「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー自由民主党・大野敬太郎議員に聞く! 宇宙ビジネスで日本が勝つための戦略とは

自由民主党・大野敬太郎議員に聞く! 宇宙ビジネスで日本が勝つための戦略とは

投稿日2024.9.26
最終更新日2024.10.02

これまで政府が主導してきた宇宙開発領域において、民間企業の参入が進み、国際的な競争が激化しています。各国で宇宙ビジネスの環境整備が押し進められる中、日本では2021年6月に「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(以下、「宇宙資源法」)」が制定されました。

今回のインタビューでは、この法律の制定に尽力した大野敬太郎議員に「宇宙資源法」のねらいや宇宙ビジネスの展望についてお伺いしました。

(取材日:2024年9月3日)
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 井出光 )

大野敬太郎議員インタビュー

大野敬太郎(おおの けいたろう)議員
1968年香川県丸亀市出身。東京大学情報理工学博士号取得。
富士通株式会社、米カリフォルニア大学バークレー校客員フェロー、
父・功統氏の秘書などを経て2012年、衆議院議員選挙に初当選(4期)。
防衛大臣政務官、内閣府副大臣を歴任。
趣味は読書(塩野七生のファン)。

湾岸戦争をきっかけに、「国の在り方」を考える

ーもともと研究者だった大野議員が政治家への転身を決意したきっかけを教えてください。

1990年の湾岸戦争です。当時、研究室で数式とコンピュータに向き合う日々を過ごしていましたが、紛争地域の様子がリアルタイムで生々しく報道されているのを見て強烈な印象を受けました。

これを機に「国って、国民にとってどうあるべきなのか」「いざというとき国民の命を守れるような根本的な対処ができないとあかんだろ」といったことを考え始めるようになりました。これが政治家としての原点です。

昼間は研究をしながら、夜は山本草二先生の「国際法」や樋口陽一先生の「憲法」を読んだり、マクロ経済学の本を読んでみたり、自分なりにコツコツと政治や国の在り方を勉強していました。

ーお父様の大野功統氏は防衛庁長官も務めた政治家でした。影響はありましたか。

正直、私は政治家という職業に「黒い」「汚い」イメージを持っていました。研究職に就いたのは、自分の性格としてもモノづくりが好きだったからという純粋な理由もありますが、政治の世界を避けていたこともあります。

ところが湾岸戦争をきっかけに国の安全保障、危機管理といったことを考えるようになったあと、父が防衛庁長官に就任しました。父の秘書官として、日本の安全保障を防衛庁長官室から直に見られるチャンスが舞い込んできたのです。

当時は自分が政治家になるなんてことは微塵も考えず、純粋な探求心から父の秘書官を入り口に政治の世界に飛び込みました。飛び込んでみると意外に「黒い」ものはなく、政治家や官僚たちが政策に打ち込んでいる姿を目の当たりにして、自分も政治家になってみようと思い至りました。

父からの影響という意味で、もう少し属人的な観点で言うと、「人間性の涵養(かんよう)」みたいなものを学んだと思います。父の事務所に入り共に過ごす中で、政策に関して父に聞いても「そんなことお前が知らんでよい」とつき返されるのが常だったのですが、今思い返すと、数式やコンピュータとばかり向き合ってきた自分に、理屈よりも「人間とは何か」ということに焦点を当てて考えるように導いてくれていたのだと思います。

たとえば、名刺。
父は議員として役職が付いてきても、ずっと名刺の肩書はシンプルに「衆議院議員」だけでした。有権者含め多くの人の支えがあって「衆議院議員」になれている。これが一番尊く名誉なことなんだと。

大野敬太郎議員インタビュー

ー政治家になられた当初の関心分野はやはり安全保障でしたか。

実は経済でした。湾岸戦争をきっかけに国のあり方について考えるようになりましたが、その頃、自分が日々向き合うコンピュータや数式による計量分析の仕事に対して「結局これでは世界は変わらない」というジレンマを抱いていました。

マクロ経済の本を読み漁ったり、ちょうど自分が出馬しようと考えるタイミングでは「アベノミクス」が盛んに議論されていたり、自分の心境としても世の中の流れ的にも経済政策について関心を持っていました。そうした流れの中で「どうサプライチェーン全体として潤い、しっかり中小企業の賃上げにもつなげていくか」という関心が原点です。

ー研究者としてのご経験は政治の世界でどのように活きていますか。

「ちゃんと形にする」ことでしょうか。国民の声を政府にぶつけるというのが議員の機能の一つだと思いますが、地元で聞いてきたことをそのまま政府にぶつけるだけではダメです。

ぶつけられる政府側の制約であったり、置かれている状況にも目を向け、具体的な「策」に落とし込むことまでを政治家が考えなければいけません。フィージビリティ(feasibility:実現可能性)という言い方をしてもいいかもしれませんが、とにかく「具体的なものに落とし込む、作りこむ」というスタンスは研究者としての経験が活きている部分だと感じています。

宇宙開発分野は巨大なポテンシャルマーケット

ーまさにその「形にする」ために尽力されたのが宇宙資源法かと思いますが、この分野に取り組もうと考えた理由は何ですか。

たしかに研究者時代にも宇宙開発業務に携わってはいましたが、別に宇宙好きという訳ではありませんでした(笑)。一番はビジネス視点で、ポテンシャルマーケットとして可能性がとても大きいと感じているからです。

最近で言うと量子やAIもありますが、近い将来、社会に確実に裨益する領域の一つが「宇宙」だと考えています。たとえば自動車産業がトヨタを筆頭に大きなサプライチェーンを構成して日本全体の経済に影響を与えるように、国レベルで成長できるポテンシャル産業という意味で「宇宙」を捉えています。そのため、今回の宇宙資源法の制定で最も重要視しているのは民間マーケットの拡大です。実現できたのは、小林鷹之議員という最高の同志を得たことです。

大野敬太郎議員インタビュー

ー日本が国際社会の中で宇宙ビジネスをリードしていくための課題は何ですか。

ポイントになるのは「標準化」です。
例えば「STM(Space Traffic Management)」という分野があります。要は宇宙における道路交通法みたいなもので、信号があり、車道があり、そこに車線があり…、といったルールがあって、自動車はそれらのルールに沿ってサイドミラー、バックミラー、ウィンカー…と仕様が決まっていきますが、宇宙には今それがまったくと言っていいほどないのです。こうしたルール、管制の仕組みが整わないまま、イーロン・マスクがどんどん衛星を打ち上げたり、デブリの扱いもきちんと決まっていないままそれぞれが好き勝手やっている、というのが現状です。

こうしたルールメイキング、標準化がなぜビジネス視点でも重要かというと、たとえば「ウィンカーの仕様はこうしましょう」と、ある国が勝手に決めてしまったら、それだけで元からその仕様で作っていた国、企業が儲けやすくなってしまう。そういった意味で、日本はこの未整備かつ基盤となる「標準化」に関するルールメイクを主導していくことが、ビジネスとしても重要だと考えています。「乗り遅れないように」という待ちの姿勢ではなく、自分たちで作っていく必要があります。

ー現状日本はうまく標準化を進められていますか。やはりアメリカや中国との対峙の仕方もポイントになりますか。

ルールメイキングという意味では今のところうまくいっていると思います。たとえば日本のスタートアップで「Astroscale(アストロスケール)」という企業がありますが、「サステナブルに未来の宇宙をつくる」というミッションを掲げながらこのあたりに上手くアプローチしているようです。

アメリカや中国との関係で言うと、対峙、敵対するようなニュアンスではなく「コンピメイト(compe-mate)」という視点が重要だと思っています。日本の産業構造全体の本質的な課題でもあるのですが、業界やマーケット全体として、競合他社と協調し合理化していくべき部分と、価格や自社独自の付加価値のように競争していく部分との棲み分け、ビジネスとしての設計が日本は遅れています。

オープンイノベーションの議論でも同様ですが、やはり垂直統合型のビジネスモデルから方向転換できていない部分があります。たとえばアメリカのロッキード・マーチン社などはうまくやっていて、自社独自の製品も当然作りますが、同業他社と共有できる部分などはうまく協調、コラボレーションしてコストカットしながらスピード感を持って事業を拡大させています。中国との協調はなかなか難しいかもしれませんが、アメリカやヨーロッパとは協調すべき部分を見極めながら、うまく標準化もリードしていく必要があります。

ーアストロスケールという社名も登場しましたが、今ベンチャー企業も宇宙ビジネスで存在感を示す中、国への予算措置を求める声もあがっています。

予算措置自体には反対しないのですが、予算のつけ方は大事です。持論ですが、補助金はビジネスをダメにすると考えています。自分たちでビジネスモデルを確立して、ガバナンスも確保し、ステークホルダーに想いが共有できる状態ができていないのに補助金を出してしまうと成長につながりません。

たとえばソーシャル・インパクト・ボンドのような形でしっかり透明性を確保した形での資金供給メカニズムであれば良いと思います。あるいは個社ではどうにもしようのないインフラ整備の部分ですね。打ち上げの基盤整備や、人材育成、あるいはサプライチェーン強靭化策などは国が介入する意義のある部分なので、このあたりの棲み分けや関わり方は慎重に考える必要があります。

ー5年後、10年後の日本の宇宙ビジネスはどのようになっていると思いますか。

まず市場規模が拡大していてほしいですね。日本が活躍しそうだなと思っている部分を少し具体的に言うと、ロケットや衛星を打ち上げたあとの軌道上のアフターサービスみたいな部分にポテンシャルがあると思います。たとえば燃料を補給したり交換したり、ガソリンスタンドみたいな役割ですね。日本のスタートアップにはこうしたニーズを捉えつつ、一方でシーズサイドとしての標準化、ルールメイキングにもコミットしていってほしいです。

チャレンジングスピリットあふれる社会へ

大野敬太郎議員インタビュー

ー前向きでワクワクするお話を聞かせていただきましたが、読者に向けてもメッセージをお願いします。

ここまで宇宙に関わる話をしてきましたが、今こうした分野に関わっているスタートアップ、起業家たちも、当初は「めちゃくちゃなことを言っている」「ぶっ飛んでいる」と言われていたと思います。しかし今この宇宙ビジネスというものがすでにリアルなものになっていて、当初「ぶっ飛んでいる」と言われていたこともどんどん実現しています。

政府としても、宇宙に限らずスタートアップを応援していますので、今は本当にチャンスだと思います。ぜひこうしたチャレンジングスピリットを持って、挑戦してほしい。

今は社会課題に対するコミットの仕方も広がりが出てきました。昔は社会課題を解決したいと思うと、NPOに入るといった選択肢しかなく、自己実現とビジネスが両立しない場面も多かったのですが、今の日本はそうではない。

課題先進国である日本において、ぶっとんだ発想でどんどん挑戦し、ビジネスとしても成功して、社会に貢献するような事業やサービスを生み出していってほしいと思います。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。 社内編集チーム・ライター、外部のプロの編集者による豊富な知見や取材に基づき、生活に関わる政策テーマ、政治家や企業の独自インタビューを発信しています。