般的に認知されるようになりました。
パワハラと違って、立場や場所が関係なく、殴る蹴るなどの暴力行為は基本的に含まれません。
具体的には
- 上司から延々と無視される
- 部署内で一人仲間外れにされる
- 夫にとことん暴言を吐く
などが当てはまります。
(4)ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
「男のくせに」「女なのに」など性別に関する固定観念や偏見に基づいた嫌がらせをジェンダーハラスメントと呼びます。
異性間だけでなく同性間でも起こります。
ジェンハラが強く認識されるようになった背景には
- 女性の権利拡大
- LGBTの権利保障
など国際的な取り組みがあげられます。
具体的なジェンハラとしては
- お茶くみやコピー取りなどの雑用仕事を女性社員だけに半ば強要する
- 仕草などに「男らしさ」「女性らしさ」を求める
- 性別に基づいて恋愛や結婚の話をしつこくする
といったことがあります。
(5)セクシャルハラスメント(セクハラ)
性的な嫌がらせによって個人または職場全体に、不利益や不快感を与える行為がセクシャルハラスメントです。
男女雇用機会均等法では「仕事場において相手(労働者)の意思に沿わない性的な言動」を対象としているため、異性に限らず同性に対してもセクハラとみなされることがあります。
具体的には、「被害者が不愉快に思う性的な言動を抵抗・拒否したことで不都合が生じたり、仕事場が害されたりすること」と定義づけしています。
ちなみに、「仕事場」とは会社内以外にも、
- 取引先の事務所や自宅
- 接待の場
- 業務を行う場所
であればどこでも含まれ、他社間で起こったセクハラも会社側で対処しなければなりません。
3、日本のハラスメントの現状
ここ数年ハラスメント関連の問題は顕在化しており、とくに企業内でのトラブルは増加しつつあります。
「令和元年度個別労働紛争制度の施行状況」によると、総合労働件数は118万以上となっており、12年連続で100万件を超えています。
また、2012年に行われた厚生労働省のアンケートによると、仕事場での嫌がらせで不快な思いをした事がある人は25.3%で、なんと4人に1人が経験したという結果でした。
ほかにも、都道府県労働局での相談件数では、セクハラ関連の相談がとくに多く、次に婚姻や妊娠、介護関連の相談が増加しているようです。
このような問題を放置し続けることで、民事紛争や評判の低下、企業責任が問われることがあるかもしれません。
パワハラやセクハラなどの放置は、企業にとって大きなリスクといえるでしょう。
4、ハラスメントに対する各国の取り組み
では、ハラスメントに対して実際どのような策が取られているのでしょうか。
ここからは、各国の取り組みについて見ていきましょう。
(1)日本の取り組み
日本の取り組みとしては
- パワハラ防止法
- セクハラへの防止策強化
- 相談窓口の設置
などが挙げられます。それぞれについて見ていきましょう。
① パワハラ防止法
2019年6月5日に公布された改正労働施策総合推進法改正では、仕事場でのパワハラ対策の強化を各企業に義務付けました。
その新たに決められた義務を「パワハラ防止法」と呼び、大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日より施行されます。
パワハラの基準を法律で定めて、具体的な防止措置を企業に義務化することを目指しています。
具体的な措置としては
- 社内方針の明確化とHPなどを使って労働者への周知・啓発する
- 企業ごとに相談窓口を設置する
- 労働者からのパワハラ相談に対し、正確な確認や適切な対処などを行う
- プライバシー保護のための必要な措置を講じる
- パワハラを申告した労働者に対して不利益を負わせない
などが定められています。
参考:労働施策総合推進法
② セクハラへの防止策強化
セクハラについては、すでに男女雇用機会均等法や育児介護休業法によって防止対策を講じることは事業主の義務となっています。
ですが、今回のパワハラ防止法の改正にあわせて、これらの防止策も強化されました。
具体的には
- 被害を申告した人への不利益な取扱いの禁止
- 自社労働者が社外でセクハラをしたときの協力対応
- 自社労働者が社外でセクハラされたときの事実確認や再発防止への対応
などが定められています。
セクハラなどの防止策強化については、事務所の規模を問わず2020年6月1日より施行されています。
③相談窓口の設置
「社内の人には打ち明けにくい」という人のために、日本では以下のような相談窓口が設置されています。
- 労働条件相談ほっとライン
- NPO 法人労働相談センター
- 法テラス
- みんなの人権110番(法務省)
- 労働局・労働基準監督署内の労働相談コーナー
匿名で相談できるところもあり
- 具体的な法令
- 判例
- アドバイス
などをもらうことで悩みや不安を解消する糸口となるかもしれません。
(2)その他各国の取り組み
ハラスメントの問題は世界中にあり、各国により現状や取り組み度合いが異なっています。
スウェーデンでは、1993年に世界で初めて職場いじめの防止を目的とする「職場における虐待に対する措置に関する政令」が定められました。
フランスでは、1992年に法律で初めて「セクハラ罪」を制定するなど、積極的にハラスメント対策に取り組んでいます。
ハラスメントを受けた場合、補償に加えて刑事罰の対象にもなるとしているのです。
実際に2018年には、酒に酔った男性がバスの中で女性に対し性的嫌がらせを行ったとして、罰金と禁錮3ヶ月が下されました。
また韓国では、「カプチル」という職場ハラスメント問題の一掃に向けて、2019年7月に職場いじめに関する規定が法制化されました。
これにより、ハラスメント対策が不十分な雇用主は、罰金や最大3年の禁固刑が科される可能性があります。
加えて、ハラスメントによって労働者の健康が害された場合、賠償請求も可能となりました。
参考:フランス「路上セクハラ禁止法」初の有罪判決、バス車内の侮辱・暴力行為
参考:韓国で職場ハラスメント禁止法が施行 労働者の7割が「いじめ」被害
(3)ILO(国際労働機関)の取り組み
2019年6月にはILO(国際労働機関)がスイスにおける総会で、「職場での暴力やハラスメントを全面的に禁止する旨の国際条約(暴力とハラスメント条約)を採択しました。
同条約では、ハラスメントの定義を「身体的・心理的・性的・経済的被害を引き起こす可能性があるさまざまな受け入れ難い行為」としています。
職場での上下関係や雇用関係だけでなく、フリーランスの委託先やインターンの学生など幅広い関係に適用されることが特徴です。
この条約の採択を受けて、ILOは各国に対して具体的な救済制度の制定を求めています。
参考:ILOの「仕事の世界における暴力及びハラスメント」に関する条約・勧告について
まとめ
今回は「ハラスメント」について解説しました。
「自分は大丈夫」と思っていても、知識がないことで被害者にも加害者にもなる可能性があります。
ハラスメントの有無が企業評価や人事に影響が出てきている今、多くの人が気持ちよく仕事ができる「ヒト中心」の組織づくりの実現が求められているでしょう。