日本の少子化が止まりません。2022年の出生数は79万9728人と過去最少をまたもや更新しました。国の推計より11年早く80万人を割り込むなど、出生率の反転に向けた打開策は見えていません。
そこで政府は、6月に「少子化対策」として「子ども未来戦略方針」をまとめました。その中で、自由民主党・国光あやの議員は「出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」の一員として、「お財布のいらない出産」実現のために取り組みを進めています。
出産費用の年々の高騰を受け、2023年4月1日には改正健康保険法等が施行され、「出産育児一時金」(出産すると保険者から給付)が42万円から50万円へと引き上げられました。
さらに、2024年から「費用の見える化」、2025年から「出産の保険適用、自己負担分の無償化」も決定しました。少子化克服へ多様な施策が動きつつあります。
政治家でありながら現役の医師としての顔も持つ国光議員だからこそみえる多様な視点から、少子化問題に取り組む想いについてお伺いしました。
国光文乃 氏
1979年3月20日生まれ。山口県周防大島出身。長崎大学医学部卒業、東京医科歯科大学博士課程修了。国立病院機構災害医療センター、東京医療センター、厚生労働省を経て2017年衆議院選挙で茨城6区にて初当選。2021年衆議院選挙にて2選。2022年10月、第二次岸田改造内閣で総務大臣政務官も務める。
(1)母であり医師であり政治家であるからこそできることを
ー出産育児一時金増額や出産子育てに取り組もうと思った背景はなんですか?
ひとつのきっかけは、出産費用を高いと感じるお母さん方の声に接する機会が多かったからです。私の選挙区は衆議院茨城6区(土浦市、石岡市、つくば市、かすみがうら市、つくばみらい市)なのですが、実は茨城県は人口10万人あたりの医師の数が全国ワースト2位と非常に医者が少ない地域です。
県内の医療機関では競争原理があまり働かず、出産に安い医療機関で55万円ほど、高いところだと100万円近い費用がかかります。「国光さん、これだと2人目、3人目は無理だよ」といった声に多く接してきました。
しかし医療機関だけを責めることはできません。
少子化で経営が厳しくなるのは当たり前で、産科の需要が減少する中で経営を維持するためにはどうしても価格をあげざるを得ない状況です。
私自身、政治家でありながら中学生の子どもを育てる母親であり、医師でもあります。出産に関わるさまざまな立場の人の想いがわかるからこそ、お母さんたちの負担も軽くしながら医療機関側の経営も安定させる制度設計が必要だと考えるようになりました。
ー「お財布のいらない出産」というコンセプトを掲げて推進されていますね。
「お財布のいらない出産」それ自体は、小渕優子さんが少子化担当大臣の頃から目指してきた構想です。
2020年に設立された「出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」では、これまで課題感は共有される一方で実行されていなかった領域にアプローチしようとしています。
実はこの議連の設立時の共同会長は岸田現総理で、小渕さんの前任会長に当たります。政治的にもしっかり推進力をもって政策を打ち出せる環境が整いつつあります。
ー少子化を克服するためにどこが最も「本丸」だと考えていますか?
まずは経済的負担を取り除くことに主眼を置いています。内閣府による調査でも「理想の子どもの数を持たない理由」の最大の理由は「経済的負担」です。
より具体的な項目は上から「将来の教育費」「幼稚園・保育所にかかる費用」「妊娠・出産にかかる費用」での経済的負担を取り除くことがベスト3にきています。上位二つに取り組むことは確かにインパクトも大きいです。
ただ、この点は財源的な考慮が大きくならざるを得ないため、議論も前に進みにくいです。一方で、「妊娠・出産」にかかる費用は財源的な面からも教育費よりも着手しやすく、まずはここからだということで取り組み始めました。
(2)さまざまな立場の人たちを想像し政策を進めたい
ー「出産育児一時金増額」政策を進める上で苦労したポイントがあれば教えてください。
ステークホルダー間の調整が何より大変でした。まずは予算や実務を担う省庁との折衝が必要です。出産育児一時金を1万円引き上げようとすると、合計約280億円かかる試算になっています。42万円から50万円へ8万円増額するなら640億円の財源を新たに確保する必要があります。
財政規律の観点から国債発行は避けたい、と私は考えています。それぞれの負担をどのようにわかちあって進めていくか。ここの調整に苦労しました。
医療者や医師会のみなさんにご理解いただくことも重要です。出産育児一時金の増額に反対する方はあまりいらっしゃらなかったのですが、保険適用には慎重な方もいらっしゃった。丁寧な説明を心がけました。
お財布のいらない出産を目指す第一歩として、出産育児一時金の増額は一つの大きな進展です。ただ出産費用の保険適用を見据えた政策づくりをしていかなければなりません。究極の目標に向かって一歩ずつ歩んでいくつもりです。
(3)出産にまつわるあらゆる負担を減らしていきたい
ー「出産育児一時金増額」以外の取り組みも進められているかと思います。現在推進されている少子化政策の全体像を教えていただけますでしょうか。
出産育児一時金の増加と一緒に進めていた施策が出産費用の見える化です。何かしら治療を行う時、説明と同意をとることは基本ですが、なぜか出産費用については説明と同意が不十分なケースがよくあります。
退院するときにいきなり「いくらです」といった形で提示され、予想外の出費を強いられることもあると聞いています。すべての人に、納得した上で選択し出産に臨んでほしいと考えました。
具体的には、来年から出産にかかる費用を「基礎的費用」と「選択的費用」にわけ、それぞれの医療機関で価格と選択できるプランについて明示する運用に変わります。患者さんの家計や負担能力に応じて選択できる環境を整備することが狙いです。
経済的負担だけではなく精神的負担にもアプローチできるようにしたいです。総理への提言書にも盛り込みましたが、無痛分娩支援や検診負担軽減など精神的な負担も軽減できるよう取り組みを進めています。
ただ、出産や妊娠にかかるお金は、あくまでも子育てにかかる費用の入り口です。現役ママ議員としても痛切に感じますが、最大の負担は大学などの教育費です。この負担感も減らす必要があり、来年から大学などの奨学金の拡充も決定しました。さらに子育て世代の声を聞いて取り組んでいきます。
(4) ミクロからマクロへ さまざまな視座で政策を進めたい
ー最後になりますが、国光議員が政治家として成し遂げたいことはなんでしょうか?
ミクロレベルからマクロレベルまであらゆる視座で政策を進めたいと考えています。「お財布のいらない出産」以外で述べるなら次の3つになるかなと思います。
まずは一つ目は、医師の偏在性をなくすことです。東京に医師が集まりすぎている状況は健全とは言えません。私が現在活動する茨城県も、本当に医師が少ないです。
平成20年ごろから医学部の定員は拡大しており、奨学金制度も拡充しているのですが、卒業生がなかなか地方に定着しない状況です。きちっと計画を立てて医師を全国に満遍なく分散していく政策が必要です。
二つ目が、世界から貧困をなくすことです。私の政治家としての原点は学生時代に訪れたアフリカの地にあります。医学生として現地で治療を行う傍ら、貧困や公衆衛生など社会システムの影響で苦しむ人をたくさん目にしました。
政治家になり社会全体の病理にアプローチしたい−そう考えるようになった場所がアフリカでした。
三つ目に、気候変動対策です。貧困問題とも関係しますが、気候変動は、私たちの生活-猛暑や災害の多発-はもちろん、世界で一番立場の弱い方々に干ばつなどで皺寄せがきます。私が20年前に医療活動をしていたアフリカの村は、田畑が干上がり、生活できなくなってしまいました。
温室効果ガスの削減に取り組むために、私たちも身近に気軽にエコアクションをできる取り組みをすすめたいと、永田町での政策はもちろん、地元茨城で「気候変動フォーラム」を開催しています。参加型でトークセッションやエコテーマの出店も設け、毎年2000人が来るフェスティバルになりました!
これからの時代を作る若い人たちにはぜひ想像力を持って何かに取り組んでほしいと思います。そういった世界を作る人間の一人としてさまざまなチャレンジをしてほしいです!