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政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー「こどもまんなか社会」の実現へ。小倉大臣に聞く日本の少子化対策・男女共同参画

「こどもまんなか社会」の実現へ。小倉大臣に聞く日本の少子化対策・男女共同参画

投稿日2022.11.8
最終更新日2023.12.22

日本では少子化が進んでいます。
2021年の出生数は81万1622人と6年連続で過去最少を更新しました。

そこで今回は内閣府特命担当大臣(少子化対策・男女共同参画)に就任された小倉將信大臣(以下、小倉大臣)に、今後の少子化対策のあるべき姿やこども政策、女性活躍について伺いました。

小倉 將信 氏

1981年生まれ。衆議院議員(4期)。2022年8月 内閣府特命担当大臣(少子化対策・男女共同参画)、こども政策担当大臣、共生社会担当大臣、女性活躍担当大臣、孤独・孤立対策担当大臣に就任。

2004年に東京大学法学部卒業後、日本銀行入行。2009年 オックスフォード大学大学院修了。2012年、第46回衆議院議員総選挙 初当選。総務大臣政務官、第52代自民党青年局長を歴任。

1、少子化が深刻化し続けている要因

―まず日本でなぜ少子化が深刻化し続けているのか、小倉大臣のお考えをお聞かせください。

小倉大臣:

少子化が進んでいる要因は大まかに4つあると考えています。

1つ目が婚姻数の減少です。婚姻数の減少が出生数の減少にもつながっていると考えられます。

2つ目は晩婚化です。これにより身体的な理由でこどもを授かれない人が増えています。

3つ目は経済的理由です。子育て支援は拡大しつつあるものの、2人目や3人目のお子さんを持つことをためらう人が多くいます。

4つ目は子育てと仕事の両立が難しい環境にあります。キャリアを諦めるか子育てを諦めるか、究極の二者択一を迫られている方が多い状態です。

―今挙げていただいた少子化を深刻化させる4つの要因について、どのような取り組みが有効だとお考えでしょうか。

小倉大臣:

1つ目の要因「婚姻数の減少」を解決する一つの手段としては、マッチングの支援が重要だと考えています。
かつてマッチングの主流だった場(お見合いや結婚相談所など)を通じて結婚する人の割合は大きく減少しました。「マッチングアプリ」のような現代に合った形で結婚支援を行う必要があると感じています。

2つ目の要因「晩婚化」に対しては、医療分野からの支援が必要です。今年実現した不妊治療の保険適用は大きな前進でした。
また若者世代が将来の結婚や妊娠、出産について考え、向き合う機会を用意することも大切でしょう。
「プレコンセプションケア(※)」の概念が浸透していくような施策が必要です。

(※)プレコンセプションケアとは、将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと(参照:国立成育医療研究センターHP)。

3つ目の「経済的理由」に対しては、多子世帯に対する支援をしっかり行う必要があります。多子世帯に対する児童手当の加算などは今後議論になると考えています。

4つ目の子育てと仕事の両立が難しいと感じている方へは、こどもを預ける場所のさらなる整備などが必要であると考えています。
保育所の整備は進む一方(待機児童数はかつての2万人前後から現在は3,000人ほど)、放課後児童クラブなど就学後のこども向け施設の整備はまだまだ不十分です。

また男性の育児参加をよりいっそう進めることも大切です。日本における男性の育休取得率は14%と依然として低い状態です。
現状、男性に比べ女性が4倍もの育児家事負担を負っています。男性が育児により参加できるような働き方改革を実現しない限り、仕事か子育てかで選択を迫られる社会はなくならないでしょう。

何か一つのことに取り組めば、少子化がすべて解決するわけではありません。こどもを持てない事情は人それぞれだからです。それぞれの方が直面するこどもを持てない理由を、ひとつひとつ解決していくことが政府の役割だと考えています。

また一部のメディアによって、子育て政策について偏った報道がなされていることも子育てに対する不安を増大させている可能性もあります。

そこでは政府が進める子育て政策に対して、不十分な点が強調されてしまっています。もちろん足りない部分もあります。しかし、否定的な報道が続くと「日本はこどもに冷たい国」との印象だけが強く残ってしまう可能性があります。

さまざまな課題はありますが「日本ではこどもへの支援が充実してきたよね」と、より肯定的に報じてくれるメディアが増えてほしいと思います。

2、社会全体でこどもを育てていく意識を

―具体的な少子化対策についてお伺いしましたが、そもそも「少子化対策の必要性」について、小倉大臣はどのようにお考えですか。

小倉大臣:

ひとりひとりの幸せを実現するため、政府は少子化対策をしっかり行う必要があると考えています。
政府は「希望出生率1.8」の実現を掲げています。この「1.8」は、若い世代における結婚や妊娠・出産の希望がかなう場合に想定される出生率です。

一方、昨年(2021年)の合計特殊出生率は1.3でした。「希望出生率1.8」とはまだギャップがあります。
こどもを持ちたいと考えるすべての人がこどもを持てるような対策が必要です。

また社会経済の観点からも少子化は解決するべき問題であり、日本全体のこれからを考える上でも喫緊の課題です。

―正直、日本ではこどもを持つこと自体がハードルが高いイメージがあります。小倉大臣からこどもを持つことにハードルを感じている方々に向けて伝えたいことはありますか?

小倉大臣:

日本は過去20年をみても子育て支援に力を入れてきた国であると伝えたいです。

実際この20年ほどでGDP(国内総生産)における家族関係社会支出の比率はかつての0.6〜0.7%から2019年度は1.7%ほどにまで増加しました。

また日本における育児休業制度は、取得可能な期間も所得補償も実は先進国の中では遜色ないレベルにあります。

しかし若い世代には「日本は十分な子育て支援ができていない」との印象を持たれてしまっています。
あるアンケートでは日本が「子どもを生み育てやすい国だと思わない」と感じている人の割合が60%を超えています。(参考:同調査でスウェーデンは2%)

この「政府は子育て世帯に対して冷たい」イメージを払拭しなければなりません。
でなければ、これからこどもを持ちたいと考える人が、こどもを持つことに二の足を踏んでしまう状況は変わりません。

ただ、事実として男性の育休取得率が14%に止まるなど、まだまだ課題はあります。職場における理解が進まず、制度面以外で取得をためらう人は多いです。

岸田政権においてより一層、こども政策を充実させ、子育て世帯に温かい社会を作ろうと思っています。

―育休を取得しづらいことは大きな課題ですね。包括的に社会を変えていく必要がありますね。

小倉大臣:

はい。少子化対策自体を「国民運動」にしなければなりません。
当事者である子育て世帯は少子化対策について大きな声を上げていただいています。しかし、子育て世帯以外は少子化問題をあまり自分ごと化できていないと感じます。

ただこどもの数が減少することは社会のさまざまな場面に影響します。子育てをしていない人も子育てが終わった人にも大きな影響が出るのは間違いありません。
こどもを育てることを、他人事ではなく自分ごとにしていただき、「社会全体でこどもを育てていく」意識を多くの方に持っていただければと考えています。

―諸外国の少子化対策で参考にされている部分などはあるのでしょうか。

小倉大臣:

諸外国の少子化対策で参考になる点は非常に多くあります。

例えば、国によって国民負担率などが異なるため、単純に比較することは適当ではないものの、日本は、出生率の回復を実現した欧州諸国と比べて家族政策全体の財政的な規模が小さいことが指摘されています。

これまで、保育園の整備や幼児教育・保育の無償化などに力を入れてきました。
充実した少子化対策を実行するためにはこども関連の予算規模を拡大することは欠かせません。
諸外国の政策も参考にしながら、国民のみなさんに予算の使い方についてご理解いただいた上で、安定した財源を確保していきたいと考えています。

3、こども政策のビジョン

―次に、こども政策という大きなテーマについて伺います。小倉大臣が進めようとするこども政策の大きなビジョンは何でしょうか。

小倉大臣:

「こどもの最善の利益に立って、こどもを中心とした政策立案を行っていく」ことを通じて「こどもまんなか社会」を実現することです。
こどもは保育園や幼稚園、こども園、家庭などさまざまな場所でさまざまな経験をしながら成長していきます。どこでどのように育つとしても、すべての育ちを保証する社会にしていく必要があります。

しかし、これまでは縦割り行政の弊害により、こどもの目線に立った支援には限界がありました。こどもが関連するさまざまな領域をさまざまな役所が担当し、連携が取りにくい状態だったからです。

こども家庭庁の設置によって対応する役所が一元化されます。困っているこどもに対して、より温かく、よりきめ細かく、支援を届けられる行政にしていきたいです。

―小倉大臣は「EBPM(※)」に第一人者として取り組まれていると思います。こども政策分野におけるEBPMについて、どのように取り組みたいとお考えでしょうか。

(※)EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング) とは、証拠に基づく政策立案。政策の企画の政策目的を明確化したうえで、合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすること。

小倉大臣:

そもそもEBPMに関する知見は、教育やこどもの貧困解決などの分野に多く積み重ねられています。

そのため、こども政策はEBPMと親和性が非常に高く、その知見を積極的に活かしていきたいと考えています。

現在、待機児童の数は大幅に減少し、一部定員割れの保育所も発生しています。そのため、これからは保育の量だけでなく、保育の質を高める必要があります。

しかし、それぞれの保育園が提供する保育の質は外部からはわかりづらい状態です。
そこで、EBPMのアプローチを用いて客観的に保育の質を評価し、質の高い保育をしている保育所へより多くの利用者を集める仕組みを構築しようと考えています。

現在、保育所を取り巻く環境は転換点にあります。保育の質向上はもちろん保育所自体の多機能化についても検討する時期になっています。

ただ、コロナ禍において保育所の利用が減少していることもあり、以上のような取り組みを行うためにはより長期的な視点に立ちながら進めていくべきでしょう。

―小倉大臣が「こども家庭庁の看板を子供に書いてもらう」とのアイデアを披露したニュースについて、ネット上などでさまざまな意見があると思うのですが、そこにかけた小倉大臣の想いについて、改めてお伺いできますか。

小倉大臣:

前提として大きな誤解があります。
私はこども家庭庁の看板をこどもに書かせることが第一の政策とは思っていません。
それぞれのこどもにとって必要な政策をスピード感を持って進めることが何より重要です。

ただせっかく看板を掲げるのであれば、私ではなくこどもに看板の文字を書いてもらうほうがよいと考えています。
より目に見えて「こどものための組織なんだな」とわかってもらえると思うからです。
来年4月1日にこどもが満面の笑みで看板をかけている姿を、みなさんに見ていただきたいです。

4、ジェンダーギャップ解消へ

―続いて「女性活躍」についてお伺いします。
日本のジェンダーギャップ指数は低いといわれていますがどのような認識ですか(「共同参画」2022年8月号 – 男女共同参画局)。

小倉大臣:

非常に深刻な課題だと考えています。
ジェンダーギャップインデックスには、健康・教育・経済・政治の4つの項目があります。

その中で日本は健康分野と教育分野は上位にランクする一方、経済分野、政治分野では下位に沈んでいます。

現状、政治分野では女性議員の比率が低く、女性議員が働きやすい議会が構築されていません。
女性が働きやすい議会にするための知見を集め、議会に共有していくことが必要です。

また有権者の中には女性議員に対してセクハラやパワハラに近い行為をする人がいることも、残念ながら事実です。
ハラスメントを防ぐためにも、研修やセミナーなどの広報・啓発施策を積極的に行っていき、女性の候補者や女性の議員を増やしていければと思います。

また経済分野では次の2つを進めていくべきと考えています。

1つは女性の正社員比率を増やすことで男女間の賃金格差をなくすことです。
かつて子育て中の女性における就業率が低い状態(通称「M字カーブ」)が課題と認識されてきました。対策を進めた結果、ここ10年ほどで女性の就業者数は増加し、M字カーブも解消に向かっています。

一方、出産後、子育て後の女性の正社員比率が低い問題(通称「L字カーブ」)は現在でも解決されていません。これにより男女間の賃金格差が大きくなっています。

この「L字カーブ」を解消するためには、出産・育児をしながら正社員として働けるような環境づくりが必要です。

2つ目は、女性の役員比率を増やしていくことです。
日本企業には多様性が欠けています。多様性の欠如は環境変化への対応に弱く、日本経済の弱点にもなっています。
女性の役員比率を上げることによって、女性の経済的自立を促すと同時に、企業を変化に強くさせることが重要です。

5、納得感のある少子化対策を

最後に小倉大臣が今後、少子化対策にかける意気込みをお伺いしてもよろしいでしょうか。

小倉大臣:

少子化は急速に進んでいます。今、政治の力で、子育て支援に対する社会の雰囲気を変えなければ、人口減少はますます進んでしまいます。

岸田総理も先般の国会で将来的なこども関連予算の倍増についても言及されています。
来年度(2023年度)概算要求において、こども関連予算はGX(※)や防衛費と並び、重要政策として事項要求(※)も認められており、2023年4月にはこども家庭庁も設置されます。
この1年はこども政策や少子化対策を大きく動かさなければならないと思います。

一方、こども政策はすべての人が納得できる解を作りづらい領域です。
少しでも多くの方に「政府は頑張ってくれているな」と思っていただけるよう、取り組んでいきます。

(※)GX(グリーントランスフォーメーション)とは、気候変動の主な要因である温室効果ガスの排出量を削減しようという世界的な流れを経済成長の機会であるとして、「排出削減」と「産業競争力向上」の両立を目指す取り組みです。

(※)事項要求とは、各省庁が概算要求を行う際に、個別政策の予算要求額を明示しないで、項目だけ記載することです。詳細については予算編成過程で検討することとされています。

(※)こども大綱とは、こども基本法(令和5年4月施行)に基づき、こども施策を総合的に推進するために策定される、こども施策の基本的な方針や重要事項などです。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
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