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社会権とは?4つの権利を判例・学説と共に簡単解説

投稿日2020.3.27
最終更新日2020.06.15

社会権とは、私たちが人間らしい生活を送るために必要な様々な権利のことを指します。
しかしこれだけでは、大まかすぎて社会権に対して具体的にイメージすることができませんよね。

そこで、今回は

  • 社会権を構成する4つの権利
  • 学説・判例

などを取り上げながら、具体的に社会権とはどのようなものなのか、わかりやすくご紹介いたします。

1、社会権とは


社会権とは、人間らしい生活を送るために必要な諸権利です。

資本主義の発展による格差の解消という理念に基づき主張され、1919年制定のドイツの「ワイマール憲法」に初めて記載されました。

現在では重要な基本的人権のひとつとして、各国の憲法で重視されています。
日本では

  • 「教育を受ける権利」
  • 「労働基本権」
  • 「勤労の権利」
  • 「生存権」

の4つを主な社会的基本権として憲法に定めています。

自由権との違いは国へ求める程度や範囲です。
自由権は国の介入を排除したうえで個人の自由を尊重するもの。
国の積極性を求める社会権に対し、自由権は国の消極性を求める、といった関係性の違いがあります。

2、生存権

まずは社会権の基礎ともいえる生存権について、憲法の条文は以下の通りです。

第二十五条

第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

(出典 日本国憲法

第25条に定められている権利を「生存権」といい、社会権の総則的なものです。
文化的な生活を国に求めるだけでなく、公権力は国民の生活の邪魔をしてはいけないという意味も含んでいます。

それでは、実際にどこまでの生活を保障しているのでしょう。
たとえば、生活保護でもらえる額では文化的な生活が営めない場合、生存権に則って国に請求できるのでしょうか。

この問題の考え方に対しては、

  • プログラム規定説
  • 法的権利説

という2つの説が並立しています。

(1)プログラム規定説

「生存権は国の社会保障に対する政治的な責務である」とするのが、プログラム規定説です。
つまり、生存権はあくまで憲法のなかだけのもの。
国が国民に何らかの請求権を与えたわけではないので、実生活では法的拘束力がないという考え方です。

なので、国民が第25条に則って「社会保障が足りない」と国に救けを求めることは原則できません。
判例では「第25条は、生存権実現のために国が社会保障を手厚くするための目標に過ぎない」として、プログラム説を採用しています。

そして社会保障の制度への具体的な内容や努力については、国の裁量にゆだねています。

(2)法的権利説

生存権のもうひとつの学説は「法的権利説」という考え方です。
これは、権利をもつ国民は、何かあれば必要な義務を果たすよう国へ求められるとする考え方です。

プログラム規定説とは矛盾する考え方ですね。
法的権利説は、さらに「抽象的権利説」と、「具体的権利説」に分かれています。

この2つの学説について、より細かくにみていきましょう。

①具体的権利説

具体的権利説では、法律がない状態でも第25条を根拠にして国に請求できるという考え方です。
最低限の生活を送るために必要な法律をつくらない状態自体が違憲だと、国に「不作為の違憲訴訟」をおこなうことができるのです。

ただし、これはあくまで法律がないという状態に対して訴えるだけ。
裁判所に給付判決を求めることまではできません。

「早く法律を作るべきだ!」と裁判所に確認してもらうだけです。

②抽象的権利説

抽象的権利説は、第25条に基づいて裁判で救済を求めることはできないとする考え方です。
ただし、生存権を法律で具体化していれば、それに則って主張することができるとしています。
つまり、国を訴えるためには、まず国民年金法や生活保護法など具体的な法律が必要であるということです。

では、日本に住む外国人にも私たちと同じように生存権は認められるのでしょうか。
結論から言うと、生存権の性質上、現在の日本ではどの外国人にも日本人と同じように保証されるとは言いづらい現状です。
外国人の生存権適用については、さまざまな判例があります。

たとえば、永住資格をもつ中国籍の女性がおこした生活保護申請に関する訴訟が代表的な訴訟のひとつです。
この訴訟は、永住資格を持つ中国人女性による生活保護申請を却下した、大分市の対応の取り消しと保護開始を請求した事件です。

大分地裁は「生活保護法は日本国籍者に限定したもので、外国人は対象でない」として請求を却下、最高裁でも同様の判決が下されました。

そもそも生存権は、国に対して積極的な政策を促す以上、自然に発生するのではなく、「国」が認めていることが前提です。
そのため、日本で暮らしていても国籍が違うなら日本の生存権に則った保障の対象にはならないと、裁判官は主張したのです。

ただ、この判決は外国人が生活保護を受けることの違法性を示したわけではありません。
あくまで憲法上での保障対象に当たらないとしただけです。

判決後、当該女性は自治体による行政措置として生活保護法に準じた生活保護費が支給されました。

生存権とは?|4つの判例と共に簡単解説

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3、勤労の権利

勤労の権利
勤労の権利については以下の条文通りです。

第二十七条

第1項 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

第2項 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

第3項 児童は、これを酷使してはならない。

(出典 日本国憲法

第27条では、働く意思や能力がある人が労働することを国が規制してはいけないという権利を定めています。
働く機会に恵まれない労働者が、国に対して「働く機会を下さい。もしくは保護して下さい」と求められるのです。

ただし、第27条はあくまで国民に就職の機会の確保や雇用保険制度などの法整備を要するよう国に義務を課しているだけです。

国への直接的な請求権を認めたものではありません。
第2項では勤労条件は個人の自由な意思ではなく、法律で定めた条件に達する必要があるとしています。

これは、使用者よりも弱い立場である労働者が劣悪な条件で働くことのないように、保護するためです。
たとえば

  • 労働基準法
  • 男女雇用機会均等法
  • 最低賃金法

などがそうですね。

第3項では、子どもたちが国によって虐待や強制労働で酷使されてきたことが多かった歴史を踏まえて規定されました。
労働基準法では15歳未満の子どもを労働者として働かせることを基本的には禁止しています。

労働基準法

第五十六条

第1項 使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。

第2項 前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号まで掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては行政官庁の許可を受けて、満十三歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満十三歳に満たない児童についても、同様とする。

(引用 労働基準法 電子政府の総合窓口

4、労働基本権

労働基本権に関しては以下の条文通りです。

第二十八条

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

(出典 日本国憲法

憲法第28条に書かれている権利は、以下の3つです。

  • 団結権
  • 団体交渉権
  • 団体行動権

これらをまとめて、「労働三権」といいます。
労働三権は労働基本権に含まれる権利のなかでも、とくに労働者の地位を保証するための重要な役割を担っています。

(1)団結権

団体権とは、労働者が働く条件を改善・維持するために労働組合を作ったり、加入したりする権利です。
一般的に社長などの使用者と労働者では、雇用関係の影響から労働者の立場が弱くなりやすいもの。

そのため、労働者ひとりで使用者に訴えたとしてもなかなか解決できません。
要求したところで、「嫌ならやめてくれていいよ」と会社に言われるという最悪なケースにもなりかねないからです。

だからこそ、対等に使用者と交渉するためには、組合を運営して団結して力を合わせる必要があるのです。
労働組合は、労働者が複数集まれば行政機関への届け出などなしに自由に結成できます。

(2)団体交渉権

労働組合などの団体が、実際に賃金など働く条件の改善を求めて使用者と交渉をするときに重要になるのが団体交渉権です。

労働組合をつくっても、使用者と交渉する権利がなければ意味がありません。
そこで、労働組合が使用者と働く条件や職場環境の改善などを交渉して、文書などで約束を交わせる権利を定めているのです。

「労働組合法」では、使用者が正当な理由なく交渉を拒むなど労働者の権利を阻害する行為は「不当労働行為」として禁止しています。

(3)団体行動権|争議権

団体行動権とは、労働者が働く条件の改善など要求を実現するためストライキやサボタージュなど争議行為をおこなうことができる権利です。

労働者には使用者と交渉する権利がありますが、いつでも労働者側と使用者側の意見が一致するとは限りません。
そのとき労働者側が要求を実現するための対抗措置として、皆で仕事を休むなどの争議行為があるのです。

このように団体行動権は、労働者が使用者と「争う」権利を認めているものなので、「争議権」と呼ばれることもあります。

一般的には、労働者が仕事を休んだことで損害が生じれば、使用者は損害賠償請求や解雇をすることができます。
ですが、労働者の交渉に基づく争議行為は法的に保障されています。
そのため、組合員は刑事罰を科されたり損害賠償請求を請求されたりすることはありません。

ただし、国民生活への影響力の大きさから公務員については「団体行動権」の行使は一部または全部が制限されています。
その理由として、

  • 全体の奉仕者であり、公共の利益のために働く必要がある
  • 働く条件などは法律で規定されている
  • 人事院勧告など代替措置がある

などがあります。

とくに

  • 警察職員
  • 消防職員
  • 自衛隊員
  • 海上保安庁職員
  • 刑務所職員

には労働三権すべてが認められていません。

国家公務員と自衛隊に関しては、違反したときの罰則規定も設けられています。
一方、用務員や学校給食調理師など現業の公務員は団結権と団体交渉権が、非現業の公務員には団結権のみが認められています。

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5、教育を受ける権利

学習権
最後に、教育に関する権利についてみていきましょう。この権利は、子どもの学習権を守るものとされています。

第二十六条

第1項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

第2項  すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

(出典 日本国憲法

人らしく生きるために必要な教育を受ける権利は、第25条で定める生活保障の文化的側面であるとされています。
そしてこの権利を保障するために、国は教育環境や制度を整備する義務を負うと解されています。

ただ、義務教育であるからといって、子どもは学校に強制的に通わなくてはならないというわけではありません。
「義務教育」というのは子どもが強制的に授業を受けさせられるという意味ではなく、あくまで権利です。

第26条では、子どもに「無理やり教育を受ける」と義務を課しているわけではないのです。
むしろ義務が課せられているのは大人(親)のほうです。
第26条では、大人(親)に対して子どもに教育を受けられる環境や機会を与える義務を課している条文なのです。

ちなみに、第2項にある教育の無償化は、判例・通説では授業料のみの無償を指しています。
現在は教科書代も無償ですが、これは憲法上の保障によるものではありません。
国の政策として行っているものなので、混同しないように注意しましょう。

それでは、子どもが受ける教育の内容は国と親とどちらに決定権があるのでしょうか。
この点について、判例がひとつの結論を提示しています。
その判例とは、旭川学力テスト事件(最大判昭51.5.21)です。

この訴訟は、文科省がおこなった全国中学2、3年生対象の一斉学力テストに反対した教師らが旭川市立中学校にて反対運動を実施。

公務執行妨害罪などで起訴された教師らが、そもそも全国一斉学力テスト自体が違法だとして訴えた事件です。
旭川学力テスト事件で争われた主なポイントは、

  • 教育内容の決定権(教育権)を有するのはだれか
  • 教育を受ける権利の存在
  • 教師の教育の自由の保障

というところでした。

最高裁は、子どもには学習権があるとし、教育権に関しては国民(親、教師)と国の双方が有する、という折衷説の立場を示しました。

つまり、国か親かのどちらか一方で決めるのではなく、それぞれが分担する必要があるとしたのです。
さらに、国は教科科目などの大綱を決定できても過度には介入できないという判断も下しました。
教師にも一定範囲で教育の自由の保障があるという結論を出したのです。

まとめ

社会権は、私たちが人間らしい生活をするためにとても重要な権利です。

日本国憲法では、第25条で生存権を、第26条では教育を受ける権利、第27条では勤労の権利、第28条では労働権を保障しています。これらの条文の権利や義務の具体化が生活保護法や国民年金法、労働基準法などの法律です。

社会権は学説の対立や具体的法律がなければ権利を主張できないなどの点から、結局意味がないと考える人もいるかもしれません。

ですが、もしも社会権がなければ、私たちの生活を保障する法律もつくられず、苦しい生活を強いられる人も増えるでしょう。

文化的な生活の具体的基準や社会保障財源の必要性など、権利の実現状況についていまだ多くの問題点が残されている社会権。
本記事が国民の権利について考える機会となれば幸いです。