2024年3月11日に東日本大震災の発災から13年を迎えました。復興庁は31年まで設置期限が延長され、2021年からの5年間を「第二期復興・創生期間」と定め、地震・津波被災地域については、復興事業がその役割を全うすることを目指すとしています。一方で東京電力福島第一原発の廃炉、ALPS処理水対策、帰還困難区域への対応など、原子力災害被災地域における課題は今なお山積しています。今回のインタビューでは、高木宏壽復興副大臣に復興政策の現状や、さらなる復興を目指す上での課題、地元・北海道への思いなどについてお伺いしました。
(聞き手・文責:株式会社PoliPoli 中井澤 卓哉)
(取材日:2024年3月12日)
高木 宏壽(たかぎ ひろひさ)議員
1960年生まれ、北海道札幌市出身。
北拓、道警などを経て、2007年北海道議会議員(2期)。
2012年衆議院議員初当選(当選3回)。
趣味はジャズピアノ、サーキット走行。
(1)あるべき国の姿を求めて、政治家の道へ
ー高木議員が政治家を志したきっかけは何だったのでしょうか。
私が政治に関わるようになった直接のきっかけは、長く北海道議会議員を務めていた父親の跡を継いで道議になったことですが、当時から政治の使命というものを考えていました。
政治の最大の使命は、どういう社会をめざすのか目標を提示することだと思っています。なぜ政治家になったのかと問われれば、こうありたいと願う国、地域をつくるためです。それは、日本人の心を大切にし、国の独立、名誉、国益を大事にする国、力強い国民経済、美しい国土、自然を持ち、あたたかな故郷や家庭のある地域です。
国内外で仕事をしてきた経験を活かし、世界の中の日本、北海道という視点、グローバルに考えてローカルに行動するという視点を持って、国づくり、地域づくりに貢献したいという思いで、政治の世界で活動してきました。
ー北海道議会議員を2期務めたのち、2012年には衆議院総選挙に出馬されています。なぜ国政に進出されたのでしょうか?
国政選挙の厳しさは言うまでもありません。ただ、そこで立ち止まっていては、未来への道は閉ざされてしまいます。チャンスは止まっていてはくれない。チャンスを掴んでから考える人と掴む前にあれこれ考えてしまう人には大きな差が生まれます。私は常に前者の姿勢を大事にしてきました。
2009年の総選挙で自民党は北海道三区の議席を失っていました。暫く支部長が不在でしたが、解散総選挙が近づき、北海道三区から出馬する機会をいただきました。
政治の世界は「一寸先は闇」と言われ、何が起こるかわかりませんが、国政への挑戦というチャンスに、前向き思考でまずはチャレンジしてみたのです。
大石内蔵助の辞世の句に「あら楽し思いは晴るる身は捨つる浮世の月にかかる雲なし」とあります。これは「正面突破して敗れても悔いはない」といった心情を詠んだものです。
その150年後、かの吉田松陰はこの句に返歌し、「かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂」と詠んでいます。こうすればこうなるとわかっているが、やらねばならないときがある、誰でも決意と覚悟を決めるときがあるのです。覚悟を決められるか、要はそれだけだと思うのです。
道政から国政へと舞台が変わっても、国づくり、地域づくりへの想いは変わりません。こうあってほしいと願う国づくりに向けてさまざまな政策に関わっています。
(2)東日本大震災からの復興
ー2023年9月に復興副大臣に就任されました。現在の復興の状況と課題について教えてください。
東日本大震災から13年が経過し、地震・津波被災地域については、インフラや住まいなどハード面での復興はおおむね完了しています。
2023年11月時点で、避難者数は発災直後の約47万人から約3.0万人に減少し、仮設住宅等の入居戸数は2023年12月時点で602戸まで減少しました。
三陸沿岸の南北をつなぐ復興道路、東西を結ぶ復興支援道路も全線開通し、またJRも全線復旧しています。
一方で、原子力災害被災地域では東京電力福島第一原発の廃炉やALPS処理水の処分、帰還困難区域の対応など中長期的な課題が残っています。
福島第一原発周辺の帰還困難区域では、昨年までに復興拠点の避難指示が全て解除されました。現在、原発が立地する自治体の大熊町で約660人、双葉町で約100人の方が居住しています。2020年代を駆けて帰還を希望する住民の方々が一人残らず帰還できるよう、昨年の法改正で特定帰還居住区域制度を創設し、除染や医療・教育・商業施設など生活環境整備など帰還・居住に向けた取組みを進めています。
ー3月11日には宮城県を訪問されています。どのようなことを感じられましたか?
復興のステージが変わるに伴い、課題が見えにくくなっており、よりきめ細やかな対応が必要になっています。また、復興の状況がそれぞれの地域で様々であり、複雑・多様化しています。
私が考える復興の最終目標はコミュニティの賑わいを取り戻すことです。震災後に整備された災害公営住宅では、入居者の高齢化や空き家が目立っており、孤独死を防ぎ、コミュニティを維持していくためにも、子どもたちの笑い声が聞こえお祭りなどで盛り上がる活力あるコミュニティを作っていかなければなりません。復興庁としても引き続き高齢者等の見守りや心のケア、コミュニティの形成支援に取り組んでまいります。
2021年から第二期復興創生期間に入り、今年は中間の見直し年です。人口減少が加速化する中、課題先進地として地方創生のモデルとなるような復興を目指して引き続き被災地の支援に取り組んでまいります。
(3)北海道200年戦略について
ー2018年に「北海道200年戦略 北方世界を拓くソフト・パワー」を上梓されました。地元・北海道に対してどのような思いがあったのでしょうか。
本を書くきっかけは2018年に北海道の命名から150年が経過したことでした。北海道の命名200年に向けたこれからの50年を見すえた北海道のあり方について、自分なりの考えをまとめておこうと思ったのです。
本の中では、北海道が持つ開拓の歴史やそこに内在する精神性、文化など地域の魅力を道外からの視点でいかに発信し、人々の行動を引きだしていくかについて私の考えを述べています。
北海道の強みといえば、農林水産業や観光、エネルギーなどが挙げられますが、それではこれらを北海道の発展にどう結びつけていくか。私は「ソフトパワー」と「コンテンツ」という切り口で北海道の未来を切り拓いていく戦略を考えています。道外や海外の人々が北海道に感じる魅力や価値は何か。それが「ソフトパワー」です。
「ソフトパワー」とは、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が提唱した概念です。その国や地域が持つ価値観や文化の魅力によって、報酬や強制によらずに理解や支持、共感を得て人々の行動を引き出す力を指します。
その「ソフトパワー」を生み出す武器となるのが「コンテンツ」です。そこには映画やアニメ、音楽など人を楽しませるすべての素材、モノやサービスなどの体験や経験すべてが含まれます。
価値を感じたいと思っている人の感情に訴えて、北海道の魅力を感じてもらい、北海道を訪れる、北海道のものを買う、北海道に投資するといった行動を引き出していくことが重要なのです。
「コンテンツ」が重要と訴える背景には、これまでの地域振興が供給者側の視点から進められることが多かった、という課題があります。
例えば農林水産業であれば農林水産省、観光業であれば観光庁、物産業であれば経済産業省といったようにそれぞれの業界を所管する省庁があり、縦割りでそれぞれの振興策が立案されていますが、これらをすべてコンテンツ振興と捉えて、需要者側の視点で振興策を考える発想の転換です。
コロナ禍も明け、インバウンド需要も大きくなってきました。これからより多くの人に北海道の「ソフトパワー」を伝えていくためには、北海道に来る人たちが何を求めているのか、何を体験したいと思っているのかといった視点を、供給者側が意識していくことが重要なのです。
ー北海道は観光客も多く、賑わっている印象ですが、北海道が抱えている課題とはなんでしょうか。
広大な北海道では、広域性、低密度性をいかに支えていくかということが最大の課題であると考えます。
北海道は実は九州と四国、沖縄を合わせた面積よりも大きいんです。国で言えばオランダの面積の約2倍もの広さ。一方、人口密度は全国で最も低く、1キロ平方メートルあたり67人となっています。(人口は約522万人)
そうした環境の中で、人口減少や過疎化が進んでいくと鉄道や商業施設などを維持することはなかなか難しいものです。たとえば鉄道は、積雪寒冷地という厳しい気候条件の中、運営コストが高いことも相まって、駅や路線の廃止が進んでいます。
社会基盤をしっかり整備することで、生活の安全と安心を確保し、道民が生活の豊かさを実感できる地域を作っていかなければなりません。
(4)国民との対話を続け、憲法改正を目指す
ー高木議員が現在関心を持っている政策テーマについて教えてください。
北海道振興に関して2点あります。1点目は、次世代半導体の量産を目指すRapidus(以下、ラピダス)の北海道進出、2点目は北海道・札幌GX金融・資産運用特区についてです。
まずラピダスについてです。ラピダスは、2022年に設立された次世代半導体の国産化に取り組む新たな会社です。経済安全保障上の理由から半導体の供給を海外メーカーに依存することはこれからの時代の国家的なリスクです。そこで国内企業が出資し、経済産業省が補助金を交付するなどして新時代の半導体メーカーが作られました。
そのラピダスは北海道千歳市に工場を置き、2027年に本格稼働を予定しています。これを機に北海道を半導体産業の集積地にする機運が高まっています。私も札幌選出の国会議員として、この動きを推進していきます。
また札幌市はGX投資のアジア・世界の金融センターになることを目指し、「北海道札幌GX・金融特区」を設立しようとしています。金融庁は、国家戦略特区の枠組みの中で、新たに「金融・資産運用特区」を設ける方針で、地方自治体からの提案を募っています。札幌市は他の自治体に先駆けて1月に提案書を提出しました。
北海道は、風力・太陽光・中小水力などの再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが国内随一です。世界から投資を呼び込み、日本の再生可能エネルギーの供給地としての地位を確立するとともに、GXに関する世界の金融センターを目指します。
ー最後に、高木議員が政治家として成し遂げたいことについて教えてください。
憲法改正の実現です。現行の日本国憲法は1946年に制定されてから一度も改正されていません。第二次世界大戦後から2022年にかけて、アメリカでは6回、カナダでは19回、ドイツでは67回、フランスでは27回憲法が改正されています。諸外国では時代や社会の変化に応じて憲法が改正される一方、我が国では憲法解釈を変更することで時代や社会の変化に対応し、憲法改正が実現することはありませんでした。
国際政治や安全保障環境が激変する中で、今の憲法のままでよいのか。自民党は立党の綱領に現行憲法の自主的改正を掲げています。日本の自主独立の完成を目指したものです。憲法は国のかたち、心を示したもので、国家の基本は維持しつつも、時代の変化、社会の変化に応じてアップデートしていかなければいけないと考えています。
今年の通常国会の所信表明演説で、岸田総理は「自民党総裁として、任期中の憲法改正を目指したい」、「今年は条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速していく」と発言しました。
総理が「先送りできない課題」とおっしゃったように、私も憲法改正の実現に向け、積極的に関わってきました。自民党は、2021年に「憲法改正推進本部」を「憲法改正実現本部」に改めました。また、憲法改正実現本部に設置された「憲法改正・国民運動委員会」のタスクフォースでは、全国を11ブロックにわけ、研修会や対話集会を行っています。私は昨年9月に復興副大臣を拝命するまで、北海道ブロックの責任者として活動してきました。
憲法改正の車の両輪は、「国民世論の盛り上がり」と「国会における論議」です。国民世論が盛り上がることによって、国会での議論が充実し、国会における精力的な議論が国民世論を盛り上げるという相関関係にあります。
自民党は2018年に、自衛隊の明記、緊急事態対応、合区解消・地方公共団体、教育充実の4つのテーマを盛り込んだ「条文イメージ(たたき台素案)」を公表しました。これはあくまで議論のたたき台として提示したもので、各党各会派もそれぞれの考えを審査会に持ち寄り、審査会において議論を深めていくべきです。
今後も研修会や対話集会を通じ、憲法改正に対する国民の関心が更に高まり、憲法改正に向けた機運が更に盛り上がることを期待しています。