親の所得格差が子どもの教育格差につながっていることが指摘される中、細野豪志議員は、2017年に幼児から高校生までの教育無償化を盛り込んだ憲法改正私案を公表し、「人生前半の社会保障」の重要性を訴えてきました。
今回のインタビューでは、「人生前半の社会保障」とは何か、また細野議員が政治家となったきっかけや今後取り組みたい政策などについてお伺いしました。
(文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)(取材日:2024年3月14日)
細野 豪志(ほその ごうし)議員
1971年生まれ。衆議院議員(当選8回)
会社員を経て、1999年に政治の道へ。
環境大臣、内閣府特命担当大臣、総理大臣補佐官などを歴任。
趣味は、囲碁、落語、演劇。
(1)阪神淡路大震災をきっかけに、政治の道へ
ー細野議員が政治家を志したきっかけは何だったのでしょうか。
大学生のときに経験した阪神淡路大震災が一番大きなきっかけです。
阪神淡路大震災が発生した1995年1月、私は大学4年。まもなく卒業という時期でした。当時、京都に住んでいたため、周りに被災した人が多くいました。
何かしなければと思い立ち、予定していた卒業旅行などをキャンセルし、2か月間、神戸でボランティア活動を行いました。他のボランティアに仕事を割り振るコーディネーターを担い、各避難所の状況を把握し、必要な物資や支援を届けました。
甚大な被害を受けた神戸では自衛隊の方々が救助活動に奮闘していました。私の親戚にも自衛官がいたため、その働きぶりに感銘を受けたことをよく覚えています。
しかし、被災地における政治や行政のあり方に疑問を持つこともありました。行政の対応が硬直的で本当に困っている人を助けられないもどかしさを感じたことは多くあります。自衛隊の出動要請が遅れたことにも疑問を感じていました。
震災という非常時だからこそ、現場でイニシアチブをとる政治が必要と現場で痛感しました。そのため自分が政治家になり政治を変えようと決意をしました。
ーすぐに政治家になるわけではなく、一度民間で働いてもいらっしゃいます。
まずは自分の力で稼げるようになりたいとの思いがありました。政治家になるにあたり、必要なスキルを民間で働く中で身につけるように行動していきました。コンサルティング会社に就職しビジネススキルを身につけつつ、政策秘書(政策担当秘書)の資格も取りました。
いずれ政治家になるには、政策をつくるための知識や能力が必要だろうと考え、社会人一年目に受験したのです。当時は参考書もなく勉強には苦労しましたが、なんとか合格できました。
政策担当秘書試験は国会や政治家とのつながりを作る上でも役立つ資格でしたね。政策担当秘書資格試験の合格者は名簿に名前が載るので、国会議員の事務所から「うちで働かないか」と電話がかかってくることもありました。
その後、一度仕事を休職して議員秘書を務めたのち、衆議院議員選挙に立候補するに至ります。
(2)「人生前半の社会保障」とは
ーPoliPoli上に「人生前半の社会保障で若者の所得向上を!」という政策を掲げていらっしゃいます。まず、「人生前半の社会保障」とはどういう意味なのでしょうか?
「社会保障」といえば、年金や医療、介護が真っ先に思い浮かぶかと思います。ただこれらは主に高齢者を対象とした制度です。現在の社会保障は高齢者中心の偏ったものとなっており、若者を対象とした支援が少なすぎると考えています。
現在、若者の所得は伸び悩んでいます。希望しても結婚や出産することができない若者への支援をするのは政治の役目です。
「人生前半」にあたる若者世代が希望をもってチャレンジできる環境を、社会として保障する必要がある。そんな思いから「人生前半の社会保障」を、政策として打ち出しています。
ー具体的にどのような政策が想定されるのでしょうか?
大きなテーマは教育政策と雇用政策の二つです。
まず教育政策について。どんな家庭に生まれてもチャンスが平等に与えられる社会を実現する必要があります。経済的に豊かな家庭に生まれた子どもは学習の機会や体験の機会を多く持ち、一方で貧しい家庭に生まれた子どもには機会が与えられないのは不平等です。
具体的には公教育により予算を割き、機会の不平等を解消しなければなりません。特に学童保育の質の向上と部活動の機会の保障に関心を持っています。
放課後の児童を預かる学童保育は、小学校低学年の子どもたちが一日に3-4時間過ごすこともある重要な教育の場です。それにもかかわらず、教育の質が担保されているとはいえません。ただ子どもをあずかるだけの場所がほとんど。正規職員がいない学童保育も多く、施設運営に課題を抱えています。
また、地域移行が進む中学校の部活動も、地域に受け皿がない場合も多く、結果として子どもたちが部活動が行えなくなることを懸念しています。
これまでは公教育の枠組みの中にある部活動が、子どもたちにスポーツや音楽などに触れる機会を提供していました。地域移行が失敗に終われば、将来的には習い事に通える恵まれた子どもたちだけが豊かな経験ができるような事態になるのではと恐れています。
雇用政策については若者世代の賃上げが最重要課題です。年功序列を基本とした日本型雇用システムでは若者の賃金が低く抑えられてしまいます。長く働くほど得になる賃金のあり方を見直していく必要があります。
ー若者政策を進める上での課題はなんでしょうか。
すでに存在する制度を改革することは痛みを伴います。改革により不利益になる人も現れるため、制度の見直しは難しい政策課題です。
たとえば、退職金税制は長く勤めた人ほど得になる仕組みですが、これを見直した場合、もうすぐ退職金をもらえる世代は損することになります。
この点からも新しく制度を作る方が実は簡単なんです。すでにある制度を見直す場合には社会的なあつれきをどう解消していくかを考えなければなりません。
(3)人のために100%働けることが政治家の醍醐味
ー今年2月には「政治家への道」を上梓されました。どのような思いで出版されたのでしょうか?
若い世代に職業としての政治家の素晴らしさを知ってほしいとの思いで出版しました。もちろん政治家は常に言動が注目され、時には厳しく批判される大変な職業です。
しかし非常にやりがいのある仕事です。本の中でも何度も指摘しているのですが、政治家は100%公のために、人のために働ける唯一無二の職業です。
私が政治家を志した時代は日本新党の誕生など多くの若者が政治家を目指す流れがありました。一方、現在、若者は政治と距離を置いています。その中で政治家になって社会を変えてやろうという気概を持っている方はやはり少ない。
そこで初当選以来25年の政治家人生を書籍を通じて公開することにしました。政治家というキャリアの魅力を知り、新たに政治家を目指す人が現れてほしいと思っています。
ー若者の政治離れについてどのように感じますか。
選挙に行ってほしいです。
現在、社会保障費の負担が増え、家計が苦しくなるなど若い人も政治に関心を持ち始めている時期だと感じます。ただやはり実際に投票して自分の意見を表明しなければ、若者中心の政治にはなっていきません。
日本では若者世代の投票率が低い。20代の投票率は30%ちょっとです。一方、高齢世代はそもそもの人数が多い上に投票率が高いため、政治家が政策を作る上でも大きな影響を及ぼしています。
若い人が投票することで政治は変わります。ぜひ投票に行ってもらいたいです。
ー「100%人のために働けることが政治家の醍醐味」とのことでしたが、政治家としてどんな時にやりがいを感じましたか。
2018年に改正された生活保護法により、生活保護を受給する家庭の子どもが大学や専門学校に進学しやすい環境を整えることができたときにやりがいを感じました。
それまで生活保護家庭の子どもは、世帯にとどまる限り、大学進学、専門学校が認められていませんでした。子どもの学ぶ機会が制限される状況を疑問に思い、この問題を国会などで取り上げ続けてきました。
2018年から生活保護家庭の子どもが大学進学する場合には、世帯分離が必要であるものの、住宅扶助は減額されなくなり、進学準備一時金の給付も始まりました。
法律や制度を変え、多くの人を救えることが政治家という職業の魅力です。実は私は政治家になる前、弁護士を目指すことも考えていました。目の前の人を救う弁護士よりもより多くの人を救う政治家になりたい、と考えたことを思い出します。
(4)国家の基本となるのは安全保障
ー現在、細野議員が関心を持つ政策について教えてください
エネルギーと食の安全保障です。
まずエネルギー安全保障について。エネルギーの安定供給は国民生活と経済の基盤です。私は東日本大震災のあった2011年に政府の中にいました。国民のみなさんに計画停電もお願いする立場だったこともあり、エネルギーの安定供給の大切さを痛感しました。
目下の論点は、再生可能エネルギーの普及と柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働です。電力の安定供給を実現しながら、世界情勢を受け高騰する電気料金へ対応する必要があります。
東京電力管内の産業用電気料金は、原発の稼働している九州電力や関西電力管内の電気料金の約2倍。電気料金を負担に感じずに事業を進めるには、地熱や洋上風力などポテンシャルのある再生可能エネルギーの普及を進めつつ、原発再稼働の検討を進める必要があります。
また安全な食糧を安定的に供給することも国家の役割の屋台骨と言えます。食料自給率の低さも問題ですが、農業従事者の高齢化と後継者不足も水面下で進んでいます。
今後、農業を持続可能なものとするためには、農業の大規模化など産業としての構造転換が必要になると考えています。
ー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
若い人が希望を持てる国づくりが重要です。今、政策づくりの現場でも若者に向けた政策を充実させるための機運が高まっています。60代-80代の議員であっても若者政策への関心は高く、永田町全体で若者に向けた支援を今後よりいっそう進めることはコンセンサスになっています。
政治が若者に目を向け出したからこそ、若い方には政治に関心を持って行動してほしいです。若い人を応援したい人たちはたくさんいます。私自身、若者を応援したい思いから、これまで学校の宿題で話を聞きたいという中学生や議員の事務所でインターンしたい大学生を受け入れてきました。これからも私自身、若者と政治の接点を作り、政治の世界を身近に感じてもらえるよう努力をしていきます。