ワークライフバランスとは、仕事とプライベートのバランスをとり、より豊かな人生を目指すというものです。
政府が進める「働き方改革」の実施によって働き方が見直されている中で、昨今注目が集まっています。
そこで今回は
- ワークライフバランスの概要
- ワークライフバランスの関連施策
- 日本のワークライフバランスの現状
- ワークライフバランスの課題
についてわかりやすく説明したいと思います。
本記事がお役に立てば幸いです。
1、ワークライフバランスとは
ワークライフバランスとは、内閣府によると「生活と仕事の調和」と定義されています。
要するに「仕事も生活も充実している状態」のことを指します。
仕事は生活を支えるために必要なものですが、家族と過ごす時間や趣味の時間などプライベートな時間も人生では欠かせません。
そこで、従来のように仕事中心の生活ではなく、仕事もプライベートもバランスよく充実させる働き方として「ワークライフバランス」が注目されているのです。
- 経済的自立が可能な社会
- 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
- 多様な働き方、生き方が選べる社会
日本では以上の社会を目指していることが、内閣府策定の「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章」によって示されています。
参考:ワークライフバランス憲章
2、ワークライフバランスへの関心が高まる背景
それでは、なぜ近年日本でワークライフバランスの考え方にこれほど注目が集まっているのでしょうか。
その背景には
- 少子高齢化
- 働く価値観の変化
の2点が大きく関係しています。
(1)少子高齢化
日本でワークライフバランスが推薦されている背景のひとつに、「少子高齢化」があります。
厚生労働省によると、人口約1億2586万人のうち、65歳以上は約3617万人です。
その割合は総人口の28.7%と過去最高の値を更新しています(2020年9月時点)。
一方、2019年の出生率は、過去最低の約86万5234人という結果になっています。
1人の女性が生涯に産む子どもの推定人数を示す「合計特殊出生率」は、前年より少ない1.36で、4年連続で低下しました。
このような少子高齢化によって懸念される問題に
- 労働力人口の減少
- 介護離職の増加
などが挙げられます。
実際に2018年には、労働力不足が原因で倒産した企業は過去最多でした。
今後、生産年齢人口(15~64歳)が大幅に減少していくことが予想されるなか、人手不足による働き手1人の負担が増えれば、家庭との両立は一層難しくなるでしょう。
画像出典:内閣府
また、育児中の女性も労働力として期待されているなか、仕事と生活の両立を図ることは非常に重要であると言えます。
こうした危機感から、「ワークライフバランス」への関心が全国的に高まっているのです。
参考:人口動態総覧の年次推移
少子高齢化とは?人口減少が招く社会問題を簡単解説
(2)価値観の変化
かつての日本は、男性は家の外で仕事に打ち込み、女性は家で家事や育児をするというのが当たり前でした。
しかし、労働力人口の減少が進む現在では、女性や高齢者も労働力とする多様な人材確保が企業に求められています。
特に近年は、男女ともに仕事と家庭の両立を考える共働き世帯が増加するなど、若い世代を中心にライフスタイルの変化が進んでいます。
仕事だけにすべての時間を投入する働き方から、企業に依存できない時代になったことで、仕事以外のものにも価値を見出して行ったのです。
こうした価値観の変化から、働きやすい環境づくりを目指すワークライフバランスの考え方が注目されてきているのです。
3、ワークライフバランスの関連施策
ワークライフバランスを実現するために、以下のように関連法がいくつか改正されました。
- 時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
- 最低5日の年次有給休暇の取得義務化
- 時間外労働の基準の見直し
それぞれ解説していきましょう。
(1)時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
従来の労働基準法では、1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合、大企業では50%、中小企業では25%割増賃金を支払うこととされていました。
しかし、2023年4月1日からは、月60時間を超える時間外労働に対して、中小企業の割増賃金率も大企業と同様の50%に引き上げられます。
そのため、これまで時間外労働の割増賃金率を25%で計上していた中小企業も、新しい割増賃金率に変更しなければなりません。
違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
(2)最低5日の年次有給休暇の取得義務化
労働者に年休の取得を促すため、10日以上の年次有給が付与される労働者に対して、毎年そのうち5日は取得することが義務付けられました。
対象となるのは正社員だけでなく、フルタイムの契約社員やパートの人も含まれます。
加えて、勤続年数によっては週3日勤務のパートの人にも適用される場合があります。
違反した場合は30万円以下の罰金が科される可能性があります。
(3)時間外労働の基準の見直し
2019年4月施行の働き方改革の一環で労働基準法が改正され、残業時間の上限が法律で管理されるようになりました。
時間外労働の上限は、原則として「月45時間、年間360時間」です。
一時的な特別な事情がなければ、原則時間を超えることはできません。
もしも時間外労働をさせるなら、企業は労使協定(36協定)を結び、労働基準監督署長に届け出る必要があります。
なお、「特別条項」によって労使協定を結び、合意している場合でも上限は設定されています。
- 時間外労働は最大で「月100時間未満、年720時間以内」
- 複数月の場合は「平均80時間以内」
- 月45時間を超える時間外労働は年6ヶ月が限度
これらに違反した場合、使用者には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
参考:働き方改革関連法のあらまし
働き方改革法案とは?新しい働き方と法制度について解説
4、日本のワークライフバランスの現状
ワークライフバランスは「誰もが自身のニーズに合わせて意欲と能力を発揮する働き方を選べる社会」の実現に向けて2007年に内閣府が策定した考え方です。
内閣府の調査報告書によると「仕事と生活の両立が取れているか」というアンケートに対して、「そう思う」「ややそう思う」と答えた割合は
- 男性(正社員):40.6%
- 女性(正社員):51.5%
となっており、女性の方が多いものの、なかなかワークライフバランスの実現は進んでいないのが現状です。
画像出典:個人アンケート調査結果
もちろんワークライフバランスの実現には、 各企業の取り組みが欠かせません。
厚生労働省の調査によると、ワークライフバランスへの配慮を積極的に取り組む企業ほど
- 売上高の増加
- 離職率の低下
につながっている傾向があるという結果が出ています。
つまり、働きやすい職場環境を整備することは従業員のモチベーションアップだけでなく、家族や趣味の時間が充実することで「仕事上のやりがい」にもつながるというわけです。
また、ワークライフバランスを向上させる取り組みとして、以下のものが挙げられます。
- 育児や介護の支援
- 休暇取得の促進
- 長時間労働の是正
- 業務の効率化
- フレックスタイム制の導入
- テレワーク制度の導入
労働人口の減少や人材流出が続く日本社会において、社員の定着率や労働生産性の向上は重要な課題のひとつです。
働き方改革とともにワークライフバランスの実現は、企業経営にとってもプラスの影響が多いといえるでしょう。
参考:企業等における仕事と生活の調和に関する調査研究報告書(平成31年3月)
5、ワークライフバランスの課題
ワークライフバランスの今後の課題には
- 男性の育児休暇の促進
- 管理職層の意識改善
などが挙げられます。
詳しく見ていきましょう。
(1)男性の育児休暇の促進
共働き世帯が増えている現在の日本ですが、現在の日本では男性の育児休暇の取得について職場での理解が進んでいる企業や体制が整っている企業は多くないのが現状です。
「令和元年度の雇用均等基本調査」によると、女性の育休取得率が80%以上であるのに対し、男性の育休取得率は7.48%でした。
以上のデータから、男性でも育児休暇を取りやすい職場環境作りが必要であると言えます。
参考:雇用均等基本調査
(2)管理職層の意識改善
また、管理職層の意識改善もワークライフバランスをうまく機能させるためには、必要であると言われています。
制度を作っても、職場の管理職の理解がなければ効果的には機能しません。
ワークライフバランスを用いて企業の総合力の向上につなげるためには、経営トップや管理職層だけでなく、全社員が共通の理解と認識を持って取り組むことが重要かもしれません。
まとめ
今回は ワークライフバランスについて解説しました。
ワークライフバランスの実現は、労働者が働きやすくなるだけではありません。
企業にとっても、人材確保や社員の離職率低下など多大なるメリットがあります。
日本が直面している急速な少子高齢化と人口減少時代に対応するためにも、「ワークライフバランス」を意識した働き方改革が求められています。