高齢化が進む中、介護サービスへの需要は大きくなる中でサービスの担い手である介護職員の確保が喫緊の課題となっています。
厚生労働省の推計では、2025年度には243万人(2019年度比+32万人)、2040年度には280万人(2019年度比+69万人)の介護職員が必要であるとされています。
一方で2022年には介護業界の離職者数が新たに就業する人数を上回るなど厳しい状況が続いており、政府は介護職員の賃上げなどの処遇改善を進めています。
今回のインタビューでは、介護などを手がける会社で社長を務められた遠藤良太議員に、日本維新の会の介護政策について、また遠藤議員が政治を志したきっかけや、今後の活動などについてお伺いしました。
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
(取材日:2024年3月14日)
遠藤 良太(えんどう りょうた)議員
1984年大阪府生まれ。日本維新の会所属。
ハウステンボス株式会社、介護事業経営などを経て2021年の衆議院選挙で初当選(1期)
サイゼリヤが好き。
(1)民間感覚を大切に介護の世界から政治家へ。
ー遠藤議員が政治家を志したきっかけを教えてください。
コロナ禍で日本の政治のあり方に疑問を思ったことがきっかけです。社会が大きく変わる中でこれまでの政治でいいのかと漠然とした不信感を持ちました。子どもたちの未来や将来を考えたとき、今のままではまずいのではないかと思ったんです。自分自身が社会に対して責任を持たなければならないと感じ、日本維新の会の公募にチャレンジすることにしました。
当時私は介護の世界で働いていました。もちろん政治に対してその立場から市民として意見することもできた。ただ人生一度きり、より当事者意識を持って将来に対する責任の取り方があるだろうと思ったんです。その選択肢が私にとっては政治家になることでした。
ー実際に政治家になってみて、ギャップなどはありましたか?
仕事の成果を評価するやり方が民間とは全然違いますね。民間であれば定期的に決算発表し、予算と乖離があればどのように予算達成していくのか示す必要がある。その上で成果を出して、報酬をもらう。一方で政治家には「これをどのくらい売らなければいけない」とか「こうしないと給料がもらえない」といったものがない。評価は選挙の時に有権者の人たちへお任せするしかないんです。
ー政治家になる前、テーマパークや介護の仕事を経験されてきました。民間での経験は議員活動にどのような影響がありますか?
成果を出さなければ報酬はもらえないもの、といった感覚を強く持って政策作りに取り組んでいます。議員になる前、ハウステンボスで働いていました。そのころのハウステンボスは18年連続の赤字を出すような企業でした。HIS創業者澤田さんが経営再建に取り組んでようやく黒字になった。その時、もらった最初のボーナスは全員一律500円。成果を出して、お客さんに満足してもらってようやくお金がもらえる。とても嬉しかったし、ありがたかった。その感覚って多分政治家だけをやっていてはわからないですよね。政治家には民間ほど明確な定量的な目標がない。だから自分たちが報酬がもらえていることを当たり前と思ってしまわないよう、民間感覚を持ち続けることが重要だと思います。
(2)現場目線で取り組みたい介護政策のこれから
ー議員になる前には介護事業を経営されていました。現在の介護に関する政策をどのようにとらえていらっしゃいますか?
介護政策については、介護サービスを提供する事業者の公正な競争環境が阻害されているのではないかと感じています。現在、介護サービスを提供する団体は社会福祉法人をはじめ、株式会社などさまざまな事業者・団体があります。
介護サービスに対する課税の有無は業態(株式会社や社会福祉法人か否か)に応じて決まっているのですが、同じサービスであれば課税の有無も一律で決めるべきです。高齢化が進む中で介護サービスの質を担保し続けるためには課税・非課税の問題は政府のスタンスとして大きな論点になってくる。私も国会でこのテーマについて取り上げた際に賛否もさまざまで大きな反響がありました。事業者の関心も強い点だと感じています。
ー介護人材を確保するために必要な政策はどのようなものですか。
介護業界の人材不足は本当に深刻です。その中でも都市部も苦しいですが、地方ではもっと苦しい。人材不足でもサービスを待っている人は今この瞬間にたくさんいるんです。まさに喫緊の課題と言えるでしょう。
その中で2024年2月から介護職員に対する6000円の賃上げが決まりました。ただ介護に関わる人みんな同じ感想を持ったと思います。「ゼロ一つ足りひんのちゃう」と。人材不足で休みもなかなか取れない状況があると、介護するのって精神的にも肉体的にも本当に大変。それでも介護はもう社会インフラの一つなんです。だからこそお給料の問題は本当に大切な現実の問題です。都市部ならまだしも地方で人を集めるとなると本当に難しい。経営者もちゃんとしたサービスを提供するならしっかりと職員さんの数をそろえる必要がある。そのためにはまず報酬。6000円アップぽっきりでは物価高もあり厳しい。「ふざけないでほしい」と思った経営者の人も多いはずです。
政府は今回の介護報酬改定で新たに処遇改善加算の制度を作り直しました。介護サービスの単価を一部下げて、その代わり、事業者の状況次第で賃上げを行うようにした。ただ事業所内の配属先によっては、処遇改善加算の対象にならない人が存する。その人には事業者側が負担し給与に上乗せするという構図になっていたりする。
しかし、介護業界で働く人の賃金が上がってもそもそも雇用者である事業所が維持できなくなったら、いくら処遇改善加算が利用されても意味がありません。政府としては政策として一応やりましたよ、って説明できるんですけど、根本の解決策になっていない。やってる感だけなんですね。あらゆる「加算」と言われる仕組み自体が、介護保険の制度疲労を起こしてできた産物なんです。破綻しかけている制度への対症療法。小手先の対策なんです。事実、もうもたなくなっている事業者も多い。だから介護保険制度そのものを根本的に見直す必要があります。
ー遠藤議員や日本維新の会が今後介護政策で目指す姿はどのようなものですか。
制度の根本的な見直しはもちろん必要です。その中でも財源問題は介護制度を考える上での本丸となる議論だと思います。税と社会保障の一体改革を考える上でも介護も当然テーブルに乗ってきます。保険原理の枠組みの中で介護保険制度が本当に今の時点で成立しているのかを改めて点検しないといけない。自己負担率が上がり続けている中で制度全体の見直しは必ずやらなければいけません。その中で介護保険を持続可能にするために財源について税財源に振り切るのか、それとも応分の負担を国民のみなさんに求めるのか。議論がわかれるところです。個人的には税財源を入れすぎると保険原理を逸脱するので、現実的ではない、と思っています。
ただあらゆる選択肢を聖域なく議論する必要があるとも思います。その議論次第で介護報酬のあり方もまた変わってくる。というかそもそも制度を今後どうするかの議論がないかぎり、本来は介護報酬・診療報酬をどうするのかといった話もできないはずなんです。単純に6000円の報酬をあげるだけでは議論の体をなしていません。
介護保険制度が破綻しかけている中で、現場での訪問介護やデイサービスの提供の仕方も変わりつつあります。具体的には自己負担のサービスも増えてきています。
介護報酬だけでは事業を成立させ続けることができないから、介護サービスの中に家事代行サービスを含めることなどで付加価値をつけようと努力する事業者が増えています。
保険制度の中で運営しようとする限り、どれだけサービスを改善しようが収入は変わりません。
競争がないんです。顧客満足の向上にコミットする株式会社であれば、付加価値の向上を目指すのは当然です。もう一つの有力な介護サービスの提供主体である社会福祉法人とは根本の論理が違います。運営スタンスが異なる主体が並立する介護業界だからこそ、根本的な議論をしなければ、どこかで整合性が取れない自体が生じてしまうと思うんですよね。
財源問題と同時に介護に関わる職種について再整理する必要があるのではないかと考えています。ケア領域に関わる人たちの役割はサービスの提供の仕方が変わる中で変化しつつあります。たとえば、これまでケアマネージャーの方々が介護のあり方を設計するリーダーのような役割を持っていました。数も少なく、給与も比較的高めに設定されていた。しかし、最近ではケアマネージャーも供給過多になり、給与も低下傾向にあります。そうするとキャリアパスとして魅力的でなくなる。現場のサービス提供責任者の方が給料が上がる現象すら起きています。
ケアマネージャーは一例ですが、介護に関わるそれぞれの職種の現状と本来の役割を精査した上で新たな技術による影響も考慮に入れながら、介護業界に関わりたいと思える人を増やしていく必要があります。と同時に、日本で働きたいと考える海外の方々をしっかりと受け入れていくことも重要です。私自身、これまで中国や東南アジアの方々を中心に日本の介護業界に従事するための支援をしてきました。ケアの仕事に向いた国民性・地域性というものもあるので、外国との協力関係を深めていくことももっと考えていいのかなと思っています。
(3)中山間地域の課題解決のために力を尽くしたい
ー今後さらに取り組んでいきたい政策はありますか?
私の選挙区である兵庫5区はほとんどが中山間地域。だからこそ、中山間地域にある特有の課題を解決していきたいと思っています。過疎化が進む中で農業や林業などの一次産業を維持させていくか、活力をいかに見出していくのか、大きな課題があると思います。
ただ地方自らが動いて解決できる問題とできない問題も現に存在します。たとえば私の選挙区にあるスキー場は今年運営することができなかった。ほとんど雪が降らなかったからです。豊岡市の神鍋スキー場も関西では有名なスキーリゾートですが、年々、来場者が減っています。雪不足には温暖化も影響しているでしょう。ただグローバルな課題を理由に、地方が活性化できない言い訳をするわけにもいきません。
だから別の発想をする必要があります。まず挙げられるのは既存の施設を別の用途で使えないか、ということ。スキー場であれば、夏にマウンテンバイクトレイル場にしたり、キャンプ場の運営に熱心な事業者もいます。夏場に利用されていない芝生を有効活用するためのアイデアですね。
企業がより進出したくなる制度を作っていくのも政治の役割です。たとえばこれまで但馬地域にはスターバックスがなかった。今年の夏に念願のスタバがオープンするんです。これを機に、これまでなかった民間の活力をフックに地域を盛り上げるための動きができるかもしれません。
行きたいお店のためにわざわざ遠くの街まで車で行かないといけないとなると、どうしても地元を出ようと考える人が増える。地元に帰ってこようとか地元に残ってもいいかなと思える素材をどれだけ用意できるか、という問題は根深いものです。
その中でも学校や大学は地元と若い人のつながりを作る上でも重要なハードだと思います。
豊岡市に新しい公立大学ができました。芸術や演劇を学べる先進的な学校です。倍率が9倍もあるほど人気。定員は1学年50人ですが、分野の特性もあり、その40名ほどが女性なんです。
これまで若者、特に若い女性の県外流出は地域の出生率にも関わる大きな問題でした。その中で、学校が地元に根付き、そこに通った人は地元に残る理由ができる。「ここにいる理由がない」といって地元から出ていってしまう人に向けて、最低限でもいいから地元に残る理由を作ってあげる。そのための素材作りを、政治としても支援しないといけないなと思っています。
デジタル技術の発展により地方にも大きなチャンスが来ているはずです。コロナ禍を経てリモートワークも一般に普及しました。都心にあらゆるものが集中する危険性も共有されつつあります。都会での子育てが息苦しいといった声も聞きます。
地方で自然を感じながら暮らす。そのような流れを作りたい。都会ではできない貴重な体験が地方では毎日できます。私の地元・但馬地域にも資源はたくさんあるんです。城崎温泉は言わずもがな、他にもカニの香住町、新温泉町など豊かな自然がたくさんあります。最近では但馬地域に地域おこし協力隊の希望者が多いと聞き、大変嬉しく思っています。
ー政治家として成し遂げたいことはありますか?
やはり自分たちがやりたい政策を実現するには数が大事です。今の自民党政権はあらゆる既得権にがんじがらめになって推進力がなくなっている。だからこそ維新のようなしがらみのないグループが、まとまって大きくなって政権をとっていく。政治自体が公正中立に予算を分配した上で経済成長を実現しなければ日本はよくならない。もちろんそれぞれの政策で実行したいこともありますが、今の大きな目標は政権交代、政権獲得です。