「政治をもっと身近に。」
政治に関する情報をわかりやすくお届けします。

政治ドットコムインタビュー政治家インタビュー自由民主党・越智隆雄議員に聞く!資産運用立国の実現で私たちの生活はどうなる?

自由民主党・越智隆雄議員に聞く!資産運用立国の実現で私たちの生活はどうなる?

投稿日2024.10.2
最終更新日2024.10.02

※本インタビューは、2024年8月30日に実施しました。

岸田前総理大臣は「新しい資本主義」を掲げ、成長と分配の好循環を実現することで、持続的な成長へと繋げていくことを目指しています。とりわけ、金融政策においては、資産運用立国の実現を目指し、NISAの拡充・恒久化を行うなどさまざまな取り組みを行っています。

今回のインタビューでは、金融政策に詳しく、自民党・金融調査会幹事長、同調査会の資産運用立国プロジェクトチーム座長を務める越智隆雄議員に、資産運用立国の実現における課題やその必要性について、また、越智議員の政治家としての原点などについてお伺いしました。

(取材日:2024年8月30日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)

越智 隆雄(おち たかお)議員
1964年2月27日生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。フランスESSEC経済商科大学院大学(経営学)修了。東京大学大学院修士課程(政治学)修了。2005年衆議院議員当選(5期目)。内閣府副大臣等を歴任。父は元経済企画庁長官の越智通雄。
祖父に第67代内閣総理大臣福田赳夫がいる。

アジア通貨危機をきっかけに、金融から政治に軸足を移す

―ご親族の中に政治家がいるなかで、政治家という職業を小さいころから意識されていたのでしょうか。また、「将来は政治家になるんだぞ」と言われて育ったのでしょうか。

 まず、私は総理大臣も務めた祖父・福田赳夫の家で生まれました。母が長女だったので同居していたのです。そのため私にとって政治家というのは特殊な存在ではなくて、家族がやっている仕事という認識だったと思います。ただ、小・中学校の頃に祖父に対する憧れが徐々に芽生えてきました。

 日常的に、いまの世界の人口はこれくらいだとか、日本人は1年間にサンマをどのくらい食べているのかとかを話すこともあるような家庭でしたね。そのようなことも影響して、小学校の卒業文集では公害と福祉の話を書きました。社会の話を日々の生活の中でもするので、政治とか国とか社会というものはつねに意識の中にありました。祖父にかわいがられる中で、徐々に政治家という仕事が身近になったと思います。

 うちの家族の中では、家族の誰かが政治家になった方がいいという考え方はまったくないんですよ。政治とか国会に関わる仕事の大変さってみんな知っているので、なりなさいみたいな話は一切ないんです。私の場合も、ある種の流れの中で自発的にやりたいと感じるようになったというのが実際のところです。

―越智議員は、銀行員、研究者としてのキャリアを積み、その後立候補なさっています。もともとはどのようなキャリアを目指していたのでしょうか。

 私が22歳で大学を卒業したのが1986年。バブルのはじまりのタイミングでした。当時、私はこれからは民間企業が社会の主役だと感じ、注目されていた銀行と商社のうち銀行を選びました。結果的には、住友銀行に行くことになり、金融マンとしてキャリアをまっとうしようと思っていました。

 金融業界にいた当時は、金融の自由化が急速に進められていて、銀行が証券会社を創設できるような時代になっていました。私はその業務を担当していて、たとえば、住友銀行の100%子会社の住友キャピタル証券を立ち上げたり、住友銀行と大和証券の合弁会社である大和証券SMBCを立ち上げたりする中で、霞が関と様々なやり取りをすることになります。その時、ビジネスを進めようにもあまりにも自由度が少ないことを知り、民間ががんばろうとしているんだから後押しするような制度の方がいいのではないかと思っていました。

 ただ、憧れていた祖父のように政治家を目指すなら、金融のキャリアの後だと思っていたんですけど、1997年にアジア通貨危機が起きてしまいます。これはタイ・バーツの暴落からはじまったアジア全体の経済危機で、不動産バブルの崩壊や企業の不良債権問題が顕在化するといった形で混乱をもたらしました。その時に、石原伸晃さんや塩崎恭久さん、渡辺喜美さんといった「政策新人類」といわれる人たちが国会で活躍する姿を見て、国会議員として仕事をするなら早い方がいいと思うようになり、35歳の時に銀行を辞めることにしました。

 永田町で経験を積んでいくのですが、新たな時代をつくっていくには、より勉強をしなければいけないと考えるようになりました。その中で、日本政治に関する思考で共鳴するところの多かった北岡伸一先生に師事するために東京大学の大学院に進学することにして、研究をしたのちに政治家になったという流れです。

NISAやiDeCoを活用して投資していくのが当たり前の社会へ

―越智議員といえば金融・財政の専門家のイメージが強いのですが、越智議員が関わった財政金融政策の中で印象深い経験やエピソードはありますか?

 実は、財政と金融の専門家で、そこばかりやっているという感じではないんです。今では、都市農業の振興をやったり、二地域居住政策に関する法律を作ったりと色々な分野に取り組んでいます。とはいえ金融と財政に最も多くの時間をかけて取り組んでいます。

 この分野で印象深いのは、スマホ決済です。いまでは必需品になった〇〇Payという決済手段ですが、2017年頃の日本にはまだほとんど普及していませんでした。2017年に中国に行った時、10数億人ほぼすべての人がWechat PayやAlipayなどのスマホ決済をつかっているのを目にしました。向こうは偽札が多いこともあり、お札よりもスマホというような世界だったのです。日本では偽札は容易に作れませんし、利便性は高いのですが、電子決済も支払いの効率化や便利さという点では普及させていくべきだと感じ、法改正を進めていきました。現在、電子決済が一般に普及しているのはとても感慨深いものがあります。

 ほかにも、エストニアやデンマークに行った際の話も興味深いと思います。エストニアは、世界一の電子立国と言われています。日本の100分の一程度の規模の国家ですが、「電子政府」が成立しています。私たちの生活に関わる極めて多くの情報が X-Road (エックスロード)というブロックチェーン上に保管されていて、それを基盤にして行政サービスが展開される仕組みを持っています。

 日本では、個人情報がデータ化されてしまうと流出してしまうことに危機感を持つのが一般的ですが、エストニアのブロックチェーン上に保管されているデータは閲覧者のデータがすべて保存される仕組みになっています。なので、だれが見たかがすべて分かるんです。たとえば、病院に紙で保存されている患者さんのカルテを見られるのは誰でしょうか。この場合、基本的にお医者さんと看護師さん、事務員さんが見られますよね。しかし、掃除に入っているスタッフさんでも見られる可能性があるわけです。想定されていない人が見たかどうかが分からない。でも、エストニアの仕組みでは誰が見たかすべてログが残ります。どちらが安全なのでしょう? このような発想がまったく逆でした。エストニアでは個人情報を紙媒体で保管することが危険という意識があったのです。

 他にも、デンマークに行った際には、CPR番号という、日本で言うマイナンバー制度について学びました。個人のキャッシュフローや資産が広く情報として公的部門に保管・管理されているので、たとえば、コロナに罹患したことで困窮してしまったという人にピンポイントで手厚く支援することができるのです。日本の場合、マイナンバーなどを通じて個人の情報を政府がもつことに心配があるので、支援をするにも広く均等に配分していくことになりますが、本当に困っている人に多く出すということができない状況になっています。本当はデンマークのような形にした方がいいのではないかと考えることもあります。

 最後の例ですが、スウェーデンは1990年代に経済危機に陥りました。そこから立ち直る中で必要なことは生産性を向上させていくことだと考え、そのために紙幣をなくすことに取り組もうとしたのです。スウェーデンでは100店舗くらいの銀行があっても1店舗を除いては紙幣を扱ってくれません。その代わりに、携帯ショップのように携帯でどのように決済するのかを伝えるようになっており、社会に普及しました。日本はまだそのような社会にはなっていませんが、機能的な面を考えると利点も多く、スマホ決済の普及に関わることができたことはとても深く印象に残っています。

―他国の先進事例もある中で、日本でマイナンバーを利用した新しい仕組みが普及しないのはなぜなのでしょうか?

 新しい仕組みが完成すれば、多くの人がより幸せになるだろうということは想定できます。ただ、実際にそれを実現するためには社会的な理解を深め、誤解を取り除き、同時にインフラを整備したりとやらなければならないことが多く存在しています。すでに社会実装している国などを見ると、日本でそこに近づいたり、達成したりするためには、政治の努力がまだまだ必要だと思います。

 最近では、困難に直面するたびに、そのような新たな仕組みが達成された日本の社会のイメージを共有していった方がいいのではないかと感じることもあります。たとえば、家具を売る会社では、カタログやお店の販売スペースに仮想の部屋を並べて見せる形がありますよね。すると、一つひとつのアイテムの魅力だけではなくて、部屋全体の雰囲気を具体的に感じてもらうことができます。同じように、政治によって社会を変えていく際にも、できあがった姿を共有してから、多くの人に「それいいね!」と共感を持ってもらうのがいいのではないかと考えるようになりました。

 一方で、新NISAは私が設計に携わってきた政策で、いまのところ成功事例だと思っています。新NISAは、国民の皆さんにお金を預金でなく投信などに入れていただくものです。この制度に関しては、うまく最終的なイメージをお見せできたかというと必ずしもそうではないですが、利用してくださる方が増えてきており成功しているように感じています。

―本年の6月には自民党金融調査会として岸田総理に提言を手交されました。資産運用立国を目指す上で、現在どのような課題がありますか。

 資産運用立国を目指すうえで必要なことは「貯蓄から投資へ」を実現できるか、です。つまり、銀行中心の間接金融のメカニズムから、証券中心の直接金融のメカニズムへ移行できるかどうかが試されているということです。日本経済は、1990年頃までの成功体験を支えた仕組みから大きく変動する国際情勢にあわせて転換していく必要に迫られています。

 近年、金融経済教育推進機構の取り組みがはじまりました。今後、多くの人が様々な金融商品に投資していくことになります。その中で、どのように情報と向き合うかがとても重要になっていきます。その情報を出すのは金融事業者が一般的です。ただし、彼らは事業者なので、プロフェッショナルではあるんだけどポジションもあるので中立ではありません。では、どのように情報を見ていくのか、判断していくのかという規範をしっかり身につけなければいけません。そのために、この機構がつくられました。学生や現役世代、引退世代を含めて幅広い人びとに、金融についての情報をお伝えしていくための組織です。一人ひとりが情報をもとに正しく判断できるような社会環境を整備していくことが重要と言えるでしょう。

 所得にはフローのものとストックのものがあります。フローの所得は、賃金、お給料です。ストックの所得は稼いだお金が生み出す金融所得のことです。そのふたつが相まって、私たちの生活の糧になっていく社会が理想だと思っています。私たちは自分のお金で投資をします。すると、投資したお金が原資となって企業の活動が後押しされ、利益が生み出されます。その利益の一部が結果的に私たちに分配されるわけです。昔は、社会に出ると生命保険会社の人に「生命保険に入るのは当り前よ」って言われたわけですが、これからは、新NISAやiDeCoを活用して投資していくのが当たり前だ、と。そうなっていくことを目指しています。

―岸田総理が掲げた「新しい資本主義」ですが、首相が交代するなかで、今後どのように進められていくのでしょうか。

 日本の政治の風習として、総理大臣が変わるとそれまで使われていた言葉は使われなくなっていくので、「新しい資本主義」という言葉は使われなくなるかもしれません。ですが、そのエッセンスは変わらないと思います。岸田総理は2021年10月に「新しい資本主義」を打ち出しましたが、翌年の1月にはアメリカのイエレン財務長官が「モダン・サプライサイド・エコノミクス」(Modern Supply Side Economics)という概念を打ち出しました。この二つは実は共通するものを含んでいたわけです。どういうことかというと、すべてを市場に任せるのではなく、政府も関与していくという考え方なわけです。

 戦前は自由放任的で強いものが総取りするような世界でしたが、戦後の世界はそのアンチテーゼになっていて、福祉国家でみんなが救われる社会をつくろうとしてきたわけです。しかし、1970年代から勢いをもとめて新自由主義になり、今はその次のステージに来ている。そこでは「市場に任せてよかったのだろうか?」という疑問が湧いて出てきています。世界には国家主義的な国などもあるわけで、民主主義国家は新自由主義では勝てないという問題、そして新自由主義を採用することで生じる格差の問題に直面することになってきました。

 そういう中で、市場に民間だけでなく国家も絡んでいくという官民連携が進められてきている、と。日本は2021年から、アメリカは2022年から時を同じくして進めてきていて、その中で日本では民間部門のパワーアップに向けて、貯蓄から投資へとシフトしていく。新しい資本主義って概念でつくってきた政策は、次の時代の基盤になっていくものなわけです。ですから、誰が総理になっても方向性は変わらないと考えています。

次世代に不安を残さないためにやるべきこと

―越智議員が今後取り組みたい政策について教えてください。

 本質的にやりたいことは、次世代の皆さんに、日本という国を不安のない形で引き継いでいきたいということです。その不安とは、1つ目は財政の問題です。いくら国債を発行しても大丈夫だと言う人もいますが、私は借金というのはいつか返さなければいけないと思っているし、途中で金利があがったら利払いをしなければいけないと考えています。そのため、普通に考えたら借金はなるべく少ない方がいいと思っています。ですから、次世代にはなるべく借金を少なくして引き継ぎたいという想いで財政健全化に必死に取り組んでいます。

 2つ目は人口の問題です。いまの日本の人口は1億2千万程度ですが、2100年には6000万人程度になると言われています。半分です。この流れのままいって、この国が立ちゆくのかという不安があります。子どもを授かりたいと思っている方がいるのであれば、そのひとたちが授かることのできる環境をつくることで、人口減少に歯止めをかけたいと思っています。

 3つ目が産業の問題です。この国は成熟した国なので、新たなことに取り組まずともいい生活ができるとずっと思ってきたわけです。海外で普通のように取り入れられている新しいことをやらないでいるので、ある時にふっと横を見ると置いてけぼりになっていたなんてことが起きかねない状況になっています。その意味で、競争力や生産性といった進歩や発展を生み出すために、海外からも良く学び、日本の立ち位置を確認しながら考えながら施策を講じていく必要があります。

 4つ目は一極集中の解消です。多くの人が就学や就業のタイミングで東京に出てくるので、東京の人口が増え続けています。若い人たちが東京にブラックホールのように引き寄せられてきて、東京で過密の問題が起こっている反面、地方ではなにが起きているか?過疎や人材不足です。地方には豊富な資源があります。しかし、過疎や人材不足によってそれが活用できないまま、衰退させてしまうことになるのではないかと心配しています。その資源を活かすことのできるよう人材が地方に広がっていく政策を講じていく必要があると思っています。そのひとつが「二地域拠点居住」政策です。

 移住は、引っ越す決断が必要です。一方、二地域居住は居場所を増やすことですから、その必要がありません。日本の人口が半減していく中で、日本人一人当たりの土地は倍増します。であれば、人々がストレスなく動き回れるようにすればよい。今年5月には「二地域居住推進法」が国会で成立しました。全国に人の流れをつくっていく政策です。

 二拠点居住というのは、地方から上京してきた人びとが、東京に住みながら、地元と行ったり来たりしながら活動していくことも意味します。また、重化学工業の昭和の時代は、臨海部の東京、名古屋、大阪のような大きな港のある地域に様々なものが集中しましたけど、これから重視される脱炭素電源は水力発電などですから、地方や臨海部に分散して様々なものが生まれていきます。そういった地域に産業があって、人びとが住まい、ゆったりとした環境の中に生活のしやすさや子育てのしやすさがあれば、人びとはより幸せになっていくのではないだろうか、と。そういう令和版「日本列島改造論」と「二地域居住」をセットで考えています。

 実は、新NISAも、二地域居住も、政策づくりの原動力は同じです。さまざまな状況変化の中で、私たちの未来や生活に、無理なく安心をつくっていくことです。おカネに関する生活習慣を少し変えることで、自然とおカネが増える仕組みが新NISAです。生活拠点に関する考え方を少し変えることで、居場所の選択肢を増やすのが二地域居住です。自由な発想で、知恵を絞って、近未来の私たちの生活をつくっていきたいと考えています。

この記事の監修者
政治ドットコム 編集部
株式会社PoliPoliが運営する「政治をもっと身近に。」を理念とするWebメディアです。 社内編集チーム・ライター、外部のプロの編集者による豊富な知見や取材に基づき、生活に関わる政策テーマ、政治家や企業の独自インタビューを発信しています。