教育無償化は大阪などの都市部を中心に実現が進んでいます。地方では質の高い教育を求めて都市部へ人口が流入し、過疎化が進む現状もあります。
2024年6月13日に日本維新の会は「全世代型の教育無償化」と「高校教育無償化」の2つの法案を国会に提出し、現在も実現に向けて与党との協議を続けています。
今回のインタビューでは、日本維新の会文科部会長として教育政策の実現に取り組む金子道仁議員に、教育無償化の意義や教育機会の確保が必要な理由についてお伺いました。
(取材日:2024年12月13日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
金子道仁(かねこ みちひと)議員
1970年神奈川県横浜市出身。東京大学法学部卒業。
外務省退官後、1998年より猪名川町のグッド・サマリタン・チャーチの牧師を務める。
2022年参議院議員選挙初当選。4男4女の父。
牧師としてフリースクールを運営する中で国政に挑戦した理由
ーもともとは牧師として活動されていましたが、政治家を目指したきっかけは何だったのでしょうか。
大学卒業後は外務省に入省し大使館や条約局法規課に勤務しました。政策作りの現場には縁がありましたが、政治家になろうとはまったく考えておりませんでした。外務省退官後はご縁があり兵庫県猪名川町のキリスト教会の牧師を務めるようになりました。
教会は地域と密接に関わる場所です。その中で私は不登校などの理由によって教育機会に恵まれないこどもたちの支援に地域や行政とともに取り組んできました。しかし、行政による教育政策の姿勢が一貫せず、現場で対応し続けることに難しさを感じることがしばしばありました。川の上流にある根本的な問題が解決されない限り、目の前にある現場の下流の問題は繰り返し起きてしまうだろうと感じたのです。
この時に初めて、政治家として問題解決に取り組むべきだと考えるようになりました。政策提言書を作成し、複数の政党に送付。日本維新の会と出会い、教育無償化をはじめとする次世代のための政策を実現するため出馬を決意しました。
ー牧師としての側面を持つ金子議員が国会議員として活かせていると感じる点はありますか。
「偽りなく歩む」という考えを大切にしています。政治の場においても信義則を守ることは重要で、一度失われると協議が進まなくなります。馬場前代表も「正直であることが何より大切だ」という考えを示しており、私も強く賛同しています。
時には相手の誠意を信じて行動する必要がありますが、政治の世界では色々な立場の方々による様々な思惑が渦巻いていることも事実です。その中で、たとえ期待に応えられない結果になったとしても、それを恨まずに受け入れる度量が求められる場面もあります。政策実現のため、職務を全うし、地元に還元できる仕事をしたいです。
未来を育む教育改革への展望
ー 現在の日本の教育の課題はどこにあるとお考えですか。
日本の教育制度の中心は学校制度です。日本の学校文化は、明治時代に確立された教育行政の流れを受け継いでいます。当時の教育制度は、知識を効率的に伝え、それを活用できる人材を大量に育成することが目的でした。これにより、日本は文明開化を進め、富国強兵や経済発展に大きく貢献してきました。
しかし、現代のこどもたちの学び方は大きく変化しています。ある文部科学省の官僚は「今のこどもたちはオンデマンド世代である」と述べていました。つまり、受動的に与えられる情報をただただ受け取るのではなく、自分で興味のあるものを選び、深めながら学ぶのが今のこどもたちです。
この変化に対して、従来の一斉授業や固定カリキュラムがどれほど対応できるかが問われています。文部科学省も個別最適化された学びの実現に取り組んでいますが、これをさらに進め、こども一人ひとりの可能性を広げる教育を目指さなければなりません。
ー 日本維新の会は早くから教育無償化を訴え、実際に大阪で実現してきました。
高校無償化は、単なる経済的負担の軽減だけを目的にしたものではありません。その先にあるのは、全国どこでも多様で質の高い教育の機会を提供することです。私たちは、高校生が自ら選択肢を広げ、興味を持つ分野で試行錯誤する環境を作ることを目指しています。
たとえば、ある高校では普通科にとどまらず、農業や商船分野について学ぶプログラムを提供しています。高校3年間で、自分の興味がどこにあるのか、何を深めたいのかを試し、将来の進路を見据える仕組みを作ることが重要です。
教育無償化の実現によって経済的な理由で教育の選択肢が制限されることがなくなるでしょう。しかし、それだけでは無償化する理由に足りません。こどもたちに質の高い教育を提供することは日本の未来への投資、つまり、多様な人材を育て、イノベーションを生む基盤作りです。そのためにもこの政策を活用する必要があります。
ー 2024年6月13日に提出された「全世代にわたる教育無償化等の推進に関する法律案 」と「高等学校等に係る教育無償化等の推進に関する法律案」の意義を教えてください。
「全世代にわたる教育無償化等の推進に関する法律案」は、将来の日本で、誰もが学びやすい環境を作るための方向性を示した理念法です。
今回は「全世代にわたる教育無償化」という大きな目標を基に、教育の各ステージに合わせた理念を示す法律として「高等学校等に係る教育無償化等の推進に関する法律案」もセットで提出しました。
大阪府など都市部を中心に高校の授業料無償化は進んでいます。これは非常に喜ばしいことですが、地方との教育機会の不平等をより進める可能性があります。全国一律でない教育の無償化は、都市部への人口流入に拍車をかけることにつながりかねないからです。
そのことを避けるために、全国どこにいても同じように質の高い教育を受けられる環境をいち早く整える必要があると考えています。高校の教育無償化を実現してきた日本維新の会としては、絶対に実現すべき法案だと考え、併せて提出しました。今後も与野党との協議を踏まえ政策を前に進めていきたいと考えています。
こどもたちの教育機会の確保に対する思い
ー不登校や教育機会の喪失などの社会問題について、どのように取り組むべきだとお考えですか。
現在、日本には約40万人のこどもたちが、不登校やその他の理由で教育機会を失っています。この状況を放置すれば、少子化の進展とともに高齢化した親が引きこもる子どもを支える8050問題などの社会的課題がさらに深刻化します。
私たちが目指すのは、学校に通えないこどもたちにも学びのアクセスを提供することです。「学校に行かなくても人生が終わるわけではない」というメッセージを社会全体で発信し、多様な学び方を官民連携で支えることが必要です。
例えば、オンライン教育や地域での学びの場の提供といった柔軟な選択肢を増やすことで、こどもたちの可能性を広げることができます。不登校問題を単に数値的に減らすのではなく、学びたい子どもたちが100%学べる環境を作ることのほうが重要で、これまでの不登校の数を減らす政策目標の転換を全国的に行わなければなりません。
教育を行う主たる機関は、間違いなく公立学校・私立学校です。しかし、そこに合わない子にも学びの場を提供することで、選択肢を広げていくことが私たちが目指す教育環境です。そのためにも、今、不登校支援フリースクール支援は、東京も大阪も自治体で徐々に広がっています。教育無償化と併せてこれも全国で進めていきたいと思います。
教育を通じて地方創生を実現する
ー今後の展望や意気込みを教えてください。
現在の政治状況は、衆議院で与党が過半数割れする中、野党との協力を必要とする非常に流動的な時期です。多くの国会議員が、これまで温めてきた政策を実現するチャンスと捉えています。
私自身も教育無償化の推進や教師の働き方改革、教育機会確保法の改正など教育全体の環境を改善する法案作りに日々取り組んでいます。また、自民党や公明党といった与党だけでなく、他の野党とも連携して政策実現に向けた議論を続けています。
こうした1つ1つの政策の実現の積み重ねで教育改革を前に進めていく。こどもたちにとって喜んで学べる環境が全国に広がっていく、これが私の願いです。
私の原点は地方にあります。しかし、その地方では過疎化が進んでいます。過疎化が進む理由は多岐に渡りますが、もしその理由が、高校や大学で質の高い学びができないことや、小・中学校が廃校、統合して暮らせないということであれば、本当にもったいないですし、悲しいことです。
高校無償化や教育機会確保といった政策は、そのための第一歩です。これらの取り組みを通じて、どのこどもも平等に学び、成長する機会を得られる社会を築いていきます。
教育は未来への投資です。今の改革が次世代の日本を支える基盤を作ると信じています。