立憲民主党・下野幸助議員は、4期13年半の三重県議をへて10月の衆院選で初当選を果たしました。下野議員の政治の原点はイギリス留学時の安全保障への関心にさかのぼり、その後は内閣情報調査室にも勤務した安全保障の専門家です。国政に携わる今、安全保障政策についてどのように考えているのか、県議時代から取り組む人口減少対策とともに伺いました。
(取材日:2024年12月18日)
(文責:株式会社PoliPoli 秋圭史)
下野幸助(しものこうすけ)議員
1976年三重県鈴鹿市生まれ。
国立豊橋技術科学大学工学部卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。
内閣情報調査室やアイシン精機勤務を経て、三重県議会議員に転身、
4期13年半務める。
2024年衆議院議員選挙で初当選。趣味はトライアスロン。
安全保障の専門家から三重県議に、政治家を目指した経緯
ー本日はよろしくお願いします。事前にプロフィールで、イギリス留学の中で安全保障に関心を抱き政治の世界に入った、と拝見しました。具体的にどのような経緯で政治の世界に入られたのでしょうか?
日本の政治制度である議院内閣制は、イギリスからの輸入品です。日本の政治の元をたどるとイギリスに行き着く、そんな思いがありイギリスに留学しました。特に安全保障分野には強い関心を持っていました。
安全保障の勉強に取り組むかたわら、イギリスで気付かされたのは、英国民の国を守る意識に加えて、税金の使われ方に対する意識の高さです。自分が払った税金がどのように使われているか若者でも非常に関心が高く、日本のように税金でも社会保険料でも言われたから払う、という感じではありませんでした。
ーイギリスから戻られて直接政治の世界に入られたのでしょうか?
安全保障に関する仕事に就きたい、との思いを持って日本に帰国しました。日本で安全保障の仕事を探すと、内閣官房の中に内閣情報調査室があり、そこで安全保障の仕事ができると知りました。そして内閣情報調査室入ることができました。同室は基本的に海外の情報調査をする部署ですが、最初は国会議員の答弁書の下書きのお手伝い的な仕事もしました。国会の本会議場にも行く機会があり、当時の自分にとっては新鮮で、自分もいずれここで質問してみたい、と漠然と思ったことを覚えています。2000年の小泉政権期で、当時も現在と同様に政治と金の問題で揺れている時期でしたね。私は旧民主党の勉強会にも参加しており、その時に政治に本格的に興味を持ち政治家を目指すことになりました。
ー国の中枢の安全保障の仕事をしていたにも関わらず、直接国会議員を目指さずに県会議員から政治の道をスタートしたのはなぜでしょうか?
政治家を目指す、と決めた時、岡田克也議員が民主党の幹部を務めていました。実は岡田議員は私の地元の隣の選挙区であり、親しくさせていただきました。岡田議員から、永田町で政治の仕事をするのはよいけど政治は地元有権者の負託や理解を得る必要があるから、地元の有権者に自分のやりたい想いを伝える必要があるよ、とアドバイスを受けました。国会議員になりたいとは思いつつも、まずは地元に戻り県議となって地域の有権者に必要な政策を1つ1つ訴えて実現することを決意しました。その後2011年4月に三重県議会議員に初当選して、子どもの見守り活動など地元の方と地域活動を行いながら、三重県議を4期13年半務めました。
ー10年以上県議を務めた後、先日の衆院選で中川正春前議員の後継として初当選された訳ですが、前任の中川前議員が9期連続当選の大ベテランであり、出馬に対するプレッシャーなどはありませんでしたか?
特にプレッシャーはありませんでした。ただし同じ選挙区の自民党の候補者は政治家4代目で、地盤・看板が揃った現職でした。4代目というと林芳正官房長官や小泉進次郎議員並みであり、国内でもそれ程いません。そのような相手でしたが、自民党の裏金問題への批判もあり、多くの方に支援をいただき小選挙区で当選できました。私は電気工事屋の息子ですから、その面でも選挙区の方の理解が得られたのかな、とも思います。
衆議院議員として現在の安全保障政策の活動について
ーこれまでのお話に加えて、ホームページにも政策の第一として防災と安全保障をあげているなど、下野議員の政治の原点は安全保障にあると思います。衆議院議員となった今の安全保障政策の活動について教えてください。
私は過去に安全保障分野の政策に携わったこともあるため、現在は衆議院安全保障委員会に所属して活動しています。イギリスに留学した時に一番考えたことは、自分の国は自分で守る、ということです。やはりそれをもっと日本でも考える必要があるのではないでしょうか。その意味では、一番に国民生活と国益を守る、という政策に取り組んでいきたいと考えています。例えば国内食料自給率は38%と海外依存度が高く、食料安全保障の面から懸念がある状態です。また安全保障の要である自衛隊についても、自衛官候補生を1万人募集して3,000人しか採用できていません。自衛隊は組織構造としてピラミッド型にならないといけないのですが、現段階で幹部数と下の若手職員が同じ数の円柱形です。今後は逆三角形となり命令する幹部は多いものの、現場で実際に働く若手がいなくなってしまいます。そういったことも改善の必要があるのではないか、とすでに防衛大臣に議会で是正を求める質疑をしました。
また、内閣情報調査室の中には内閣衛星情報センターという部署があり、人工衛星により必要な情報収集を行っています。その技術力向上も不可欠です。自分としてはこのような専門的ながら地道な活動を、一つ一つやっていきたいと考えています。
ー自分の国は自分で守る、という考え方は与野党間でも割と共有しやすい考え方と思うのですがいかがでしょうか?
そうですね。ただし限られた予算の中でどこに重点を置くか、という優先順位の問題があります。それでも国を守るということは、極めて優先順位の高い政策であり、しっかりと党派を超えて取り組む必要があります。
人口減少対策について、まずは小中学校の給食費を無償化すべき
ー安全保障以外に注目している政策分野はありますか?
私が三重県議の4期13年半の間に、主に力を入れていたのは人口減少対策です。人口減少対策は、国家レベルで対応を行う必要がある問題です。特に若い方に対し、結婚、妊娠、出産、子育てと、切れ目のない支援をしっかりと行うことが大切と考えています。
—すでに人口減少は政治的にも大きなトピックとなっています。しかし実際問題として、現在の人口1億2000万人の維持は難しいのではないでしょうか?
そうですね。ただし人口減少が一概に悪い訳ではなく、過去の日本は人口3000万人や4000万人の時代があったので、その人口に合った政策ができればよいのではないでしょうか。今の人口を維持するのではなく、スマートに縮小させて社会の維持を目指す方向ですね。ただし子育ての部分について言えば、医療費も掛かりやすい時期でしょうし、子どもが大学に進学すればお金が必要です。そういった部分は無償化しなければならないと考えています。具体的に一つあげれば、小中学校の給食費は早く無償化すべきです。
単純に金額を上げるだけでは解決にならない最低賃金問題
ー今後取り組みたい政策分野があれば教えてください。
最低賃金問題です。政府は時給を1,500円にする目標を立てており、働く側の学生はほとんどが賛成だと思います。しかし支払う側の経営者からすると、本当にできるのか?、というのが正直な所でしょう。政府は中小企業向けの支援パッケージとして1兆円の予算を付ける、と言っています。しかし支援パッケージが利用する側の中小企業の視点に立っているかが問題です。下手をすると支援策を利用するために、別途人を採用する必要があるかもしれません。そうなると、中小企業にとっては非常に利用ハードルの高い支援策となりかねません。
ーコロナ支援金の際も支援を受ける手続きが問題となりました。
基本的に中小企業はリソース不足です。また現在の最低賃金は1,055円です。石破内閣になって2029年までに最低賃金を1,500円に上げると達成時期の前倒しをしていますが、この場合、毎年7.3%・89円を上げる必要があります。この上昇率は中小企業には相当厳しいです。中小企業の倒産が増える中でも、確かに東京の企業は対応できるでしょう。しかし地方の企業はほとんど付いていけないと思います。地方と東京の格差がさらに広がってしまいます。私の地元の三重の中小企業の社長も同意見です。そうなると、地方から東京に若者が働きに出て地方の人口減少につながる。そして、東京の若者は結婚をしない・できないため子どもも生まれず合計特殊出生率は低いまま日本全体の人口減少が続く、というループに陥ってしまいます。
最低賃金は会社として絶対に守らなければならないルールです。だから働き手としては、最低賃金の上昇はありがたいものです。ただし経営者は赤字でも支払う必要があるため、それならもう採用をやめよう、という話になってしまいます。最低賃金上昇に向けた支援をするなら、わかりやすく使いやすい制度とする必要があります。
政治は生活のルールを決めるもので難しくない、若者や女性もまずは議論に参加して欲しい
ー衆議院議員として再び国の中枢の政策に関与するようになった今、改めて政治に対する思いをお聞かせください。
自分の国を自分で守る、ということは大前提ですが、現在の安全保障環境下において日本単独ではできません。そのため日米安全保障条約や日米韓の連携関係、日中の外交関係などの多国間連携ももちろん必要です。それらも含めて、若い人たちがこの日本をどうしていきたいんだ、という議論ができるような形にまず持っていきたいと思っています。その最たるバロメーターが投票率ではないでしょうか。
政治は税金など生活のルールを決めるバランスと言えます。だから政治は難しいものではなくて、我々の生活のルールを決めるもの、ということをみなさんに理解していただきたいです。また、ルールは未来永劫同じものが続くわけではありません。自動車もエンジン自動車から電気自動車への変化が生じています。自動車に対する税制も、これまではエンジン自動車を想定したルールでしたが、今後は電気自動車の存在も踏まえたルールが必要です。そういうルールを、どのように考えて作っていくのか、みなさんが議論に参加してもらうのが一番大切と思っています。
ー政治には何か特殊なハードルというかバリアみたいなものがあるように感じます。
年配の人が何か難しいことを言っている、というのが政治に見えてしまう風潮があります。しかし本当は全然そんなことありません。だから特に女性の方も、今後の子育て問題などでぜひ政治に参加して、議論やルール作りに加わっていただきたいですね。