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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー自由民主党・国光あやの議員に聞く!「ヘルスケアのトクホ」創設に向けて 「ヘルスケア・トランスフォーメーションPT」の狙いとは

自由民主党・国光あやの議員に聞く!「ヘルスケアのトクホ」創設に向けて 「ヘルスケア・トランスフォーメーションPT」の狙いとは

投稿日2024.9.2
最終更新日2024.09.02

2024年5月7日に自民党 新しい資本主義実行本部・経済構造改革委員会のもとに「ヘルスケア・トランスフォーメーションPT(以下、HXPT)」が立ち上げられました。HXPTでは、ヘルスケアのイノベーションを促進するための新たな資金調達のあり方や国民が安心して選べるヘルスケア製品の質の担保、社会保障制度の持続可能性などが重要な論点として取り上げられています。その狙いについて、HXPTの事務局長を務める国光あやの議員にお伺いしました。

(取材日:2024年4月25日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 中井澤卓哉)

国光あやの議員インタビュー
国光文乃(くにみつ あやの)議員
1979年生まれ。山口県周防大島出身。医師。
国立病院機構災害医療センター、東京医療センター、厚生労働省を経て2017年衆議院選挙で茨城6区にて初当選(2期)。総務大臣政務官などを歴任。
特技は柔道剣道。

(前回インタビュー:https://say-g.com/interview-childbirth-expenses-6226

「ヘルスケア・トランスフォーメーションPT」の狙い

ー5月7日に自民党「ヘルスケア・トランスフォーメーションPT(通称「HXPT」)」で議論が新たに始まりました。国光議員はこのPTの事務局長を務めていますが、その狙いを教えてください。

国光あやの議員インタビュー

ヘルスケア領域はコロナ禍を通じたDX(デジタルトランスフォーメーション)によりイノベーションや投資が拡大し、急成長している市場です。日本は技術的に大きなポテンシャルがある一方、その実用化や国内外でのマーケット進出に遅れをとっています。

ヘルスケア分野でのイノベーションを加速していく上では、ヘルスケア分野特有の構造を踏まえる必要があります。イノベーション、すなわち新薬や新しい医療機器などは診療報酬改定で薬価や医療機器の価格が決まります。つまりその半分は税金で、みなさんから集めている保険料なんですね。

デジタルやグリーンなど他の分野のイノベーションとは異なり、ヘルスケアのイノベーションはみなさんが払った保険料で支える構造です。ここがポイントで、イノベーションの推進と医療保険財政の持続可能性のバランスを考える必要があります。国民の保険料がどんどん上がっていく中で納得できる座組で政策づくりを行う必要がある分野だと思います。

PTの議論ではこの点を特に留意しながら政策づくりを進めていきたいと考えています。

国光あやの議員インタビュー

(HXPTの様子(2024年5月11日 国光議員Xより))

ーヘルスケアにおけるイノベーションを推進させていくために資金調達のあり方を変えていくということですね。

そうです。イノベーションの財源を持続可能にするには、国(公的保険)の資源を利用するだけではなく民間の力を活かすことが重要です。これまでは民間の投資を呼び込む流れが弱かった。昭和から平成にかけてはイノベーションが生まれると、100%国が税金か保険料を使って、採算を取り、補助や税制などでケアしていました。人口減少と社会保障費の増大に伴い、同じことができる時代は終わりつつあります。今は、いかに民間の投資を呼び込むかがイノベーションを継続的に起こすために必要です。

その実現のキーとなるのが「インパクト投資」への転換です。

「インパクト投資」とは社会課題を解決するような、社会によい影響(インパクト)を与えるための投資で、今やグローバルにその市場が盛り上がってきています。社会課題解決が「インパクト投資」のミソなのでヘルスケア産業はとても親和性が高いんですね。ファンディングエージェンシーや国際機関、財団などからの投資を呼び込むことも伸びしろがある部分です。

公的保険ではなく「インパクト投資」によって得た原資を元手に売り上げを伸ばし、リターンを得て、再投資を行い、新たなイノベーションを起こす。この好循環を回すことがイノベーションの創出の理想のあり方です。

給付と財源

国光あやの議員インタビュー

ーファーストステップとしては何に着目し、議論を行いますか。

まずはヘルスケア産業の市場の健全な拡大を実現するためのロードマップを描き切ることです。現在、経済産業省は2050年までに77兆円の市場規模を見据えていますが、私はこれは保守的な数字だと思います。個人的には2050年までに100兆円を実現したい。当面のマイルストーンは2030年には30兆円です。そこから累進的に広がっていくロードマップを描きたいと考えています。

国光あやの議員インタビュー

(経済産業省 2024年6月「ヘルスケア政策の動向と国際展開について」より)

公的皆保険で支えている部分は今約40兆円なのですが、仮にこの部分が増えるとなると、みなさんの給料から引かれる保険料が多くなる。しんどいですよね。どこかで増えていく分を抑えていかなければなりません。できれば50兆円までで止めて、さらに安心したい保険が欲しい人は民間の保険サービスに入ってもらえる形にしていきたい。大きな2階建ての構想です。

ーこういった考えはすでに自民党でも進んでいるのでしょうか。

「今、まさに進もうとしている」段階だと思います。新しい技術でイノベーションが発生しても受益者が負担するとなると保険料はどんどん上がっていくことになります。ヘルスケア領域に民間の力を活用する必要性については社会保障政策に詳しい議員の間ではコンセンサスになりつつありますが、より広い理解を得るための議論が必要だと思います。

ーこれからは公費で財源を賄い続けることは難しいのですね。

そうです。社会保障費の財源として議論の俎上に上がるのは法人税や企業の内部留保、所得税が主たるところです。ただどれも財源として頼るには難しさがあります。法人税は税収額が景気動向に左右され安定しない。所得税や累進課税も実は金額としてそれほど大きくはない。日本は借金大国なので、新たな財源が発見されたところで過去の借金分の返済に充当される傾向にありますよね。すぐに頼ることができる税財源がない以上、民間の投資を呼び込む選択肢を真剣に考える必要があるのです。

国光あやの議員インタビュー

ーこのPTでの議論は、社会保障の構造改革につながるということでしょうか。

そうです。政治が土俵・仕組みを作った上で、それぞれの領域でイノベーションが同時多発的に生まれてほしいとの思いがあります。社会保障制度の考え方はどの分野でも、古今東西「給付と財源」が基本的な視点です。医療も介護も年金もヘルスケアスタートアップも子育て政策もそうです。給付をどう配分するか。そのための財源をどうするか。国民の関心も高く、政治的にもバランスを取ることが難しい領域なのです。

市場の健全な拡大のためにエビデンスベースの認証制度を

ーヘルスケア産業の対象にはどのような業種や領域が含まれますか。

経済産業省がヘルスケア産業で位置づけているのがこちらです。

国光あやの議員インタビュー

(経済産業省 2024年6月「ヘルスケア政策の動向と国際展開について」より)

衣類や美容器、美容クリニック、海外からのヘルスツーリズム、民間保険に至るまで幅広い領域で拡大傾向にあり、健全に成長させていきたいです。拡大・成長は好ましい一方で、消費者問題に発展しかねない事例も耳に挟みます。

たとえば民間保険のオプションにある、がん検査の信憑性が低かったり、運動管理アプリでも本当に健康に効果があるのか疑問が持たれた事例もありました。そこでこのPTでは「国民目線で安心して選びやすい質(エビデンス)の確保」も大きな論点として取り上げる予定です。

ーたとえばヘルスケアの「トクホ」のような認証制度のイメージでしょうか。

(※トクホ(特定保健用食品):国の審査によって特定の保健の目的が期待できる旨の表示をする食品)

まさにそうです!たとえば現状、エステ業界などいくつかの業界団体では自主規制をかけていますが、どうしても厳格な運用は難しい。本当に「認証」と言えるのかどうか怪しいものも多くあるんです。そこでエビデンスに基づき、学会が持つ専門知を活用し政府と民間が協力し認証制度を構築できないか模索したいです。例えば血圧管理アプリに学会のチェックを入れ、ガイドラインを作り、それをクリアしたら認証を与えるようなイメージです。成長する市場には多くのプレイヤーが参入してきます。その中で本当に有効で有益なものが市場で生き残れるための仕組みを作りたいです。

ー社会保障もヘルスケアの質の確保も、私たちの生活に身近なものなので今後の議論に注目したいです。最後に、この政策にかける意気込みをお願いします。

国光あやの議員インタビュー

政治家が一番やらなくてはいけないこと。それは先送りできない課題にしっかり対峙することです。誰かの痛みを伴うことがあったとしても、それが全体のためによいものなら乗り越えるための努力を惜しむつもりはありません。

私は立場は変われど社会保障の世界でずっと生きてきました。その問題点や課題に現場で向き合ってきた経験があります。だからこそこの分野に取り組む責任感や使命感を抱いています。若い世代の負担を今以上に過度にしない。負担能力のある人にしかるべき形で払っていただく。それによってサステナブルな社会保障の仕組みを作る。これをやりきっていきたいです。そのためにはこれからの時代、民間の力を活用することが不可欠です。民間の活力から生まれた果実が賃上げや投資の拡大につながる。ヘルスケアスタートアップを起点に強力で持続可能な好循環を創出するための議論をリードしていきます。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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