少子高齢化や急激な人口減少、厳しさを増す安全保障環境など日本を取り巻く国内外の情勢は厳しさを増しているとされます。その中で政治にはこれからの日本が進む方向を指し示し、日本社会のあるべき姿を描いていく役割が求められています。今回のインタビューでは、8月26日に自民党総裁選挙に立候補を表明した加藤勝信議員に、これからの日本のグランドデザインについてお伺いしました。
(取材日:2024年9月20日)
(本記事は「政治ドットコム」YouTubeチャンネルのインタビュー動画を元にしたものです。本編動画はこちらからご覧ください)
加藤勝信(かとう かつのぶ)議員
1955年東京都生まれ。東京大学卒業。財務省勤務や加藤六月秘書を経て、2003年衆議院選挙で初当選。自民党総務会長や厚生労働大臣、内閣官房長官などを歴任。座右の銘は「一点素心」。
今回の総裁選挙では国民所得の倍増を訴えたい
ー総裁選への出馬は初めてです。これまでの総裁選挙と見える景色は全然違いますか?
全然違いますね。これまで官房長官や厚生労働大臣を経験してきましたが、どうしても守りの会見になるので、自分が訴えたいことを言う場ではありませんでした。ただ総裁選はどちらかというと訴えかけていく演説をしないといけない。全然違うことをやっているなという感覚です。
ーこれまでの手応えは?
演説から非常にわかりやすかったよというお声をいただくこともあります。自分の言いたいことをわかりやすく強く打ち出していくことを意識しながら喋っています。
ー今回の総裁選挙で一番訴えたいポイントは?
最優先で取り組むべきは国民所得の倍増です。12年前に第二次安倍政権が発足した時点では失業が大きな問題でした。当時は失業率が5%、有効求人倍率も1を切っていたんですね。だから当時は雇用を守ることを目標にアベノミクスをやってきました。
ですが、今は雇用情勢はガラッと変わってきました。働く人は全体で1割増えました。特に女性の働き手は2割増えて、高齢者に至っては倍増です。
ただ一人当たりの賃金は必ずしも上がっていない。海外と比較すると名目賃金で半分以下。実質賃金は海外の方が1.5倍。だから海外から来た人は日本の物価が安いと思うんですよね。
頑張って働いても賃金の上では十分に評価されていないと思うんです。その一方で、大企業を中心に最高の収益を出し、内部留保は10年間で倍になった。現預金は350兆円あるんだから、それを起点に賃金をあげること。私たちが12年間やってきてできなかったことだから、私たちに責任がある。それができる状況になったタイミングなので、まず絶対にやるんだという思いです。だから国民の所得倍増という明確な目標も含めて示しました。「向上」ではなく「倍増」。覚悟を持ってこの政策を訴えています。
ー所得倍増を実現するためにクリアしなければならない課題はどこですか?
機械的に計算すれば、毎年5%賃金が上昇していくと15年、毎年7%だと10年で賃金は倍になる。よりポイントだと思うのは、賃金は上がっていくものという認識が浸透していくことがポイントだと思うんですよね。
ここ1-2年、給料が上がっていますが、来年は上がらないかもしれない。すると何かほしいものがあっても我慢してしまうかもしれない。だからこの流れを再来年以降も継続していくことが重要です。
GDPの半分以上は個人消費ですから、国内消費を活性化することで、国内の市場全体が活発になっていきます。企業も日本国内に新しい商品を出すインセンティブが生まれ、国内に雇用が生まれるという循環が生まれるかもしれない。今この歯車が動くか動かないかの境目にいると思っています。だからこそ私がこの歯車をグッと動かしたいと思っています。
成長産業としてのクリエイターエコノミーに取り組み続けた理由
ークリエイターエコノミーに関心を持った背景は?
日本のコンテンツはすごく裾野が広いですよね。また私の娘よりも若い世代の人たちの話をしていくとそれぞれが自分の思いを持って、クリエイターの世界に飛び込んでいると感じるんですね。
私たちが若い頃は会社に就職することしか道がないような雰囲気があった。でも今は色々な選択肢があり、自分なりの実現の仕方があり、そこから日本発のビジネスにつながっていっています。
この分野はとても面白い。広げていきたいなと思ったのが取り組み始めたきっかけです。大きな可能性がある。関係者の人と話すことも多いのですが、自然体の中で色々なことをやっていきたいっていう思いを強く感じました。
ー政策を前に進めていくための秘訣は?
これまで色々な仕事をやってきて、官僚の人とも色々なつながりを持っているのは大きいと思います。官僚の方々も仕事に真剣で、一つ疑問をぶつけると真剣に色々な回答をくれるんです。その中で一つ一つ実現できるラインを探っていく感じですね。
ー今後、コンテンツ産業やクリエイターエコノミーに関連して取り組んでいきたい分野はありますか?
今、多くのクリエイターが個人商店の形で取り組んでいます。その中で世界に発信していくためにはよりサポートが必要かもしれない。そこに資金面でもノウハウ面でもサポートを政府としてやっていきたいですね。今、文化庁や経産省を中心に政策作りが進んでいます。コンテンツは一つの成長産業ですから応援していきたいですね。
その一方で、クリエイターの世界には労働環境の問題があります。伸びる産業だからこそ働きやすく、やりがいのある環境を作りながら広げていきたい。そうでないとみんな海外に行ってしまう。アイデアのタネは日本にあるけど、海外でそれが花開いたら収益も全部海外に行ってしまいますよね。それはもったいないので、国内の環境整備に力を入れていきたいですね。
今回の総裁選挙では国民所得の倍増を訴えたい
ー今回の総裁選のキャッチコピーは「協創」ですね。このコンセプトに込めた思いを教えてください。
「協創」に加えて「日本の強みを呼び覚まし、一人ひとりの想いを形に」というフレーズも掲げています。日本ってやっぱり強みをたくさん持っているんですよね。それでも賃金が上がらず将来不安を持っている人が多い。実現したいことがあるけど、チャレンジすることにも少し怖さがある。一人じゃなかなか変わらないのかもしれないけど、みんなでやったらできるかもしれない。
私たちが若い頃は社会全体でみんなで同じ方向を見ていました。今は多様化した社会になりました。お互いが違うことを理解した上で協力していくことが新しい力を生み出していくために必要なんじゃないかと思うんですよ。
ー政策づくりには様々な立場の人が携わりますから、「協創」はすごく本質的なフレーズですよね。その中で官民連携の部分で課題だと思う部分はなんでしょうか。
クリエイターエコノミーに取り組んだ際にもオンラインで様々な意見をお伺いしました。会議でかっちりと集まることも大切かもしれませんが、意見を聞く手段を多様にしていくことが重要かもしれませんね。そうすると政治を身近に感じてもらえる瞬間も増えると思います。
ースタートアップ政策や規制改革に関連する政策への向き合い方を教えてください。
これからの日本経済を回していく一つのプレイヤーがスタートアップであることはみんな同じ意見を持っていると思います。まずは起業をしようと考えている人をどう後押しするか、踏み出した後のステージでそれぞれの支援が必要です。
その一方でスタートアップに投資した人が評価される税制を作って、そこにお金が回るような状態を作っていくことですね。投資の規模も金額も日本はアメリカと比べれば全然小さいですよね。場合によっては国が一部財政的な後押しをしながら、投資することを評価する流れを作っていくことが重要だと思います。
ー安全保障政策に対するスタンスを教えてください。
これまでにない危機感を持っています。国連の常任理事国が違う国に侵略し、国連が機能するかどうかについても疑問を持っている人が多い。中国の軍艦が日本の接続水域を通過しました。緊張感はかなり上がってきていると思います。
私たちの生活、企業活動、経済を回していくためには平和でないといけないんですよ。日本は海外との自由な貿易をベースに戦後発展してきたわけですから、航海の自由や流通を確保する必要がありますよね。
日米関係は基軸ですが、そのアメリカも内向きな傾向にあります。ヨーロッパやオーストラリア、またグローバルサウスと呼ばれる国々との連携を強化することも重要です。アジアの国々も多様な価値観を持っていますから、それをしっかり認めつつ、共通の利益を模索し、日本の国益を実現していく姿勢が求められます。
これを実現してきたのがまさに安倍総理です。状況も常に変わっていますが、修正しつつ、基本的には安倍さんの路線を継承して、地域の平和を守っていくことが重要だと思います。
ー加藤さんはコロナ禍での厚生労働大臣でした。その時の教訓を踏まえて、今のうちに実施しておくべき準備とはどういうものでしょうか?
コロナ禍ではその人の感染者数を把握することが困難なほどデータがつながっていなかった。医師の仕事も事務作業に負われて、患者さんを診るという本来の仕事にちゃんと時間を割くことができなかった。これを解決するためにはDXを徹底的に進めていくことが必要です。
コロナ禍を経て法改正も実施しましたが、地域ごとに対応を協議してもらう仕組みを構築し、全体としての司令塔を機能させていくことが重要だと思っています。
ー投開票日まであと1週間です。どこに注力し、どんなメッセージを送っていきますか。
総裁選は党員票と議員票です。1票でも多く取れるように色々な媒体で政策や思いを発信していきたいと思っています。
かつては右肩上がりに伸びていく日本でした。その姿をこれからも作っていくために国民所得倍増を実現していくための環境をしっかり作っていきたいと思います。ただそのベースって社会保障なんですよね。5年後10年後の生活もしっかり保障される安心の基盤をしっかりつくって、将来に向かって伸びていく日本を次の世代に渡していきたいと思っています。