少子高齢化や急激な人口減少、厳しさを増す安全保障環境など日本を取り巻く国内外の情勢は厳しさを増しているとされます。その中で政治にはこれからの日本が進む方向を指し示し、日本社会のあるべき姿を描いていく役割が求められています。今回のインタビューでは、立憲民主党代表選挙に立候補を表明した泉健太議員に、これからの日本の将来像についてお伺いしました。
泉健太(いずみ けんた)議員
1974年 北海道札幌市生まれ。立命館大学法学部卒業。
参議院議員秘書を経て、2003年初当選。希望の党や国民民主党を経て、2021年11月より立憲民主党代表を務める。
ようやく政権交代への機運が出てきた
ーまずはじめに自己紹介をお願いします。
立憲民主党の泉健太です。年齢は今50歳。自民党の総裁選挙に出ている小林鷹之さんと同じ1974年生まれです。18歳になるまではずっと北海道で暮らし、立命館大学への入学をきっかけに京都で生活するようになりました。
京都では今でもお付き合いのある多くの先輩方にお会いしました。福山哲郎さんや前原誠司さん、山井和則さんに出会って、京都で政治活動を始めるようになりました。福山さんの秘書を務めるようになり、25歳で衆議院選挙で全国最年少で立候補することになりました。同級生で政治家になる人はいなかったですね。1回目の選挙では落選したのですが、2回目は29歳の時に初当選。そこから8回の当選を重ねて現在に至ります。
ー代表になって3年ほどが経過しようとしています。振り返ってどのように総括されていますか。
私が三年前に代表に就任したときは、衆議院選挙に敗北した直後で、先輩たちの多くも代表選挙に立候補すらしたくない雰囲気でした。まさに火中の栗を拾うようなものでした。その時、岸田政権は衆議院選挙で勝利し、大型選挙のない、黄金の3年間を迎えるだろうとも言われていました。今、振り返ってみると岸田さんにとって、この3年間は旧統一教会を巡る問題や今般の裏金の問題が発生し、決して順風満帆ではなかったですよね。
その中で立憲民主党はこの3年間で、理想を高く掲げながらも政権を担える現実路線の政党に生まれ変わる努力をしてきたと思います。エネルギー政策や防衛政策、経済政策など幅広い分野で自民党の違いを強調するだけではなく、自分たちの考えや政策を提案することに特に力を入れてきました。
その取り組みと裏金の問題が相まって、現在では政権交代をしてもいいのではないかという空気感が生まれるところまで来たのではないかと思っています。
中間搾取を止め、生活者目線の政治へ
ーその中でも特に力を入れた部分は。
政策を提案しても大きな政治の構図が変わるわけではありません。衆議院で言えば自民党が大体300人。立憲民主党は100人しか議員がいません。みなさんから自民党と対等に戦ってくれと期待が寄せられますが、実際に論戦を戦わせること自体がかなり大変です。政策を出したと言っても、基本的に自民党が大体300人いる中で、こちらは100人しかない。この勢力図は選挙がない限りは変わりませんからね。
とはいえ必ずしもすべての政府の方針に反対なわけではありません。例えば防衛政策については防衛費を増額すること自体は反対ではありません。現実的にウクライナの状況を見ても、日本が新たな装備品を購入しないといけないのは間違いありませんし、自衛隊員の待遇も上げるべきです。ただ、その予算の算定の仕方は疑問です。5年で43兆円という数字には客観的な根拠があるわけではなく、岸田総理がNATOと同水準の対GDP比2%にしたいということだけを根拠にして決まった数字です。現場の実情に合った予算を取らないとむしろひずみが生まれるのではないかと思っています。
立憲民主党は防衛政策の方向性に関する政策ペーパーを作成しましたが、安全保障に関わる専門家からも大変評価されています。金融政策についてもアベノミクスからの脱却を先んじて提案しました。金利を徐々に上げていくことが企業の新陳代謝や国民への金融資産の分配につながると言ってきたんです。野党だからこそ主張できることがあると思い、政策を作ってきました。
ー泉さんの目から見て自民党が変えないといけないと思うポイントはどこでしょうか。
中間搾取を止め、生活者目線でない政治を改めることです。自民党は国から地方に大きな公共事業を持ってきますが、その際のお金が地域経済にちゃんと還元されてこなかった。大手の事業者がお金を持って帰ってしまうんです。地域にお金が落ちるような仕組みにしないと、地域の経済はずっと疲弊したままになると思うんです。国内産業を大切にし、エネルギーや農作物の自給を高める方向で政策を推進する必要があったにもかかわらず、外国からの輸入頼みの構造を変えてこなかったことも大きな問題です。
賃上げ政策は引き続き実施していくべきですが、まだまだ賃上げのペースとしては弱い。現時点では賃上げの結果、所得税や社会保険料の負担額が増え、手取りが減少する現象が起きています。これをブラケットクリープと言います。物価の上昇に賃金の上昇が追いつかなければ、結婚して子どもを持つことも厳しい状況のままです。
賃金が増えた中でも負担が増えないようにブラケットクリープ減税や家賃補助、初任給を向上させるような政策をまずやっていくべきではないかと思います。
ー政治ドットコムには若い読者も多く規制改革やスタートアップ政策には関心が多い人も多いのですが、もし立憲民主党が政権をとったらどのような政策を取りますか。
地方のスタートアップのみなさんと意見交換をしているときに感じた課題は、地域の金融機関を通じた資金調達のあり方ですね。それぞれの金融機関の対応にバラツキがあり、硬めの金融機関だとスタートアップのような新しいビジネスに慣れていないこともあり、資金の出し渋りが起こる。地方でやる気はあるが、支える金融機関がないという問題があります。
またスタートアップをやるためには当然ですが、仲間が必要です。仲間とつながる場所をより地方に作っていきたい。大学のコンソーシアムのような場所に若手人材が集まり、将来の起業のための議論ができる環境を作っていく。国立大学を中心に支援することも重要です。
今はどこも人手不足なので、省力化やロボットの導入によって、解決される部分が大きいはずです。常に大切なのは利用する人の安心・安全です。ライドシェアの議論が活発になっていますが、ルールを守ることを求めながら、規制緩和を進めることに反対ということではありません。
ー安全保障政策についてはどう考えますか。
安全保障政策については、アメリカやヨーロッパの各国では国民が政権交代をうまく使っているのではないかと思うんですよね。例えばアメリカでは政権交代の前後のタイミングでアフガニスタンやイラクからの撤退を決断してきました。
日本もこれまでの蓄積を継続していくだけではなく、政権交代は時に防衛政策にもプラスになるんだってことを知っていただきたい。
実は日本でもかつての民主党への政権交代時には、それまで自民党が長く変えることができなかった防衛戦略を変更した側面がありました。対ロシア中心だった抑止戦略を南西諸島中心に変えました。同時に動的防衛力という概念を導入。海自や空自を強化して、陸上自衛隊の基地が戦略の中心だったところからより柔軟性を持たせるようにしました。
立憲民主党としては今後、防衛装備品以外の分野にバランスよく予算を配分して、総合的に防衛力を強化していくことをやりたい。例えば、フェイクニュース対策や海底ケーブルの防護、原発防護。もちろん宇宙やサイバー、電磁波、ドローンなどの新しい安全保障の領域に対する投資も並行して行っていきますよ。
ー今回の国会で改正された政治資金規正法の内容は何点くらいと評価していますか?
0点ですね。今回の改正の肝となる部分が自民党の反対によって実現することができませんでした。政策活動費は政治活動に使われる使途不明金ですが、当然止めましょうという案を出したにも関わらず、自民党が今回の国会では通さなかった。文書通信費、旧文通費についても今年の6月までに結論を出すことを取り決めしていたにも関わらず、反故にした。これには日本維新の会も相当怒っています。与党が賛成で野党が反対ばかりとよく言われます。今回の政治資金規正法では逆で野党の出した案に自民党が反対したんです。今回の国会での改革はなんちゃって改革で、問題だらけのままです。
共に立ち上がってくれる仲間をもっと集めたい
ーかつて泉代表は次の総選挙で150議席を超えない限りは辞任すると発言したこともありました。次の総選挙の見通しはどのようなものですか。
150議席は超えてくると思います。これまで自民党が我が世の春を謳歌する中で、野党を応援していると表明することを憚る人も多いと思います。いわば隠れキリシタン状態。だから政党支持率では自民党と大きな差があるように見える。自民党を支持しなくなったからと言って、急に立憲民主党に手を挙げて指示してくれるわけではありませんから。
一方、世論調査で「次はどのような政権に期待しますか?」と聞くと、「自民党・公明党を中心とする政権」と「野党を中心とする政権」を望む割合が半分半分だったりする。このデータを見れば、自分が必達目標にしてきた150議席を大きく上回る環境はできていると思うし、政権交代は十分可能です。
ー政権交代後の泉内閣のシャドウキャビネットも作られています。それぞれのポストに就任する人はどのように選ばれたのでしょうか?
これまで取り組んできた専門分野を考慮して人選を行いました。例えば、「ネクスト外務大臣」の玄葉光一郎さんは民主党政権時代に実際に外務大臣を務めた経験があります。「ネクスト財務金融大臣」の階猛さんは政治家になる前は金融機関でキャリアを積み上げてきた人です。
ー逆に政権交代を実現するためには課題に感じるポイントやもっと頑張らなくてはいけないポイントはあったりしますか。
やはりもっと仲間を集めたいですよね。次期衆議院選挙に立候補を予定しているのは現時点で190名ほどです。まだ立憲民主党単独で政権を担うほどの候補者数を擁立できているわけではありません。私たちと一緒に共に立ち上がってくれる志ある方があと100人いれば、この世の中が本当に変わるんだということをもっと伝えていかなければならないと思います。
ー10-20年の単位で日本をどうしたいですか?。
日本を伸ばす。今回の代表選挙での私のテーマです。日本を伸ばすためには経済成長が重要ですが、自民党と立憲民主党の経済成長論の違いは立憲民主党は人を大切にした経済成長を目指す政党であるということです。
新自由主義・効率主義では人が粗末に扱われかねません。人を大事にする経済、持続可能な経済の中で伸びていく日本を目指していきます。
今、自民党の総裁選挙では解雇規制の緩和に関して議論がなされています。解雇規制の緩和は経営者側からするとおいしい話かもしれませんが、若者世代の将来不安をより大きくしかねません。いつ首が切られるのかわからない状況では、家を買ったり車を買ったりもしない。結婚したり子供を産んだりすることにも怖さを感じる人が増えるのではないかと思います。
だから安定雇用はやはり必要です。正規雇用への転換を進めてきたにも関わらず、逆の方向に行こうとするのは、道を外してしまっています。
残業規制の緩和も俎上に載っていますが、残業規制を緩和するだけでは、経営者にしか旨みがない。働く人にとってもメリットがないといけません。具体的には残業代の割増賃金を現在の25%から50%くらいまで高めることによって、ある程度残業したら十分暮らしていけるような給与体系にしていくべきだと思います。
結局、自民党は常に経営者側、国側の視点で政治を考える。僕ら立憲民主党は国民側、働く人側の視点で政治を考える。どちらの視点も大事です。だからこそ立憲民主党が強くなることが大切です。
ー最後に読者にメッセージをお願いします。
立憲民主党は政権交代のための器です。立憲民主党は政権交代のためだけではなく、政権を担える器でなければならない。そのことをずっと意識して立憲民主党を引っ張ってきました。これからも立憲民主党を育てていきたいと思っています。この国にもう一個、政権を担える政党があれば、みなさんは選択することができる。日本は民主主義国家です。政権を選択できる国にしたいと使命感を持ってやっていますので、ぜひみなさん立憲民主党に期待してください。