緊迫した国際情勢が続く中、軍事費増額、防衛装備品の強化、同盟国との連携強化など、日本の安全保障政策は岐路に立っています。
防衛副大臣、外務副大臣などを務め、安全保障政策に力を入れる若宮けんじ議員に、現在の日本の安全保障環境と政策課題についてお伺いしました。
(取材日:2024年8月5日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 井出光)
若宮 健嗣(わかみや けんじ)議員
1961年東京都千代田区生まれ。
セゾングループ代表秘書兼統括事業補佐、実業家を経て政界へ。
2005年、衆議院議員選挙に初当選(5期)。内閣府特命担当大臣、外務副大臣、防衛副大臣などを歴任。
現在は自由民主党 政務調査会 会長代理・安全保障調査会 幹事長を務める。
趣味は森林浴、スポーツ観戦。
湾岸戦争の衝撃から政治家として外交・安全保障の道へ
ー若宮議員が政治家を目指したきっかけについて教えてください。
政治を志した原点は幼少期です。私は国会がある永田町で生まれ育ち、当時通っていた幼稚園、小学校も自民党本部の目の前でした。幼い頃から街頭演説や70年安保のデモ隊など、政治のダイナミズムを間近で見る中で、自然と政治に関心を持ち「何か国の役に立つことができないかな…」とぼんやり考えていました。
それから慶応義塾に入り、ゼミで様々な経営者をゲストスピーカーとしてお招きしてお話を聞く中で、ビジネスに興味が移り、大学卒業後はセゾングループの不動産開発の会社に就職しました。
入社後、ご縁があってグループ代表である故堤清二氏の秘書兼統括のような立場で、事業補佐を担当することになり、国内外の事業買収や企業合併、新規事業の立ち上げ、労働組合との折衝など、普通の若手社員では到底経験できないようなさまざまな業務に携わらせていただきました。当時は盆も正月もなく働きました。月に1日、疲れたときに休むくらいでしたね。
そんな中で、1990年、セゾングループでインターコンチネンタルホテルの買収を進めていた時期に、湾岸戦争が勃発しました。ホテルの株式を各国の主要航空会社に所有してもらうことでエアラインの顧客を相互活用する事業を展開しようとしていたのですが、湾岸戦争によって各国のエアラインが打撃を受け、計画が頓挫してしまいました。
この時、国際政治や経済、金融の動きとビジネスは不可分であることを改めて痛感し、「マクロな世界情勢をもっと早くキャッチできていれば」と悔しい思いをしました。
同時に、幼少期に抱いていた「国の役に立てることはないか」という原点に立ち戻り、再び政治への想いがよみがえりました。自分が何に取り組みたいかと考えたとき、外交・安全保障をやりたいと。これをやるには、やはり国会議員になろうと思ったんです。
ー政治家になると決意した際、周囲の反応はいかがでしたか。
会社員を辞めて政治家になるという夢を、あたたかく応援していただきました。
秘書としてご一緒させていただいた堤清二代表は、父に衆議院議長も務めた堤康次郎先生を持ち、ご自身も国会議員秘書の経験がありました。堤代表から「全面的に応援するから、頑張りなさい」と押し出していただいて、このご縁が今に繋がっていると思います。
ーセゾングループでの経験は、政治家としてどのように活きていますか。
セゾングループでさまざまな事業に関わっていたことは大きく役に立っています。
たとえばデジタル田園都市国家構想。2021年に初代デジタル田園都市国家構想担当大臣に就任したのですが、ゼロから政策のコンセプトを構築し、それをどんなキーワードで世の中に伝えていくか。そしてそれをどのように浸透させていくか。まずは何もないところから道筋をつけていくことから始めました。
デジタル田園都市国家構想とは、要するにデジタルツールを使った地方創生です。デジタルを使って、地方の「不便・不安・不利」という3つの「不」を解消します、とわかりやすいキーワードを作りました。たとえば、医療MaaSで病院のない地域で診療が受けられるようにする、農業・漁業を機械化、自動化する、公共交通が不便な地域にオンデマンドバスを導入する。生活者の目線に立った発想ができたのは、セゾングループで培った総合生活産業の知見が活きています。
今後の安全保障政策は、いかに同盟国とのネットワークを築けるか
ー若宮議員が政治家に転身したきっかけでもある安全保障について、現在の日本の政策課題や問題意識についてお伺いさせてください。
前提として、まずは憲法改正が必要だと考えています。この論点を持ち出すと、9条での自衛隊の位置づけとか国防軍を持つべきではない、といった議論になりがちなのですが、具体的にどう改正するかはさておき、「世界のどこかで攻められている、困っている国があるときに、日本が彼らを助けてあげられること」が重要なのです。
どういうことかと言うと、たとえばある国が攻撃されてしまい助けを必要としているのに、「日本は憲法上できません」と言って手を差し伸べなかったとします。今度は日本が攻撃されたときに「助けてください」と言っても、「自分たちが困っているときは助けてくれなかったのに?」と、それは普通に考えて納得がいきませんよね。各国それぞれ国民から預かった税金を使っているわけですので、国民の説得も高いハードルになってくるはずです。
現在の安全保障は「その国が強ければ守れる/攻められない」というものではありません。世界中が連携しリンクするなかで、自国のポジションをどう取るかということが一番大事になってきます。そうした状況下で、憲法を改正してしっかり各国とお互いに助け合うネットワークを構築することが安全保障上の大前提だと考えています。さまざまな国と経済的な面も含め手を組むことで「日本に手を出すと他の国々から囲まれてしまうな」という状況をつくることが必要です。
そうした意味で、防衛大臣は外務大臣に近い存在になってきていると思います。たとえば、2015年に防衛副大臣に就き、それまでは日本の防衛副大臣が参加することがなかったミュンヘン安全保障会議に出席する流れを新たにつくりました。
実は、このミュンヘン安全保障会議は国防関係で世界で一番大きな会議です。各国の国防大臣や外交関係のトップが一堂に会するため、本体の会議以外にも「バイ会談」と呼ばれる2国間での対話が行われ、様々な情報交換や議論を行います。私も隙間時間なくびっしりとバイ会談を行い、各国との連携を深めました。このときにまいた種が、のちにイギリス空母の日本寄港や欧州各国の戦闘機の日本への飛来につながっています。トップ同士による「同盟国とのネットワーク構築」は非常に大事なのです。
ー若宮議員が国会でも提唱されていた「アクティブサイバーディフェンス」について教えてください。
アクティブサイバーディフェンスとは、日本語に訳すと「能動的サイバー防御」のことです。インフラなどに対する不正アクセスやサイバー攻撃を事前に検知して、「トラブルが起こる前に守る」ことを意味します。
たとえば、もし鉄道会社のシステムがサイバー攻撃を受けた場合、電車が止まり社会がパニックになってしまいます。極端な例を言えば、国防システムが攻撃を受けた場合、敵に向けて放ったミサイルが自分に向かって返って来るなんてことにもなりかねないわけです。そうなる前に防ぐ必要があります。アクティブサイバーディフェンスはこれから対応が必要になるのは間違いありません。
ーアクティブサイバーディフェンスについて、今後、具体的にどのような議論が行われるのでしょうか。
今年の臨時国会で詳細は議論されると思いますが、重要な論点として、国が民間企業のネットワークについて情報を集めることが通信の秘密の侵害に当たるのか、また攻撃元のサーバーに侵入することは先制攻撃に当たるのかといったことが挙げられます。
まず、インフラなどをサイバー攻撃から守るためには、そのインフラに関わる民間企業がどのようなシステムを構築し、そのシステムが安全かどうか国が情報を集めて分析しなければなりません。ただ、国がチェックすることに対しては不安もあると思いますから、どこまで国が情報を集めるのか、きちんと基準を示す必要があります。
また、攻撃元がどこで、どのような攻撃を行っているのか。そしてその攻撃を妨害するためにどこまでの対応がとれるのか、というのも重要な論点です。国が攻撃元のサーバーに侵入してサイバー攻撃を妨害するのは問題ないのか、どこまでの反撃が可能なのか、議論が必要になるかと思います。
これからは、サイバー攻撃によって自国が脅威にさらされるだけではなく、同盟国にも被害が及ぶ可能性があります。
「日本の防御が甘かったせいで同盟国にも被害が…」という状況も想定され、もし何かあった場合、突破されてしまった企業、ないし国は責任を問われるかもしれません。あるいはそのような防御の甘い国や企業は、国際社会との連携ができなくなる可能性もあります。連携する各国は一定以上のセキュリティ能力を有していることが前提になるという意味で、これも巡りめぐって「同盟国とのネットワーク構築」という話に繋がってきます。
日本の宇宙開発技術を安全保障に
ー若宮議員は自民党の宇宙・海洋開発特別委員会の委員長も務められています。これも安全保障の面から注力されているのでしょうか。
2024年5月に特別委員会として提言を行いました。提言のポイントは、日本の宇宙開発技術をしっかり安全保障の分野にも活かしていくべきということです。
特に「衛星コンステレーション」の整備を国際社会の中でも主導していくべきと考えています。衛星コンステレーションというのは、平たく言うと小型の衛星をたくさん打ち上げ網の目のように張り巡らせ、衛星で検知した情報のタイムラグや情報のカバー範囲を上げていくというものです。
たとえば今回のロシアのウクライナ侵攻でも、情報戦が繰り広げられていました。開戦前、ロシアが国境周辺に戦車をどんどん固めていたという情報をアメリカが持っていましたが、こういったものが衛星コンステレーションによってリアルタイムにわかるようになります。
このために必要となる衛星の数が多く、莫大な費用がかかるため、各国が連携する必要がありますが、もし衛星コンステレーションが実現すれば、地球上の情報をリアルタイムで把握することができます。たとえば、どの艦船がどこに向かっているか、どこに集結しているか把握できるわけです。安全保障の世界で宇宙技術はもっとフル活用されるべきです。
また、経済の面から見ても、宇宙産業のすそ野の広さは実は自動車産業にも匹敵します。コロナで疲弊したサプライチェーンを復活させ、国内産業の活力を取り戻すという意味でも有効な分野だと考えています。
ー最後に、政治家として今後成し遂げたいことについて教えてください。
日本から、GoogleやAppleのような世界のマーケットのメインプレイヤーになるような企業、ないし事業を生み出したいと思っています。1999年にリリースされたNTTドコモの「iモード」といiうサービスがありましたが、当時もっと上手に国際展開できていれば今ごろNTTはGoogleやAppleのような地位を築けていたかもしれません。
ではこれからそうした様々なビジネスの基盤になり得るような分野は何かというと、私はやはり「宇宙ビジネス」だと考えています。決済における通信、自動運転の基本であるGPS、衛星から集めて共有するビッグデータ。これらすべてのベースになるのが宇宙ビジネス、特に衛星技術です。
これからさまざまなビジネスの基盤となる宇宙分野について、日本は官民一体となって取り組んでいかなければなりません。そして、次の世代の人たちにはその土台の上にさらに新たなビジネスモデルを見出し、世界で活躍していただきたいと思っています。