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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー医療DXの鍵を握る「次世代医療基盤法」とは? ~ヘルステック議連のキーマン2人に聞く、ヘルスケア産業の未来~

医療DXの鍵を握る「次世代医療基盤法」とは? ~ヘルステック議連のキーマン2人に聞く、ヘルスケア産業の未来~

投稿日2024.9.3
最終更新日2024.09.03

国民・患者の診療情報を、個人が特定できないよう加工した上で、新薬や治療法の開発に役立てる「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(通称「次世代医療基盤法」)」が2023年5月に改正されました。この改正によって、希少な病名を削除したり、検査値を丸めるといった改変が行われていない診療情報が国の認定した認定事業者に提供され、医療分野の研究開発に役立てられていくことになります。

今回のインタビューでは、「医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会」の幹事長を務める今枝宗一郎議員と同・事務局長を務める畦元将吾議員に、ヘルスケア産業の成長に向けた取り組みや、医療DXにかける思いについてお伺いしました。

(取材日:2024年6月20日)
(文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)


今枝 宗一郎(いまえだ そういちろう)議員
1984年生まれ(39歳)。衆議院議員(4期)。医師。
2012年、愛知14区から出馬し、当時史上最年少の28歳で初当選。
第2次岸田第2次改造内閣にて、文部科学副大臣に就任。
好きなものはコンビニスイーツ。苦手なものは激辛。


畦元 将吾(あぜもと しょうご)議員
1958年生まれ(66歳)。衆議院議員(2期)。放射線技師。病院勤務、ベンチャー企業経営を経て、2019年に衆議院議員初当選。現在2期目。第二次岸田改造内閣において、厚生労働大臣政務官に就任。好きな食べ物はカレー、辛いもの。

(1)日本の成長戦略の中でヘルスケア分野が持つ大きな可能性

ー今枝議員、畦元議員は、「医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会」の幹事長・事務局長でいらっしゃいます。そもそも「医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会」が創設された背景や意図はなんだったのでしょうか?

[今枝議員]
医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会」(通称「ヘルステック議連」)は、ひとことでいうと医療・介護・福祉などのヘルスケアの分野を、AIなどのテクノロジーの力を活用して成長産業に変えていくことを目指して発足した議員連盟です。

ヘルスケアというと、イメージとしては成長よりも「分配」の印象が強く、高齢化率の上昇や人口減少を背景にした社会課題にばかり注目が集まっています。しかし、逆転の発想で考えると、日本はそれらの社会課題に先駆的に取り組むことができるメリットがあります。また、高齢者が増えれば、産業としてのヘルスケアのマーケットは大きくなるわけです。この議連では、ヘルスケアを保険料や税金を原資とする福祉的な面だけで見るのではなく、民間企業の参入を前提とした一つの成長産業として育てていくことを目指しています。その中でも、特にAIをはじめとしたテクノロジーを使っていく分野に焦点を当てて、ヘルスケア×テクノロジーということで「ヘルステック議連」として創設しました。

例えば、日本は生成AIの領域では、大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)において残念ながら世界に遅れをとってしまいましたが、医療や介護などの分野特化型の生成AIにはまだまだ可能性があります。また医療分野において言語だけではなく画像や音声データは、従来から日本が得意としている分野です。国としてまだ勝てるフィールドがある中で、どのように成長産業にしていくかを考えることは非常に重要だと思っています。

[畦元議員]
今枝議員のおっしゃる通りで、国としてヘルスケアを成長産業にしていく上では、官民連携も非常に重要と考えています。私自身もベンチャーを経営していましたが、たとえよい技術を持っていたとしても、信頼感を持ってもらうことが難しいこともあり、医療現場に民間事業者がなかなか入り込めない現状があります。例えば、私の会社で開発した放射性画像解析の技術は、海外の有名な病院で取り入れられたりしていましたが、なかなか国の政策の方向性と足並みが揃わなかった。ヘルステック議連として、まずはそういった民間のよい技術がしっかりと取り入れられる環境づくりにも注力していきたいと思っています。

ー医療分野でのテクノロジー活用というと、医療DX、データの利活用と密接に関連するかと思います。データの利活用では個人情報の保護が重要な課題の一つだと思いますが、どのようにお考えでしょうか?

[今枝議員]
個人情報保護は「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(通称 「次世代医療基盤法」)が制定された2018年からの重要な論点です。次世代医療基盤法は検診結果やカルテなどの個人個人の医療情報を匿名加工した上で、医療分野の研究開発での活用を促進する法律です。この法律を運用する上では個人情報が特定できないように、また個人情報を復元できないように加工し安心、安全を担保した上で提供することが定められています。

また保険診療の審査・支払いを行っている社会保険診療報酬支払基金を「医療DX推進機構」に改組し、医療DXに関するシステム開発、運用の中心的な役割を果たすことを目指しています。これによって、質の高い、かつ膨大な量のデータを取り扱うことができるようになります。データドリブンな社会において、1億2000万人を超える診療情報は我が国の大きな強みです。その意味でヘルスケア分野は非常に可能性のある分野ではないかと思います。

(2)データの利活用で鍵を握る「次世代医療基盤法」

ー昨年、その「次世代医療基盤法」が改正されました。どのような背景や意図があったのでしょうか?

[今枝議員]
大きく変わったのは、医療情報の加工方法です。これまでは、体重・血圧などの一定の幅の数値、例えば7のところを5〜10で示すなどして数値を丸めたり、生年月日や受診日をマスキングしたり、さまざまな情報を加工していたのですが、このような医療データが使いにくい、という声が上がったことで見直しを行いました。

法改正後は、新たに「仮名加工医療情報」を新設し、体重・血圧などの数値や生年月日、受診日をそのまま記載できるような仕組みとしました。一方で、個人情報を保護するために、氏名や診療IDなど個人の特定につながる情報はこれまで通り削除し、また「仮名加工医療情報」を取り扱うことのできる事業者は国が審査し、認定を行うこととしています。

ー今後、民間事業者におけるデータの利活用を促進するために何が鍵となるのでしょうか?

[今枝議員]
やはり実際の使用事例を作っていくことだと思います。今回の改正では、データの取り扱いをクラウド上でも可能にするなど、民間企業が使いやすい制度になるよう心を砕きました。

クラウド上でデータを保管するようにすることには省庁側からの異論もありました。日本の法律は目視文化が強いので、目に見えないデータを扱う法律の整備はこれからの時代の課題だなと思います。最終的にはISMAP(※ 政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)の認証を得た事業者のみがデータを取り扱えるようにしました。改正法の施行ギリギリまで私たち政治家と官僚、事業者のみなさんと膝詰めで、ガイドラインの運用に関する議論を行い、利便性を担保するための落とし所を見つけることができました。

[畦元議員]
使いやすさは本当に重要です。使いやすくしなければ、制度があっても意味がないですからね。従来の制度は使いにくいという声が多かったので、今後活用されるようになればいいと思っています。

(3)今後の展望

ー「医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会」の今後の活動の展望について教えてください

[今枝議員]
医療DXを推進するため、マイナ保険証の活用促進、医療機器プログラム(Software as a Medical Device:SaMD、サムディー)の薬事承認の見直し、オンライン診療、電子処方箋、オンライン服薬指導の推進などに取り組んでいます。

また、こういった各論だけではなく、ヘルスケアスタートアップエコシステムの構築のための組織づくりも重要です。今年2月、厚生労働省内にプロジェクトチーム(正式名称「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討プロジェクトチーム」)が立ち上がりました。厚生労働省はもともと規制官庁としての側面が強いのですが、今後はヘルスケア・スタートアップを振興する司令塔、窓口になっていくよう組織づくりを行っていきたいと思っています。今は一時的なプロジェクトチームですが、いずれは恒久化していきたいと考えています。

[畦元議員]
ベンチャーを後押しする環境づくりは本当に大切だと思っています。ヘルスケアスタートアッププロジェクトチームでは徐々に意見も活発に出てくるようになりました。ベンチャー企業が対等に意見がしゃべれる場所になっているのはとてもいいことだと思っています。

ー医療DXを進める上でキーになるものとはなんなのでしょうか。

[今枝議員]
社会環境や技術が変化する中で、色々な課題が出てくると思います。なので、先ほど申し上げたヘルステックスタートアッププロジェクトチームを相談窓口として継続していくことが大切だと思います。

[畦元議員]
私も継続が大切だと思います。放射線治療など、1年、2年で医療技術も大きく変わっていくので、問題も刻一刻と変わっていきます。相談窓口が継続してあることは非常に大切です。

ー今後取り組みたい課題について教えてください。

[今枝議員]
医療機器プログラム(Software as a Medical Device:SaMD、サムディー)の審査プロセスの見直しを行いたいです。医療機器プログラムとは、入力情報を基に、疾病候補、疾病リスクを表示するプログラムを初めとする医療機器の役割を持つソフトウェアのことです。2014年の薬事法の改正によって、プログラム単体でも医療機器として認められるようになりました。

現在、医療機器プログラムはソフトウェアのアップデートのたびに薬事法の承認が必要となります。審査体制の拡充を行っているものの、ソフトウェアのアップデートのたびに薬事法上の承認を行うことは審査する側、される側ともに負担が大きいので、審査プロセスの見直しを行いたいと思っています。

また細かい話にはなるのですが、医療機器プログラムの試用期間で有効性が認められた場合に、保険適用できるようにしたいです。また、保険適用前の全額自己負担の期間において、あえて利用価格を抑えているケースもあるので、保険適用後の価格設定が不当に低くならないよう検討が必要です。

ー最後に、ヘルスケアスタートアップの関係者や、読者へのメッセージをお願いいたします。

[今枝議員]
まずは先行事例を一緒に作っていきたいと思います。ヘルスケアスタートアッププロジェクトチームの窓口はいつでも開いているので、なにか課題があれば気軽に連絡していただければと思います。

[畦元議員]
のびのびと色々な開発をしていただきたいですね。日本の医療技術はとても高く、例えばCTの三次元撮影技術は日本は過去世界トップを走ってきました。今後も日本の医療技術をもっと伸ばしていければと思います。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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