少子高齢化や急激な人口減少、厳しさを増す安全保障環境など日本を取り巻く国内外の情勢は厳しさを増しているともされます。その中でこれからの日本が進む方向を指し示し、日本社会のあるべき姿を描いていくことが求められています。今回のインタビューでは、これまで外務大臣や経済産業大臣などを歴任し、現在自由民主党の幹事長を務める茂木敏充議員に、これからの日本のグランドデザインについてお伺いしました。
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(本記事は「政治ドットコム」のYoutubeチャンネルに投稿されたインタビュー動画を元にしたものです。本編動画はこちらからご覧ください)
トップの仕事は大きな方向性を描くこと
ー総理にしかできないことがあると他のメディアでもおっしゃっています。具体的に総理にしかできないこととはなんでしょうか。
大きな方向性を示す。これが総理の仕事です。永田町の論理とか霞ヶ関の前例主義でやっていても時代の変化に対応できないことがある。例えばライドシェアもまったく新しいビジネスですが、これを霞ヶ関の前例主義でやろうとしてもできません。だからこそトップがライドシェアも全面解禁するとの思いで進めていくことが重要です。
副業もそうです。副業によって自分の時間をもっと自由に有効活用できるようになる。さらには副業の経験が本業でのスキルアップにつながる。そして副業を経験すると仕事の選択肢が増えて、副業が本業になることもあり、転職が進んだりする。いろんなメリットがあるんですね。
ー茂木さんも国会議員になる前はコンサルティングファームや商社にお勤めでした。その時は副業はまだ一般的ではなかったでしょうか。
そうですね。私が議員になる前には副業っていうのはほとんどなかったですね。ただ時代は変わりつつあり、今の大企業の8割が副業を認めています。
通信教育でユニークな高校で先日講演する機会がありました。そこで驚いたのが教育機関としては極めて例外的なんですが、先生方が原則副業できるんですね。
副業を認める背景には、学校しか知らない先生だけでは生徒に本当の社会を教えられないという理念があると聞きました。副業することによって会社にとって新しい価値観を持ち込んだりとかサービスを充実させるためのアイデアが生まれる場合もありますよね。
ー永田町だとなかなか社会のことにアンテナが張りづらい部分もあるでしょうか。
ありますね。だから私は可能な限り民間企業の人と意見交換をする機会を持つようにしています。永田町と霞ヶ関にだけにいると本当にその中で完結し、視野が狭くなってしまうので。アンテナを高く立てることが大切です。
ーアンテナを立てるための秘訣はなんでしょうか。
私は民間企業での経験もありますし、いろいろな分野の人と意見交換する習慣が体に染み付いています。変化に対応しないといけないというのはビジネスも政治も一緒です。人口構成も社会の価値観も変わるので、同じ政策をずっと続けることはできません。
ー逆にここだけは変えないぞということはありますか
全体を貫く姿勢を変えないことはあります。たとえばチャレンジすることはいいことなんだという社会、失敗してもやり直せるような社会、チャレンジすることが評価されるような雰囲気。そんな社会意識を作っていくことが重要だと考え続けています。
ーチャレンジングな改革をするにあたっても行政機関は失敗しない意識が働く印象を持っています。
行政がミスを起こさずに慎重になるのは当然だと思いますし、真面目に職務に取り組んでいるがゆえのことだとは思います。ただそれでも大きな方針を示して具体的なところは現場に任せることでチャレンジできる風土も作りたいですね。その中で最終的な責任はやっぱりトップが取る。こういう姿勢でやることでだんだんみんなもチャレンジしようという気持ちになってくるのではないかと思います。
日本には可能性がまだまだある。
ー成長産業への投資についてはどのような展望でしょうか。
いくつかの成長分野があると思いますが、その中でもシェアリングエコノミーに注目しています。今、個人の時間に余裕が生まれたり、利用する空間も余剰が出たりしています。しかもそれを有効活用するデジタル技術も生まれ始めている。
事実、空き時間を有効活用して働くスキマバイトも大きく伸びてきています。シェアリングエコノミーも現在の市場規模は2.6兆円と言われていますが、10年後には5倍の15兆円に成長すると予測されています。私はこの15兆円も守りの予測だと思っていまして、規制緩和を進めていくことによって、より大きく伸びていくのではないかと思います。
繰り返しになりますが、そのような成長産業に人材と資金が投入されるような仕組みを作っていくことが大切だと思います。国の財政は厳しい状況にありますが、個人の金融資産は2200兆円を超えています。国の年間予算の20年分があるんです。ただこれの半分以上がタンス預金や銀行預金で眠っている状態なので、個人の金融資産が経済成長や企業業績と連動した株式や投資信託にまわっていくような循環を作っていく必要がありますね。
ー今年新NISAも導入されました。
そうですね。ただこれからもNISAはどんどんバージョンアップしていけばよいのではないかと思うんです。新しいお金の流れができつつあり、スタートアップや未上場企業にもNISAを通じて資金が集まるような仕組みも実現したいですね。日米のトップテンに入るような企業を見てみると、アメリカはこの20年で顔ぶれがガラッと変わりました。代表的なのはAppleやAmazon、テスラですね。20年前はまだ創業されてなかった会社がトップの中に入ってきている。しかし日本はほとんどこの顔ぶれが変わっていない。経済の新陳代謝が進んでいないところは課題です。
日米関係はトップ同士の信頼を醸成することが重要
ーバイデン大統領の撤退については率直にどのように感じましたか。
撤退する予測があったことは承知をしています。ただ現職の大統領が選挙戦の途中で撤退するということはジョンソン大統領以来56年ぶりということですから、驚きました。バイデン大統領は副大統領も2期務め、政治経験豊かな方ですから、非常に重い決断をされたと思います。間髪入れずに民主党も動きが速くなり、大統領候補がハリス副大統領に収斂されました。一方の共和党もトランプ元大統領への銃撃事件もあり、結束を強くしています。
「ほぼトラ」(※)という雰囲気もあったと思いますが、これで民主党がまた結束するとなることもありうる。大統領選挙は11月5日ですからまだ3ヶ月以上先(※収録日:2024年7月24日時点)今の段階では民主党の動きも含めて注意深く見守る必要があるなと思っています。
(※)「ほぼトラ」とは、「大統領選はほぼトランプ氏勝利」の略。トランプ元大統領が2024年の大統領選で再選するという予測のこと。
ー仮に新たな大統領がトランプ元大統領になった場合、日米関係にどのような影響があると思いますか。
トランプさんはマルチな多国間の枠組みよりも2国間同士の関係でいろいろなことをやるのを好むタイプだと思います。そのトランプさんに対しては日米2国間の問題であれば、うまく対応できるのではないかと思います。防衛費の負担の問題も、対GDP比で2%まで持っていく方針をすでに日本としても決めるなど説明できる材料はありますからね。経済の面でも私が以前担当した日米貿易協定がすでに発行されて、関係が強化されています。
トランプさんが何を考えて関心事項がどこにあるのかをまず正しく理解することが大切だと思います。その上でどっちが勝つかというゼロサムゲームではなくて、お互いにメリットがあるウィンウィンの合意に持っていくことが大切だと思います。
ー逆に何か懸念はありますでしょうか。
気候変動や通商ルールなど、国際社会全体に関わる問題について交渉するときは大変だろうと思います。トランプさんが8年前に大統領に就任した時には初日にTPPを離脱しました。今回も自分が就任したら初日に電気自動車の推進をやめると言っている。またウクライナ国境よりアメリカ南部の国境の方が重要だとも言っている。
この考え方の背景には、アメリカだけが国際社会の平和と安定のために多くの負担をしていて、国内に予算が十分まわっていないのではないかという国民感情があります。だから日米の枠組みを通じて、日本とアメリカには共通の利益があることを確認し続けることが重要だと思います。同時に、中国をはじめとする潜在的な脅威が拡大していることも丁寧に説明し、日本もアメリカと一緒に国際社会全体の平和と安定のために責任を持つように促していくことが重要です。
アメリカだけにやらせるのではなく、結果的に対外的にコミットすることがアメリカのメリットにもなるという共通認識を作ることこそが日米がグローバルパートナーとなることであり、ウィンウィンの関係を作ることになると思っています。
ー多国間の枠組みでの日本外交はどうあるべきでしょうか。
2国間関係を前提としつつ、当然、G7などの多国間の枠組みは重要です。国連では、国際社会の平和と安定に責任を負うべき安全保障理事会でも、常任理事国が拒否権を行使することでうまく機能しなくなっています。国連改革や安保理の改革も含めたグローバルガバナンスの強化を進める上で、日本の役割は大きくなっていると思います。
ーちなみに茂木さんはトランプさんとゴルフをやったことはあるんでしょうか。
ないですね。ただゴルフをすることが目的ではなくて、アメリカの大統領を4時間独り占めにして、じっくりいろんな話ができるということはとっても大切なことですね。テーブル越しに話すこともありますけれど、ゴルフカートに乗ってフランクな関係の中で話すことも大切なのではないかと思います。
一人一人の個性が尊重され挑戦できる社会に
ー最後に政治家としてここはコミットしたいというものがあれば教えてください。
一人一人の個性が尊重され、やろうと思ったことがなんでもできる、そんな社会をつくりたいですね。日本ってやっぱりいい国だと思います。治安もよく、歴史や文化、技術など世界に誇れる点がたくさんあります。でも日本人は海外の人が思っているほど、自覚していない。社会全体として日本に生まれてきてよかったと思える感覚を作っていくことが大切なんだと思います。
ー最後に若者世代に対するメッセージをお願いします。
最近若手の政治家から「意外と敏充」と言われます。結構なんでもできる上司だと思っていたら意外と弱点が多いんです。苦手なことが多いので、みんなが支えなくてはいけないと思ってもらっているのではと感じます。今回のインタビューを通じて茂木さんってこんな人だったのかと感じていただければありがたいです。